FAN FICTION
(現在 書庫2 を表示中)

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

[ 最新小説及び続き投稿フォームをトピックトップへ ]

■557 / inTopicNo.1)  バースデイ
  
□投稿者/ 柊里音 -(2003/11/17(Mon) 14:06:56)
    こんこん。

     ・・・・・・・・・。

    こんこん。

     はいってます。

    じゃあ入っていいか?

     ・・・・・・。

    はいるぞ。




    ブリッジでは、あれだけの大胆なメッセージに涙したアルフィンに同情票が集まった。
    慰めに行け行けと背中を押し出されたのは、めでたく誕生日を迎えたジョウである。
    「・・・・そんなもん、いわれなくてもいくって・・・」
    誰にも聞こえないことをわかっている場所でしか、本音がいえない彼に対しても、アルフィンに同情が集まることを知らないジョウであった。


    確認を取らずアルフィンの自室に足を踏み入れた。
    姿を見ることはできないが、ベッドの上にまるまったブランケットのふくらみが見える。
    小さく笑ってジョウはベッドの片隅に腰を降ろした。
    「まだ任務中だろ?」
    「・・・・・・・」
    「早くブリッジもどれよ」
    「・・・・・・・」
    「じゃあな」
    「!!!まって!・・・」
    慌てて起き上がると、腰をあげずににやにや笑うジョウがいた。
    「・・・ずる・・・・」
    「なにが?」
    「・・・・別に」
    「ふーん。で?それは俺にくれるの?」
    アルフィンの膝元には、ほどけ掛けてくちゃくちゃになっていた何かがあった。
    むすっとしたアルフィンの手を引っ張ると、自然に彼女の上半身はジョウの腕の中に落ちる。
    ちょうど胸元にきた頭に軽くキスをして、拗ねてないでいくぞと声を掛けた。
    「だって」
    「うん?」
    「だって、一番最初にいうのは私って決めてたんだもん」
    くすりと笑うジョウ。
    「あ〜鼻で笑ったわね!」
    「笑いました」
    「なによ」
    「何番目でもいいんじゃないのか」
    だめ、と強い口調でその言葉を押しとどめた。
    「一番じゃないとだめ。駄目なの」
    そういいながら面を上げた碧の瞳には自分が映っていた。
    自分の瞳にはまっすぐな瞳の、こちらをしっかりとみつめる少女が映る。
    「一番ね」
    くすぐったくなったジョウは、少し視線をそらして溜息まじりに復唱した。
    そう。強い口調で頷き、過去は過去よ。と再度強い口調で言い切った。

    「彼女が過去を知っているのは仕方がないわよ。仕方がないけど、悔しい。悔しいけどだからといって、その記憶をなくしてしまうことはできないし、忘れてもらう事もだめならば、彼女の知らない今があるほうがいい。私だけが知ってる今ね」

    いつもの甘えるような口調ではなく、強い意志を感じる物言い。
    いつのまにか、しっかりと自分の気持ちをさらけ出してきてくれる彼女に甘えていたかもしれない。
    幼馴染という特別な立場にある彼女と、今ここにいて、自分を困らせたり喜ばせたりする彼女とが心に占める割合や、心に響く言葉の重さの違いはだれに言われるよりも自分が知っている。
    さっき彼女が泣き出したのは、彼女の知らない過去をさも何でも知ってるかのように言う言葉に反応したのではなく、自分よりも先に‘おめでとう’という言葉をいわれた悔しさだけだったとは、きっとブリッジにいる2人にはわからないだろうとジョウはひとりごちた。

    つまらないことで一喜一憂する事は自分にはわからないこともあるが、そういう判らない事をやっている彼女を愛しいと思う自分も嫌いではない。
    自分を嫌いじゃない、だなんて思うことをするようになったのは、アルフィンがいるからだと改めて考えた。


    いつのまにやら腕の中をするりとぬけて、解かれようとしていたものをまたもや解きだした。
    「おいおい」
    慌てたのはジョウのほうで、アルフィンは2段ほどするすると糸をのばすと、にっこりと笑顔をみせる。
    「ね。いい?私の部屋はまだ7日の仕事中だからね。まるまる一日ずれてるの。時計。だから私はまだこれ仕上がってないのよ」
    ぴらんとみせたのは、前々からアルフィンが公言していたサマーセーターになりかけた代物だった。
    もう少し解こうとする腕を掴んで、いたずらそうな碧の瞳に吸い込まれたのはいずれそのセーターを着る予定の人間だったことはいうまでもない。









