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■617 / inTopicNo.1)  Hurricane・Princess
  
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/01/12(Mon) 14:53:46)
    銀河標準時、一月十二日。
    今日は我らが<ミネルバ>の姫君、アルフィンの誕生日。
    年末・年始追われるように仕事をしていたジョウ達だが、なんとかアルフィンの誕生日から一週間だけ休暇を取ることが出来た。
    姫君のご機嫌はこの上ない。
    休暇の誕生日は取れないかもと諦めていた所へ、なんとか都合が付いたこの休暇。
    一週間でも嬉しさが倍増する。
    「ただいまーっ。ジョウいる?」
    重厚なスウィートルームのエントランスドアを片方だけアルフィンが大きく両手で開いた。
    返事がない。
    帰ってくるまで何処にも行かないと言っていたのに。
    部屋の中は人の気配がまるで感じられない。
    「ジョウ、いないのーっ」
    もう一度大きな声で奥の方へ叫んだ。
    「・・・いるぜ」
    思ったよりすぐ近くのリビングのソファに寝転んだジョウがそこに居た。
    眠そうに眼を擦りながら呟く。
    暖かな日差しについ昼寝をしていたらしい。
    日はかなり傾いて冬の夕暮れ時の景色に変わっていた。
    部屋の中がくすんだオレンジに染められてゆく。
    「ただいま、ジョウ♪」
    「・・・おかえり」
    「た、ただ・・いま」
    上機嫌のアルフィンの後ろから、ヨロメク足取りのリッキーとタロスが中に入ってきた。
    二人とも前が見えない程、商品を抱えている。
    大小様々な形の箱がどれも丁寧にラッピングされており、遅めのNEWYEARイベントかなにかと間違われそうだ。
    これが今日一日で買い物した量とは。
    ジョウは一瞬だけつき合わされなくてよかったと思った。
    ほんの一瞬だけだが。
    「リッキー、その品物全部あたしの部屋に入れておいて」
    「はひぃ〜っ」
    姫君が下僕に命令をする。
    返答するリッキーの声は疲れ切っている。きっと散々引っ張り回されたに違いない。
    タロスも顔は見えないが足取りが重い。
    ヨロヨロと時々壁にぶつかりながらアルフィンの部屋に物を運んでいた。
    「あれ、全部?」
    エントランスドアからの三度目の往復が終わり、ジョウはソファから起き上がってその量に口を大きく開けた。
    まるで、一件のブランドショップが引っ越してきた勢いだ。
    「そうよ。箱があるから嵩が張ってるけど半分も買ってないわよ」
    何が半分なのか理解に苦しむが、嬉しそうに微笑むアルフィンのその言葉に、部屋の奥で箱が崩れる音がした。
    リッキーかタロスが今の言葉で転んだようだ。
    「リッキー、タロス、箱壊さないでよ。買ったものまだ出してないんだからあ」
    「す、すんません」
    声高に叫んだアルフィンに対して、タロスが奥から返答した。
    完全なる下僕状態。
    まだお酒を飲んだわけでもないのに、アルフィンの眼にかかる行為だけはするまいとおとなしく言われたことに従っている。
    一週間ある休暇の初日からこのテンションでは先が思いやられた。
    ことの始まりは昨年のXmasにも関わらず、アルフィンにプレゼントを用意していなかったこと。
    いつも仕事中はそんな事などまったく考える余地などないが、今回は思ったよりゆったりとした仕事内容の護衛だったこともあり、<ミネルバ>での護衛ということも手伝って前々から準備をして俺達にXmasプレゼントをくれた。
    当然、そんなことはまったく考えていなかった俺達に彼女のプレゼントなんて用意出来るわけがない。
    そんな、こんなでアルフィンにプレゼントがないことがバレて、結局新年明けの彼女の誕生日に俺達がなんでも言うことを聞くというので了解された。
    後悔ある了解と今更悔やんでもしょうがいないが、あの場合それ以外に何が言えただろう。
    やはり、姫君には何があってもプレゼントを用意するべきだった。
    「で、アルフィン。その格好のまま出かけるのか?」
    トレーナーにジーンズという格好のジョウに対して、オフホワイトのローゲージニットレースにオリーブグリーンのオフタートルネックのカットソー、下は、カラフルな柄の膝上のフレアスカートにロングブーツ姿のアルフィン。
