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■3880 / inTopicNo.1)  チョコっとお願い
  
□投稿者/ まぁじ -(2014/02/05(Wed) 00:04:29)
    「ねえジョウ、クラッシュジャケットを新調したいんだけど」

     〈ミネルバ〉のリビングに現れたアルフィンの第一声。飲み物片手にソファで各々寛いでいた、三人の男の首がぐるんと回る。
     真っ赤なクラッシュジャケットに目立った損傷はなく、洗い立てで、彼女の場合使っている洗剤は男連中と異なり、
    華やかな香りが空間にふんわりと広がる。
     一目で、そんな必要がどこにある? なのだ。
     ジョウがそれを口走ろうとする寸前、
    「なんだか着心地悪いの」
     アルフィンは身体を左右に捻り、まるで仮縫いのドレス試着のような動作をしてみせた。

     防弾耐熱のタフな性能で、身体のめりはりにぴたりと貼り付く伸縮性も抜群。肌同然に馴染むおかげで、クラッシャーの激しい動きを
    損なわない。
     職業柄、危険と隣り合わせの仕事をこなすと一回の着用でおシャカになる。数着はストックしてあるが、ジョウのチームは
    他と比べると取り寄せサイクルが短い方と言えた。
     よってその都度サイズの微調整は可能であるし、最新の機能が頼まなくても装着されていたりもする。常に最高にして
    最新の着心地を得られる境遇にいた。
     それなのに──

    「インナーも突っ張ったり撓んだりして形状記憶が全然だめ。合わないわ」
     つまり、ジャケットは勿論全てまるまる新調して、の要望だった。
     銀色のインナーとスラックスはさらに柔軟性が高く、ジャケットよりのびしろも結構あるのだが、それでもカバーできない
    大幅な変化がアルフィンの身に起きたということになる。
     かつてジョウも成長期には、一ヶ月ごと3Dボディスキャナーで採寸し直した。身長はもちろん、筋肉の付き方が目に見えて分かるほど
    鍛えられ、シルエットもしょっちゅう変化した。
     19才となり骨格はほぼ完成されたが、筋肉は仕事内容によってまだまだ変化の余地ありだ。酷使した部位は鍛錬となって肉体に返ってくる。
     若さからくる反応の良さではあるが、ジョウ自身は時たまそれを面倒に感じてもいた。

    「パターンをいちから作り直しか…。それ事態は構わんが、ドルロイに寄る時間は早々ないぜ」
    「大丈夫。データと連絡でやりとりするわ」
     耳にしたリッキーが、頬杖をついて口を挟む。
    「ドルロイのデータ取り、どんどん緻密になってやんの。こないだの取り寄せん時、ちょこっと注文つけたら問い合わせが凄くってさあ。
    腕や足の可動範囲は変わったか?メインで使う武器は以前と同じか?汗かきの量、今のヘアスタイルの襟足の長さ、肩こりの有無、
    …んじゃあ調べに来いよ!ってぶち切れそうだった」
     ソファの端で、記憶に今更ながら難癖つける。

    「タロスだと義手の構造や装着も細かくチェックされるだろ?」
     長い足を組み替えつつジョウも尋ねる。
    「まあ、アルフィンには関係ねえ話ですがね」
     一人がけソファに深々と落ち着きこちらはさらりと流す。というのも齢52才。成長期の少年少女と違い、ここ15年ほど同パターンで何ら問題ない。
    「けどタロスもぼちぼち、データ取り直した方がいいかもね」
    「…なんだと?」
     リッキーの呟きに、ぎろり、と鋭い双眸が向く。
    「へっ。腹周りの肉ならくれてやる余分もねえや」
     それに対しリッキーは立てた人差し指を左右に揺らす。ちっちっち、そっちじゃないよ、と言う顔つきだ。
    「尺が縮んでないか、背中の曲がり具合とかさ」
    「ほお、てめえ、よっぽど揉まれてえんだ…なっ!」
    「あらよっと!」
     飛んできた空のコーヒーカップをひらりかわした。壁に直撃したが、割れにくい素材で幸い。
     しかしソファの端を分かち合うジョウは場が悪い。ジェネレーションギャップをやんやと埋め合う真ん中に置かれ、やれやれと天を仰ぐ。

