| 今日は世間一般、宇宙全域でXmas。 どんな人にもロボットにも生きとし生けるもの全てに等しくXmasはやって来る。 やっては来るけれど、等しく楽しめるとは限らない。 目下、リッキー&私は当直のお仕事真っ最中。 深夜の当直だったアルフィンと交代して三十分が過ぎただろうか。 「リッキー、ちゃんと当直やってるか?」 突然、眠い顔をしながら青いクラッシュジャケットを着たジョウが<ミネルバ>のブリッジに入ってきた。 ―――相変ワラズいい男ップリ・・・。 スミマセン、なれーたーガ私情ヲ挟ンデハイケマセンネ。 ア、共通語変換シナクテハ。 さて、話を戻して、戻して。 「あれ、兄貴?集合時間にはまだ早いんじゃない?」 タロスの席に座っていたリッキーが後ろを振り向いた。 チームとしての集合は朝の八時だが、男性陣(私も含まれております)には別の打合せもあり五時にブリッジということになっております。 「バーカ。あんなので来られて寝てられるかってんだ」 あんなのとは、昨夜アルフィンが着ていたサンタガール姿のことでしょう。 あれくらいでどうようするとは、まだまだジョウも若いですなあ。 私のティアレルちゃんなんぞはそんな服など纏わなくても女神のような美しさ・・・いかんいかん妄想の世界に旅立ってはいけない。 「キスでもしたの?」 「バカヤロウ、そんなことするか!そういうお前はどうなんだよ」 照れながら自分の席に着きつつジョウはリッキーに問い返した。 からかわれて、顔が真っ赤になっている。 まるで熟れたトマトのよう。 珍しい、ここまでうろたえるとは何かあったに違いない。 「う、う〜ん。おいらもあんまり寝られてないけどさ」 そのリッキーは少し疲れたような表情を見せた。 「プレゼント置く時に胸が頬を掠めた時は心臓が止まるかと思ったぜ、おいら」 睡眠不足は一番身体に応える。 チームで一番若いとはいえ身体が資本のこの商売、睡眠不足はイザと言う時無理がきかない。 それでも、地雷をわざわざ踏みに行く行為は愚かとしか言いようがなかった。 リッキーは今の自分の言葉が、不用意な一言だということが分かっていない。 「さっさと忘れろ」 ジョウが不機嫌な声でリッキーに言い放った。 それが分かれば、彼も大人になったと思うのだが。 まだまだお子様ランチの域から脱してはいないぞ。 「そんなこと言ったって・・・」 まだ分かっていないらしい。 男のジェラシーの前にそんなもへったくれもないのだ。 「忘れられねえのか?じゃあ俺が忘れさせてやろうか?」 低い声音でリッキーに言った。 指をパキパキと鳴らしている。一種のウォーミングアップ状態。 後ろから怒りのオーラが立ち昇っているような気がした。 気づけよ少年。このままだとジェラシー男の怒りの鉄建が飛んでくるぞ。 「分かったよ、忘れる。忘れるってば。そんなに怒ることかよ」 怒ることです、少年リッキー。 誰が恋人の胸を他の男、いや少年に触られて機嫌のいい男がいるのだ。 しかし、この会話からどうもこの二人はアルフィンが来た時、狸寝入りをしていたらしい。 「ジョウ、もう起きていたんですかい?」 後ろからボーッとした表情で巨漢のタロスが入ってきた。 クラッシュジャケットの襟が折れている。強面の人相の割に身綺麗にしているタロスにしては珍しい。 パッと見には分かりづらいがそこは長年一緒に仕事をしているので、彼の表情を読み取るなど朝飯前だ。 この表情からしてここにも狸寝入りが一人、そんなところだ。 「まあな、なんとなく・・・」 結局、男どもは誰一人として熟睡出来なかったらしい。 情けないぞ、女一人に振り回されて天下のAAAクラスのクラッシャージョウチームのメンバーともあろう男達が。 「なんでい。タロスも結局起きてきたのかよ」 タロスの席から立ち上がってリッキーが席を替わる。 「その顔でその髪じゃ、百年の恋もいっぺんに冷めちまう」 寝癖が少し残っているタロスをリッキーが煙たそうにからかった。 また始まるのか、恒例のアレが。 「うるせえチビ!」 「チビじゃないやい!」 二人ともやる気だ。すでに互いを威嚇している。 「こちとらデリケートに出来ているから、おめえみてえにどこでもグーガー寝られる体質じゃねえんだよ」 「はん!でっかいうすのろバカがデリケートって柄かあ?」 「ああ、お前と違って超デリケートで繊細なんだよ、俺は」 「バリケードの間違いじゃないのか?」 「なにおう」 「へーんだ」 身長差のある二人が顔を寄せて啀み合った。毎度あきないものだと感心させられる。 「うっせえ。いい加減にしろ!」 寝不足と不機嫌でイライラしているジョウの一喝で二人はシュンとなった。 この二人にとって怒れるジョウとヒステリー&酒乱のアルフィンは天敵らしい。 すぐにおとなしくなる。 私の声にはまったく耳も貸さないのに、もう少し人権をいやロボット権を尊重してほしいものだ。 「そんなことに時間割いている間はないんだぞ」 「へい」「はーい」二人同時にジョウに返事した。 取り敢えずタロスは自席に着き、リッキーは二人の間の床にどっかと腰を下ろした。 暫し、<ミネルバ>のブリッジに沈黙の時間が流れる。 「はあ」 暫くの沈黙の後、今度は三人同時に溜息をついた。 溜息の原因はただ一つ。 当直のリッキー以外が起きてきた原因が、チームの紅一点アルフィンへのXmasプレゼントを何にするかが決まっていなかったからだ。 自分達にアルフィンがプレゼントを用意しているのを知ったのは、一昨日のこと。 私の不審な動きに・・・(私はそうは思っていないが、ジョウから見れば不審極まりなかったらしい。) ジョウがチームリーダー命令で問いただした。 チームリーダー命令は絶対である。 どんな個人情報でも聞かれれば答えざるを得ない。 私のプライバシーもあったもんじゃない。 まあ、流石にチームリーダーなのでそこのあたりは自重して踏み込まないが、踏み込んできたらアラミスにロボット権侵害で訴えなければ、私は真剣に思っている。 で、結局私はアルフィンが水面下で進めていたXmas作戦を暴露した。 仕事中だったのと、イベントなんて頭の中から飛んでいる三人には寝耳に水の事だった。 今更プレゼントを用意しても間に合わない。 三人は途方に暮れた。
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