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■810 / inTopicNo.1)  まどろむ君に
  
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/12/18(Sat) 02:50:57)
    これは、まめこさん@まめこさん宅オエビにて描かれたイラストに惚れたので、それを基に書いたもののはずでした(爆)
    でも、書いて削ってしているうちにベツモノに生まれ変わり・・・
    私にはあの「優しい甘い雰囲気」はハードルが高かったです(涙)
    でも、せっかく書いたのでコチラに送りつけてしまおうかと。
    『寝てる姫にちうしょうとするJ』のイラストからです、一応。
    まめこさん、ありがとうございましたー。ここで、言うか?>私

    どなたか続いて、クリスマスなお話お願いしますねー。



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■811 / inTopicNo.2)  Re[1]: まどろむ君に
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/12/18(Sat) 02:53:27)
    ミネルバは、惑星ブロウィラードのルプル宇宙港に停泊していた。この惑星では船内での宿泊は禁じられてる為、ジョウは宇宙港から程近いホテルのスイートルームを取っていた。今日で三日目を迎える。前回の仕事でのミネルバの修理が、思ったより時間を要したお陰で十日を予定していた休暇が五日となってしまった。しかも、この三日間は次の仕事の下調べで多くの時間を費やしていた。殆ど遊んではいない。もっとも、あらかじめ予想出来た事なので、ジョウはチームの者にその旨を初日に伝えていた。オフに出来るのは後半二日、最終日は出発の準備やミーティングを行うから、出かけられるのは実質四日目だけだろうと。
    しかし。
    タロスとリッキーが、珍しく静かにソファに腰掛けテレビを見ているとジョウが入ってきた。
    「あ、兄貴。お疲れー」リッキーが陽気に手を振る。
    「やっと、遊びに行けるね。明日、楽しみだなー」
    「お疲れ様です」
    タロスも機嫌良く声を掛ける。が、ジョウの表情に何か引っかかるものを感じた。
    「―――どうかしましたか?」
    すると、ジョウは軽く肩をすくめソファに腰を下ろした。
    「ん・・・明日だけどな」彼は腕を組み、背もたれにゆっくりと寄りかかった。
    「朝、本部と連絡を取らなきゃならなくなった。アラミスもそっちが寄越した仕事のクセに待ったをかけてきやがった。照会しなきゃいかん事項が出来たとかでな」
    「参りましたな」
    タロスは顔をしかめる。その横ではリッキーが膝を抱え、不貞腐れていた。その様子を横目で見たジョウは苦笑して言った。
    「別に皆で待ってる必要はない。俺だけで十分だ。お前達は行ってきな」
    明日は、惑星ブロウィラードの第二衛星スペールブに行く予定になっていた。そこはプロウィラード随一の観光客数を誇っている。ギャンブル・ショッピング・遊園地・マリンスポーツ等、休暇にはもってこいの星だ。プロウィラード自身は風光明媚な星であるが、娯楽施設は主に五個ある衛星が賄っていた。
    「でもさあ、良いのかい?」
    リッキーは困惑してジョウに聞く。嬉しげに抱えていた膝を離したリッキーではあったが、貴重なオフを自分達だけで過ごすのは多少気が引けた。それに、ジョウが行かないとなるとアルフィンのご機嫌が傾く。リッキーはタロスの方に目を向ける。やはり彼も渋い表情だ。
    「俺は、構わないぜ。大して時間も掛からんだろうから、後はノンビリしてるさ」
    二人の反応にジョウはさらりと言う。
    「ですが、アルフィンはどうなんでしょうな」タロスは他人事のように呟く。
