FAN FICTION
(現在 書庫4 を表示中)

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

[ 親投稿をトピックトップへ ]

このトピックに書きこむ

書庫には書き込み不可

■1030 / inTopicNo.1)  Re[31]: DEATH ANGEL の微笑み
  
□投稿者/ りんご -(2006/04/29(Sat) 17:39:20)
    <あとがき>

    最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。(と、書いたものの、どなたか読んで下さるのかしら??)
    自分の力量も省みず、書き始めたので、何度挫折したことか・・・
    それでも、なんとかラストまで、たどり着けました。

    ただ、書きたいことを投入したため、上手く纏められないし、話は穴だらけ(涙)
    でも、今の私には、これで精一杯。
    持てる力は、全て使い切って、真っ白なりんごになっちゃいました。

    一緒に冒険して、一緒に悩んで、苦しかったけど楽しかったです。
    書き終えてわかったのは、SSって、J サン達に対するラブレターなんですね。
    また、書きたいですぅ〜 いえ、書かせてください。


    そして、最後に言わせてください。「CJ 最高!!」



引用投稿 削除キー/
■1029 / inTopicNo.2)  Re[30]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/29(Sat) 17:32:20)
    タロスとリッキーは、病院の中庭で、バードと出くわした。
    「よう、タロスにリッキー。仕事が早く終わったんで、見舞いに来たぞ」
    バードは上機嫌だった。
    この中庭は、入院患者憩いの場所だ。色とりどりの花が咲き乱れ、足を踏み入れた者の心を和ませる。庭の中央には天使のブロンズ像があった。
    それは、台座の上に、羽を広げた小さな天使がちょこんと座っていて、まるで、そこで一休みしているような姿だ。
    三人は、ちょうど、その像の所に立っていた。
    バードの顔を見たとたん、タロスとリッキーの顔がみるみる険しくなった。だが、浮かれ気分のバードは、そんな様子に、まったく気づかない。
    「おいおい、どうした二人とも、しけたつらして。ジョウは、一般病棟に移ったそうじゃないか。いやあ、回復が早くてなによりだ」
    バードの頬は、緩みっぱなしだ。
    「なーにが、なによりだ、だよ!兄貴をあんなひどい目にあわせといて、よく言うぜ」
    リッキーの目が吊り上った。
    「まあ、そう言うな。ジョウやお前さんたちには、感謝している。ありがとう」
    「ふん!」リッキーがそっぽを向いた。

    タロスが、じろりとバードを睨みつけた。
    「おめえ、あの基地に、<デスエンジェル>があるって最初からわかってたんだろう・・・」
    「・・・・」
    「危険を承知で、俺達を煽った。そのせいで、ジョウはな、生死の境をさまよったんだぞ!」
    バードが顎に手を当て、ゆっくりとしゃべり出した。
    「・・・そうだ。おまえの言うとおりだ。しかし、これは・・」
    バードは全てを言い切ることが出来なかった。
    タロスが、鮮やかなボディブローを放ったのだ。
    「!」
    衝撃で、膝が崩れた。
    「おめえは、<ミネルバ>に出入り禁止だ!」そう言って、タロスがずんずん歩き出した。リッキーもそれに続く。

    ふらふらっと、腹を押えながら、バードが立ち上がった。
    そこへ、思い出したように、リッキーが戻ってきた。
    「そうそう、ケリーのチームから伝言を頼まれてたんだよ、おいら」
    「伝言?」
    「そう、これさ!」
    リッキーが強烈なカウンターパンチをお見舞いした。
    バードの体が、ブロンズ像目掛けて、吹っ飛んだ。
    ゴチン!バードの後頭部が、ブロンズ像の台座を直撃し、白目を剥いて倒れた。

    リッキーがタロスに、ガッツポーズを送った。
    タロスも親指を立てて、リッキーに答える。
    リッキーは、タロスの元に小走りで駆け寄った。そして、二人は、足取りも軽く歩きだす。
    無残にも、気を失ったバードを、小さな天使の像が微笑みながら見下ろしている。
    そして、天使の頭上には、呆れるくらい、清々しい青空が広がっていた。


