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■3911 / inTopicNo.1)  僕の美しい人
  
□投稿者/ 舞妓 -(2015/01/26(Mon) 12:47:54)


    忘れようったって、忘れられるわけがない。

    彼女がすっと、動いたんだ。それはそれは優雅に。
    結い上げて少し垂らした長い金髪が揺れて、ティアラに光が反射して眩しいくらいきらきらと輝いた、と思ったら。
    次の瞬間。
    美しい玉虫色のローブデコルテの長い裾から、モデルよりも美しい足がひらりと犯人の顔を蹴り上げた。
    それから間髪を入れずに、白い長手袋の細い腕が犯人のみぞおちを殴る。「グー」で、だよ。

    私は呆気にとられて、何も出来ずにその場をただ眺めていただけだった。

    彼女の美しい顔は、髪一筋の乱れも無い。
    倒れた犯人を、シンデレラみたいに華奢なハイヒールの右足で踏ん付けて、
    ドレスの腰のリボンに仕込んであったレイガンをさっと取り出して顔に突きつける。

    そして、彼女の耳のサファイアよりも蒼くて美しい瞳が、にやりと笑ってね。

    「お生憎様でしたわね。私がSPよ」

    って言うんだ。

    みんな呆然と立っていたよ。
    犯行が行われようとしていた恐怖なんかじゃなく、
    目の前で起こった事の、余りの美しさに。



    忘れられるわけがない。

    あの凛とした声。
    気高く美しく、そして強い。

    プリンセス・アルフィン。



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■3912 / inTopicNo.2)  僕の美しい人
□投稿者/ 舞妓 -(2015/01/26(Mon) 12:48:53)
    アルフィンの機嫌が悪い。

    ここのところ、ずっとだ。生理だってこう長くは続かないだろう。
    リッキーやタロスに当り散らすわけでもなく、ジョウに絡むわけでもなく、ただむっつりと押し黙っていることが多い。
    理由を聞いても、何も答えない。その時だけは、きっ、とジョウを睨みつける。だが、それだけだ。

    男三人は、ほとほと困っていた。
    仕事に支障があるわけではなかった。支障といえるとすれば、戦闘になった時に、鬱憤を晴らすが如く破壊の限りを尽くすことだったが、仕事の範疇でもあるしまあそれほど大きな問題ではなかった。オフの時に酒場を潰されるよりはよっぽどいい。
    それでも、この空気の重さは一体。

    アルフィンが夕食を作りに行った。
    三人になったブリッジで、一斉の溜息と共に会話が始まる。
    「どうしちゃったんだろうなあ、アルフィン」
    「いったい何が原因でしょうねえ」
    「兄貴、また何かやったんじゃないか?」
    「また、とは何だ。何もしてない…はずだ。多分」
    「その、何もしてないってのが悪いんじゃないかい?」
    「うーーーーん…」
    ジョウは頭を抱えた。
    それはそうかもしれない。だが、それは今に始まった話ではないはずだ。
    いつだ。いつからだ。何が原因なんだ。
    「…アルフィンの機嫌が悪くなったのはいつからだ」
    「ええと、もう一ヶ月位かな」
    「その頃、何があった」
    「アルフィンはピザンに里帰りしてましたねえ」
    そう、そうだった。
    アルフィンは国王の即位20周年の記念式典に出席するために、4,5日ほどピザンに帰っていた。
    その時チームは護衛の仕事で、割とタイトなスケジュールで動いていたので、その間アルフィンと連絡を取ったりはしなかった。
    式典が終わって、合流した時も、特に変わった様子は無かった、はずだ。
    そのさらに一週間後、護衛の仕事を終えてようやく時間にゆとりが出来て、数週間分のニュースをチェックしていると、ピザンの式典の最中にちょっとした騒動があった、というニュースがあった。市内パレードを終えて宮殿に戻り、車寄せに止まったリムジンの前に、不審な男が走り出た、という。すぐに警備員によって取り押さえられ、身柄を確保された、という内容だった。
    そのニュースを見たとき、ジョウはアルフィンに言った。
    「アルフィンは、この場にいたのか?」
    「うん、いたわよ」
    「大丈夫だったのか?」
    「うん」
    「何だったんだ、この男」
    「うーん、ドラッグで心神耗弱だったらしいわ。まだ取り調べ中らしいけど。よくわからない」
    「薬中のわりには、よく宮殿の中まで入り込んだな。ここは撮影も出来ないプライベートエリアだろ?」
    「…そうね、警備が甘かったのかしら」
    アルフィンは微妙な表情でそう返した。
    それから特にその話題が上る事もなく、日は過ぎていった。
    アルフィンが不機嫌なまま。