    「休暇に入って遊べなくても大人しいってのは、明日があるからに違いねぇ気がするんですがね?」
    「そうだよなぁ。兄貴、明日は行きたいトコに連れて行くって、約束させられてたろ?」
    リッキーが頭の後ろで腕を組みながら言った。
    「だからさー、今になって兄貴が行かないって言ったら、俺ら達じゃ手に負えないぜ?」
    「そんな事言ったって、仕方ないだろ?」
    ジョウは肩をすくめた。
    その時。問題のアルフィンがリビングに現れた。
    「げっ」
    小さく声をあげ、リッキーが身体を強張らせる。瞬く間にリビングルームに広がる微妙な緊張感。すかさずリッキーはジョウに目で訴えた。上手く言いくるめてくれ、そう願っている。ジョウも話がややこしくなるのは避けたい。彼は静かな声でアルフィンに声を掛けた。
    「アルフィン、ちょっといいか」
    ぼんやりした表情の彼女は、ビクッとしてジョウに目を向けた。
    「―――え、なぁに?」
    「どうした?」
    ジョウはそんな彼女の様子に気付き首を傾げる。機嫌が悪そうには見えないが、何かあったのだろうか。ここ数日、静かな事からしても。しかし、ジョウの心配気な視線に気付くと、アルフィンの顔にどことなく作ったような笑みが浮かぶ。
    「ううん、なんでもないわ」
    「そうか?ならいいが・・・」
    ジョウの瞳に探るような色が現れたが、アルフィンは彼の疑念を振り払うように、つんと顎を上げて見せ逆に問い返した。
    「そんな事より、どうかしたの?」
    「あ、ああ。明日の事なんだが」ジョウは多少引っ掛るものの本題に入ることにした。
    「少し予定が変わった」
    「明日?」アルフィンはぼんやり繰り返したが、慌てて思い出したように明るい声になる。
    「そうね、出かけるのよね。集合時間でも変わったの?」
    「いや・・・」ジョウは言いよどんだが、慎重な口調で先を続けた。
    「アラミスとの打ち合わせの都合で、俺は行けなくなった。でも、一人で十分だから皆で行って来てくれ。俺も、それが終わればゆっくりする時間もあるから、君も気にせず行ってきな。買物する所は、いくらでもあるみたいだし。諦めるって言ってた、エステでも行ってこいよ」
    「・・・」
    無言でジッとジョウを見つめるアルフィン。事の成り行きを、息を潜めて見守るタロスとリッキーは密かに怯えて彼女の言葉を待っていた。二人は、恐る恐るアルフィンの顔を盗み見る。怒りのあまり絶句してるのであれば・・・明日は恐ろしいことになるだろう。いや、この瞬間から。
    「仕方ないだろ?」
    ジョウは厳しい口調で言い出したが、彼女の沈んだ様子に表情を和らげた。
    「そんな訳だ―――悪いな」
    「う、ううん。そっか」アルフィンは呟く。
    「―――仕方、ないのよね」
    「あ、ああ」あっさり引き下がられ拍子抜けする。が、やはり様子が気になり眉を顰めた。
    「アルフィン、どうかしたのか?」
    「ううん、少し疲れてるだけ。休暇だと思ったら急に気が抜けちゃって」
    皆が彼女に視線を向ける。なるほど、少し顔色も悪い。ホッとしたのも束の間、彼らは心配気にアルフィンを見た。その視線に、彼女は元気な声を出してみせた。
    「平気よ、別に。やーね、少し休めば大丈夫。ちゃんと遊べるわよ、明日」
    ジョウは思案した。体力に劣るアルフィンだが、無理にでもこちらのペースに合わせようとするのはいつものこと。本人が思う以上に、疲労が溜まってるに違いない。しかし、これから仕事が立て続けに続き、短い休暇すらいつ取れるか見通しが立たない現状。それなら、明日は行かせない方が良くはないか。自分と一緒に残らせるべきだろう。
    「アルフィン、明日行っても平気か?ハードだぜ?」