    休暇をとるにあったって、アルフィンは時差を一番気にしていた。
    丸一日ずれるところ。
    まだきょうがおわりかけた8日ではなくて、これから8日になるところ。
    目が覚めたら一番におめでとうをいえるところ。
    寒くても熱くてもかまわない。
    どうせ3日もいられない。
    だけど、ジョウのお誕生日をきちんとお祝いする為に、クライアントとの時間調整をして手に入れた3日間

    さあ。どう過ごそうかしら?

    マグカップになみなみと注がれたコーヒーを飲みながら、ぽんぽんとキーボードに触れる。
    検索しながら有効的な時間の使い方も頭の中で検索して、きちんと編みあがってラッピングしたサマーセーターをちらりと見た。
    解こうとしていた彼女を見たときのジョウの慌てぶりがおかしかった。
    ジョウは最近自分に甘くなったように感じる。最近2人の距離が少しずつ変ってきているように感じる。
    だからこそ、しっかり仕事がしたくて、お誕生日のことは仕事が完了するまで口にださないつもりでいた。

    思わぬありがたくないプレゼントのおかげで、私が忘れたわけじゃないって判ってもらえたし。

    一日遅れのバースデイは、ゆっくり進む私たちにおにあいでしょ?

    ことり、とカップをデスクに置いてゆっくりと立ち上がる。
    ラッピングしたプレゼントを小脇に抱えて、そろりとドアを開ける。
    周りをみまわして、だれもいないのを確認して。



    一番最初にお誕生日おめでとうを言うために、こっそりと、とある部屋をノックした。

引用投稿 削除キー/
■556 / inTopicNo.2)  バースデイ
□投稿者/ 柊里音 -(2003/11/17(Mon) 14:06:55)
    お誕生日おめでとう!!!



    ミネルバに奇声といっていいほどの大声と音楽が響いた。
    「うわ〜っっ」
    「音消せ!!」
    「ななななんだ!?!?」
    同時に3人の叫び声が響く。

    その日のために、あれやこれやと画策していた計画は宙に消え、ご機嫌もそぞろな紅一点のアルフィンを除いて。



    残念ながら、今回は任務中に迎えた11月8日。
    そう我らがチームリーダー、ジョウの誕生日。
    待っていたかのように、標準時間午前0時。
    先だってともに任務を遂行した、同僚からのメッセージが届いた。
    開封は自動開封。

    メッセージを受け取った事を意味するシグナルに送付先を確認すると、それはデリバリーメール。
    サプライズと銘うたれた昔で言うところの電信書面。
    腑に落ちないながらも、宛名がJOEと書かれていた。
    安全を意味する封印もあることから、開封日時もなにも書かれていなかったメールはそのまま受信箱で忘れ去られていた。





    突如大音響が轟いたかと思えば、耳が慣れてそれが古来よりのバースデイソングとわかったころ。

    「お誕生日おめでとう!!」

    単調な作業にそろそろ眠気も襲ってきていた時刻だっただけに、一気に目が覚めたリッキーがいち早く状況に気がついた。

    「あっ!そっかあ!ごめん。兄貴。」
    「あ?」
    MAXで響き渡っていた音楽と、ごちゃごちゃお誕生日祝いを述べ連ねているかの同僚の言葉を背にしながら、ジョウがこちらを振り向いた。
    「すっかり忘れてた。ってわけじゃないけど、ついつい。仕事にかまけちゃってさ〜」
    「おめえのタコあたまじゃ2つの事はいっぺんにはおぼえきれねえな」
    「うっさい!てやんでえ!木偶の棒とはよくいったもんだ!」
    「なんだと?!」
    「タロスは俺らたちと違って今回運転手オンリーなくせに、なんだって覚えてねえん・・・・だ・・??」



    今回は細かい計算をしながら、ワープポイントを測定し、新しく太陽系国家としてスタートすべく惑星群にふりそそぐアステロイドベルトの残骸を処理する、というある意味地味な仕事であった。
    しかし、そのポイントを間違えれば、ミネルバ自体が隕石とぶち当たることもありうることから計算は緻密に行われた。
    そのかいあってか、作業は順調に進み、いままさに任務終了と一声かけようとするそのタイミングでもあったのだ。
    この作業は機動力、測定の勘、どちらかが狂ってもカバーできにくい。
    また、自然の摂理ではあっても、ベクトルの計算で予測をつけることも不可能ではない。
    その機動力はリッキーが。測定力はアルフィンが。
    其々の能力を発揮し、みごとに終焉をむかえようとしていたのだった。