     ばん!とテーブルを叩く音。
     折った身体を起こして、碧眼が睨め付けた。
    「ほんっと呆れるわ。何が何でも喧嘩したいのね、あんたたちって」
     ばっかみたい、と両手を腰に当てて大きく嘆息をついた。
    「休憩はあと2時間しかないないんですからね。暴れるなら他でやって頂戴。ジョウの貴重なリラックスタイムを邪魔しないで」
     つん、と顔を背けた。
     2時間後には次の仕事に向けて移動開始である。依頼と依頼の隙間に一件、ねじ込まれたせいだ。一日ゆっくりする予定が、
    大した仮眠もできない休憩へと縮小されてしまった。
     しかしプラスαされた報酬を得るのだ。クラッシャーなら割り切るしかない。

     ジョウの了承を得られてアルフィンは、くるっと三人を背にしドアと向き合う。早速パターンのデータでも取るのかと思いきや、
    「カトラリーの曇りがずっと気になってたの。磨いて清々してくるわ」
    と金髪を揺らし出て行った。
     確かにバタバタと採寸したところで失敗のもと。残りわずか数時間、単純作業で頭をしっかり休めカトラリーはピカピカという
    ダブル成果を上げようとする、そつのないアルフィンだった。
     〈ミネルバ〉の生活空間がもうずっと快適なのは彼女のおかげ。男連中は足を向けて寝られないほど感謝すべき存在。
    しかしその張り巡らされた女の気配りは、時折窮屈。しかし口が裂けても本人には言えない。

     アルフィンがリビングを出て1〜2分、残された連中は誰も声を発しない。
     そして3分経過──
    「ぷはあ!」
     リッキーが沈黙の風穴をあけた。
    「アルフィン、やっぱりそっか」
     ソファの上で胡座をかき、出て行ったドアを目で追いながらぽつり。
    「やっぱり、なんだ?」
     すかさずジョウが訊く。
     これに対しリッキーは鼻の頭を指先でこりこりと掻き、ここだけの話だかんね、と前置。ジョウが面倒くさそうに、ああ、と答えると即刻吐いた。
     本当は喋りたくて仕方なかったらしい。


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■3881 / inTopicNo.2)  Re[2]: チョコっとお願い
□投稿者/ まぁじ -(2014/02/05(Wed) 00:32:03)
    「ここんとこさあ、太ったよね」
    「誰が」
    「…アルフィンだよ」
     名指しの所では、つい声をひそめる。〈ミネルバ〉に盗聴器などありはしないが、爆弾発言は無意識にトーンを落してしまうリッキーだ。
    「試作の食い過ぎかもしんないね」
    「最近のメシ、そう凝ってたか?」
     ジョウは三日ほど前までの料理をぱぱっと思い出す。新作、力作、珍作はあれど試作を要するほど手の込んだ料理はなかった。
    「違う。チョコレートだよ」
     チョコレート?と顔に疑問を浮かべたジョウに対し、
    「じきバレンタインデーじゃん」
     相変わらずそこら辺疎いよなあ兄貴、と口には出さず表情で小馬鹿にした。

     さらにリッキーはここ最近見かけた様子をぺらぺら明かす。
     半日の自由時間があると、アルフィンはキッチンでひたすらチョコレートを溶かしているらしい。数え切れないほど異なったラベルや
    パッケージを開けて、どうもオリジナルブレンドを目指しているようだ。
    「たまたま鉢合わせた時さ、味見してくれって一片もらったけど、これがもう甘いのなんのって。歯も頭も痛くなっちまった」
     おそらくそれはアルフィンの想いの甘さであり、そうなると渡す相手はジョウと見当つくのは簡単で、リッキーは余計なお世話と
    重々分かりつつも、折角のバレンタインチョコが気持ちよく彼の胃袋に納まることを願って、甘さについて口出しした。
    「そしたらアルフィン、なんて言ったと思う?」
    「さあ」
    「ジョウのじゃないもん、だってよ」
    「おお、こいつは一大事だ」
     話にまったく加わってなかったタロスが、思わず口を挟んでしまった。

    「誰のために作ってるんだろ。心当たりは?」
    「俺が知るか」
    「ちなみに試作はあとで俺らたちに回すってさ」
    「たち、って誰と誰だ」
     タロスが一応突っ込んでみる。
    「俺らとタロスに決まってんだろ。処理班は」
    「けっ!製菓業界の陰謀なんざガキに一任させてやらあ」
     ま、当然だろうな、という顔つきでジョウは二人のやりとりにノータッチ。黙ってコーヒーカップを傾けた。
     その様子を横からまじまじとリッキー。
    「…心配じゃないのかい?」
    「何が」
    「アルフィンが誰かのためにチョコレート仕込んでんだぜ? 身を犠牲にしてまで」
     身を犠牲…ようは太ってまでと言いたいらしい。
    「俺は特に変わったとは思えんが」
     そしてまたカップを傾ける。