    どちらもラフでカジュアルな服装だ。
    問われたアルフィンは大きく首を横に振った。
    「冗談でしょう?今からシャトーに隣接したレストランに行くのに、こんな服じゃワインに失礼だわ」
    ちゃっかりジョウのソファの隣に座り込む。
    「じゃあ、何着るんだよ」
    読んでいた雑誌をテーブルの上に置いて、ジョウはチラッとアルフィンに眼をやった。
    満面の笑みを湛えている。
    少し子悪魔的な笑みが怪しい。
    「そのためにあたしは今日ちゃんと買ったもの」
    ジョウの右腕に自分の腕を廻して、肩に寄りかかった。
    煌く金の髪がジョウの視界に入ってくる。
    自分の誕生日にジョウと二人だけでデートは、アルフィンにとって何事にも換えがたい嬉しいことらしい。
    それが遅めのXmasプレゼントと一緒とくればなおさら嬉しさが倍増している。
    自然とジョウに纏わりついて笑顔を振りまいた。
    ジョウにとってもそんなアルフィンの笑顔は悪くは感じない。
    逆に自分の傍にいることで喜んでくれるなら素直に嬉しく感じる。
    しかし・・・この後がなければの話だが。
    「自分のだけか?」
    少しだけ拗ねてみる。
    きっと自分の服も買ったであろう彼女の反応を見る。
    「ちゃんとジョウの服も買ったわよ。後で部屋に持って行くから、その頭の寝癖を直しておいてね」
    ジョウの腕を引っ張ってその頬に軽くキスをした。
    「ア、アルフィン!」
    やはり、自分の服を買ってきたとは思ったが、突然のことにジョウは一瞬戸惑いアルフィンを軽く突き放し後図去った。
    ソファの後方からはクスクスと笑い声が聞こえる。
    タロスとリッキーだ。
    どうやら今の場面を見ていたようだ。
    あいつらにこんな場面を見られるとは。
    不覚だ。
    暫くおちょくられるのは目に見えている。
    ああ、気苦労がまた一つ増えた。
    「熱いねえ」
    「ああ、熱いねえ」
    「いいよなあ、これから兄貴はご褒美が貰えるんだから」
    「まあ、そう言ってやるなリッキー。俺達もこれからバカンスを楽しめるんだ」
    二人とも壁に持たれて立ち、ニヤニヤとジョウとアルフィンを見ている。
    どう見ても羨むというよりご愁傷様という眼だ。
    喜んでいるのはその傍に居るアルフィンだけだ。
    もう心は二人だけのデートに飛んでいる。
    こちらの嫌味のような会話もまったく気にならないらしい。
    「そうだよな、タロス。俺達も出かけようぜ」
    「ああ、二人はこれから楽しいディナータイムだしな」
    その言葉にジョウがソファから立ち上がった。
    テレとからかわれたことで、顔がかなり赤くなっていた。
    それでも視線は多少怒りをはらんでいたが。
    「一緒に行こうぜ?」
    アルフィンと二人だけにするなとばかりにジョウは二人を見た。
    だが、ジョウの問いに今度は二人が青ざめて首を振った。
    足が早々にエントランスの方に向いている。
    「とんでもない。俺達はジャンクフードで十分」
    「じゃ、あっしたちはこれで」
    「あ、おい!リッキー!タロス!」
    ジョウが引き止めるのも聞かず二人は部屋を出て行った。
    残されたジョウとアルフィンに落日の光が指して、部屋に濃い影を落とす。
    「行っちゃったね」
    ポツリとアルフィンが呟いた。
    「・・・ああ」
    ジョウはその場に立ち尽くしたままだ。
    「そろそろ着替えないと間に合わなくなるわ」
    「・・・ああ」
    アルフィンがゆっくり立ち上がり、そのまま自分の部屋に向かう。
    「さっきも言ったけど・・・」
    一度だけジョウの方に振り向いた。
    「寝癖だろ」
    分かってると言わんばかりに、ジョウは寝癖の付いた頭に手をやった。
    「よろしくね」
    そう言って、アルフィンは自分の部屋に姿を消した。
    ここまでくれば諦めるしかない。
    一人リビングに取り残されたジョウは大きく溜息をついた。
    アルフィンの誕生日を二人で祝えるのはとても嬉しいのだが、それにお酒が付くとなると事情は別だ。
    誰が止める荒れ狂う姫君を。
    誰が・・・。
    ・・・俺しかいない。
    そんな愚痴が心の中で堂々巡りをする。
    ジョウは頭を掻きながら自分もシャワールームに向かった。