    そのとき、通信が入った。
    「キャハ、ぴざんノ宮殿カラはいぱーうぇーぶデス」
    「ピザン?!」
    ジョウは驚いた。
    ピザンからミネルバに連絡があることなど、ほとんど無い。
    ピザンの王室は、ミネルバの忙しさを知っているし、やたらにハイパーウェーブなどかけても出られない状況にあることが多い事も知っている。
    アルフィンに連絡があるときは、彼女の個人のメールでやり取りをしている。
    それが、ミネルバに直接、ということは、よほど緊急の要件、ということになる。
    「ミネルバです」
    出ると、画面に映ったのはエリアナ王妃だった。
    「ジョウ、お久しぶりね。お忙しいのに申し訳ありません。皆さんお元気でいらっしゃいますか?」
    「はい。国王の即位20年、おめでとうございます。式典に参列できなくて申し訳ありません。式典のとき事件があったようですが、大事無かったんですか?」
    「ええ、ありがとう。式典に出るために、あの子を休ませていただいて、申し訳なかったわ」
    エリアナは、アルフィンに良く似た微笑で、そう言った。
    「娘と話せますかしら?」
    「ええと、今ブリッジにはいないんで、回します。では」
    「ありがとう、ジョウ。みなさんも」
    画面が消えると、ジョウはほっと息をついた。
    「はーーーー…」
    「何緊張してんだよ、兄貴。未来のお母さんだからって」
    「リッキー!!」


    しばらくすると、キッチンのアルフィンから声がかかった。
    「夕食出来たわよ。食べにきて」

    恐ろしく、機嫌の悪い声だった。






    ドンゴをブリッジに残してリビングに行くと、アルフィンが膝に両肘をつき、両手で頬杖をついて睨むように夕食を見つめていた。
    じっと、考え込んでいるようだが、明らかに機嫌が悪い。
    「あ、あのう、アルフィン」
    「何よ」
    「いただきます…」
    「どうぞ」
    三人が食事を始めても、アルフィンはその姿勢のまま動こうとしなかった。
    じっと、三人が食事をする様を見つめている。が、心がそこに無いのは明らかだ。
    「…」
    三人は、張り詰めた空気の中で黙って食べた。
    いつ、彼女が爆発するか。その矛先が、誰になるのか。

    ついに、アルフィンが口を開いた。
    「ジョウ」
    「な、何だ」
    ああ俺か…とジョウは思った。しかしそんな気持ちは勿論顔には出さない。
    「この前、ピザンに帰らせてくれて、ありがとう。無理聞いてもらって、感謝してます」
    「あ、ああ」
    思わぬ言葉にジョウはきょとんとした。
    「それなのに、悪いんだけど」
    「―――」
    「次の仕事に行く途中で、ピザンの近くを通るわよね?」
    「ああ、まあ近くといえば近くだな」
    「そこでほんのちょっとだけ、時間をちょうだい。2、3時間でいいの。宇宙港で補給でもしてて。あたし、ファイターでほんの少しだけ宮殿に行くから」
    「…それは、構わないが」
    さっきの、王妃からの通信が関係しているとしか思えなかった。
    「国王か王妃が、具合でも悪いのか?」
    「ううん」
    アルフィンは頭を振った。
    「ちょっと緊急の要件。でもすぐ済ませるわ」
    そう言うと、やっとアルフィンは食事を始めた。
    アルフィンの不機嫌の原因は、どうやらピザンにあるようだ。それははっきりした。しかし、彼女はその具体的中身を、やはり言う気は無いらしい。


    数日後、ミネルバはアル・ピザンに降り立った。
    ピザンでは、ジョウのチームは「英雄」である。何と言っても救国のヒーローなのだ。思い出したくはないが銅像だってある。彼らがおおっぴらに入国すると大騒ぎになるので、王室の力を借りて極秘で入国した。
    アルフィンはクラッシュジャケットのまま、「じゃあ、行ってくるわ。どんなに遅くても3時間で帰ってくる」と、まるで何かに宣誓するかのように言い残して、ファイター2で飛び立っていった。

