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■724 / inTopicNo.1)  ドアを開いて
  
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/05/24(Mon) 02:41:18)
    のどかな田園風景。
    真っ直ぐに伸びる道を、一台のエアカーが走り抜けていく。
    道は閑静な住宅街へと続き、朝早い為だろうか、人の姿は見えなかった。
    やがて、エアカーはとある家の前で静かに止まった。
    「着いたぜ、アルフィン」ジョウは隣に座る彼女を見る。
    「ここだ。―――っと、おい」
    返事の代わりに、アルフィンはジョウの首に手を回し、ぎゅっと抱きつき、小さくコクリと頷いた。白いワンピースの清楚な姿。顎の下で揺れる金髪に、ジョウは目を細める。
    「ほら、中に入るぜ」
    ジョウはアルフィンを軽く抱きしめてから、その身体を優しく引き剥がした。そして、フロントパネルにあるキーを幾つかはじいた。と、目の前に地下駐車場への入り口が現れた。
    「アルフィンも覚えておけよ。今後、君が使うことになるのだから」
    「うん・・・」
    「どうした?」
    一瞬顔を曇らせたアルフィンの瞳をジョウが覗き込む。すると、彼女は気を取り直したように微笑んで首を振った。
    「ううん、何でもない」
    そういって、アルフィンは手に持った小さな花束に顔を埋めた。ジョウはそんな彼女を不思議そうに見たが、フッと笑うとエアカーを中に乗り入れた。
    「慣れなくて不安だろうが・・・君も気に入るよ、アラミスを。俺も、出来るだけ案内するよ」ジョウは横目でアルフィンを見た。
    「とにかく、この一ヶ月は君のものだ」
    「うん」
    アルフィンは幸せそうな笑顔をジョウに向けた。
    地下からからでも家の中に入れるが、アルフィンの強い要望で二人はいったん外に出て玄関から入り直す事にした。ジョウは苦笑しながらも、彼女の言う通りにしてやる。地上に出る為に設置したエレベーターで上がり、外へ出る。そして、門から玄関へと続く庭へ入った。門に寄りかかり、ジョウとアルフィンは家を見上げる。
    瀟洒な造りの白い家。二人で住むには少し大きいかもしれない。ましてや、独り残していく事を思うと。ジョウはそっと隣の彼女を見た。
    目が合う。
    信頼しきった碧い瞳。ジョウは自嘲気味な笑いを漏らす。自分が不安になってどうするんだろう?彼女は分かっているのだ、言葉で表せない思いも。
    「あたし達の家、ね?」
    アルフィンは左手を口元に持っていくと、そっと薬指に唇を当てた。そして、ゆっくりとその手を太陽にかざす。陽の光にキラリと輝くもの。それは指輪だった。
    「そうだ、俺達の家だ」
    ジョウは両手を伸ばし、アルフィンの左手を包み込む。大きなジョウの手にすっぽり収まる小さな白い手を。アルフィンは微笑み、ジョウが手を離すと今度は彼女が彼の左手を掴んだ。そして。自分にしたのと同じように、ジョウの薬指に唇を当てた。宇宙焼けした浅黒い肌に輝く真新しい指輪に。
    少し照れ臭くなり、ジョウは彼女の手の中から自分の手を引っ込める。
    「入ろうか?」
    ジョウはボソリと言って、家のほうに視線を移した。
    と、アルフィンがジョウの腕を引っ張る。
    「ジョウv」
    甘えた声。ジョウはキョトンとして彼女の方を見る。すると、アルフィンは少し背伸びして両手をジョウの首に回す。
    「抱き上げて連れてってvv」
    「はぁ??」
    「だって、憧れてたんだもん」アルフィンはジョウの胸に顔を埋める。
    「ね、お願い」
    「―――よ、酔ってないよな?」
    ジョウは思わず呟く。
    「え?」
    「いや、何でもない」
    顔を上げたアルフィンに、ジョウは慌ててごまかす。そして、無邪気な表情で見上げる彼女に降参した。
    「分かったよ」ジョウは軽々とアルフィンの身体を抱き上げる。
    「これも、『女の子の夢』ってヤツかい?」
    「ふふっ」アルフィンはジョウの肩に頬を寄せて嬉しげに笑う。
    「そうよ。白いドレス着て花束持って、こうして初めて家に入るのが夢だったの」
    「了解」ジョウは笑いをかみ殺した。まさに姫様だっこだ、アルフィンなら。
    「じゃ、家にお連れしましょうか?」
    ジョウは、ゆっくりと歩き出した。