    少しでもその姫君のご機嫌を取るために。
引用投稿 削除キー/
■618 / inTopicNo.2)  Re[1]: Hurricane・Princess
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/01/12(Mon) 14:57:08)
    たっぷり一時間掛けて、アルフィンは自分の用意をしてジョウの部屋にやって来た。
    待ちくたびれてアルフィンの部屋まで行っても「もう少し」と言って追い返され、ただひたすら姫君の用意を待ち続けた。
    何処を見ても完璧な淑女姿に、ジョウは思わず見とれた。
    金の髪に緩くカールをかけ、軽く編んで片方に纏めている。
    胸元はカシュクールに白いフリル付きのストレッチレースのキャミワンピース。
    色は鮮やかな青だ。
    空色の瞳によく映る。
    手には豪華なファーミンクのコートを持っていた。
    「どう?いいでしょう?」
    くるりと一回りしてジョウに衣装を見せる。
    ワンピ−スの背面が肩口から臀部の近くまでかなり大きく開いていた。
    ―――あ、またこんな大きく開いてるやつ買って着やがった!それに俺に聞かれてもそんな衣装を評価する知識は持ち合わせてないぞ。
    それを着て欲しくはないが、姫の誕生日ということもありジョウは苦情をグッと堪えた。
    「なあに、似合ってない?」
    「・・・いや、似合いすぎて言葉が出なかっただけだ」
    「きゃん、嬉しい!」
    アルフィンが小躍りして喜んだ。
    自分でもこんな言葉が出るようになるとは、アルフィンと付き合うまでは思いもしなかった。
    ―――これが大人になるということだろうか?
    自分の中で自問自答していると、アルフィンがスッと俺の衣装を目の前に差し出した。
    アルフィンに合わせるように青系の濃紺のスーツにワインレッドのワイシャツ、グレーのマフラーが添えられていた。
    「どう?」
    「ああ、いいんじゃないか?」
    「そっけないわねえ。さ、早く着替えて行きましょ」
    自分のコーディネートを喜んでくれると思ったアルフィンは、やや軽いジョウの返答に少し不満を表情に見せた。
    ジョウの右手を引き、ベッドから立ち上がらせ備え付けのドレッサーの前に連れてゆく。
    「自分で着替えるから、アルフィンあっち向いてろよ」
    衣装をひったくって、指で回れ右を指す。
    「つまんなーい、着替え手伝おうと思ったのにーっ」
    「つまんなくてもいいから、ほらあっち向いてろ」
    「はーい」
    抵抗していたアルフィンは渋々ジョウの後方に退いた。
    ガウン姿から着替えるのにアルフィンが横に居たんじゃ、別の意味で興奮しちまう。
    これから出かけるんだから、今からこんな調子じゃ無理やりベッドに押し倒しちまいそうだ。
    ガウンを脱いで、さっさと着替え始めると後ろからポソッとアルフィンが呟いた。
    「やっぱり、ジョウって逞しい身体してるのね」
    その言葉に正面の鏡を見るとアルフィンが後ろのベッドに座って頬杖をついていた。
    目はしっかりこちらを見ている。
    「・・・あっち向いてろって言っただろう?」
    鏡越しに視線を合わせる。
    「うん。もういいかなって思って」
    「・・・あのな」
    ジョウはそれ以上言いかけて言葉にするのをやめた。
    今日は彼女の誕生日だ、それを心の中に思い留める。
    下手なことで喧嘩して台無しにしたくない。
    それ以上反論せずにそのまま服を着た。
    あまり着慣れない格好に少々違和感があるが、それは致し方がないこと。
    生粋のクラッシャーであるジョウなのだから違和感はあって当たり前なのだ。
    まずそのような服を着る機会もなければ、着ようとも思わない。
    鏡の前で、少々戸惑っているとアルフィンがすっと横からやってきて何かを首の後ろから廻した。
    「な、なんだ?」
    「タイ渡すの忘れてたから」
    そう言って、アルフィンはジョウの首にタイを結び始めた。
    彼女の細い指が器用にタイを結んでゆく。
    その光景をじっと見ていたジョウはその手を掴んでアルフィンを引き寄せると柔らかな唇に口付けた。
    「・・・んんっ」
    抗うようなアルフィンを腕の中に抱きしめてジョウは優しく口づける。
    「まず一つ目」
    唇を離すとジョウはアルフィンに答えた。