    ジョウは、チラッとタロスとリッキーの方を見て言った。二人は頷く。そして、リッキーが頭を掻きながら口を挟む。
    「うん、六時の便に乗る。で、帰りは着くのが明け方」
    「・・・」
    アルフィンが怯んだ表情になった。それを見て取ったジョウはさりげなく提案する。
    「なんなら、君も残るか?そんなに遠くまで行けないが、何処かに連れて行ってやるよ」
    「ホント?」
    アルフィンの顔に零れる様な笑みが広がる。リッキーが、素早く会話に加わった。
    「あ、決まり。そうしなよ、アルフィン」
    「うん、ジョウが時間取れるならこっちにいるわ」
    「決まりですな」
    タロスも満足気に頷く。これで、全て丸く収まる。密かに、ジョウも『女の子』慣れしてきたな、と微笑ましく思う。一方、ジョウは慣れない誘いをしてしまった事に、今更ながら照れを感じていた。それを押し隠しながら、やや素っ気無く皆に言い渡す。
    「じゃ、これで決定だ。明日以降の事は夕飯の時にでも話そう。それまで、自由行動で良い」
    だが、タロスとリッキーはお見通しのようだ。二人とも顔が緩んでる。でも、平和を維持するためにも余計な事は言わず、顔を見合わせただけでその場を離れた。

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■812 / inTopicNo.3)  Re[2]: まどろむ君に
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/12/18(Sat) 02:57:10)
    夕食の時間より少し早く、ジョウはリビングに顔を出した。すると、タロスとリッキーもそこにいて、端末を見ながら明日の計画を熱心に練っていた。アルフィンの姿だけ見えない。
    「どうだ、一日で遊びきれそうか?」
    ジョウは笑って二人を交互に見た。まだ気が引けるのか、彼らはバツの悪そうな顔でジョウを見た。
    「うん、まぁね」
    リッキーがボソリと答える。ジョウは彼の横に座り、端末を覗き込む。カジノの案内だ。数あるカジノの中でどこにするか絞ってるらしい。
    「おまえら、ホント好きだな」
    ジョウは呆れた声を出し、照れ笑いするリッキーの愛嬌のある顔に、苦笑を浮かべて首を振ってみせた。しかし、とやかく言うつもりもないので、相談を再開した二人を尻目にテレビをつけニュースパックを見始めた。
    暫くそうしていたが、ふとジョウはアルフィンが来ないことが気になった。
    「アルフィン、遅いな」
    すると、リッキーが端末のスクリーンから目を離しジョウを見た。
    「あれ、アルフィン出かけたぜ?」
    「どこへ?」驚いてジョウがリッキーに目を向ける。
    「寝てるのかと思った」
    「うん、俺らも良く分かんないけどさ。服だよ、多分。だってさ、出かける少し前に『やーん、明日着るモノが無い』とかなんか、叫んでたし」
    「・・・あんだろ、いっぱい」
    ジョウが、首を傾げる。自分から言わせれば、不可解なほど持っているのだが、彼女は。
    「―――やっぱり、まだ『女心』が分かるまでは到達してないかねぇ」
    タロスがぼやく。もちろん、誰にも聞こえないように。明日の服。アルフィンにしてみればジョウとのデートに来ていく重要な服。それを、誘った本人は気付いてない。
    「ま、これで買い物につき合わされなくて済むな」ジョウは幾分ホッとした顔で言う。
    「アルフィンの買い物ときたひにゃ、時間が全く読めんからな」
    「―――だから、別モンなんだよ『明日の服』ってのは」
    「ん?何か言ったか、タロス?」
    「い、いいや、何でもねぇ」
    タロスの呟きが僅かに耳に入って、ジョウは相手の方を怪訝な顔をして見た。慌てたタロスだが、パタパタと急いでやってくる足音を耳にして注意をそちらに向ける。他の二人も気付き、口をつぐむとリビングルームの入り口を見つめた。