    果たして、それから2時間も経たないううちにアルフィンは帰ってきた。
    それも、それはそれは上機嫌に帰ってきたのだ。
    「ただいまあー!」
    頭上に音符でも飛び交っているのではないかと思うほどだ。
    「お、おかえり、アルフィン」
    リッキーはその余りの変貌ぶりに、いっそ不吉なものすら感じたらしい。腰が引けている。
    「早かったな」
    「そう?補給は終わってる?」
    「あと少しだ」
    「早く終わらせて早く行きましょう!もう、さっさと宇宙に戻りたいわ!」
    踊るような足取りで、ブリッジに向かうアルフィンの後姿を見送って、三人は顔を見合わせた。
    何だか分からないが、平和が戻ってきたようだ、と。


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■3913 / inTopicNo.3)  僕の美しい人
□投稿者/ 舞妓 -(2015/01/26(Mon) 12:49:47)

    ミネルバの平和は短かった。

    平和を乱すものは、いつも決まって「アラミスからの緊急通信」というやつだ。
    しかし別に今回は、休暇中ではなかった。アラミスが重要かつジョウのチームに、と判断した仕事を回してきた。契約していた仕事は同クラスのほかのチームに交代する。
    よくあることで、休暇中でもなかったから、さしたる依存もなく深夜当直中だったジョウの一存で承諾した。仕事は2週間の要人警護、これもよくある話だ。
    ところが。

    「で、誰の警護なんだい?」
    翌朝、リッキーが訊く。
    「銀河連合のお偉いさんだとさ。国際会議の間とその前後、警護する」
    「ふうん」
    それはごく普通の会話だった、はずだ。
    「…ねえ、ジョウ」
    背後から、アルフィンの声が聞こえた。嫌な予感がした。アルフィンの声は、硬く、冷ややかだ。俺、今なんかしたか?と条件反射のように思った。
    「…なんだ」
    「銀河連合のお偉いさんって、今言った?国際会議って、言った?」
    「ああ」
    ジョウは恐る恐る振り返った。
    まずい、まずいぞ。アルフィンの目が据わっている。どういうことだ。
    「名前を、教えて」
    アルフィンが、今にも発火しそうな火花を散らせているように、見える。
    ジョウは何が何だか訳が分からないままに、小さな呟きのように言った。
    「オスカー・ファース…」
    ジョウが言い終わらないうちに。
    「断って!!!!!」
    アルフィンは叫んだ。絶叫と言ってもいいくらいだった。バン、とコンソールを両手で叩いて立ち上がり、顔を真っ赤にしてジョウを睨みつけて。
    「断って!!今すぐよ!!」
    「断るって言っても、アラミス経由の話じゃ…」
    「とにかく断って!駄目なの!イヤよ!」
    アルフィンは目を吊り上げている。
    「イヤって言ってもなあ、アルフィン」
    ジョウは必死になだめようとした。
    「イヤなの!!どうしてもこの仕事を受けるって言うんならあたしは病気になる。グレーブに行く。パスツール記念病院に仮病で入院する。今回の仕事はやらない。今月のお給料もいらない。三人でやって」
    矢継ぎ早に、アルフィンはまくし立てた。
    それにしても、ジョウにはさっぱり彼女の怒りの理由がわからない。
    「だから、アルフィン、理由を言ってくれ。何なんだ一体。このオスカー・ファースがアルフィンの親の敵だとでも言うのか?」
    「違うわ!!『あたしの』敵よ!!!!」
    アルフィンは絶叫した。
    「こいつ、知ってるのか?」
    「知ってるも何も!!!」
    アルフィンは、あまりの怒りに言葉もうまく出せないらしく、ぱくぱくと口だけをしばらく動かして、その後大きく深呼吸をして。
    そして、言った。
    「ジョウのバカ!!!!」
    ジョウは面食らった。
    なんでそうなるんだ。今の会話の流れから、何で「ジョウのバカ」になるんだ。
    目を点にして、次の言葉を何とか探しているジョウに、畳み掛けるようにアルフィンが言った。
    「このおっさんはねえ!!!」
    深呼吸。
    「あたしに結婚してくれって言ってんのよ!!!権力にモノを言わせてお父様とお母様にあたしとのお見合いをねじ込んだ最低の男よ!!
    この仕事だって、絶対同じようにアラミスにねじ込んだのよ!この前あたしにこっぴどく振られたくせに! ストーキングだわ!!! ジョウ、どうすんのよ!! あたしとこのおっさんをまた会わせる気なの?! 大体なんで、あたしたちに話もなく一人で決めちゃってるわけ? ひどいわよ!!」

    結婚?
    お見合い?