    「な・・・なにが?」
    「誕生日プレゼント」
    ジョウの微笑みにアルフィンも微笑もうとしたが思わずジョウの顔を見て噴出した。
    「ジョ、ジョウ。あたしの口紅が唇に付いてる!」
    「えっ!」
    大笑いするアルフィンに鏡を見ると確かに紅いルージュが唇に付いている。
    女の唇ではなく男のましてや自分の唇にルージュなど似合うわけがない。
    慌てて手で擦り取ろうとするのをアルフィンが押し留めた。
    「だめよ、今ティッシュ取ってあげるから手で拭っちゃダメ」
    彼女はドレッサーにあったティッシュボックスから一枚取り出し、ジョウの唇に付いたルージュを綺麗に拭き取った。
    「これで大丈夫。ほらタイ結ぶからじっとしてるのよ」
    せっかく不意をついて喜ばそうと思ったが、逆に軽くあしらわれてしまった。
    互いにコートを羽織ると一組の紳士淑女のカップルが出来上がった。
    「さ、じゃあナイトのエスコートで行きましょうか?ディナーへ」
    アルフィンはジョウの腕に自分の腕を絡めた。
    「ああ、恐怖の晩餐へ・・・な」
    ジョウが口の中でぼそっと呟いたその言葉はアルフィンの耳には届かなかった。
引用投稿 削除キー/
■619 / inTopicNo.3)  Re[2]: Hurricane・Princess
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/01/12(Mon) 14:57:44)
    ホテルから二十分程エアカーを走らせると、アルフィンが行きたがっていたシャトーが経営するレストランが見えてきた。
    テラのシャトーの直営店らしい。
    送迎のエアカーを降りるとエントランスには従業員が二人の到着を待っているかのような出迎えをしてくれた。
    長い赤絨毯の上を歩いて、レストランの奥に用意された二人だけの部屋に案内される。
    二人だけの部屋とはいえ二十畳程はあろうかという部屋に、大きなテーブルが窓辺に用意され、その上にはワイングラスや食器が整然と使われるのを待ち望んでいた。
    暖炉には赤々と薪が燃え、壁面には落ち着いた雰囲気の絵画が掛かっていた。
    従業員がアルフィンのコートを取り、預かった。
    一瞬その姿に目を奪われたのが分かる。
    ジョウはその視線を見逃さなかった。
    ―――だから、そんな服は着るなって言うんだ。男はそんな姿を見せられたら欲望が抑えられなくなるんだぞ。
    ジョウの心の叫びを露ぞ知らないアルフィンは優雅な所作で椅子に腰掛けた。
    二人は着席すると大きく開かれた窓辺から夕闇に輝く星々を見た。
    昼間なら緑溢れる庭が一望出来るのだろうが、夜はライトアップされていて、所々綺麗に手入れされた木々が見える。
    それでもそこには静寂の闇が広がっていた。
    ワインはアルフィンが事前に予約してあった至極の一品。
    ソムリエが二人にテイスティング後、グラスに紅い液体を注いだ。
    黒髪の美しい女性のソムリエが二人に一礼をしてその場を後にした。
    「誕生日おめでとう、アルフィン」
    「ありがとう、ジョウ」
    グラスを軽く合わせて二人で乾杯した。
    アルフィンが選んだワインは、シャトー・ラフィット・ロートシルトの五十年物。
    ここのワインは五年物でもおそろしくバカ高いのに彼女は平気で飲んでいる。
    香り高く滑らかなで女性的でおいしいには間違いないが。
    もうボトルは半分まで飲んでいた。
    二人で飲んでいるとはいえピッチがえらく早い。
    確かにワインはおいしい、これまで飲んだどのワインよりも引き付けられる。
    これで彼女の悪癖さえ出なければ・・・。
    周りの調度品も品の良い高級なものが置かれており、これを破壊するのだけは止めさせなければとジョウは心に誓った。
    損害賠償金に新年早々頭を悩ましたくはない。
    食事は思ったより順調に進んでいった。
    だが、いつ豹変してもおかしくない状況にジョウは多少顔を青ざめつつ食事を続けた。
    「あらあ、あんまり食べてないのね、ジョウ?」
    アルフィンがふとジョウの皿の上にある料理の減り具合に気が付いた。
    まだ意識は正常らしい。
    「いや食べてるさ、ワインがおいしいからついついそっちにいっちまって」
    本当はこれから起こる恐怖に喉が通らないというのが真実だが、それは彼女には言えない。