    「ごめんなさい、遅くなっちゃった」
    慌しく現れたのはアルフィンだった。幾つもの紙バックを肩から提げている。腕にも包みを抱えていた。ホテルで貸し出しているカートを使って、近くのショッピングモールにでも行ったらしい。宇宙港周辺には地下にカート専用道路があり、ホテルや主な場所へは大概行けるようになっていた。しかし、安全確保の為に規制も多く、時間がかかる場合も多々あるのが難点であった。近い場所に行くのなら、地上を移動する方が早い。地上にもカート専用道路があり、近い場所に行くときにはそちらを使う客が多かった―――晴れていれば。実際、彼らも地上を使っていた。今日のアルフィンもそのようだ、あまり時間が無かったはずだから。走ってきたのだろう、金髪は少し乱れて、幾筋か赤みが差した顔に張り付いていた。
    「結構、遠かったわ、ショッピングモール。」
    アルフィンは肩を竦めると髪を掻きあげた。しかし、いつもならサラサラと零れる金の髪は重く彼女の指に纏わりついていた。良く見ると、彼女の全身はしっとりと濡れてるようだった。
    「どうした?」
    ジョウが不審気に尋ねると、アルフィンは困ったような笑みを浮かべて答えた。
    「うん・・・帰る時に霧雨が降ってたの。時間が無いから、近道して来たんだけど。思ったより距離あったから、結構濡れちゃったみたい」
    「風邪引くぜ。早く、着替えて来いよ」ジョウは呆れ顔だ。
    「なんで、ワザワザこんな時に服を買いに行ってんだか。この星は、霧や霧雨が多いって知ってるんだろ?」
    「だってぇ」
    身を捩って口を尖らすアルフィン。しかし、あえてジョウは厳しい口調で促す。
    「ほら、とにかく着替えて来い。夕飯に行くぞ。早くしないと、置いてくぜ」
    「イジワル」
    アルフィンは膨れたものの、素直にジョウの言葉に従ってきびすを返した。


    夕食は近場のレストランで軽く済ませた。
    明日が早いのだ、めいいっぱい一日だけのオフを楽しむ為にも、省けるものは省く。タロスにしても、食後の一杯をバーでやりたいものだが今回は我慢した。万が一アルフィンを伴うことになると、それだけで体力を使い切ってしまう。
    スイートに戻ると、明日の朝集合時間を確認して早々に自室に散っていった。

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■813 / inTopicNo.4)  Re[3]: まどろむ君に
□投稿者/ 夕海  碧 -(2004/12/18(Sat) 02:58:38)
    朝、五時。いったん、チーム全員が顔を揃える。
    「おはよー」
    リッキーが欠伸をしながら現れると、他の三人は既に来ていてコーヒーを飲んでいた。
    「遅ぇぞ、チビ」
    「年寄りは本から朝早いモンな。自慢にならねーよ」
    「朝から、うるせぇ!」
    さっそく始めた二人に、ジョウはすかさず割り込む。はしゃいでるのを誤魔化してるのだろうが、鬱陶しい。これから自分は仕事があるのだから、釣られて休暇モードに入るわけにはいかないのだ。
    「ホント、しょーがないわね」アルフィンはジョウの横に座ってクスクス笑ってる。
    「あんたたち、早く用意していかなきゃ遅れるわよ」
    「へん。タロスがモタモタしてなきゃ平気だい!」
    「何だと、ネションベンチビ!」
    再び揉めだす二人。ジョウは、堪らず声を荒げる。
    「行くの止めるのか、お前達?」
    首を竦め、タロスとリッキーは黙り込む。
    そして、簡単に打ち合わせをした後、タロスとリッキーは騒々しく出発した。
    「ったく。世話が焼けるぜ」
    ジョウは呟き、ソファーから立ち上がる。横を見るとアルフィンが軽く目を閉じソファの背に身を預けていた。
    「アルフィン?」