    新婚旅行はアラミスが良いと言ったのはアルフィンだった。ネットで調べて迷いに迷うだろうと予測していたジョウは、いささか拍子抜けした。
    「もう、なかなか他の星へは行けなくなるんだぜ?」
    「そうだよ、俺ら達は適当にやってるからさー。好きなトコ決めなよ」
    「ああ、手配は俺がするから、ジョウとアルフィンで決めなせい」
    口々に言うと、アルフィンは首を振った。
    「ううん。アラミスが良いの」
    アルフィンはジョウを見つめた。もう、その表情はわがままな少女のそれではなかった。
    「大事な思い出を、他の星にばら撒きたくないの。だって、そうでしょ?」


    「ジョウ?」
    「ん?」
    訝しげなアルフィンの声にジョウは我に返った。ドアの前で立ち止まったままの彼に、アルフィンは首を傾げている。
    「どうしたの?」
    「いや」
    ジョウは短く答え、彼女を下に下ろそうとしたが、アルフィンは逆に彼にしがみついてきた。
    「おい、ドアが開けられないだろ?」
    「あたしが開けるから」アルフィンは言うとジョウの胸ポケットからキーを取り出す。
    「このまま中に入ってね」
    「―――かしこまりました」
    アルフィンが手を伸ばしキーを差し込む。
    ドアが開く。
    中に入るとホールの明かりが自動的につく。ジョウは静かにアルフィンを下に降ろした。
    「うわぁ。素敵v」
    「―――何も無いけどな」
    アルフィンが歓声を上げると、ジョウが小さく呟く。それを聞きとがめたアルフィンは、口を尖らす。
    「だから、今日二人で見に行って決めるんじゃない」
    「家建てる時と一緒に、ネット注文しちまえば良かったのに」
    ジョウはその時の様子を思い出しながら言った。現地に行く時間など無い彼らは家の場所、デザイン等全部ネットを使って指示を出していた。間取りを決めた時点で、家具も当然合わせて頼むと思っていたが、アルフィンは実際に見て二人で選びたいと言い張った。
    「―――今日、ココで寝れるのかねぇ」
    「もちろんよ!さあ、早く全部の部屋見て回って、買いに行かなきゃ」
    ぼやくジョウを急き立て、アルフィンはこぼれるような笑顔を見せた。

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■725 / inTopicNo.2)  Re[1]: ドアを開いて
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/05/24(Mon) 02:45:17)
    まず初めに行ったのはリビング。
    間取りは注文した時点で既に分かってることだから、別に見て回らなくても良いんじゃないかと思いつつ、ジョウはアルフィンに腕を引かれるままに中へ入る。カーテンに光が遮られ薄暗い。ジョウは、壁についたパネルを操作しカーテンを開ける。
    すると、カーテンがゆっくりレールの上を滑り、暖かな陽の光が降り注ぐ。大きな窓から見えたのは、青々とした芝生に覆われた庭。その周りを縁取る花々。そして、立地が少し高台である為、遠くに海が見えた。
    アルフィンは目を輝かせ、無言で窓に歩み寄る。彼女は、脇に寄せられたカーテンを手で弄びながら外に見入った。
    「気に入ったかい?」
    ジョウが近づいて声を掛けると、アルフィンは彼を見上げて微笑んだ。
    「ええ、とっても。だけど、このカーテンは替えたいわ」
    「好きなのにすりゃ良いさ」
    ジョウは肩をすくめる。シンプルな、光を遮る為だけのものだ。気に入らなければ替えれば良い。自分としては異存は無い。ただし、あんまり派手なのはやめてほしいが。ふと、以前仕事でアルフィンと新婚旅行を装った時に、乗ったピンクの機体を思い出しジョウは神妙な顔になる。
    と、アルフィンが我に返る。
    「ノンビリしてる場合じゃないわ。さー、次はキッチンの方よ!」
    「はいはい・・・」
    二人はカウンターで仕切られたキッチンの方へと足を向けた。
    こうして次々と見ていくと、どこも希望に適うものでアルフィンは大はしゃぎだった。ジョウは密かに疲れてきたが、彼女の幸せそうな笑顔にタメ息を引っ込めた。一階には他にバスやトイレ、そして予備の部屋が一つ。二階にはコンピューターや通信機器を置く予定の小さな部屋と寝室が四つ。一つは自分達のモノ。後はタロスとリッキーの為に用意した。しかし、この事を彼らは知らない。この休暇が終わりに近づく頃、彼らを招待し驚かせるつもりであった。
    そして。残る一つは。これから迎えるであろう二人の子供の為に。
    ジョウとアルフィンは、最後の部屋に暫し佇む。今は何も無い部屋。だが、いつか笑い声が響く部屋になるだろう。二人は、黙ったまま部屋を見渡す。そのままお互いを見つめる。だが、急に照れ臭さが湧き上がる。
    「そ、そろそろ行こうか?」
    「え?ええ、そう、そうよね・・・」
    なぜか二人とも赤面しその場をそそくさと離れた。