    「このくそがきは言葉の使い方知らねえから、言いたいことが伝わりきれてねえんでしょうが…確かにアルフィン、ここんとこ大人びてきましたな」
    「なんだお前まで」
     珍しいな、と眉をひそめるジョウ。実際タロスがこんな話に向き合うのは滅多ない。しかしそれだけアルフィンの変化は、気がかりであって、
    多少なりとも気を揉む空気なんだとハッキリ形を成してきた。
    「太ったというよりあれは色気です」
    「色気?そんなもんがサイズに影響出んのか」
    「数字じゃ計れねえもんです。重さとか抱き心地ってやつは、気の持ちようでいくらでも変わるんですぜ、女なんて特に」

     タロスが男の色目を垣間見せたせいで、リッキーが当然食らいつく。
    「なんでえ。こそこそエロい目で見てんじゃん」
    「ばーか、男親みてえなもんだ。若けえ頃に遊んだ感覚はよ、大事な娘に襲いかかる魔の手をびしっと感知しやがる。ガードなんだよ。
     未熟なてめえと一緒にすんな」
    「あー、これだから年寄りはヤダね。見栄ばっか張ってさ。女好きを公言してたガンビーノの方がよっぽど若いよ」
    「あンの好色ジジイと一括りにすんじゃねえ!」
     死人に口なしとばかりに言いたい放題。そして2人は歯を剥き出し、睨み合った。またも間に挟まれたジョウ。
    ハエでも鬱陶しがるように一瞬顔を歪めたが、勝手にさらせと放置に終始する。
     だが独り言のように、ぽつり。
    「色気、か」
     日頃ジョウが触れない、いや触れにくいキーワードに、ふっと羽を這わせたような関心を示した。

     これに気づかないリッキーではない。
    「やばいぜ兄貴。他の男に目移りしてたらどうすんだい」
     名指しされたジョウを差し置き、タロスが横から口出しする。
    「ガキはこれだからやんなる。あの子は一途で頑固だ。簡単にとっかえひっかえするような尻軽じゃねえ」
    「んなのわかってるさ。けど兄貴はずうっとハッキリしないし、曖昧でさ、暖簾に腕押し状態がもう長いじゃん。脈なしと諦められたら、さあ…」
     それに関しちゃ一理ある、とばかりにタロスはむうと真一文字に口を結ぶ。
    「なんか話の矛先がおかしいぞ」
     ジョウがちらと煙たそうな目を向けた。
    「アルフィンがもし〈ミネルバ〉降りたら、兄貴のせいだ」
    「俺か?」
    「ちゃんと気持ち繋ぎ止めておかないからさあ」
    「…そうなったらなったでアルフィンの自由だ」
     ジョウの突き放しにいよいよ、ひい、とリッキーは両手を上げた。そして一方のタロスも、照れ隠しで素直になりきれない彼の性格を
    隅々まで分かった上で、女心のツボを完全に外すという不器用さに、あいたたたと右手で目元を覆った。
     色々な意味や背景含め、アルフィンに〈ミネルバ〉を降りられたら困るのである。いなかった生活には戻りたくない。

    「俺らまじで心配になってきた…。今度のバレンタイン、兄貴にあげるチョコレートが本当に無かったらどうしよう」
     状況証拠を掻き集めたただの勘ぐりが、雪だるま式に悪い話へと大きくなる。
    「俺も処理班に回されんだろ」
    「だめだよー!そんなの!」
     どんぐりまなこを見開いて、赤毛をぐしゃぐしゃと掻きむしるリッキー。ジョウとアルフィンの関係崩壊などあってはならない。
    そもそも始まってもおらず、一発も打ち上がること無く燻ったまま消える花火であって欲しくない。
     それはタロスも同意で、老後の大きな楽しみがもがれるに等しい。男女の酸いも甘いも知り尽くす男だけに、特にジョウのもどかしい部分や
    アラも見えていて、アルフィンが時たま不憫に思えたことを過ぎらせた。
     リッキーとタロスは言葉を交わさずとも、こりゃ何とかせにゃあ、な気になっていた。