    <END>


引用投稿 削除キー/
■1028 / inTopicNo.3)  Re[29]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/29(Sat) 16:55:20)
    ジョウは、タロスが持ってきた血清で、一命を取り留めた。
    しかし、<デスエンジェル>は、ジョウの体に大きな傷跡を残した。体中の細胞がダメージを受け、免疫が著しく低下してしまった。
    すぐさま、ダコタにある緊急医療センターに入院し、処置が行われた。
    無菌室で二週間、外部と完全に隔離され、面会も禁止された。
    その後、順調な回復により、一般病棟に移された。
    そして、今日、待望の面会が許可された。アルフィン達は、朝一番で見舞いに来ると、連絡があった。
    コンコン。ノックももどかしく、ドアが開いた。アルフィン、タロス、リッキーが病室に飛び込んできた。
    ジョウは、窓辺に立って、外を眺めていた。
    「ジョウ!」アルフィンがジョウに飛びついた。
    「アルフィン!」
    反射的に、ジョウもアルフィンを抱きとめた。
    腕の中のアルフィンの温もりに、ジョウは、自分が生きていることを、改めて実感する。
    「良かった、兄貴元気そうじゃん」
    リッキーが、顔をくしゃくしゃにしながら言った。
    「まったく、肝を冷やしましたぜ。だが、元気そうで、良かった、良かった」
    タロスの目には、うっすら涙が光る。
    「心配かけたな」
    ジョウも胸が熱くなった。

    アルフィンに支えられ、ベッドに腰掛けた。アルフィンは、ジョウのすぐ脇に立ち、タロスとリッキーは、ソファーに腰掛けた。
    三人は、ジョウと会えなかった二週間の出来事を、堰を切ったように話しだした。
    <ミネルバ>の後を追ってきたバードは、ジョウが助かったのを確かめると、コールマンの船を追った。
    先に、コールマンを追ったケリー達が、壮絶な銃撃戦をやらかした後、コールマンの船のエンジンを打ち抜き、身柄を拘束したことなどだ。
    ハルストン工業の後始末におわれていたバードも、午後から見舞いにくると言う。
    因みに、無理な飛行がたたった<ミネルバ>は、宇宙港で修理を受けている。

    「ケリー達も、ジョウに会いたがったんだけど、次の仕事がはいっていて、昨日出発したの」とアルフィンが教えてくれた。
    「ジョウに、一つしかない命を粗末にするな!って、伝えてくれって」
    「そうか・・・」
    「そうだ。ジェイクが今回のことは、つけにしといてやるって。一体なんのことさ、兄貴?」
    思わずジョウは、笑った。ジェイクらしい。

    ふと、ジョウが訊いた。
    「あいつは、どうなったんだ?」
    三人は、一瞬押し黙った。
    アルフィンが、顔を曇らせながら答えた。
    「サイモンは、駄目だったわ。間に合わなかったの」
    「そうか・・・」
    ジョウは手元に、視線を落とした。
    あの男は、最後にどんな夢をみたんだろう?
    せめて、それが家族と共にいる、幸せな夢であればいい・・・ジョウは心の中で、そう願った。
    そんなジョウの心を見透かしたように、リッキーが口を開いた。
    「まったく、兄貴は優しすぎるよ。あいつは、兄貴に毒薬を飲ませたんだぜ」
    「ばーか。それが、ジョウのいいところなんだ」
    タロスが、リッキーの頭を叩いた。

    「それより、ジョウ。<デスエンジェル>のせいで、夢って見たんでしょ?どんな夢だったの?」
    アルフィンは、訊きたくてたまらなかった事を口にした。タロスとリッキーも興味しんしんと、ジョウに注目する。
    ジョウが頭をかいた。
    「うーん。実は・・・覚えてないんだ」
    「ええ?」
    「助け出された後も、ずっと寝てたせいかな?どんな夢を見たのか、思い出せないんだ」
    申し訳なさそうなジョウに、リッキーが助け船を出す。
    「仕方ないよ。兄貴、暫く意識が戻らなかったんだもん」
    「そうそう、気にすること、ありませんぜ。生きてれば、いっくらでも夢は見れます」
    タロスらしい、慰め方だ。
    「おっと、そうだ。病院に来たら、ドクターの所に顔を出すよう言われてたんだ。おい、リッキー」
    リッキーは、ぴんときたように、勢いよく立ち上がった。
    「そうだった、そうだった。おいら達、ちょっくら行ってくらあ。お二人さん、ごゆっくり」
    そう言うと、二人は部屋を出て行った。

    アルフィンが、ジョウの隣に腰を降ろした。
    「ねえ、ジョウ。夢を忘れたって、嘘でしょ?」
    「なんだよ、いきなり」
    ジョウが、わずかにうろたえた。
    「あたし、ジョウの顔をずっとみてたのよ。なんだか、とっても幸せそうだったわ。あんなに幸せそうな顔初めて見た・・・」
    アルフィンが、恨めしそうにジョウを見た。
    「だから、あたしにだけは教えてよ。お願い!」
    アルフィンの顔は真剣だ。聞き出すまでは、許さないという、雰囲気だ。
    「そ、そうだな・・・あ!思い出した」
    「何、何?」アルフィンが身を乗り出す。
    「仕事の夢だ」
    「仕事?」
    「そうさ、面倒な仕事が、文句のつけようがないってくらい、きれいさっぱり片付いて・・そうだ、仕事だった。うん、間違いない」
    アルフィンが、がっくりと肩を落とした。
    「・・・そう、仕事の夢だったの・・・」