    再びエアカーに乗り込み、今度は家具や必要な細々とした物を揃えに出発した。
    まず向かったのは、家具を扱う店だった。あらかじめ調べていたとはいえ、アルフィンの行動力は凄かった。次々にお目当てのモノに突進して行く。一応ジョウの意見は聞くものの、この答えが曖昧なものばかりなので、彼女が完全に指導権を握っていた。
    「ねぇ、ソファはこんなのでどう?」
    「良いんじゃないか?」
    「んー、じゃあ、あっちのとは?」
    「うん?」
    「ほら、さっき座ってみたでしょ?」
    「―――どこが違うんだ?」
    「もー、素材が違うでしょ?」
    「俺は、ゆったり座れれば何だって良いけど―――痛てっ」
    アルフィンはジョウの腕をつねり、つんと顔を横に向ける。ジョウは決まりの悪そうな顔で彼女の肩に手を回す。
    「ほら、そんな顔するなよ。君はどっちが良いんだ?」
    「―――こっち」
    「じゃあ、俺も」
    アルフィンは疑わしげにジョウを見る。その視線を受けてジョウは大真面目な顔で頷いて見せた。と、アルフィンの顔がほころぶ。
    「ん。じゃあ、決まりね」
    全てが、こんな感じで進んでいった。もっとも、今日決める家具は、ベッド等の最低限必要な物だけである。それを午後に届く様に手配を整え、アルフィン指揮の下、次のターゲットへと二人は向かった。
    予定した物を買い終えた頃、丁度昼になった。二人は食事を取り、内部のセッティングをするべく帰宅することにした。
    「明日も色々見なくちゃね。」
    助手席のアルフィンは、楽しげにジョウに笑いかける。ジョウの顔は心なしか引きつっている。数日の間は、このペースでことが進むだろう。少しジョウが憂鬱になりかけた時。
    「ふふっ」
    アルフィンが嬉しげにそっと笑うと、ジョウの肩にもたれてきた。不思議に思い横目で彼女の顔を見る。すると、アルフィンは頬を染め噛み締めるように言った。
    「お店でね、『奥さん』って、言われちゃったv」
    そのうっとりした口調に、思わずジョウは噴出した。
    「なによぉ」
    「わ、悪い・・・」
    ジョウは堪えきれずくすくす笑う。横ではアルフィンが、むくれて頬を膨らましている。あまりにも子供っぽい。だが、なぜかジョウはほっとする。拗ねたり、甘えたり、怒ったり。あまりに急に『奥様』然となられては寂しい気がする。もう少しの間、気まぐれな子猫のようなままでいて欲しい。せめて、自分だけの彼女であるうちは。
    ジョウは片手を伸ばし、柔らかな金髪をくしゃっと乱暴に撫でる。
    「ほら、機嫌直せよ、俺の奥さん」
    「え?う・・・ん。ふふっ」
    ジョウにそう呼ばれ、アルフィンは驚きながらも幸せな笑顔を溢れさせた。