    ジョウは、呆然とした。

    じゃあ、この前アルフィンがピザンに2時間帰ったのは、このオスカー・ファースとお見合いをしていた、ということか。

    言葉も出せないジョウを助けるように、タロスが横から言った。
    「しかし、例えジョウがあたしたちに話していたとしても、それでアルフィンがどれだけ反対したとしても、訳を話してアラミスにNOと言ったとしても、聞き入れられるはずがないでしょうねえ。アラミスの決定は絶対だ。銀河連合の要人警護となりゃあ、万が一にも失敗は許されない。個人の感情やしがらみを仕事に影響させるようじゃ、AAAじゃない」

    アルフィンは黙った。
    ジョウも黙った。
    どちらも口を引き結んで、睨むように見合ったまま。

    「…い、一応、アラミスに言ってみるってのはどうかなあ…駄目もとでも…」

    か細いリッキーの声が、耳に届く。

    ジョウは返事をしない。
    できない。
    タロスの言うとおりだ。
    個人の感情云々ではない。これは仕事なのだ。アラミスがジョウのチームを見込んでこその、仕事なのだ。

    アルフィンが、耐えかねたように、涙で蒼い瞳を潤ませて、叫んだ。
    「ジョウのバカ!!」
    本日二度目の言葉を叫ぶと同時に、ブリッジを走り出て行ってしまった。

    「やれやれ…」
    タロスとリッキーが、同時に溜息をつく。
    ジョウは。

    溜息すら、出ない。





    「無理だな」
    画面に映るバーニーが、渋い顔をして言った。
    「契約には全く問題は無い。ストーキングとは言えんな。アルフィンと見合いをしたというのはアルフィンの両親、ピザンの国王夫妻も同席しての正式なものだ。それに、その後アルフィンにしつこくメールをしたり電話をかけてきたり、といった事はなかったんだろう?第一、ファース氏は別に君らを指名したわけじゃない。AAAのチーム、女性が必要、出来れば教養とマナーが身についている女性のいるチーム、ということだった。理由?国際会議にはレセプションが付き物だ。ファース氏は独身で、エスコートする奥さんがいない。エスコートする女性がSPになれれば一番良い。正式な場でだ。教養とマナーは絶対に必要だ。と考えると、君らのチームしかおらんだろ」
    ジョウは腕組みをして、苦虫を噛み潰したような顔でオスカー・ファースの代わりにバーニーを睨みつける。
    やり方が姑息だ。確かに指名ではないが、指名したようなものだ。
    「ダーナは。アンジェリーナは」
    「…そんな場で通用するような教養とマナーが身についていると思うか?」
    「…今のは忘れてくれ」
    ジョウは眉間にしわを寄せて、目を閉じた。
    「だろ?それに、女ばかりのチームは目立ちすぎる。そもそも、目立って良いならクラッシャーには依頼せんよ。警護されている事は、隠さなきゃならん」
    「なんでだよ」
    「今回の会議は、銀河連合の非常任理事国の選出のためだが、候補国の中にピザンが入っているのを知ってるか?」
    「…いや」
    またピザンだ。近頃ピザンがやたらに絡む。
    「ファース氏の肩書きを覚えているか。銀河連合事務局、事務総長主席補佐官。だが、それとは別に、今銀河連合は国際テロ撲滅推進チームを作っていて、ファース氏はそのリーダーになっている。つまりはテロ組織から目の敵にされている」
    「それとピザンが何の関係がある」
    「アルフィンは何もお前に言っとらんのか。この前ピザンの国王即位20周年の記念式典があっただろう。その時、国王暗殺を企てたやつがいた。幸い、取り押さえられて国王は無事だった。式典に招待されて、たまたまその場にいたファース氏が身柄を連合に送り、今犯人は拘留されている。ところが、そいつは幹部だった。そいつの身柄を引き渡せとテロ組織から要求が来ている。引き渡さなければ、会議をテロ攻撃の対象とする、ファースの命も無いぞ、とな」
    ジョウの目がきらりと光った。
    「たまたま、じゃないだろう。連合は、式典でテロが起こる可能性があったから、オスカー・ファースを式典にやったんだ」
    「その通り。テロ組織は、まあとにかく何にでも文句をつけては爆弾をぶっ放すやつらだ。この世の中に『国王』『王制』は必要ない。いわんやそんな非民主国家が連合の非常任理事国だなんてとんでもない、とな。即位20周年だったことも目立ったんだな。やつらに目をつけられた。それで、ファース氏は今回自ら、いわば囮になってテロ組織の検挙につなげたい、という事だ。だから、相手を油断させるためにガードは最低限、目立たぬようにだ。君らはガードだけすればいい。逮捕は契約には入らん」
    「そういう事か」
    ジョウは目を閉じて、鼻から深く息を吐いた。
    アラミスの説明を聞く限り、確かに契約に問題はない。
    文句ならある。大いにある。やりたくない。が、仕事は仕事だ。どんなにアルフィンが怒り狂っても、「やりたくないからやりません」というわけにはいかない。
    「…分かった。やるさ。契約に依存は無い」
    「そうこなくちゃなあ。ファース氏は金持ちで出世頭でついでにイケメンだ。かっさらわれないようにがんばれよ、ジョウ」
    「うっせえ!!」
    叩きつけるように通信を切って、暗いモニターを睨むように見つめた。



