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■729 / inTopicNo.1)  virginroad
  
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/07(Mon) 22:47:23)
    朝方の微睡みの時間がゆっくりと流れてゆく。
    アルフィンの身体を暖かなブランケットが優しく包んだ。
    しかし、この温もりを誰かが断ち切ろうと肩を掴んで何度か揺らす。
    「アルフィン、アルフィン、そろそろ起きて。仕度をしないといけないわ」
    耳元で囁く女性の声に聞き覚えを感じた。
    誰だったかしら、この声?
    優しいピザンのお母様の声によく似てるわ。
    待って、もうちょっとだけ寝かせてよ、お母様。
    後五分いえ三分でいいから。
    頭の中でそう訴えながらアルフィンはゴソゴソとブランケットの中に潜り込もうとしてハタと気が付いた。
    え、お母様?
    混乱しつつも重い瞼をゆっくりと開いた。
    「花嫁が寝坊なんて、聞いたことが無くてよ」
    視線の先には溜息を漏らし困った表情のハルマン三世王妃であるエリアナが自分を覗き込むようにして見つめていた。
    アルフィンは慌てて飛び起きるように身体を起こした。見慣れぬ部屋に王宮じゃないことは分かる。
    ――― 私、何故ここで寝ていたの?
    必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
    ――― 昨日、あたしは何をしていたかしら?
    「しっかりしてね、アルフィン。今日の結婚式の主役は貴方なのよ」
    思案顔の娘の姿にエリアナは軽く娘の肩に手を置いた。
    そうされることによってアルフィンはようやく今日が何の日か理解した。
    結婚式。待ちに待ったジョウとの結婚式の朝だ。
    ――― なんでこんな大事な日を忘れていたのかしら?
    自分に対して情けない気持ちととまだ間に合うという安心した気持ちの両方の感情がアルフィンの心の中で膨れあがり、思わず涙となってこぼれ落ちた。
    青い宝石から零れ落ちた雫にエリアナは驚いたようにしゃがんで娘の顔を覗きこんだ。
    「アルフィン?」
    顔を伏せるようにアルフィンは手で覆い大きく被りを振った。
    「なんでもない、なんでもないの」
    白く細い指で涙を掬いながら、心配する母親に無理に微笑む。
    「大丈夫よ、アルフィン。今は不安でもきっとジョウが貴方を幸せに導いてくれるわ。不安なんて感じる間もないくらいに」
    マリッジブルーに囚われた愛娘にエリアナはその腕を大きく背中に回してポンポンと軽く背を叩いた。
    「うん、分かってる」
    アルフィンも母の優しさにエリアナの背に腕を回した。
    互いを気遣う暖かさが体温となって互いに熱を伝える。
    朝日を浴びて輝く黄金の髪をエリアナ優しく撫でた。
    愛しいたった一人の愛娘。
    今日はその娘の結婚式。
    なかなか会えないけれど、アルフィン自身が選んだ相手だ。
    母親としてこんなに嬉しいことは無い。きっと幸せになれる。
    「もう、仕度しなくちゃね」
    腕の中に居た娘が顔を上げた。
    もう泣いてはいない、眩しいほどの微笑を投げかけてきた。
    「そうね。貴方も目覚ましにシャワーを浴びてらっしゃい」
    「ええ」
    エリアナに薦められて、アルフィンはベッドから脚を下ろして立ち上がろうとした。
    「・・・」
    鈍い腰の痛みに一瞬立ち上がるのを躊躇う。
    「どうしたの?」
    「んんっ、なんでもないわ」
    クスッと笑った母の顔に思わずこちらが赤面してしまった。
    これもそれも全てジョウのせいよ。まだ腰が重くだるい。
    まだジョウがアルフィン自身の中にいるような気がする。
    ネグリジェで見えないけれどきっと紅い痣があちらこちらにあるに違いない。
    結婚前夜にあんなに激しく抱かれる花嫁なんて宇宙中探してもそうそういないはず。
    ――― そりゃあ、ジョウに求められて嫌じゃなかったけど時と場合を考えて欲しいわ。
    一人で何か考え事をしている娘を見て、嫁に出す日がとうとうやって来てしまったと少し寂しくエリアナは思った。
    一人娘いうこともあって夫はアルフィンを大変かわいがった。
    娘という存在は父親にとって特別な存在らしい。
    でも今度私たちには自慢の娘婿ができる。
    ピザンを救ってくれた英雄が私たちの娘の婿になるこんな幸運はそうそうあるものではない。
    「早くシャワーを浴びてらっしゃい」
    「うん・・・」
    アルフィンは立ち上がるとエリアナの腕に自分の腕を回した。
    肩を寄せて甘えてみせる。
    「なあに、いつもの貴方らしくないわよ」
    「いつまでも大好きよお母様」
    結婚しても娘には変わりはないのだが、銀河に轟くクラッシャージョウの妻としていつまでも親に甘えているわけにはいかない。
    だから今日で最後、こんな風に甘えるのも。
    アルフィン自身の中で区切りの時を五時間後に迎える。
    「私は先に部屋に戻ってるわ。後でいらっしゃい」