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■726 / inTopicNo.3)  Re[2]: ドアを開いて
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/05/24(Mon) 02:49:14)
    家に着くと、休む間も無くセッティングに取り掛かる。アルフィンに言われるままに作業をするジョウだが、どうやら楽しいような気になってきた。正確に言えば、目を輝かせあれこれと考え込みながら、手伝いを頼むアルフィンを見てるのが、ジョウにとって楽しいのかもしれない。
    やがて家具も届き、それらのセッティングも手際よく行われた。
    どうやら今日の騒動は一応区切りがついたようだ。ジョウとアルフィンは、初めと同じように部屋部屋を見て回った。まだ、殺風景なものだが、大分住まいらしくなってきた。
    リビングに戻ると、二人はソファに並んで腰を下ろす。
    「ふうっ」
    「お疲れ様」
    アルフィンが、ソファの背に寄りかかり顎を突き出して目を閉じるジョウを見て悪戯っぽく笑う。
    「コーヒーでも、飲む?」
    「ああ、頼む」
    「じゃあ、すぐ入れるから」
    アルフィンは立ち上がり、キッチンへと向かった。ジョウはその後姿を目で追う。けして人前では見せない感情の色を浮かべながら。やがて、コーヒーの豊かな香りが鼻孔をくすぐる。程なくして、トレーにカップを二つ載せたアルフィンが戻ってくる。
    「はい、あ・な・たv」
    「へ?」彼女に甘ったるく呼びかけられ、ジョウは受け取ろうとしたカップを落としかける。
    「―――うわっ」
    ジョウの反応にアルフィンは不服そうだ。今日は『奥さん』と呼ばれたし、ジョウのことを『ご主人』とか『だんな様』と皆呼んでくれたのに。当の本人が、この反応。アルフィンは機嫌が傾きかけたが、珍しく自己修正する。まだ時間はあるんだもの。たっぷり、『だんな様』してもらわなきゃ。アルフィンは笑みを浮かべる。
    一方、ジョウはアルフィンの表情の変化に戸惑う。嵐が吹き荒れる前に自動鎮火したらしいのを敏感に感じて。それは、助かるのだが・・・
    ジョウにはアルフィンに言わねばならないことがあった。
    「アルフィン。ちょっと、いいかな?」
    「なぁに?」
    アルフィンは小首を傾げてジョウを見る。しかし、彼の言いずらそうな様子に僅かに顔を曇らせた。
    「アルフィン、実は、これから少し出かけてくるんだが」
    「え?」
    「本部に行ってこなきゃならなくてな。出来るだけ早く戻ってくる」
    「―――仕事?」
    アルフィンの声が沈む。初日から、どうして?攻めたくは無いけど、失望の色が滲み出る。もしかして、途中で休暇が取りやめになるの?そんな思いに捕らわれ、アルフィンは俯いてしまった。
    「ごめん。大したことじゃない。仕事は請けない、絶対にね」
    そう言ってジョウはアルフィンを軽く抱きしめ、言い聞かせるように囁く。
    「忘れたのかい?ミネルバは、メンテナンスをしにあいつらが持ってってるだろ、ドルロイに。まさか、船が無いのに仕事しろって言うはずないぜ?」
    アルフィンも思い出し、ハッと顔を上げる。見上げるとジョウが悪戯っぽい瞳で見つめていた。アルフィンは噴出し、くすくす笑う。そうだった、飛び込み対策としてワザとメンテナンスに出したんだった。そして、休暇が終わる頃、めでたく船も仕上がっている手はずでになっていた。
    「そーゆー事だ。君も疲れただろう?ゆっくりしてろよ」
    「うん」
    アルフィンは素直に頷く。そして、二人は今日の出来事を話しつつ、コーヒーを楽しんだ。
    コーヒーを飲み終わった頃、ジョウはゆっくり立ち上がった。
    「そろそろ、時間だ。知り合いのヤツが拾って行ってくれる事になっている。帰りは遅くなるかもしれないから、疲れてたら先に寝ててくれ」
    「ううん、平気」
    アルフィンは微笑んで立ち上がる。それから、ふと思いついたように瞳を輝かせる。
    「ジョウ、お願いがあるの」
    「なんだ?」
    「帰ってくる時、キーを使わないで。あたしが、開けてあげるから、ベルを押してね」
    「へ?」
    「出迎えたいの。良いでしょ?」
    「別に良いけど・・・」
    そう言いながらも、ジョウは戸惑う。構ってやらないから、戸締め食わす気では?そんな疑念が沸き起こる。
    「―――だが、一応キーは持ってくぜ?」
    「あらぁ、平気よ?」
    「いや、念の為。寝てるの起こしたら悪いだろ?」
    「ちゃんと起きてるもん。でも、良いわ。約束よ?」
    「りょーかい」
    二人は連れ立って外に向かった。