    ごめんアルフィン。ジョウは、心の中で詫びた。
    夢の中とはいえ、アルフィンにキスしたなんて、恥ずかしくて、口が裂けても言えない。
    そう、これは自分だけの秘密だ。
    それに、あの夢は、心の引き出しに大切にしまってある。
    何故って、あの夢は<天使>からの、とびっきりの贈り物なのだから。

    ジョウはアルフィンの肩を抱き寄せた。アルフィンが嬉しそうに、ジョウの胸にもたれかかる。
    でも、いつか・・・
    ジョウは思った。
    アルフィンにアラミスの大地を見せたいと。


引用投稿 削除キー/
■1027 / inTopicNo.4)  Re[28]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/28(Fri) 08:55:20)
    「しっかりしろ、ジョウ!」
    ジェイクが耳元で怒鳴っている。だが、それはもう、ジョウには届かない。
    ジョウの意識が混沌としていく。
    ジョウは、夢の世界にいた。
    <デスエンジェル>が奏でる夢の世界に・・・


    足元を、サァーッと、風が吹き抜けた。
    ふんわり温かくて、心地いい風だ。
    深く息を吸った。澄んだ、新鮮な空気が胸に広がる。
    どこからか、土の匂いと鳥のさえずりが響いてきた。
    目の前に、のどかな田園風景が広がっている。
    青々とした草原では、牛がのんびりと草をはむ。

    ここは・・・
    そう・・・アラミスだ。
    俺が、クラッシャーになる10歳まで過ごした地。
    柔らかい光が、頭上から降りそそぐ。
    近くに、瀟洒なつくりの、小さな家が見えた。
    太陽の光をうけ、屋根がキラキラ輝いている。

    知ってる・・・
    俺は、知ってる。
    玄関を開けるときの、ドアの重みを。
    階段を駆け上がるとき、わずかに軋む床の音も。
    二階の窓から、見える湖の輝きも。
    そう・・・あれは俺の家だ。

    草原を掻き分け、ゆっくり歩き出す。
    家のドアが開いて、誰かが出てきた。
    ・・・女だ。白いワンピースを着ている。
    逆光で顔がみえない。
    長い髪が、風になびいている。
    日の光を受け、キラキラ輝いて、とてもきれいだ。
    女が、口を開いた。なにかしゃべっている。
    ・・・距離が邪魔して、聞こえない。
    速度をあげ、家へと急ぐ。
    どんどん、どんどん。
    家はもう、すぐそこだ。

    女が、勢いよく胸に飛び込んできた。
    青い瞳が嬉しそうに、俺を見上げる。
    「お帰りなさい、ジョウ」
    「・・・ただいま、アルフィン」
    俺は、きつく彼女を抱きしめた。
    帰ってきた・・・
    ・・・俺は、帰ってきたんだ。
    懐かしい我が家に。
    ・・・そして、アルフィンの元に。
    満ち足りた思いと、溢れんばかりの幸福が、全身を包む。
    もう、離さない!
    アルフィンが、腕の中で、恥らうように目を閉じた。
    ・・・俺は、そっと唇を重ねた。


    「・・・・、・・・・・、・・・・、・・・・・!」
    遠くで・・・誰かが・・何か言ってる。
    構わないでくれ。この幸せなひと時を邪魔しないでくれ。
    「・・・・・、・・・・・・、・・・・、・・・・ウ」
    だが、声は止まない。
    「・・・・ジョウ。しっかりしてジョウ!」
    耳元で声がする。
    俺は、うっすら目を開けた。
    「ジョウ!ああ、ジョウ!あたしよ、アルフィンよ。間に合ったのよ。血清が届いたのよ。ジョウ」
    アルフィンが大粒の涙を流しながら、俺の顔を覗き込んでいる。
    「・・・アル・・フィン」
    彼女の名を呼んだ。
    なぜ、そんなに泣く・・・泣かないでくれ。こっちが、つらくなる・・・
    彼女の涙をふいてやりたい。
    だが・・・恐ろしいくらい・・・体に力が入らない。
    「ああ、神様。ありがとうございます」
    彼女は、そううぶやき天を仰いでいる。
    ああ・・・なんだか、とっても眠い・・・
    これ以上・・・目を・・・開けて・・いられない・・・
    そう、思った瞬間、意識が途切れた。