    離れて行くエリアナの姿を見送って、一抹の寂しさを抱えアルフィンはシャワールームに姿を消した。
引用投稿 削除キー/
■730 / inTopicNo.2)  Re[1]: virginroad
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/07(Mon) 22:48:03)
    オーガンジーのベールに真珠のティアラ、サテン地のウエディングドレスに揃いの手袋、白を基調とした清楚な花々のブーケ。
    ジョウの花嫁となるべく選んだ品々が目の前にずらりと並んだ教会の奥にある花嫁の控室に、アルフィンは居た。
    どれも思い入れのある品々、ジョウの花嫁になる時を夢見て密かに集めてきた物。
    スタイリストが艶やかな黄金の髪を櫛に取りながら結い上げてゆく。
    ペチコートを付け、自らがデザインしたウエディングドレスに身を包む。
    上半身はシンプルで大きく肩が開いている。
    無駄が無くアルフィンの綺麗な肢体を余すところなく表現していた。
    腰から下は大きく膨らんで後ろは長いトレインがある。
    それでも全体としてすっきりとした印象のあるドレスだった。
    次に粒の真珠で作り上げた小さなティアラが黄金の髪に付けられた。
    その上からベールが付けられ顔の前に降ろされた。
    このベールを上げた時、アルフィンはジョウの花嫁になる。
    手袋を嵌め、薄化粧を施し最後にうっすらと紅いルージュを引いた。
    「お綺麗ですよ」
    スタイリストはお世辞ではなく今まで手がけた花嫁の中で一番綺麗に思えた。
    象牙で造られたかのような白い肌、黄金色の艶やかな髪、青く澄んだこの世に二つとないサファイアの瞳。
    その全てが白いウエディングドレスに一層映えた。
    「もう仕度は出来たみたいだな」
    「お父様、お母様」
    扉を開けて入ってきたハルマン三世とエリアナの姿を見てアルフィンはベール越しに微笑んだ。
    「綺麗だよ、アルフィン」
    「ありがとう、お父様」
    「幸せにね、アルフィン」
    「はい、お母様」
    三人の間に暫し言葉を超えた沈黙の時間が流れた。
    これからの幸せを願う父母の想いと育ててくれた感謝の娘からの想い。
    アルフィンは立ち上がって傍に寄ると両手で二人を抱きしめた。
    「あたしを産んでくれて育ててくれてありがとう、絶対に幸せになるからね」
    愛娘の言葉に二人は黙って頷いた。
    「そろそろお時間ですよ」
    スタイリストがアルフィンに声を掛けた。
    「行こうか?」
    「はい」
    ハルマン三世の腕をアルフィンはそっと取った。
    娘から妻になる花嫁を花婿に渡すのは父として少々癪だが、今のアルフィンは何処に出してもおかしくない宇宙一の花嫁と言えよう。
    その娘と二人、控室から礼拝室の外の廊下まで歩いてきた。
    列席者は既に礼拝堂の中に居るようだ。
    「幸せか?」
    今一度嫁ぎ行く娘に父として尋ねた。
    「うん、とっても」
    花が零れるような笑顔を見せてアルフィンは父に微笑む。
    「そうか。それならいい」
    娘の笑顔に安心したようにハルマン三世は正面に向き直った。
    パイプオルガンが奏でる荘厳な音楽が鳴り響き、正面の重厚な扉がゆっくりと開いた。
    赤い絨毯のヴァージンロード。
    その先には愛するジョウが心持ち緊張した表情でこちらを見ている。
    「お父様、ゆっくり歩いてね」
    「ああ」
    父と礼拝堂に向かって一礼をし、ゆっくりと足を踏み出した。
    ハイヒールが歩きにくいわけじゃない。
    アルフィンはこれまでの思い出を噛み締めながら歩きたかった。
    父の大きな腕にぶら下がるのが大好きだった。
    退屈を持て余しよく王宮を抜け出しては、両親を心配させた。
    熱を出した時は氷枕を何度も換えて一晩中傍に居てくれた。
    友達が欲しくて都内の学校に行きたいというわがままも叶えてくれた。
    そしてクラッシャーになりたいという一番のわがままを何も言わず送り出してくれた。
    もし、あの時両親が後を押してくれなかったらきっと今日のこの日は来なかっただろう。
    どんなに感謝しても足りないが、一歩ずつジョウの元に近づいて行きながらアルフィンは心の中で何度も感謝と御礼の言葉を呟いた。
    「娘をよろしく頼む」
    ジョウの傍にやって来てハルマン三世はアルフィンの腕を取り、ジョウの手に愛娘の手を渡した。
    「はい、必ず幸せにします」
    少し緊張気味の声でジョウはそう答えた。
    アルフィンは今、最高に幸せな時を噛み締めていた。
引用投稿 削除キー/
■731 / inTopicNo.3)  Re[2]: virginroad
□投稿者/ 璃鈴 -(2004/06/07(Mon) 22:51:16)
    □あとがき

    今度は姫サイドの結婚式までの情景です。
    Jさんに某所でオイシイ思いをさせたから今回はちょっと出番が少なめ(笑
    さて、次は何処を書こうかなー。
fin.
引用投稿 削除キー/



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