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■650 / inTopicNo.1)  Touch
  
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/03/21(Sun) 22:55:57)
    えっと、何処かで聞いたようなタイトルは気にしないでください(笑)
    これは先月チャットで出たネタを元に書いたモノでございます。
    花粉症持ちには憂鬱な季節なので、コレくらいのお間抜けネタが良かろうかと・・・連載(?)中のを放置して書きました。

    最後になりましたが、チャットでネタ提供してくれたお二方に感謝!
    う〜ろんさん、まめこさんに捧げます(えっ、いらない?)

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    ジョウはゆっくりした足取りで、砂浜を歩いていた。
    彼の視線の先には、大きなパラソルがある。その下には中央に丸いテーブルがあり、その左右にそれより小さなテーブルを挟んだビーチベッドが二つづつ並んでいる。仕事の関係で別行動を取っていたジョウ以外のチームメイトは、みんなそこで寛いでるはずであった。しかし。どう見てもそこにいるのはタロスのみ。リッキーとアルフィンの姿はどこにも見えない。朝早くから買い物に行くと言ってはいたが。不審に思ったジョウの足が僅かに速くなる
    ジョウは、一番奥のビーチベッドにのんびりと寝そべるタロスの脇に立つ。
    「―――タロス、お前だけか?」ジョウが困惑した視線を相手に向ける。
    「リッキーとアルフィンはどうした?まだ帰ってきてないのか?」
    すると、まどろんでいたタロスは身体を起こして背伸びをする。
    「あ、ジョウ。ごくろうさまです。早かったですな」タロスはコキコキと首を鳴らす。
    「いや、あの二人なら戻ってますぜ」
    そう言いながら、タロスは苦笑をした。
    「で?」
    「いやぁ、チビをお供に買い物に行ったのは良いんですが・・・」
    「なんかあったのか?」
    ジョウの顔に一瞬不安げな翳が過ぎる。どうも、二人が居ない理由はアルフィンにあるらしい。密航して押しかけクラッシャーとなった彼女。共に生活するようになって日は浅いが、今までの男所帯での暮らしを一変させてしまった。皆、彼女に振り回されながらも不思議と受け入れてしまっている―――ただ、戸惑うことも多いが。
    眉を顰めるジョウに、タロスは肩をすくめて見せた。
    「別に買い物行って来ただけでさぁ。えらく、リッキーは引き回されたみたいでしたが」
    「―――なんかやらかしたのか?」
    ジョウはアルフィンがたまに破壊的行動を取ることを心に思い浮かべた。しかし、タロスは首を振って否定する。
    「いや、特にやらかしたって事は無いみたいですぜ。ま、そうとう店回ったみたいで、あのガキが、帰って来てからぐったりしてやした」
    「じゃあ、疲れて寝てるのか?」
    「リッキーはそうしたいでしょうがね」タロスはタメ息を吐く。
    「帰ってきたのは良いんですがねぇ。その後、お披露目会でさぁ。アルフィン、えらくハイテンションでしてね・・・」
    「そりゃ、大変だったな」
    ジョウは人の悪い笑みを浮かべた。自分は居なくて良かった、と思いながら。タロスは上手く逃れたらしいが、リッキーは後始末にこき使われてるに違いない。タロスは、そんなジョウに恨めしげな視線を送ってから、再びビーチベッドに身体を預けた。
    ジョウも横になろうと身体の向きを変えた時、向こうからリッキーが歩いて来るのが目に入った。一人きりだ。リッキーもジョウが居るのに気付き小走りでやってくる。
    「あれ、兄貴。戻ってたのかい?」
    「あぁ、さっき、な」
    「なんだよー、来てくりゃ良かったのにさ」リッキーは口を尖らす。
    「―――俺ら、大変だったんだぜ」
    「―――らしいな」笑いをかみ殺すジョウ。
    「すまん、皆とっくにこっちに来てるかと思って、そのまま来ちまった」
    更にリッキーが文句を言おうと口を開きかけると。
       プルルルルー
    パラソルに付いている電話が突然鳴り響く。一番近くに居たジョウが手を伸ばす。
    「はい。もしもし?」
    「あ、ジョウ!戻ってたのね。良かったー」
    ジョウの耳をアルフィンの甲高い声が突き抜けた。確かにテンションが高い。良かった、との言葉は何を意味するのだろうか?声の調子からいって、何か用事がありそうである。ジョウは少し顔を引きつらせ腰が引き気味になる。
    「―――どうかしたのか?」
    「う〜んとねぇ、お願いがあるの」
    案の定、甘えた声でおねだり口調のアルフィン。ジョウの顔が更に強張る。
    「お願い?」