引用投稿 削除キー/
■1026 / inTopicNo.5)  Re[27]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/28(Fri) 08:52:47)
    5時44分。残り21分。
    アルフィンがすぐさま、戻ってきた。顔面蒼白だ。
    ジェイクは、ジョウを基地の入り口まで連れてきていた。
    膝まづくジェイクの傍ら、ジョウの体は、冷たいコンクリートの床に横たわっている。
    「ジョウ!ああ、なんてことなの?しっかりして、ジョウ。目を覚まして!」
    アルフィンは、ジョウにすがりついた。
    「どうしてよ、どうしてジョウがこんな目に!」
    「落ち着けアルフィン」
    ジェイクが、アルフィンの肩を掴んだ。
    「いや、離して!」
    アルフィンは半狂乱だ。血清が届かなければ、ジョウが死んでしまう。夢中でジョウの名を呼び続ける。

    ジェイクが、パンパンパンと、アルフィンの頬を連打した。
    アルフィンが叫ぶのを止め、びっくりしたようにジェイクをみつめる。
    「いいか、よく聞け!ジョウは、筋金入りのクラッシャーだ。ちょっとや、そっとのことじゃ死なん!それに、ジョウの体は、今必死に<デスエンジェル>と
    戦ってる。お前がとりみだして、どうする!しっかりしろ、アルフィン!!」
    「ジェイク・・・」
    大粒の涙が、アルフィンの目からこぼれ落ちた。
    「・・・それに、もし・・・・」
    静かな声で、ジェイクが話し出した。
    「もし、その時が来ても、お前は、目をそらすな。例え・・それがどんなに惨たらしくて、残酷な事だとしても・・・全てを見届けろ。こいつの生き様を、
    その目に焼き付けるんだ」
    「・・・・・」
    アルフィンは胸が詰まって、声が出ない。
    「それが・・・お前が、ジョウにしてやれる全てだ」
    そう言い終えると、ジェイクは<ゴライアス>に向って歩き出した。

    「行くの、ジェイク?」アルフィンの声が震えている。
    「ああ。コールマンの野郎をとッ捕まえる。今・・・俺がジョウにしてやれるのは、それだけだ」
    アルフィンは恐ろしかった。さっきから、体の震えが止まらない。出来ることなら、ジェイクにこの場に残ってほしい。
    だが、それは許されない。ジェイクは、クラッシャーなのだ。仲間の敵は、仲間が討つ。
    そして、アルフィンもまたクラッシャーだった。
    飛び立つ、<ゴライアス>を見送った。
    東の空がしらみだした。

    静寂が訪れた。物音一つしない。
    まるで、この星には、アルフィンとジョウの二人っきりしかいないみたいに。
    アルフィンの涙は止まらない。だが、なぜか心は静かだった。
    アルフィンは、優しくジョウの髪を撫でた。
    最初にジョウの顔を見たとき、とても青かった。が、今は更に青味を増している。
    僅かに上下する、ジョウの胸だけが、生の証しだ。

    あの時、ジョウはあたしを呼び止めた・・・
    でも、あたしは気づいてあげられなかった・・・ごめん。ごめんね、ジョウ・・・
    涙が一気に流れた。アルフィンは、ジョウの手を握り締めた。
    お願い、負けないで・・・あたし、側にいるから。何があっても、離れない。ずっと、ずっと一緒にいるから・・・

    アルフィンは目を閉じた。
    ああ、神様・・・あたしは近頃、あなたへのお祈りを怠っていました。
    これからは、寝る前、必ずあなたに感謝のお祈りをします・・・だから・・どうか・・・どうかお願いです。
    ジョウを・・・あたしの愛する人を連れて行かないで!お願い!
    拳が、白くなるまで握り締めた。
    もし・・・もし、ジョウを連れて行ったりしたら、神様・・・あたしは、あんたを絶対許さない!!

    明るくなった東の空に目をやった。
    その空に、何かが、きらっと光ったような気がした。

引用投稿 削除キー/
■1025 / inTopicNo.6)  Re[26]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/28(Fri) 08:50:53)
    「どうだ、システムの解除は出来たのか?」
    ジョウが制御ルームに飛び込んできた。
    「今、解除できた所。でも、負荷が、かかりすぎてキャルの電子回路がショートしちゃったわ」
    そう言って、ジェニーは、自分の側でひっくり返っている、ロボットのキャルを指差した。
    制御ルームには、ケリーとジェイクも戻ってきていた。