    「フフッ、でしょう?これねピザンのお父様が友人の方から譲って頂いたワインなんだって。欲しいって言い続けてたら根負けしてお父様がくれたのよ」
    アルフィンがワイングラスをシャンデリアの光に翳した。
    紅い液体がグラスを通してクロスに映り込む。
    「ハルマン三世が?」
    「そう。じゃなかったらあたしたちじゃぜーったい買えないもの」
    「ちなみにどれくらいするもんなんだ?」
    「知らないけど天文学的な数値らしいわよ。テラの五大シャトーの中でも第1位をずーっと維持してる有名なところのらしいし・・・」
    さらっと言い流す所がアルフィンが元王女様であるというのを認識させられる。
    ジョウではそうはいかない。
    命と危険を隣り合わせに仕事で稼いできた、その稼いだ金をワイン一本につぎ込むほど道楽でもない。
    思わず大きな溜息をついた。
    今日のアルフィンはいつもと違ってワインを嗜んでも暴れなかった。
    赤く頬を染めるものの常に上機嫌であれこれと話しながら食事をしていく。
    その光景に、ジョウは心から安堵した。
    このままいけば無事にディナーを終えて帰ることが出来る。
    そう思うと自然に笑みが零れた。
    それが間違いだった。そう思った矢先、アルフィンが低い声音でジョウを呼んだ。
    「ジョーウ」
    ジョウは慌ててアルフィンを見た。
    姫のご機嫌が損なわれている。
    何がきっかけかジョウには全然分からない。
    しかし、この表情は間違いない。
    明らかに目が据わっており、怒りの表情をこちらに向けている。
    「な、なんだよアルフィン。どうかしたのか?」
    「・・・微笑んだ」
    「は?」
    「先程のソムリエにそうやって微笑んだでしょう?」
    ここのシャトーのソムリエは確かに女性だった。
    だが、それはかなり前のこと。
    ソムリエはもう場を外してからかなり時間が経っている。
    ようやく酔いが廻って、心に引っかかっていたことを今になってケチを付け始めた。
    焼きもちを焼かれるといっても相手のいない状況で攻められるのはジョウただ一人。
    逃れようもない。
    「あれは・・・社交辞令さ。アルフィンとは全然違う」
    「ふーん、結構嬉しそうだったくせに」
    アルフィンはグラスのワインを飲み干すと、グラスに注ぐのももどかしいのかボトルごとラッパ飲みを始めた。
    「あ、おいアルフィン」
    「あたしと一緒じゃ楽しくないのね」
    「そんなことない」
    「だって・・・だってジョウったら、ちっとも楽しそうじゃないんだもん」
    アルフィンの青い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
    「あたしの誕生日なのに・・・」
    知らず知らずのうちに暴徒化するかもと思う恐れが表情や仕草に出ていたのだろう。
    アルフィンはそれを敏感に感じ取ったみたいだ。
    「気の廻しすぎだ」
    「ジョウのバカ!だいっ嫌い!」
    ボトルを腕に持ったままドンとテーブルに叩きつけてアルフィンが立ち上がった。
    ジョウも席を立って慌てて取り上げようとするが、ジョウが掴むより早くアルフィンは椅子の上から窓の外へ逃げ出した。
    「おい、嘘だろう・・・」
    テラスが外にあるとはいえ、まさかドレス姿のまま外に逃げ出すとは思わなかったので慌てて追いかけた。
    思ったよりテラスが短かったので端でアルフィンを捕まえ、ボトルを取り上げた。
    「落ち着けって」
    「バカ、バカ、バカ。ジョウなんてジョウなんて・・・」
    アルフィンがジョウの胸を叩いて大声で泣き始めた。
    透明の雫が頬を伝って零れてゆく。
    「アルフィン・・・」
    ただ泣くだけでそれ以上返事もしない。
    仕方なくジョウはボトルに入っていた残ったワインを口に含むと強引にアルフィンの顎を上げて口付けた。
    紅い液体がジョウの口からアルフィンの口に流し込まれる。
    逃れようとするので、テラスの桟にアルフィンの頭を押さえつけて注ぎ込む。
    アルフィンはかなりもがいたがジョウは力で押さえ込んだ。
    注ぎ終えると、ジョウはアルフィンの唇から離して至近距離で微笑んだ。
    「俺がこんなことしたいのはアルフィンだけだから」
    それだけ言ってもう一度アルフィンの唇に口づける。
    今度はアルフィンも腕を廻してその口付けに答えた。