    ビクッとして、アルフィンが目を開けてジョウを見た。
    「な、なぁに?」
    「どうした?」
    「う、ううん。ちょっと、眠くなっちゃった」アルフィンは笑顔を浮かべる。
    「急に静かになったからね、きっと」
    「ああ、騒々しい奴らだぜ」ジョウも笑い、ぐぐっと背伸びをした。
    「さてっと、俺は部屋に戻るぜ。お昼くらいから時間取れるかもしれないから、それまで君はゆっくりしてな」
    「うん。がんばってね。あたしは、部屋にいるわ。時間がとれそうだったら、連絡くれるの?」
    「ああ」
    「じゃあ、またね」
    アルフィンは微笑みソファから腰を上げる。と、その身体が大きく揺らいだ。
    「おっと、平気か?」
    反射的にジョウが手を伸ばし、彼女の身体を支えた。
    しかし。その途端、ジョウはおやっとゆうような表情になった。
    「あ、ありがと」
    焦った声でアルフィンは言うと、彼の腕から身を離そうとした。だが、ジョウは逆に彼女を引き寄せる。
    「な、なによ」
    強気な言葉と裏腹に、アルフィンは恐る恐る彼の顔を覗き込む。厳しい光を湛えた黒い瞳。彼女は思わず視線を逸らす。
    「具合悪いんだろ?」ジョウは強い口調で問い詰める。
    「だめだろ、言わなきゃ」
    「たいしたことないわよ。別に―――あん」
    やや強引にジョウがアルフィンを自分の正面向け、彼女の顔を探るような瞳で覗き込む。青白い顔に熱っぽい瞳。掴んだ腕は驚くほど熱い。ジョウは眉を顰めて、彼女の前髪を指先で掻き分け額に手の平を当てた。熱い。大きなジョウの手の平にすっぽり収まる小さな額は、彼女の体調不良を訴えていた。アルフィンは、観念して瞳を閉じた。
    ジョウは無言でアルフィンをソファに座らせた。
    「どうして、無理をする?昨日も体調良くなかったんだろ?」
    ジョウは彼女の横に立ち腕組みをして言った。
    「今日は大人しく寝てるんだな。出かけるのは中止だ」
    アルフィンはジョウを見上げる。碧い瞳からジワッと涙が浮かぶ。
    「大丈夫よ。たいしたことないもん。薬飲んでるし。少し寝れば、直るわ」
    「ダメだ。今回は、我慢しろ」ジョウは厳しく言った。
    「体調悪いのに、なんで買い物なんか行ったんだ。濡れたから悪化したんだぜ。服なんていっぱい持ってるじゃないか?」
    「だって。どうしても、ステキなの欲しかったの」アルフィンは沈んだ表情で下を向く。
    「初めてだもの、ジョウが誘ってくれたのって」
    「は?」
    「いつも、あたしが騒がないと一緒に行ってくれないでしょ」
    アルフィンは拗ねたように呟く。
    「嬉しかった、とっても。だから、出来るだけお洒落したかったのよ」
    「・・・」
    ジョウは困ったように頭を掻いた。こう言われては、怒るに怒れない。かと言って、出かけると後が心配だ。まさか、これほど喜んでいたとは。気持ちがぐらつく。
    「―――そうだっけ?」
    決まりの悪そうにジョウは言った。アルフィンはこくりと頷いた。ジョウはタメ息を漏らす。ジッと見つめてくる涙に濡れた碧い瞳。
    ―――負けた。
    「分かったよ」ジョウは小さく首を振りながら言った。
    「じゃあ、熱が下がったら少しだけ出かけよう。それまで、薬飲んで大人しく寝てるんだ。それで良いだろ?君が言ってた、霧のショーでも行こう」
    「ホント?」
    アルフィンの顔から微笑が零れる。ジョウは頷く。
    「ただし、体調が第一だからな。夕方六時にココで待ち合わせだ。俺は部屋に篭ってるから、君も大人しく寝てるんだぜ」
    「うん」
    アルフィンは素直に頷き、ジョウが手を差し出すとそれに掴まり立ち上がった。そして、アルフィンはジョウの腕に自分の腕を絡ませ彼に寄りかかった。熱い身体を寄せてくるアルフィンに動揺しつつ、彼女を支えて部屋まで送り届けるジョウは。