    「兄貴の分はとっておきってんで、どこか隠してないかなあ」
    「とりあえず金庫にゃそんなもんなかった」
     ど真面目にタロスが返す。
    「それかアイデア利かせてもっと凄いチョコレートとか」
    「なんだそりゃ?」
     ジョウは空のコーヒーカップをテーブルに置く。するとリッキーは身体をくねらせて
    「全身にチョコレート塗ったくってさ、ジョウあたしを食べてえぇ、とか」
    「センスが三流だ」
     タロスがばっさり切り捨てる。
    「あほらし」
     いよいよ耐えかねた様子で、ジョウがソファから立ち上がる。かったるそうに片腕をぐるんと回した。
    次の作業に向けてウォーミングアップするか、とも受け取れる。

     クラッシュジャケットを新しくして欲しいという要望が、全身チョコレートにまで飛躍するとは、ある意味アルフィンも気の毒。
    この場に居合わせなくて正解…というか居ればここまで無礼講にはならなかったろう。
    「先に行く」
     仕事の取りかかりにまであと1時間強は残っている。しかしジョウはリビングの方が疲れると見えて、一足早く退散と姿を消した。
     スライドクローズしたドアに目線を投じてリッキーは
    「今までずっとお互い気があんのかと思ってたけど…違うのかな?」
     どんぐりまなこに不安の影を落とし、頼もしいベテランを見上げた。
    「さてなあ。色恋沙汰は他人にゃ推し量れねえよ」
    「なんかショックだあ」
    「人生甘いばっかじゃねえ。たまに苦いモンもを舐めるのもいい薬だ。リッキー、てめえは特によ」
    「うん…」

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■3882 / inTopicNo.3)  Re[3]: チョコっとお願い
□投稿者/ まぁじ -(2014/02/05(Wed) 00:37:56)
     リビングの空気がややしんみりしたことなど、知るよしもないジョウ。

     一旦自室に戻るのか、あるいはブリッジに直行か。だが足取りはどちらでもなく、まっすぐ食堂へと向けられた。
     空圧が抜ける音がしてドアがスライドオープン。ダイニングの、いわゆるお誕生ポジションに座った後ろ姿を確認。
    空間の一面にあるテレビモニタからは、情報系旅番組らしい映像が流れていた。
     ちら、と横顔がジョウに向く。あら、と入室に気づきはしたが、手を止めることも立ち上がって出迎える様子もない。
    積まれた銀のカトラリーの中から、一本抜いて丁寧にクロスを掛けていた。
    「手伝おうか」
    「ん、大丈夫。もう終わるわ」
     出遅れたか、とジョウは苦笑。しかしアルフィンはそれを見ていない。

     普段通りの歩幅で食堂に進入する。アルフィンの真後ろでジョウは立ち止まった。
     つん、と人差し指でつむじの辺りを突く。なあに?という少しもったいぶった動きでアルフィンが天井に向いた。
     そして2人はキス。
     上下逆さま、シックスナイン・キス。さらにジョウから少しばかり踏み込んで深く味わう。逆さまのおかげで舌が正面同士ぴたりと合う。
     やがて離れがたい表情を浮かべて、ジョウは屈めた姿勢を引き起こした。
    「──誰にやるんだよ」
    「え?なに?」
    「大量のチョコレート」
     あは、とアルフィンの笑顔が花開いた。
    「誰から聞いたの?リッキー?」
    「俺の分じゃないって、大騒ぎだったぜ」
    「…欲しいの?甘いの苦手なくせに」
    「アルフィンから貰えるんなら何だって」
     そして再びキス。
     今度のジョウは後ろから両腕で、アルフィンの肩周りを抱きすくめもした。それはそれは濃厚な味わい方で、低くて熱い息の塊が
    2人の周りを対流する。
     アルフィンの左手が、たたん、とジョウの左上腕を叩いた。息継ぎ兼ねて苦しげに見下ろす顔に
    「ストップ。この先はだーめ。お仕事あるでしょ」
     めっ、と碧眼で窘めるのだった。