    だからといって、この隣の彼女、金糸のごとき髪をさらさらとなびかせ翡翠のようにきらきらとかがやく碧い瞳の彼女が忘れるはずもない。
    はず。


    一気に緊張の糸が切れた艦内で、いつものごとくのやり取りを繰り広げかけていた2人は重大なそのことに気がついた。

    バックミュージックのごとく、のんきにやや作りこんだ趣のあるキャットボイスで、あれやこれやと未来の夢を詠う同僚。
    これは前もって作られたものの再生だとわかってはいても、この不穏な空気を察して欲しいと願わずに入られなくなってきた木偶の棒と呼ばれた大男と、先ほどまで眠気と戦っていた赤毛の少年。


    そろそろと、首をひねってリッキーが彼女をみる。
    あんなにさわがしかったバックミュージックはもうすでに耳に入らないくらい緊張している自分。
    阿修羅のごとき表情をしていることを想定に入れて焦点をあわせるのと同時に、空間立体表示スクリーンの人影をを認めた。





    「あ・あ・あ・あ・あれ???」

    素っ頓狂な声にまたもやタロスが小ばかにしたように振り返る。
    「・・・おっと」
    一言いってやろうと思ったその表情は、しばらくするとふとやさしいものに変った。

    リッキーが振り返り、彼女の表情を認めたときは、そう。
    想像通り蒼い炎が浮き立ちそうなオーラに包まれていたものの、やがて瑠璃色の大きな瞳に変った。
    そしてぽとりぽとり。と大粒の涙。
    「えっと・・・。アルフィン?」
    おずおずとした口調のリッキーの声と、振り返りながらも顔を前に向けたタロスの仕草に、ジョウの首も後ろをめぐらせた。

    その瞬間。
    ぎっっと宙を睨みつけたアルフィンは。

    「く〜〜〜〜〜や〜〜〜〜し〜〜〜〜〜〜!!!!」


    ばたばたとブリッジを走り去る彼女は立体表示スクリーンに大粒の涙を残していった。







    《ジョウ!お誕生日おめでとう!あんたの誕生日くらい、ちょっと調べたらすぐに判るわ。お父様にあんたのこと話しておきました。笑っていたけど、ものすごくいい案だと思わない?
    私ならきっといいペアを組めると思うわ。なんていったって小さい頃からのあんたの癖や考え方なんかはぜ〜んぶしってるもの。この前一緒にいた時間で、ちっともかわっていないってわかったわよ。ほんのちょっとだったけど、あれこそ幼馴染のなせるわざよね。すぐにピンとくるっていうの?次にあんたが何をかんがえるかっていわれないでも判るわよ。ほら、あの時もそうだったでしょ?次の誕生日はきっと一緒に迎えられるように仕事も選ぼうかしら?今回はメッセージだけで残念なんだけど、この時間ならだれよりも早くお祝いが言えるとおもってね。
    ああ、もし仮眠中だったらごめんなさい。でも誕生日になったんだって判ったからよかったでしょ?・・・・あら!こっちで音量調整しろってかいてあるわ。ごめん!いま大きな声ではなせないから、MAXで声ひらってるのよ。もしかしたら大音量に変換されちゃうかも。でもいいわよね。いい目覚ましでしょ?じゃ、私もいまから仕事よ。お互い次のバースデイに無事に出会える事を祈って!ば〜い!!!》

    よくもまあ、アルフィンは黙って聞いていたと思う内容がバースデイソングと共にリフレインしていた。


引用投稿 削除キー/
■562 / inTopicNo.3)  バースデイ
□投稿者/ 柊里音 -(2003/12/01(Mon) 21:05:49)
    チェックし忘れてました。
    ついでにさっき書いてたブツあげてみます。
    またすぐひっこめますね。(^_^;)
fin.
引用投稿 削除キー/



トピック内ページ移動 / << 0 >>

このトピックに書きこむ

書庫には書き込み不可

Pass/

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

- Child Tree -