    クソッタレ。



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■3914 / inTopicNo.4)  僕の美しい人
□投稿者/ 舞妓 -(2015/01/26(Mon) 12:50:41)


    私は、待っていた。
    もう、来てくれないんじゃないかと思いながら、ハラハラして、みっともないくらい落ち着きなく待っていた。
    王室のプライベートの客間で、王妃も私と同じくらいハラハラしていた。
    国王は、のんびりとコーヒーを飲んでいた。
    約束の時間まで、あと3分。
    というころで、ものすごい轟音が聞こえた。
    一体何だと、大きな窓の外を見ると、中庭に、真っ赤な戦闘機が降りてくるんだよ!
    狭い中庭に、垂直着陸する赤い戦闘機。大変な技術だ。
    王妃が、額に手を当てて瞑目していた。
    国王は、楽しそうに笑っていた。
    私は呆然として、突っ立っていた。
    すると、キャノピーが開いて、ひらりと赤いスペースジャケットの女性が降りてきた。
    長い金髪、すらりとした手足、凛とした姿。

    ああ、彼女だ。
    きてくれた。

    安堵して、彼女が私の前に立ってその蒼い目で私を睨みつけても、私は手にキスすることも忘れて、ただ彼女に見惚れていた。

    「ミスター・ファース、先日は式典にご臨席くださいましてありがとうございました。せっかくのお申し出ですが、ご覧の通り私はいまやピザンの王女でも何でもありません。クラッシャーです。私はクラッシャーという仕事に誇りを持っています。それに、まだ19歳です。率直に申し上げますが、結婚は一切考えておりません。そういうわけで、このお話はお断りさせていただきます。では、失礼いたします」

    聞かせてあげたいよ、あの声を。
    張り詰めた銀の糸をはじくような声で、一気にそう言うと、くるりと私に背を向けた。金髪がふわりと揺れてね、眩暈がしそうだった。
    「お父様お母様、またね」
    彼女は手を振って、部屋を出て行く。
    中庭の戦闘機にひらりと乗りこむのを見て、私の身体はやっと動いた。
    走って、キャノピーが閉まる直前に、彼女に声をかけることができた。

    「プリンセス・アルフィン!!」
    「…なんでしょうか」
    そのときの仏頂面といったら!!

    「お会いできて光栄でした。今すぐの結婚は諦めます。ですが、あと5年、10年経って、あなたの気持ちが変わることがあれば私を思い出していただけますか。私は、あなたを忘れる事なんか絶対にできません。いつかまた、会えたときには…」
    そこで戦闘機のエンジンが入って、私の声はかき消された。
    そして、マイクを通して彼女の声が降ってきた。

    「おっさん危ないわよ!!ふっ飛ばされたいの!?おどき!!」

    轟音と爆風、私は本当にふっ飛ばされそうになりながら、空に飛び立っていく彼女の機体を見送った。

    それから、腹がよじれるほど笑った。

    最高だ、プリンセス・アルフィン!!
    その時、決めた、
    私の伴侶は、彼女しかいないってね。




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