    ジョウが帰宅したのは真夜中に近かった。早く帰ると言った手前、ジョウは気も重く玄関の前で佇んだ。拗ねているだろう。可哀想なことをしてしまった。連絡入れるタイミングを逃し、結局はそのまま帰ってきてしまった。
    しかし、約束は約束。ジョウはベルを鳴らした。
    思ったより早く反応があった。
    「はぁい!」
    真夜中と思えないほど明るい声。
    「お、俺だ」
    戸惑いどもるジョウの目の前で、ドアがぱっと開く。
    「お帰りなさい♪」
    声と共にアルフィンが抱きついてくる。ジョウは受け止めながら、彼女の顔を覗き込む。満面の笑顔。あの日、ベールに包まれた彼女の顔と同じくらいに。
    「悪かったな、遅くなっちまった」
    「ううん、いいの。ちゃんと、約束守ってくれたし」
    アルフィンは、もう一度ぎゅっと抱きついてジョウから離れた。そして、彼の腕に自分の腕を絡ませて中へ入るように促した。背後でドアが閉まる。
    「でも、君の反応速くてびっくりしたぜ。―――ん?」
    あるものに目を留めジョウは眉を顰める。ホールに投げ出されたクッション。ジョウはアルフィンに目を向ける。
    「まさか、ココで待ってたんじゃないだろうな?」
    「そうよ?」
    あっさり答えるアルフィンにジョウは呆れた声を上げる。
    「こんな所で、風邪引くだろ?」
    「だってぇ。出遅れたら、貴方ってばキーで入っちゃうもん」
    「は?」
    「絶対、出迎えたかったの!」
    ジョウは右手で顔を覆った。負けず嫌いのせいか、はたまたコレも例のヤツか。
    「―――コレも、『女の子の夢』ってヤツか?」
    「違うわ」アルフィンは首を振る。
    「これは、練習よ」
    「練習?」
    意外な言葉に驚いて、ジョウは足を止める。そして、アルフィンに視線を向ける。彼女は、頬をジョウの腕に押し当てながら呟くように答えた。
    「そうよ。これから、貴方が帰ってくる時の為にね。いつでも、貴方が帰って来た時はこうして迎えたいの。あたしが宇宙港に迎えに行けないくらい不意に帰ってきても。あたし、これからは待ってる事しか出来ないんだもの」
    それから、アルフィンは上値使いでジョウをジッと見た。
    「だから、新婚旅行はココにしたかったの。あたし達の家でね。これから、貴方の事をあたしが待ってる家で。貴方はアラミスの実家は、生まれた場所ってだけと言ってたでしょ?でも、これからはココが貴方の帰る場所なの。本当の家なのよ」
    「―――そうだな」
    ジョウはジョウは短く答えてアルフィンを見つめる。ジョウは無言で誓う。これから、何があろうとも。自分は帰ってくる、彼女の待つ家に。
    そして。ジョウは、優しく彼女の腕を外す。強いと思う、女性は。ジョウはアルフィンの身体を引き寄せ、滑らかな額に思いを込めて唇で触れた。
    「さっき、言い忘れちまったが」ジョウは腕を解きながら、照れたように言った。
    「―――ただいま、アルフィン」
    アルフィンはこぼれるような笑みを浮かべる。その笑顔に。ジョウは自分の心が満たされていくのを今更の様に感じた。
    「少し、疲れた。君のコーヒーが飲みたいな」
    「うん、すぐ入れるわ」
    アルフィンは頷き、またジョウの左腕にするりと自分の右手を絡ませた。
    再び、歩き出す。リビングのドアは開かれ、明るい光が二人を待っていた。

    FIN

fin.
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