    「そう、頼みたいことがあるの。だから、こっちに来てくれない?」
    これ以上何を頼むつもりなのか。散々、タロスとリッキーを付き合わせていただろうに。困惑を顕わにしたジョウは、ささやかな抵抗を試みる。
    「なんだよ、後じゃ駄目なのか。少し、ゆっくりさせてくれよ。君も早くこっちへ来な」
    「あによぉ。今じゃないと駄目だから言ってるんじゃない」
    アルフィンの声が少し機嫌悪くなる。ジョウはタメ息を吐いてリッキーに視線を向ける。だが、その意図を悟ったリッキーがしきりに首を振って拒否の態度を示した。
    すると、相手が黙ってるので焦れたアルフィンが呼びかけてきた。
    「ジョウ!」
    「あ、あぁ・・・」
    「お願いね」
       プツリ・・・
    一方的に切られた。無言で暫し佇むジョウ。
    「行ってらっしゃーい」ニヤニヤ笑いながらジョウにひらひらと手を振るリッキー。
    「ま、兄貴も逃れらん無かったって事で」
    「・・・んだよ。お前行って連れてきな」
    むっつりとしてジョウが言い放つ。しかし、リッキーも負けていない。
    「ダメダメ、なんせ兄貴ご指名だろ?俺らじゃ役不足さ」
    「行った方が良いですぜ」タロスもリッキーに加勢する。
    「どうせ、水着をどれ着たら良いか決まらないとか、その程度じゃないですか?」
    「そんなんで、イチイチ呼びつけんでも・・・」
    「ま、それが女心ってヤツですぜ」
    「?」
    「とにかく、行ってきなよ、兄貴」リッキーがダメ押しをする。
    「早くしないと、絶対また電話してくるって」
    「そうそう、機嫌損ねたら後々面倒ですぜ」
    「うっ、分かったよ」
    ジョウは諦めて渋々頷く。そして、仕方無さそうな表情でホテルへと引き返した。


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■651 / inTopicNo.2)  Re[1]: Touch
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/03/21(Sun) 23:07:28)
    ジョウがホテルに戻るのを見送ってから、タロスとリッキーはノンビリとビーチベッドに並んで寝そべり、ゆったりとした雰囲気を堪能していた。先程までのアルフィンのお相手にほとほと疲れていたせいでもある。仕事とは違う体力や精神力を必要とする事もあるんだと、彼らは嫌というほど学んだのだから。
    「それにしてもさぁ・・・アルフィン、いっつもこうなのかねぇ?」
    リッキーがボソリと呟く。
    「さぁてな。今まで自由に買いモンなんて出来なかったんじゃねぇか?」
    タロスがまったりとした口調で答える。
    「確かにお姫様だったんだもんなー」リッキーは頭の後ろで手を組む。
    「でも、俺らもう勘弁してほしいや」
    「おめえに拒否できりゃあな」
    タロスはさらっと言って、テーブルの置いてあるサングラスに手を伸ばした。
    「あのジョウでさえも、訳も言わずに呼びつけるんだぜ」
    「・・・」
    リッキーは口を尖らせ黙り込む。タロスはサングラスをかけて、再びうたた寝を決め込もうとしたが、ふと気になって言葉が漏れる。
    「そういや、なかなか戻ってこないな?」
    「へ?」
    「ジョウが行ってから、小一時間経ってるぜ?」
    「まだ買い足りないとかで、どっかに連れ出されてるんじゃないの?」
    リッキーは適当に答えて、身体を起こした。一応、ホテルの方に目を向ける。しかし、それらしき姿は見えはしない。
    「買い物か・・・それが妥当かねぇ」タロスは小さな声で呟く。
    「普通ならば、若い二人の事だからな、もしやって想像も出来るんだが―――あの二人じゃな。絶対、ありえねぇ」
    「うん?」リッキーが聞き咎める。
    「ありえないって・・・何が?」
    「あー、ガキには関係の無いこった。俺はもう寝るぜ」
    タロスが煩そうに言って寝た振りをしょうとした時。
    「あ、来たぜ?」
    リッキーが目ざとく見つけて声を上げる。それに反応したタロスも身体を起こして目を向けた。なるほど、ホテルの方から二人がやってくるが・・・
    「何か、様子・・・変じゃね?」
    リッキーは首を傾げて言うと、勢いをつけてビーチベッドから降りた。
    「んー、そう言われりゃ妙だな?」
    タロスも歩いてくる二人を見つめたまま頷く。
    砂浜を歩く二人。寄り添って歩けば絵になるであろう、二人。しかし。やってくる二人は。並んで歩いてさえいなかった。肩を怒らせ、大またで大きく手を振りながらスタスタと前を歩くアルフィン。その後ろには、少し距離を置いてサングラスをかけたジョウが、時折頬に手を当てながら重い足取りで歩いている。
    なんなんだ?