    「あのチョコは、次の次の仕事で配るの」
     次は飛び込みでねじ込まれた仕事。その次は…とジョウが頭を中を巡らせて、ああ、と合点した。
    「あげるのは施設の子供たちか」
    「丁度バレンタインだし。少しばかりだけど、甘い愛のお裾分けね」
    「しかし100人は下らないぜ」
    「確かにちょっと大変だけど、愉しんでやってるわ。子供の味覚に合わせて普通のミルクがいいのか、マイルド?
     それともフルーツフレーバー?とかね」
    「なるほど。かかりっきりになるはずだ」
     しょうがない、と半分は納得、半分は諦め顔。

     けれど本心としては──
     あーあと駄々っ子のような声色を滲ませて、ジョウはアルフィンをまたも背後からぎゅっと抱きしめる。
     ところが行為はそれに終わらない。右手を少しだけ移動させ、赤いクラッシュジャケットの膨らみを鷲づかみした。いやあねえ、と
    アルフィンは軽く身じろぎするものの、どれだけ自分を持て余しているかが慮れるせいで、強く拒否しなかった。
    「ほんとだ。育ってる」
     最初の頃はジョウの右手に具合よく納まっていた。が、今は右手から少しこぼれ気味。愛されることを覚えた身体は、女性らしさを
    盛らせていく。クラッシュジャケットが窮屈になる原因はここにあった。
    「──? 本当ってどういう意味?」
     首を回して訊いてくる。
    「独り言」
    「なによう、引っかかるわねえ」
     男連中に太ったとか、やれ色気が出たとか、あれこれ噂でまさぐられていい気はしまい、と分かるジョウはしらばっくれる。
    そして気を逸らすために、右手の握力を増していく。

    「やばいな。止まらない」
    「もう終わり。ね、離して」
    「なんでこう中途半端なレストタイムなんだろうな」
    「あたしも…ちょっと、切り替えに…困る」
    「…うん。そうなんだけどさ」
     腕の中でアルフィンがもじもじと萎縮する。このまま熱に溶けて消えてしまいそうだ。
     頬から目の周りが紅に染まる。ふと思い立って金髪の一房を掻き分けると、火照った耳が覗いた。そのままジョウの指で毛束を耳にかけてやる。
    「ね、ほんとにもうこれ以上は、お願い…」
    「分かってる」
    「仕事、ね、仕事あるから」
    「離れがたい」
    「ん…でもお」
     嬉しい、と言わんばかりに、恥じらいをたっぷり含んだ表情で瞼を閉じる。しかしそんな顔を見せられてますます窮地に陥るジョウであった。

    「なんかこう、やめなきゃなと思わせる方法…ないか?」
    「たとえば?」
    「そうだな…やめたらご褒美とか、お楽しみとか、要は交換条件」
    「うん…と、じゃあジョウにもチョコレートを用意します。ちゃんと」
    「チョコかあ」
    「あらご不満?」
    「インパクトが足りない」
    「注文多いわねえ」
     しょうのない人。普段が即断即決なだけに、こうも断ち切れない想いを露わにするジョウが逆に愛しい。ギャップに胸がときめく。
     ようはいつまでもお互いいちゃいちゃしていたいのだ。
     ジョウなど特に予定外にねじ込まれた仕事であるからして、一切合切放り出したい気満々。金に不自由もしてないしと、
    クラッシャーのポリシーすら挫いたって構わないとさえ過ぎりもした。

    「じゃあ…」
     うん、と腕の中にいるアルフィンの後頭部に鼻先を埋める。金髪から漂う彼女の匂いを胸一杯吸い込みながら、やっぱりなあ、と
    ぼちぼち未練に決着を…そんな一応チームリーダーの責務を無理矢理引きずり出してみた。
    「じゃあバレンタインには」
    「には?」
    「チョコレート仕立てのあたしを食べ、る?」
     タロスがばっさり切り捨てたリッキーと同じ発想。しかし相手が違うとニュアンスがまるで変わる。ジョウは脳裏に、
    口には決して出せないスイートな光景を思い浮かべて
    「オッケイ」
     とアルフィンの左頬にキス。そして後腐れなく彼女を解放した。


    〈Fin〉

引用投稿 削除キー/
■3883 / inTopicNo.4)  Re[4]: チョコっとお願い
□投稿者/ まぁじ -(2014/02/05(Wed) 00:42:04)

    読み返してみたら、ツンデレJさんでしたね。
    あんまり書いたことなかった?かも???

    なかなか愉しかったです。
    んね、セーフな微エロでしたねwww
fin.
引用投稿 削除キー/



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