    「サイモンの奴はどうした?」ジェイクが訊いた。
    「部屋で大人しくしてる。大丈夫だ・・・奴は、逃げない」
    そう、逃げられるわけがない。
    「タロスたちは、どうした。いつ、こっちに着く?」
    「ジェニーが、基地の外部に向って出されてた、妨害電波を解除して、今連絡がとれたの。タロス達は、エンジン全開で飛んでるけど、あと50分は
    かかるって」アルフィンが時計を見ながら答えた。
    「・・・そうか」
    間に合わない!絶望が、ジョウを襲った。

    「どうしたのジョウ?」ケリーがジョウの顔を見た。顔色が悪い。
    「なんでもない。ケリーのチームは<デスエンジェル>を追ってくれ。俺は、<ミネルバ>が着き次第、後を追う。アルフィン」
    「なに?」
    「アルフィンは、ケリーの船に乗れ。キャルの代わりに航法士として、船のサポートをするんだ」
    「えー?でも」アルフィンが異を唱えようとした。
    「ぐずぐずしていると、コールマンに逃げられる。これは、チームリーダーの命令だ!ケリー、アルフィンを頼む」
    ジョウがケリーを見た。ジョウの真剣な表情に、圧倒されたように、ケリーは頷いた。
    「追うわよ、みんな」
    ケリー、ジェイク、ジェニーが駆け出した。
    アルフィンだけが、もたもたしている。
    「ねえ、ジョウ。あたし行かないといけない?」
    「ああ。ケリー達を助けてやれ。アルフィンなら、それが出来る。俺も後から、すぐ行くから」
    ジョウがアルフィンの背中を押した。
    「わかったわ・・・じゃあ」
    アルフィンが走り出した。

    「アルフィン!」ジョウが呼んだ。
    アルフィンが振り向いた。ジョウは、その姿をみつめた。
    「・・・なんでもない。頑張れよ!」
    そう言って、ジョウが笑った。アルフィンも笑顔で返し、部屋を出て行った。
    制御ルームに、ジョウ一人になった。
    ずるずるっと、沈み込んだ。
    時計を見た。5時39分。残り26分。
    呼吸が苦しくなってきた。

    足音がした。入り口に目をやると、ジェイクが立っている。
    「ジェイク・・・お前」
    ジェイクが、つかつかと、ジョウの側にやってきた。
    「気になって戻ってきた。さっき、お前から、なんだか甘い匂いがした気がして・・・・まさか」
    「その、まさかだジェイク・・・お前の言う通り、俺はサイモンを信じすぎた」
    ジェイクが凍りついた。
    「いつだ・・・タイムリミットは?」
    「6時5分だ。今回のは、特別製で少し余裕があるらしい」
    ジョウが薄く笑った。

    「今、アルフィンを呼び戻す」
    「やめろ!アルフィンには知らせるな!」
    苦しい息を吐きながらも、大声で止めた。
    「どうしてだ?なんで、意地を張る!」
    「・・・アルフィンに見せたくない」
    ジェイクが沈黙した。<デスエンジェル>による、死に様は惨たらしい。ジョウは、それを言っているのだ。
    「きっと、アルフィンは耐えられない・・・だから、戻ってきて欲しくないんだ」
    そう言って、ジェイクを見た。
    ジェイクの肩が震えた。
    「・・・・やろう」
    「?」
    「この、大馬鹿野郎!惚れた女に、何、見栄を張ってんだ!苦しくて側にいて欲しいなら、いて欲しいって、お前の言葉で言え!!」
    「ジェイク・・・」
    「・・・それにな、ジョウ。あいつは、そんなに、やわな奴じゃないぞ」
    ジェイクが、小さく笑った。ジョウも笑ったつもりだった。だが、急に視界がぼやけだした。
    ジェイクは、通信機に向って大声でアルフィンの名を呼んだ。

引用投稿 削除キー/
■1024 / inTopicNo.7)  Re[25]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 23:23:22)
    「そうです。社長からの勅命を受け、私が心血を注いで作った最高傑作、それが<デスエンジェル>です」
    サイモンは不気味なほど落ち着いている。
    「隠してあった<デスエンジェル>はどうした?まだ、ここにあるのか?」
    「いいえ、皆さんが戦っている間、迎えが来たので、残っている分全て渡しました。そろそろ、この地を飛び立ち、衛星軌道上で待つ、社長の船に運び込まれるでしょう。ある組織が、あの子を買いたいと、言ってきたそうです」
    「あんたは、何故逃げない」
    「逃げる?」
    ジョウの言葉にきょとんとした後、サイモンは楽しそうに笑い出した。
    「逃げる所なんてありませんよ。私には、逮捕状が出たそうです・・・人体実験のせいでね」
    「やったのか、人体実験を?」はき捨てるように、ジョウが言った。
    「ええ。被験者には、事欠かないですよ、この星は。言ったでしょ、ここは貧しくて、親が子供を売るくらいだって・・・」
    ジョウがサイモンを睨みつけた。が、視線を落とし、拳をきつく握り締めた。
    「何故だ、あんたは、親に売られる子供のつらさを、身をもってしってるはずだ。その、あんたが、何故そんな残酷なことを!」
    ジョウの肩が、僅かに震えた。