    二人が首を捻っていると、アルフィンが到着した。顔が僅かに赤い。急ぎ足で歩いていた為だけでは無いようだ。彼女の表情は、怒ってるような戸惑ってるような複雑な色を浮かべていた。
    「どうしたのさ?」
    リッキーが不思議そうに聞いても、アルフィンは答えずに彼の隣のビーチベッドにすとんと腰を下ろした。
    やがて、遅れてジョウもやってくる。しかし。彼は無言で最後に残った一番端のビーチベッドに、さっさと身を横たえてしまった。しかも、皆に背を向ける形で。
    「なんなのさ、一体?」
    再びリッキーが口を開く。返事は無い。リッキーはアルフィンに視線を向ける。見られてるのに気付くと、アルフィンは口を尖らしますます頬に赤みが増した。その様子に、タロスも好奇心が抑えられなくなる。
    「何かあったのか?」
    「¬¬¬―――別に」
    アルフィンは小さな声で言うと、無意識に胸を両手を抱えるような仕草をした。ジョウは無言だが、彼の背中に動揺が漂うのをタロスが見逃すはずも無い。横目でジョウの様子を観察しながらタロスはアルフィンに尋ねた。
    「別にって・・・。喧嘩でもしたのか?」
    「せっかく兄貴が迎えに行ったのに、どうしたのさ?」
    「―――だって、ジョウに・・・触られたんだもの」
    ボソボソと答えるアルフィン。タロスとリッキーはキョトンとした。思わずタロスが聞く。
    「―――どこを?」
    アルフィンは真っ赤になって呟くように答えた。「―――胸」
    固まる空気。
    と、リッキーが素っ頓狂な声で叫ぶ。
    「あ、兄貴が胸触ったんだってぇー!」
    「ば、ちょ、ちょっとまて」電光石火、ジョウが跳ね起きる。
    「あ、あれは事故だ」
    思わぬ展開に最初驚いたリッキーだが、良いネタを見つけたとばかりに早速ジョウをからかい始める。
    「そんな事言ってぇ、わざとじゃないのぉ?」
    リッキーはニヤニヤ笑いながらジョウのビーチベッドの前まで行き、腰に手を当てて冷やかすように言い始めた。
    「ば、馬鹿言え!俺がそんなことするか!」顔を真っ赤にして焦りまくるジョウ。
    「手が、滑ったんだ。本当だ!」
    「でも、触ったんじゃん?」
    「うー」
    仕事では絶対見られないジョウの動揺振りに、リッキーは調子付いている。そんな二人の会話を、むくれて背中を向けたまま聞いているアルフィン。
    「ア、 アルフィンが背中に日焼け止め塗れって言うから・・・」
    「それで、思わず?」
    「だ、だから、滑ったんだ。不可抗力だったんだ。故意じゃない!」
    必死になって弁解するジョウの顔をまじまじと見たリッキーはいきなり噴出す。
    「でも、兄貴。そ、それじゃ説得力ないぜ」リッキーは爆笑する。
    「―――自分の顔、見たかい?あ、跡・・・くっきり残ってるぜ」
    ハッとして頬に手をやるジョウ。鏡を見なくても想像できた。先程受けた、アルフィン渾身のビンタの名残を。ますます赤くなり、彼の頬に更に浮き上がる。
    「だってぇ、驚いちゃったんだもの」
    口を尖らせ身を捩ってアルフィンが言う。
    「―――驚いたからって、惚れた男の頬を体重乗せたビンタ張るか、普通?」
    口の中で呟くタロス。無論、誰にも聞こえないように。
    「それにしても、アルフィン凄いや」リッキーが急に場違いな関心をする。