    夜のしじまに紛れて二人は愛しい者の腕の中で、口付けを交わす。
    ふと、自分達がいた部屋の方でざわめきが聞こえた。
    二人が居なくなったので騒然としているらしい。
    ジョウは慌ててアルフィンの身体を離した。
    「やべえ、ほら帰るぞアルフィン」
    アルフィンに手を差し伸べた。
    が、反応がない。
    「おい、アルフィン?おい、わっ」
    いきなりアルフィンが抱きついてきた・・・いや倒れてきたので慌てて支える。
    姫は腕の中ですやすやと寝息をたてていた。
    多少揺すった所で起きる気配がなかった。
    まあ、あれだけ早めのピッチで飲んで走ったのだから酔いがまわるのも無理はない。
    「・・・まったく困った姫君だ」
    アルフィンを腕に抱き上げると取りあえず部屋に戻り、シャトーに失礼を詫びた。
    このままディナーを続けるにも主役のアルフィンがこんな状態じゃ話にならない。
    エアカーを用意するというシャトーの申し出を断り、アルフィンを背中に背負って店を出た。
    ワインのボトルだけをアルフィンに持たせて。
    なだらかに続く葡萄畑を横目に見ながら、星明りの中ジョウは一人、道を歩く。
    背中にかかる重さが彼女の命の証だと一人ごちて歩き続ける。
    気が強くて我がままで、寂しがり屋で焼きもち焼きで、それでも自分が好きなのはこの女だとジョウは苦笑した。
    「んんっ・・・ここ・・どこ?」
    アルフィンの言葉に、ジョウは立ち止まった。
    ワインのボトルを手に頭を上げる。
    「シャトーからの帰り道、後十五分ぐらい歩いたら街まで出るからそのまま眠ってろ」
    「うん、そうする。ジョウ・・・だーい好き」
    アルフィンは安心してジョウの背中に顔を埋めた。
    「大嫌いで大好きか・・・」
    ジョウはひとしきり声を上げて笑った。
引用投稿 削除キー/
■620 / inTopicNo.4)  Re[3]: Hurricane・Princess
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/01/12(Mon) 14:55:49)
    そのまま街まで歩きつくと近くのゲームセンターにタロスとリッキーを見つけて楽しく?四人で飲みにいった。
    まだ日は変わっていないので誰も姫の命令に逆らえない。
    ワインで酔いの下地が出来ているので、勢いでアルコール度数の強い地酒を飲んだアルフィンは、酔いに紛れて要らぬ事を言ったリッキー目掛けて、辺りにある物を手当たり次第投げ始めた。
    ジョウやタロスが止めるもリッキーは当たらぬよう逃げ回っている。
    たまたまその流れ弾に当たった地元のチンピラと怒鳴りあいの喧嘩になって、何処から調達してきたのかアルフィンは怒りに任せてハンドバズーカをぶっ放した。
    その余波でレストランを含めた五階建てのビルが崩壊、負傷者六百人を超す大惨事。
    なんとかアルフィンを連れ出して、宵に紛れて逃げたものの休暇は即刻中止。
    <ミネルバ>で夜のうちに、その星を脱出したのは言うまでもない。
    あの大惨事の中、酔いが廻って眠ってしまったアルフィンの手にはしっかりとシャトー・ラフィット・ロートシルトのボトルが握られていた。
    それを見てジョウ、タロス、リッキーは呆れ返るも、これぞ我らが姫君だと大笑いした。
引用投稿 削除キー/
■621 / inTopicNo.5)  Re[4]: Hurricane・Princess
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/01/12(Mon) 17:05:05)
    あとがき

    今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
    姫誕SS間に合ってよかった(。-_-。)ホッ
    一応間に合わない時のためにイラはUPしたけど、やはりSS書きたかったし。
    最初は全然書く予定はなかったのですが、偶然チャットで碧さんが「“サンタボーイズ”の後、AさんのXmasプレゼントはどうなったの?」から始まって書いたSSです。
    碧さんネタ提供ありがとうね、貴方が居なかったらこのSSきっとこの世に出なかったよん。2004.01.12 璃鈴

fin.
引用投稿 削除キー/



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