    「知ってるからですよ。ジョウ」
    「・・・どういうことだ」
    「親に売られた子供が直面する厳しい現実をね・・・だから、楽にしてあげたんです・・・まっとうに、暮らしてきたあなたには、決してわからないでしょうがね」
    「・・・あんたは、それを乗り越えたんじゃないのか!自分を売った親父さんを引き取り、最後を看取ったって、話してくれたじゃないか!」
    「親父?」
    サイモンの顔が豹変した。
    「俺を地獄に突き落とし、辛酸を嘗め尽くさせた、男の事か!ああ、あいつは悪魔のような奴だった。わずかな酒代を得るため、俺を売り飛ばしたくせに、
    俺が一流企業に勤めていると知ると、まるでヒルのように吸い付いてきやがった!」
    顔を真っ赤に染め、肩で息をしながらサイモンが一気にまくし立てた。
    ジョウが、静かな声で訊いた。
    「・・・病気の親父さんを看取ったって言うのも、嘘か?」
    「・・・それは、本当だ・・・」
    「サイモン・・・」少しはこの男に慈悲の心があったのかと、ジョウは救われる思いがした。
    「親父は病気だった。不治の病さ・・・だから、プレゼントしてやったのさ、<デスエンジェル>をね!」
    そう言って、大声で笑った。
    ジョウは唖然とした。サイモンは・・・この男の心の闇は深かったのだ・・・自分が考えていたよりも、もっと。

    サイモンは、ヒステリックに笑い続けたが、ふっと笑いが止んだ。
    「ジョウ、この基地はあと10分で爆発します」
    「なんだって!」
    「基地の自爆システムを作動させました。この基地を含め周辺50キロ四方は跡形もなく消し飛びます。みんな、死ぬんですよ・・・人体実験の痕跡も、
    なにもかも・・・すべてが消え去るんです。それは、すべて未熟なクラッシャー達の誤操作という、シナリオでね」
    「それが、あの報告書の正体か」
    「ええ」サイモンが頷いた。
    「だが、タロスとリッキーは、ここにいないぞ。奴らは、本当のことを知っている」
    「ジョウ。ならず者のクラッシャーと一流企業、世間はどっちを信じると思いますか?」

    ジョウは、サイモンの目を見据えながら言った。
    「聞いたかジェニー、アルフィン」
    「うん。今の会話は録音したわ。それと、キャルを呼んで、すぐに自爆システムの解除をさせる」
    ジョウの左腕から、ジェニーの声が聞えた。
    「あんたとのやりとりは、通信機で皆に中継しておいた」
    サイモンの顔に驚愕の表情が広がった。
    ジョウが通信機のスイッチを切った。
    サイモンは、俯いてテーブルを見つめている。

    「おしましだ、サイモン」
    突然、サイモンが笑い出した。ジョウは、気がふれたのかと訝しんだ。
    「例え、自爆システムが解除されても、私とあなたは死ぬんですよ。クラッシャージョウ」
    「なんだって?」
    ジョウは、はっとして、コーヒーカップをみた。
    「まさか・・・」
    「ええ、さっきのコーヒーの中に<デスエンジェル>が入ってるんです」
    ジョウの顔から、さーっと血の気が引いた。
    「おまえ・・・」
    サイモンはジョウに笑顔を向けた。
    「あなたへの、私からのプレゼントです。コーヒーの中に、特別製の<デスエンジェル>を入れました。この子は、他の子たちと違って、ゆっくり活動します。
    そうまるで、海に漂う小船のようにね。最初の30分で、じわじわ広がり出し、そして、その後、ラスト10分間のショータイム。どうです?あなたとゆっくり話す
    ために用意した、特注品です。気に入っていただけましたか?」
    ジョウはサイモンを殴りつけた。
    サイモンは、椅子ごと後ろにひっくり返った。
    口元から血が流れだしたが、それには気にもせず、大きな声で笑い出した。狂気の笑いだ。
    ジョウは、部屋を出た。
    ジョウに残された時間は、33分。