    「兄貴の反射神経を持ってしても避けれないなんてさー」
    「うー」
    「あほ。妙な関心すんな」
    タロスが見かねて割り込む。そして、苦笑しながら言った。
    「ジョウ―――もしかして目を瞑ってたんじゃねぇですかい?」
    「う゛」
    ジョウが固まる。図星らしい。リッキーも呆れて黙り込む。しかし、それを聞いたアルフィンは体を捻ってジョウの方を向くと不満の声を上げた。
    「酷いじゃない。あんなにちゃんと塗ってねって頼んだのに」アルフィンはぷーっと膨れた。
    「適当にやってたのね?」
    この剣幕に慌ててジョウは両手をせかせか振りながら答えた。

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■652 / inTopicNo.3)  Re[2]: Touch
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/03/21(Sun) 23:08:55)
    「違う、そうじゃない」
    「どうして?目を瞑ったら見えないでしょ?」
    「見たら困るだろ?」
    「何でよ?見えなきゃ、困るでしょ?」
    堂々巡りである。タロスとリッキーが口を挟む隙が無い。論点が変わってしまった。それよりも、ジョウを呼びつけた用事が背中の日焼け止め塗りだとは。二人は呆れるやら、ジョウの慌てぶりを想像して可笑しいやらで互いの顔を見れない。ここで笑ったら絶対にとばっちりを食う。
    「あ、あんな事するからだ!」
    アルフィンに攻められ、とうとうジョウが切れた様に叫ぶ。だが、顔が赤く手の跡くっきりなのでイマイチ迫力に欠けるが。
    あんなコト?
    タロスとリッキーは首を傾げる。アルフィンにもすぐには分からなかったらしい。一瞬黙り込む。しかし、それも長くは続かない。
    「あたしが何したって言うのよ?」
    「だから、あんなコト―――」
    「あんなって何の事?」
    「だ、だから、いきなり外したろ」ジョウは必死になって言う。
    「―――せ、背中」
    「あっ・・・」
    アルフィンも思い当たったらしい。ところが、それがどうして目を瞑る行為に繋がるか彼女には理解できない。つられて頬を赤らめながらも声高に反論する。
    「何でよ?塗り残したら困るからじゃない。それよりも、見ないで適当に塗ってたなんて酷いじゃない!」
    「だ、だから・・・」
    しどろもどろのジョウ。
    「―――うはぁ、ダイタン」
    「この、マセガキが!」
    場面を想像し、目を丸くして呟くリッキーの頭をタロスが小突く。
    「もう、いいわよ!」アルフィンがいきなり立ち上がる。
    「飲み物買ってくる!」
    そういい残すと返事も待たずスタスタと歩き出す。
    「ふん!」
    ジョウは再びビーチベッドに寝転がると、身体の向きを変え最初と同じく皆に背を向けるかたちになった。
    二人を交互に見比べていたタロスとリッキーだが、困ってお互いの顔を見合わせた。仕方なくリッキーがジョウに声をかけてみる。
    「兄貴ぃ、アルフィン・・・一人で行っちゃったぜ。いいのかい?」
    「・・・」
    「ちょっかい出すやつ、いるかもよ?」
    「・・・」
