| 漆黒の闇の中、眼前に火柱が立ち上がった。 爆風に<ファイター2>の赤い機体があおられる。 「くっ」 操縦桿を握るアルフィンが横Gに耐えながら、必死に体制を立て直した。 「アルフィン!北側に回り込めよ!」 レーザーとミサイルのトリガーをせわしくプッシュしながら、傍らのリッキーが喚く。 「わかってるわ!ちょっと黙っててよ!」 <ファイター2>はレーザーの雨を潜り抜けながら、要塞基地の北側へと反転した。
−通称『ガンズロック』 依頼者からもたらされた情報には、基地の詳細なホログラム映像もあった。 地上2階地下3階からなる文字通り自然の岩山をくり貫いた設備は、表向きは研究と武器製造工場ではあったが、誰が見ても要塞基地に他ならなかった。 その頑強な『ガンズロック』を今まさに、<ミネルバ>と<ファイター2>が攻撃していた。
北側は基地の正面のようだった。そこには大出力レーザーの砲塔がいくつか突き出している。 −と、いきなり砲塔が爆発した。ミネルバからの誘導ミサイルが命中したのだ。 再び大きな火柱が立ち、岩盤を昼間のように明るく照らし出した。 「タロス!<ファイター2>に当てんなよ!」リッキーが通信機に向かってまた喚いた。 「るせえ!ちょこちょこ飛び回ってんじゃねぇ、目障りだ!」 通信機からタロスの凄みのある低い声が聞こえた。こんな状況にもかかわらず、あまり緊迫感が感じられない。 基地の東側からバラバラと小型機が吐き出されるのが夜目にも確認できた。 レーダーの光点は8機。思ったほど多くはない。 アルフィンは一旦、機体を反転させて基地から離れた。全機撃ち落す必要はない。要は<ミネルバ>と<ファイター2>が気をひけばいいのだ。 −これはチームリーダーが『ガンズロック』へ潜入しやすくする為の陽動作戦なのだから。
5時間程前に<ミネルバ>のブリッジで行われた作戦ミーティングには『ガンズロック』内部の詳細地図がメインスクリーンに映し出されていた。 「すごいわね。一介の企業がこんな裏情報を入手できるなんて。大体の銃火器配備の予想まで盛り込まれてるわ」 アルフィンが感嘆の声をあげながら、細い指でコンソールキーを叩きデータをスクリーンに映し出してゆく。 「かなり情報屋に金を注ぎ込んだ、と言ってはいたが。これは連合宇宙軍あたりの情報機関と繋がりもありそうな雰囲気だな」チームリーダーのジョウが右手を顎にそえながら、呟いた。 「小さいながらも銀河系では屈指の技術力を誇る武器メーカーですぜ。裏の世界からの脅威にいつもさらされているようなもんでさあ。それなりのコネクションは持っていて当然ですな」 「あとはこのネタの確実性を祈るばかりだな。・・・それじゃあ、作戦を説明しよう」 ジョウがコンソールのキーを次々と叩き、サブスクリーンに基地の内部地図、鳥瞰図を映し出した。 「攻撃開始は現地星系時刻で深夜3:00。こちらの数の絶対数をカバーするには夜間の突然の攻撃、奇襲しかないだろう。まずは<ミネルバ>がミサイルで攻撃の火蓋を切る。当然、敵の小型機が飛び出してくるだろうからそれは<ファイター2>に任せる。攻撃は配備された銃火器中心にやってくれ。あくまで陽動作戦だ。間違っても地下の研究施設や脱出経路をつぶすなよ」 「手加減しながらの攻撃は、気をつかいますなあ」 ジョウの左となりのタロスが巨体を後ろに反らしながら、全然気にならない口調で言う。 「俺らとアルフィンで敵をかきまわしてる間に兄貴が潜入?」 タロスの後ろからどんぐり眼をくるっとまわして、リッキーが訊いた。 「そうだ。この・・・南側の断崖絶壁になっている方から入る。<ファイター1>は谷の中に潜めておくので、ハンドジェットでちまちま昇っていくさ」 「でも・・・ジョウひとりで大丈夫?」 アルフィンが心配そうに前に座るジョウを覗き込んだ。 「複数で潜入するには基地内部の通路やダクトが狭すぎる。それにこの情報が100%正確とは限らない。状況を見て作戦を変えてゆくにもひとりの方が動きやすいだろう。しかし場合によっては突入してもらうから、しっかり待機しといてくれよ」 チームリーダーがリッキーとアルフィンを交互に見る。ふたりが力強く頷いた。 「さて、了解したら作戦開始だ。機体と装備のチェックに入ろう」 クラッシャー達はそれぞれの仕事に取りかかる為、ブリッジから飛び出した。
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