引用投稿 削除キー/
■1023 / inTopicNo.8)  Re[24]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 23:19:32)
    「なんだか手ごたえが無くて、つまらないわね」
    「そうだな。もうちっと、楽しませてくれると思ったのに」
    ケリーとジェイクは顔を見合わせ、笑った。
    二人の前には、スクラップ工場行きとなった、アンドロイド兵の残骸が累々と横たわっていた。
    二人の行動は、素早かった。
    暗視ゴーグルを装着すると、敵の襲撃を待たずに、自らジャングルを進み銃撃戦を繰り広げた。
    二人はこの基地での生活に飽きていたのだ。それを解消するため、少しでも早くお手合わせしたく、襲撃を仕掛けた。
    「こちら、ケリー。こっちは、片付いたわ。ジョウの方はどう?」
    通信機から、ジェニーの声が響いてきた。
    「ジョウの方も終わったわ。もー、あたしすること無くて、つまんない!」
    ジェニーのむくれ顔を思い浮かべて、ケリーの頬が緩む。
    「基地を守るのも、大切な仕事よ。<ゴライアス>に寄って、エネルギーチューブの補給してから戻るわ」
    「りょーかい」
    通信が切れた。
    「戻るわよ、ジェイク」
    ケリーとジェイクは、基地を目指して歩き出した。

    「お帰りー」
    戻ってきたジョウとアルフィンに、ジェニーが声を掛けた。
    「あれ、サイモンはどうした?」ジョウが訊いた。
    「なんだか、気分が悪いって部屋に戻ったのよ。変な奴らが現れたんだから、びっくりしたのかもね」
    「そうか」
    「そんなことより、ちょっと見て欲しい物があるのよ、ジョウ」
    ジェニーが数枚の紙きれを差し出した。ジョウが書類に目を走らせる。

    「なんなの、これ?」アルフィンが、ジョウの手元を覗きこんだ。
    「報告書よ。サイモンが会社あてに送ったみたい」
    「報告書?」
    ジョウは、読み終えると、書類をジェニーに渡した。
    「サイモンの所に行って来る」
    そう言って、部屋を出た。
    「なあに?あたしにも見せて」
    アルフィンが、書類を受け取り読み始めた。みるみる表情が曇る。
    「なによこれ!嘘ばっかり書いてあるじゃない」
    ジェニーが大仰に頷いた。
    書類には、データ収集初日から今日までのことが、日付ごとに詳しく纏められていた。
    内容はこうだ。会社が雇ったクラッシャー達は、チーム性の違いから対立が著しい。しかも、今日は操縦操作を誤り、戦闘機を一機大破させた。
    両チームの主導権争いは日を追うごとに激しくなり、データ収集事態が困難である。このチームでは緊急の事態が起きても対処不可能と記載されたいた。

    ジョウは、サイモンの部屋をノックした。
    「どうぞ」
    ドアを開け、部屋に入った。
    部屋は電気がついておらず、小さな窓から差し込む月明かりが、唯一の灯りだった。
    「もう、かたが付いたんですね。さすがですね」
    サイモンは、窓際に置かれた簡易応接セットに腰を下ろし、コーヒーを飲んでいた。
    「お疲れでしょう、どうぞ」
    自分の前の椅子を指差した。ジョウは、どかっと腰を下ろした。
    サイモンは、テーブルの上のポットを引き寄せ、カップに注ぐと、ジョウに差し出した。
    ジョウは、それを無言で受け取った。
    サイモンが、一口コーヒーを飲む。ジョウはサイモンを凝視したままだ。
    サイモンが笑った。
    「毒なんてはいってませんよ。安心して下さい」
    ジョウは、ゆっくりとコーヒーを含んだ。
    ちらっと、サイモンが腕時計を見た。
    「5時25分か。もうすぐ、夜が明けますね。今日は、長い1日だった」
    そう言って、疲れたように息をはいた。

    「何故なんだ・・・何故あんなでたらめな報告書を書いた」
    「でたらめ・・・そうですね・・・あなたの言う通りです。あれは私の作り話です。あなた方は優秀なクラッシャーだ。さっきの襲撃も、なんなくクリアした。
    点数をつけるなら、さしずめ百点満点ですね」
    「お世辞はいい」
    「お世辞じゃありませんよ、ジョウ」
    サイモンが首を振った。そして、ゆっくり語り出した。
    「私は、この基地の後始末をするため、会社から送り込まれました」
    「・・・<デスエンジェル>が、ここに隠されているんだな」
    「そうです。あの子は、ここで産声をあげました。とっても気分屋さんで、大層てこずりましたよ」
    「あんたが、作り出したのか!」
    ジョウが驚愕の表情を浮かべた。

引用投稿 削除キー/
■1022 / inTopicNo.9)  Re[23]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 23:14:09)
    タロスとリッキーは、宇宙港のロビーにいた。時間は夜中の3時をまわっているので、ロビーは閑散としている。
    バードが、やってきた。手には、黒いスーツケースを下げている。
    三人は、ロビーの片隅にある、小さなカフェに入った。客は誰もいない。
    暇を持て余していたハミングバードが、すぐさま注文を取りにやってきた。
    タロスとバードはコーヒー、リッキーはオレンジジュースをオーダーした。