    「―――まぁ、反撃するだろうけどさ」
    「・・・」
    埒が明かない。意地でも寝た振りを決め込むジョウにタロスは呟く。
    「―――完全に、不貞腐れたな」
    タロスはのっそりとビーチベッドから降りた。そして、リッキーに目で合図する。自分達も消えた方が良いと。アルフィンが戻って来た時には二人きりの方が、仲直りも容易いだろう。
    「ジョウ、俺達もその辺ウロツキに行きますが」タロスはさりげなさを装う。
    「丁度喉も渇いてきたし。時間かかるかもしれませんけど、いいですかい?どうします、あんたはここにいますか?」
    「―――あぁ」
    やっとジョウから答えが返ってきた。タロスは口元に僅かに笑みを浮かべ、先程までのジョウの様子を思い出す。
    「じゃあ、行ってきますぜ。多分、そのまま部屋に戻りますわ」
    「じゃあね、兄貴。ごゆっくり」
    ジョウを残し、二人はスタンドのある方へ向かった。
    「でもさぁ、アルフィンあんなに叩く事ないのにさ?兄貴だったらいいじゃん?」
    「ばーか、ジョウだからあの程度で済んだんだろ?」
    「でも、惚れた男でも駄目なのかねぇ?」
    「このトンチキ。別モンなんだろうぜ。女心は複雑なんだよ!」
    「けっ。タロスに分かンのかい?」
    「この―――」
    二人の声が遠ざかってゆく。
    パラソルの下に、やっと静寂が訪れた。
    ふうっ・・・
    タメ息を吐いてジョウはゴロンと身体の向きを変え仰向けになる。
    ―――くっそう、まずったぜ。奴らにえらいネタ提供しちまった。
    ジョウは頭を抱えて悔しがる。暫くアルフィンとも気まずいだろうし。今後何かにつけて、残りの二人にからかわれるに違いない。
    ―――いや、わざとじゃないんだから俺に非は無い。下心なんて無かったし。
    ジョウは、原因となった右手を見つめる。
    ―――無かったよ、な・・・

    ジョウは問題の場面を思い起こした・・・

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■653 / inTopicNo.4)  Re[3]: Touch
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/03/21(Sun) 23:10:24)
    アルフィンに呼び出されて数分後。
    ジョウはホテルの自分達が宿泊してる部屋の前にいた。彼らの宿泊してるのはリビングと寝室が四つあるタイプのものだ。特徴としては、それぞれの部屋にも廊下への出入り口があり、プライベートも保てるような造りになっている事である。通常、皆自分の部屋から入りリビングに繋がるドアを抜け集まるようにしていた。一緒に行動するときはそのままリビングのドアから揃って出れば良いし、別行動を取るときはそれぞれの部屋のドアから出れば良いので、自然と使い分けることになる。
    しかし、今回ジョウはリビングのドアから入った。直接彼女の部屋に行くのも躊躇われた為である。ジョウは早々に電話でアルフィンを呼び出す。
    「アルフィン、来たぜ?」
    「あ、ちょっと待ってて。すぐ行くから」
    弾んだ声。アルフィンはご機嫌のようだ。一方、ジョウはげんなりしていた。タロスから聞いた<お披露目会>が開催されるのだろうか?