    ―――――病人なんだ、仕方がない
    何故か、自分自身に弁解しつつ空いた手をそっと彼女の腕に添えた。


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■814 / inTopicNo.5)  Re[4]: まどろむ君に
□投稿者/ 夕海 碧 -(2004/12/18(Sat) 02:59:52)
    アラミスとの連絡も滞りなく終え、ジョウは少し仮眠を取っていた。起き出したのは五時を少し回った頃。もうすぐアルフィンとの約束の時間だ。駄々をこねに部屋まで押しかけて来るのではと危惧していたが、そんなことも無く時間は過ぎていった。どうやら大人しく休んでいるらしい。
    ―――――熱が下がってりゃ、良いが。
    ジョウは寝癖のついてしまった髪を、両手で掻きあげて整えながら心配げに思った。涙を浮かべた瞳が脳裏に浮かぶ。しかし、無理をさせるわけにはいかない。ジョウは気持ちを引き締め心に決めた。泣いて拗ねられても、体調次第では出かけるのを諦めさせよう。その為には、先に待ち構えていて彼女の現れた時の様子で判断しなければ。すっかり用意した後では、言い聞かせるのに骨が折れるだろうから。
    ジョウは時計をチラッと見る。五時二十分。彼は、少し難しい表情で部屋を出た。


    静かなリビングルームに、ジョウはそっと入って行った。まだ時間がある。ジョウはコーヒーでも飲もうかと、ソファの方に何気なく目をやった。すると、ソファの前に置いてあるガラスのテーブルの上のコップが目に入った。そして、人の気配も。
    ジョウはソファの背後からそっと忍び足で近寄る。息を止め、低い背もたれ越しに覗き込む。
    「!」
    アルフィンだった。昨日買ってきたのだろう、見たことない服を着て。少し寒いのか、胸元に両手を縮込ませるようにしてソファに横たわり、安らかな寝息を立てている。待ちきれなくて早めに部屋を出てきたのは良いが、ジョウの部屋に行くと怒られそうなのでココで待っていたのだろうか。そして、薬を飲んでつい眠ってしまったのかもしれない。
    ジョウは呆気に取られて彼女の寝顔を見つめていた。いつからいたのだろう。すっかり用意は整ってるようだ。白い小さな顔は穏やかで、病的な青白さは消え去り、眠っていて体温が上がってる為か少し赤みが差していた。微かに開いた赤い唇は、規則正しく温かな息を吐き出している。
    ジョウはフッと笑みを漏らす。
    これでは敵わない。こんな愛らしい寝顔を見た後で、強く言えるわけがない。ジョウはアルフィンの顔に目を戻す。長い睫毛が濡れてるように見えるのは気のせいだろうか。自分が強く言ったのを気にして必死だったのだろう、どうしても良くなろうと。
    「―――意地っ張り」
    ジョウは呟くと彼女の顔を見つめた。そして。自分でも気付かないうちに、身を屈め彼女の頬に唇でそっと触れていた。当たり前に思えるほど自然な仕草で。
    「ん・・・」
    アルフィンの口から微かに声が漏れる。ジョウはハッとして身を起こす。自分のした行動に少し驚きながらも、不思議とうろたえはしなかった。身を屈めソファの背もたれに腕を組んで置き、そこに顎を乗せるとアルフィンを黙って見守る。
    「―――ジョウ?」
    アルフィンは寝転んだまま、優しい眼差しで自分を見下ろしているジョウを見つけ、夢から醒めてない様な表情で呟いた。
    「よぉ」ジョウは身体を起こしにやりと笑って言う。
    「服がクシャクシャになるぜ?」
    アルフィンはぼんやりとして、二・三度瞬きしたがいきなりガバッと跳ね起きた。
    「も、もう、やだ。あたし、なんで寝ちゃったんだろ?」アルフィンは泣きそうな顔だ。
    「ちゃんと用意して待ってるつもりだったのに」
    「こんな所で寝たら、また具合が悪くなるだろ。どうして、ちゃんと部屋で寝てないんだ?」
