| のどかな田園風景。 真っ直ぐに伸びる道を、一台のエアカーが走り抜けていく。 道は閑静な住宅街へと続き、朝早い為だろうか、人の姿は見えなかった。 やがて、エアカーはとある家の前で静かに止まった。 「着いたぜ、アルフィン」ジョウは隣に座る彼女を見る。 「ここだ。―――っと、おい」 返事の代わりに、アルフィンはジョウの首に手を回し、ぎゅっと抱きつき、小さくコクリと頷いた。白いワンピースの清楚な姿。顎の下で揺れる金髪に、ジョウは目を細める。 「ほら、中に入るぜ」 ジョウはアルフィンを軽く抱きしめてから、その身体を優しく引き剥がした。そして、フロントパネルにあるキーを幾つかはじいた。と、目の前に地下駐車場への入り口が現れた。 「アルフィンも覚えておけよ。今後、君が使うことになるのだから」 「うん・・・」 「どうした?」 一瞬顔を曇らせたアルフィンの瞳をジョウが覗き込む。すると、彼女は気を取り直したように微笑んで首を振った。 「ううん、何でもない」 そういって、アルフィンは手に持った小さな花束に顔を埋めた。ジョウはそんな彼女を不思議そうに見たが、フッと笑うとエアカーを中に乗り入れた。 「慣れなくて不安だろうが・・・君も気に入るよ、アラミスを。俺も、出来るだけ案内するよ」ジョウは横目でアルフィンを見た。 「とにかく、この一ヶ月は君のものだ」 「うん」 アルフィンは幸せそうな笑顔をジョウに向けた。 地下からからでも家の中に入れるが、アルフィンの強い要望で二人はいったん外に出て玄関から入り直す事にした。ジョウは苦笑しながらも、彼女の言う通りにしてやる。地上に出る為に設置したエレベーターで上がり、外へ出る。そして、門から玄関へと続く庭へ入った。門に寄りかかり、ジョウとアルフィンは家を見上げる。 瀟洒な造りの白い家。二人で住むには少し大きいかもしれない。ましてや、独り残していく事を思うと。ジョウはそっと隣の彼女を見た。 目が合う。 信頼しきった碧い瞳。ジョウは自嘲気味な笑いを漏らす。自分が不安になってどうするんだろう?彼女は分かっているのだ、言葉で表せない思いも。 「あたし達の家、ね?」 アルフィンは左手を口元に持っていくと、そっと薬指に唇を当てた。そして、ゆっくりとその手を太陽にかざす。陽の光にキラリと輝くもの。それは指輪だった。 「そうだ、俺達の家だ」 ジョウは両手を伸ばし、アルフィンの左手を包み込む。大きなジョウの手にすっぽり収まる小さな白い手を。アルフィンは微笑み、ジョウが手を離すと今度は彼女が彼の左手を掴んだ。そして。自分にしたのと同じように、ジョウの薬指に唇を当てた。宇宙焼けした浅黒い肌に輝く真新しい指輪に。 少し照れ臭くなり、ジョウは彼女の手の中から自分の手を引っ込める。 「入ろうか?」 ジョウはボソリと言って、家のほうに視線を移した。 と、アルフィンがジョウの腕を引っ張る。 「ジョウv」 甘えた声。ジョウはキョトンとして彼女の方を見る。すると、アルフィンは少し背伸びして両手をジョウの首に回す。 「抱き上げて連れてってvv」 「はぁ??」 「だって、憧れてたんだもん」アルフィンはジョウの胸に顔を埋める。 「ね、お願い」 「―――よ、酔ってないよな?」 ジョウは思わず呟く。 「え?」 「いや、何でもない」 顔を上げたアルフィンに、ジョウは慌ててごまかす。そして、無邪気な表情で見上げる彼女に降参した。 「分かったよ」ジョウは軽々とアルフィンの身体を抱き上げる。 「これも、『女の子の夢』ってヤツかい?」 「ふふっ」アルフィンはジョウの肩に頬を寄せて嬉しげに笑う。 「そうよ。白いドレス着て花束持って、こうして初めて家に入るのが夢だったの」 「了解」ジョウは笑いをかみ殺した。まさに姫様だっこだ、アルフィンなら。 「じゃ、家にお連れしましょうか?」 ジョウは、ゆっくりと歩き出した。
新婚旅行はアラミスが良いと言ったのはアルフィンだった。ネットで調べて迷いに迷うだろうと予測していたジョウは、いささか拍子抜けした。 「もう、なかなか他の星へは行けなくなるんだぜ?」 「そうだよ、俺ら達は適当にやってるからさー。好きなトコ決めなよ」 「ああ、手配は俺がするから、ジョウとアルフィンで決めなせい」 口々に言うと、アルフィンは首を振った。 「ううん。アラミスが良いの」 アルフィンはジョウを見つめた。もう、その表情はわがままな少女のそれではなかった。 「大事な思い出を、他の星にばら撒きたくないの。だって、そうでしょ?」
「ジョウ?」 「ん?」 訝しげなアルフィンの声にジョウは我に返った。ドアの前で立ち止まったままの彼に、アルフィンは首を傾げている。 「どうしたの?」 「いや」 ジョウは短く答え、彼女を下に下ろそうとしたが、アルフィンは逆に彼にしがみついてきた。 「おい、ドアが開けられないだろ?」 「あたしが開けるから」アルフィンは言うとジョウの胸ポケットからキーを取り出す。 「このまま中に入ってね」 「―――かしこまりました」 アルフィンが手を伸ばしキーを差し込む。 ドアが開く。 中に入るとホールの明かりが自動的につく。ジョウは静かにアルフィンを下に降ろした。 「うわぁ。素敵v」 「―――何も無いけどな」 アルフィンが歓声を上げると、ジョウが小さく呟く。それを聞きとがめたアルフィンは、口を尖らす。 「だから、今日二人で見に行って決めるんじゃない」 「家建てる時と一緒に、ネット注文しちまえば良かったのに」 ジョウはその時の様子を思い出しながら言った。現地に行く時間など無い彼らは家の場所、デザイン等全部ネットを使って指示を出していた。間取りを決めた時点で、家具も当然合わせて頼むと思っていたが、アルフィンは実際に見て二人で選びたいと言い張った。 「―――今日、ココで寝れるのかねぇ」 「もちろんよ!さあ、早く全部の部屋見て回って、買いに行かなきゃ」 ぼやくジョウを急き立て、アルフィンはこぼれるような笑顔を見せた。
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