    ところが、自分の部屋から現れたアルフィンは以外にも身軽だった。水色のビキニを身につけ、手にはタオルと小さなボトルを持っていた。そして、ジョウを見てニッコリと笑う。
    「ねっ、良いでしょ」
    アルフィンはその場でクルッと一回転する。水着を褒めてほしいらしい。とりあえずジョウは頷いて見せた。すると、アルフィンは嬉しそうに微笑み、ジョウに近づくと手にした小さなボトルを彼に手渡した。そして、わけが分からず立ち尽くす彼を尻目に自分はソファに腰を下ろす。
    「―――何だよ、コレ?」
    「日焼け止め」アルフィンは短く言ってジョウに背中向けた。
    「自分じゃ、後ろ塗れないんだもん。ジョウ、お願いね」
    「へ?」
    「だからぁ、背中に塗ってほしいのよ」
    アルフィンはそういうと長い髪を束ねてアップにする。そのまま肩越しに振り返りジョウに無邪気に微笑む。
    「焼けちゃうと大変でしょ?ちゃんと塗ってね」
    「な・・・ちょ、ちょっと待て。お願いって、コレの事か?」
    「そぉよ?」
    「勘弁してくれ」
    「どーして?」
    「そ、それはだな・・・」
    言葉に詰まるジョウ。自分でもなんで焦ってるのか分からない。混乱して妙な事を口走る。
    「―――そ、そうだ、ドンゴにやってもらえ。アイツなら完璧に塗ってくれるぞ」
    「―――なんで、ワザワザ日焼け止め塗る為に、ミネルバに戻んなきゃなんないのよ?」
    アルフィンが口を尖らす。ジョウが嫌がっている。彼女には理由が分からない。アルフィンは拗ねたような声で呟く。
    「じゃ、いいわよ。やってくれないなら。ルームサービスでも呼べばやってくれるかしら?」
    「あ゛―。駄目だ、それは」
    自分でも意識しないうちにジョウは声を上げる。アルフィンはキョトンとしたが、チラッと悪戯っぽい視線をジョウに投げてから機嫌を直したような表情で座りなおす。
    「じゃ、お願いね」
    「―――分かったよ。塗ってやる」
    再び向けられた白い背中に、ジョウはヤケクソ気味に言葉を吐き出した。諦めてソファに座る彼女に近づく。近づくほどに、その白い肌が眩しく見える。ジョウは、自分が動揺している事に困惑する。目の前の彼女は無防備で、任せきった様子なのに。ジョウは深呼吸を一つして、神妙な表情で手のひらにボトルの液体を少し出した。
    一応、声を掛けて始める。
    「じゃ、塗るぞ」
    「ん」
    多少、視線を泳がせながら肩の辺りに手を置く。柔らかな感触に、ジョウの動悸が一瞬忙しなくなるが、彼は平静を装っていた。
    「あ、ちょっと待って」
    アルフィンが急に声を上げる。ジョウも動きを止めた。すると、彼女はソファの上に足をあげ膝を抱え込むような姿勢をとった。丁度、膝で胸を押さえるような形になる。
    どうしたんだ?
    ジョウが不思議に思って見てると、アルフィンは両手を背中に回し水着のホックをいきなり外した。
    「!」
    完全に固まるジョウ。だが、すぐにあらぬ方向を向く。
    アルフィンは全く意に介さない。あくまでも無防備だ。背中を向いたままジョウに声を掛ける。
    「跡がつくと困るから、全体に塗ってもらわなきゃ。こうした方が塗りやすいでしょ?」
    「・・・」
    ジョウは混乱の極致にいた。この場から早く逃げ出したい。その一心である。
    「じゃ、お願いね」
    アルフィンの言葉に。ジョウは焦りながらも任務(?)を遂行することにする。一気に終わらせよう。そう、心に誓う。チラッと視線を向けて、アルフィンの背中の位置を測る。手のひらに景気良く日焼け止めをのせる。
    それが間違いだった。
    ジョウはアルフィンに視線を戻すと同時に目を瞑り、すばやく手を動かして塗っていったのだが―――甘かった。焦りが、判断を誤った。予想以上に華奢なアルフィン。おまけに過分に手に取った日焼け止め。
    ツルッと滑る。次の瞬間、ふわっと柔らかな感触。何が起こったのか?分からない。とにかく、マズイ事が起きた予感。とてつもなくヤバイことが。
    その直後。
    「きゃあ、なにすんのよぉ!」
    「いってぇ!」

    真っ白になった思考を覚ますように痛烈な一打を左頬に受けた・・・


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■654 / inTopicNo.5)  Re[4]: Touch
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/03/21(Sun) 23:15:01)
    ジョウは、ため息をついて右手をぐっと握り締めてから両手を頭の後ろに回した。
    ―――ドジったぜ、まったく。確かに、目を瞑ってたのはまずかったな。
    少し反省してみる、ジョウ。アルフィンが戻るまでに何とか動揺を鎮めなければ。そうも思っている。
    ―――どっちにしろ、済んだことはしかたないんだ。わざとじゃないんだし。
    ジョウは必死で自分を納得させようとする。後ろめたい事は無いはずなのだが。どうも、あの感触を思い出してしまいそうで。落ち着かない。
    ―――寝ちまおう。
    冷静さを取り戻すため、ジョウはもやもやした気分を振り払うと目を閉じた。


    どのくらい経っただろうか。
    ジョウは、浅い眠りの中で人の気配を感じた。このしなやかな動きは。多分、アルフィンだろう。すぐ傍で彼の様子を窺ってるらしい。何となく気まずくて、ジョウは身動きすらしなかった。
    すると。彼女が動く気配がした。ジョウの横たわるビーチベッドが微かに軋む。アルフィンがジョウの脇の空いてる場所に腰を下ろしたようだ。
    何をする気だ?