    ジョウが厳しい表情を作って言う。
    「あら、さっきまでちゃんと部屋で寝てたわよ。少し早く来ただけだもん」
    「少しねぇ」
    ジョウは信用してない口ぶりで肩をすくめる。ソファの前にきちんと並べて置いてあるパンプス。頭を乗せられる様に、二つ重ねて端に寄せられたクッション。これらと彼女の顔を代わる代わる見つめた。アルフィンは口を尖らせ黙り込む。
       ピピピピピピ・・・
    急に響く、小さな電子音。二人はビクッとして、反射的に音のする方に視線を走らせる。
    「!」
    アルフィンは、咄嗟にソファの上にあったソレを掴む。そして、ジョウから隠すようにソレを握り締めた手を背中の後ろに回す。もちろん、ジョウが見逃すはずが無い。
    「―――ったく、目覚ましまでかけて」
    ジョウはタメ息を吐く。そして、ソファの前側に移動してアルフィンに向き合った。
    「だってぇ。絶対遅れたくなかったんだもの。ジョウは、起こしに来てくれないでしょ?」
    「まぁ、な」
    ジョウは苦笑を浮かべ、探るような視線でアルフィンを見る。大分良くなったようには見えるが、薬が効いてるだけかもしれない。横になっていたのは、まだ不調なせいだろう。やはり、諦めさせるべきか。ジョウは、アルフィンに言い聞かせるように話し始めた。
    「なぁ、アルフィン。まだダルいんだろ?無理したってしょうがないから、今日は部屋で寝てた方が良くないか?」
    「イヤ!」
    アルフィンは、いきなりスクッとソファの上に立ち上がった。口を引き結び、仁王立ちになる。愛らしい面立ちに似つかわしくない態度に、ジョウは思わず噴出しそうになりながらも何とか厳しい表情を作り出した。
    「強がってもダメだぜ。これからは寝込んでる暇は無いんだからな」
    「だから、平気だもん!」
    アルフィンはとうとう癇癪を起こす。フカフカのソファで足場の悪いのも省みず、彼女は身体を揺すりながら足を踏み鳴らした。
    「こ、こら、そんなトコで暴れるな」
    「だって、連れてってくれるって言ったのに。熱下がったのに!」アルフィンは構わず叫ぶ。
    「ちゃんと、時間までに来てたのに・・・ジョウのばかぁ!」
    「わ、わかった、わかった」ジョウは額に手を当てた。
    「連れてくよ。だから、落ち着け」
    ピタッと動きを止めるアルフィン。涙を浮かべた瞳がジョウに向けられる。
    「―――ホント?」
    「―――あぁ」ジョウは肩をすくめた。
    「そんだけ元気なら・・・大丈夫だろ?」
    「嬉しい!」
    アルフィンの顔がほころぶ。そして、勢い良くジョウに向かって身体ごと飛びついた。
    「うわっ。あ、あぶねぇ」
    ジョウは慌てて彼女を抱きとめる。文字通り、彼の胸に飛び込んだアルフィンは全く意に返さずギュッと抱きついた。
    「ふふっ。すっごい楽しみ。綺麗でしょうね。イブだもんv」
    「ん?」
    「だからぁ、クリスマスよ、明日」
    「あー、鳥の丸焼きとか食べるヤツか」
    「そうだけど、もっとあるでしょ?」
    「ケーキも食べ・・・痛てぇ」
    アルフィンに頬をつねられ、ジョウは悲鳴を上げる。
    「あたし達、食事じゃなくてイルミネーションを見に行くのよ!分かってる?」
    「―――よく、分かった」
    アルフィンはニッコリ笑って頷いた。あまりの近距離に、今更のようにジョウはうろたえる。
    「さ、支度しな。髪、ぐしゃぐしゃだぜ」
    ジョウは照れ隠しにそう言って、ソファに向かってアルフィンを軽く投げ出す。
    「きゃ。―――もう」
    一瞬、彼女は頬を膨らませたが、すぐに機嫌を直しパンプスを履くと部屋に向かった。長い金髪を翻して。
    FIN

fin.
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