    眠った振りを続けながらも、思わず警戒するジョウ。
    その頬に。ヒンヤリした感触。
    「うっ?」
    思わず身体を硬くし、ジョウは目を開ける。横目で見ると、冷たいモノが押し付けられていた―――先程打たれた左頬に。ジョウは、サングラスを額の上に押し上げ少し顔をそちらに傾けた。鮮やかな青。そして、甘い香り。頬に触れているのは、冷たいカクテルの入ったグラス。視線で先を辿ってゆくと。碧い瞳と出会う。彼女の背後に広がる空に負けないほど青く澄んだ瞳に。
    その時。ジョウの心に不思議な感覚が広がる。今まで気付くことが無かった、心の奥底に仕舞い込んだ何かに、そっと触れられた感触。優しく暖かな気持ちが湧き上がり、ジョウはただ戸惑う。
    一瞬の出来事だった。ジョウが起きたのを確認したアルフィンがグラスを引っ込める。彼女は、グラスを脇のテーブルに置くと立ち上がり、隣のビーチベッドへと移動した。彼女はジョウのほうに向かって座り、テーブルからフレッシュジュースの入ったグラスを取ると一口飲む。やがて、少しモジモジした様子で口を開いた。
    「―――ジョウも、喉乾いてるかなっと思って」
    「ん?あ、あぁ。サンキュ」
    ジョウは頷くと身体を起こした。彼女の方から、仲直りをしたがってる素振りを見せたのにホッとしながらも、まだ心は落ち着かない。
    「タロスとリッキーは?」
    「ん?あいつらなら、その辺ふらつくって言ってどこかに行ったぜ」
    「そぉ・・・」
    冷たいものを飲みながら、ポツリポツリと会話は続く。アルフィンが自分の見て回ってきた周辺の様子をジョウに説明して、それに彼が頷くか一言二言返事をするだけの会話。今だ「日焼け止めの一件」は後を引いている。
    会話が途切れた。
    カクテルを飲み終えたジョウは、再び身を横たえる。それを見たアルフィンが腰を上げた。ジョウのビーチベッドの所に来ると先程と同じように、彼の脇にそっと座る。
    「な、なんだよ?」
    焦って声が上ずるジョウに、アルフィンは照れ臭そうにポツリと呟く。
    「ごめんね、ジョウ」
    「うん?」
    「―――わざとするわけないもんね、ジョウが。だけど、つい・・・驚いちゃって」
    「俺も、物凄く驚いた・・・」
    ジョウがボソリと呟く。
    二人はクスリと笑う。気まずさが消えた。
    しかし。あれは過去の事と割り切ったせいだろうか。アルフィンはニッコリ笑うと甘えるような瞳でジョウを見下ろす。ジョウの脳裏に嫌な予感。
    それは、的中した。アルフィンは天使のような笑みを浮かべて言い出した。
    「だから、今度はちゃんと塗ってね」
    「へ?」
    「日焼け止め。塗りなおして貰わないといけないでしょ?」当然という顔で言うアルフィン。
    「だって、効果が薄れちゃうもの。そうね、四時間おき位かしら?」
    「か、勘弁してくれ」
    跳ね起きてジョウは必死の形相で首を振る。
    「どうして?」
    「どうしても!」
    アルフィンが身を乗り出してきたので、腰が引け気味になりながらもジョウは抵抗した。
    「もう、意地悪」アルフィンは拗ねた口調でそっぽを向く。
    「じゃ、やっぱりルームサービスの人に頼んでみるしかないわね」
    「そ、それは駄目だって」
    「それじゃ、誰か探すから良いわよ」更にむくれるアルフィン。
    「さっき歩いてた時に、話しかけてくる人結構いたから、その人達にやってもらうもん」
    「あ゛―。それはもっと駄目だ!」
    「じゃあ、どうしろってゆうのよ!」アルフィンもとうとうヒステリーを起こす。
    「あれもこれも、みーんな駄目って。それじゃ、外出れないじゃない!」
    「分かったよ。やってやる!俺がやるから、いい!」
    「ホント?」
    ころっと機嫌が直るアルフィン。
    「―――あぁ」
    顔を顰めながらも頷くジョウ。内心、頭を抱えていたが。
    「でも、良い?ちゃんと塗ってよ。適当にやらないでね?」
    「了解・・・」ジョウは力なく頷く。そして、弱気に付け足す。
    「あのな・・・スプレータイプのって無いのか?」
    「え?」
    「あれは、その・・・やりずらい。出来れば、スプレー式のあれば良いんだが」
    「んー」アルフィンは小首を傾げて考え込む。と、ニッコリ笑う。
    「そうね、それのが手軽ね」
    「だろ?」
    ジョウは引きつった笑顔で大きく頷く。だが、次のアルフィンの言葉でそれも凍りつく。
    「じゃ、買いに行きましょ。ジョウ、レンタカー借りてね」
    「か、買いに・・・行くのか、外で?ホテルじゃ、無いのか?」
    「いいじゃない。ついでに他も見ましょ」
    「他って、さんざん買い物してきたんじゃ―――」
    「行かないの?」
    「―――行かせてもらいます」
    「ん♪」すっかりご機嫌になったアルフィンは腰を上げ、ジョウの腕を引っ張り急かす。
    「ほらぁ、早く行きましょ?」
    「え、今からか?」
    「そぉよ。そうすれば、明日朝からビーチでのんびり出来るじゃない?」
    ジョウにアルフィンは輝くような微笑を見せる。つられてジョウも微笑みながら、また不思議な感覚に囚われる。その湧き上がる感覚に身を任せたくなる。だが反面、押さえ込もうとする自分もいた。
    考えるのが面倒になって。
    ジョウはバッとビーチベッドから飛び降りる。そして。
    「じゃ、俺は先に行ってるぜ」
    言うが早いか、ジョウは駆け出す。呆気にとられたアルフィンは立ち尽くしていたが、我に返るとジョウを追いかけて自分も走り出した。
    「あん。待ってよぉー」
    わけが分から無いが、とにかく置いていかれたくない。アルフィンは必死になって追いかける。
    少し走ったところでジョウが急に止まった。
    後ろを振り返る。アルフィンが長い金髪をなびかせ、一生懸命走ってくるのが見えた。
    ジョウはそのまま彼女を待つ。やがて追いついたアルフィンは、勢いを殺せず転びそうになり、慌てて腕を差し伸べるジョウに抱きとめられる。
    彼女は肩で息をしたまま、暫く声も出ない。
    「大丈夫か?」
    ジョウは笑いを含んだ声で聞く。アルフィンは大きく深呼吸して息を整える。
    「い、じ・・・わる」
    やっとそれだけ言うと、アルフィンは上目遣いでジョウを見た。視線が交差する。潤んだ碧い瞳。ジョウは急にどぎまぎしてアルフィンを引き剥がす。押さえ込もうとしても、遮ろうとしても湧き上がるこの感覚は何だろう?
    ジョウはアルフィンに目を向ける。少し乱れた髪、ほんのり赤みを帯びた白い顔、そして碧い瞳。その背後に広がる紺碧の海。
    「綺麗、だな」
    「え?」
    思わず呟くジョウに。アルフィンは首を傾げる。
    「いや」
    照れ臭そうに笑い、ジョウは海を見つめた。彼女を迎えての初めての休暇。きっと、これからもこうやって何度も休暇を過ごす事だろう。そうすれば、いつの日か分かる気がした。この心に触れたものが何であるかを。
    ジョウはアルフィンを振り返る。始まったばかりなのだ、何もかも。
    「行こうか?」


    FIN

fin.
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