    「どうだ、そっちの具合は?」バードが訊いた。
    「動きはない。それより、持ってきたのか?」
    「ああ、これだ」バードがタロスにスーツケースを渡した。
    飲み物が運ばれてきたので、三人は口を閉じた。
    「ドウゾ、ゴユックリ」サービスが終わると、ハミングバードはカウンターの所に戻っていった。
    「ハルストンの方で、動きがあった」
    タロスの眉がぴくりとする。
    「例の兵器を開発した人間に逮捕状がでた」
    「逮捕状だと?」
    「そうだ。開発の際に、どうやら人体実験をしたらしい」
    「人体実験・・・」気味悪そうな顔で、リッキーが繰り返した。
    「だが、そいつは現在行方不明。ハルストンの方は知らぬ存ぜぬの一点張りだ」
    バードが、口元にカップを運ぶ。

    行方不明だと?タロスの胸に不吉な予感が走った。
    「・・・写真持ってるか?」
    「ん?」
    「写真だよ、写真。そいつの顔をみせろ!」
    「ああ」思い出したように、バードが胸元から一枚の写真を取り出し、二人の前に差し出した。
    ガシャーン。リッキーがグラスを床に落とした。
    「こ、こいつは・・・」そう言って、リッキーが絶句する。

    ハミングバードが素早く飛んできて、割れたグラスを片付け始めた。
    「名前は、サイモン・グラント。ハルストンの生物化学兵器主任研究員だ」
    いきなり、タロスが立ち上がった。その勢いで、椅子が後ろにひっくり返った。
    グラスを片付けていた、ハミングバードが不快を示すように、顔面のLEDを明滅させた。
    「行くぞ、リッキー」
    二人が駆け出した。
    「どうした、タロス」慌てて、バードが訊いた。
    タロスが、振り向きざまに言った。
    「ジョウが危ねえ」
    二人は<ミネルバ>目指して全速力で走った。

    <ミネルバ>を急発進させ、元来た道をひたすら戻る。
    リッキーがさっきから、ジョウに連絡を取っている。
    「だめだ、タロス。通信機もだめ、基地の回線も応答しない。きっと、妨害電波が出てるんだよ」
    リッキーが泣きそうな顔で報告する。
    「くっそう!」
    タロスが、拳をコンソールデスクに叩きつけた。
    「とにかく、続けろ。相手が出るまでやれ!」
    タロスに言われるまでもなく、リッキーは呼び出しを続けている。
    (無事でいてくれ、ジョウ!)
    タロスは、ぐっと拳を握った。

引用投稿 削除キー/
■1021 / inTopicNo.10)  Re[22]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 23:08:54)
    「えっ?じゃあ、さっきのは仮病だったの?」
    アルフィン、ケリー、ジェニーの顔に驚きが広がった。
    「しー」ジョウが口の前に指を立てた。
    サイモンが食堂を立ち去ったので、ジョウが事情を説明したのだ。
    「もう、心配して損した」アルフィンが口を尖らせた。
    「先に言ってくれれば、いいのに」ケリーも恨めしそうに、ジョウを見る。
    「すまない。しかし、敵を欺くにはまず味方からっていうだろ」
    ジェニーは感心したように言った。
    「リッキーって病気の振りがうまくなったわね」
    「え?なんのことだ、ジェニー」
    「ううん、こっちのこと。それより、タロス達はいつ戻ってくるの?」
    「宇宙港まで、片道3時間。血清を受け取って、戻ってくるのは、明け方になるだろう」
    「じゃあ、それまでしっかり仕事の続きをしましょう。今日の、宿直は、ジョウとジェニーだったわね」
    確認するよう、ケリーが言った。
    「OK。行きましょう、ジョウ」
    「ああ」

    ジョウとジェニーが制御ルームに行くと、サイモンが慌てた様子で二人の元にやってきた。
    「大変です!」
    「どうしたんだ、サイモン」
    「何者かが、この基地に向って、進軍してきています」
    「進軍?どういうことだ?」
    ジョウとジェニーに緊張の色が走った。
    「これを見てください」
    サイモンがモニターを指した。
    そこには、黒ずくめの服を身にまとった、男達が映っていた。その数、約二十人。
    手には、大型の火気が見て取れる。
    「団体さんだな」
    「でも、夜のピクニックて感じじゃなさそうよ」
    二人の口調は、緊張感に欠けている。

    「どうするんですか、ジョウ」
    ヒステリックにサイモンが言った。
    「お客さんなら、それ相当におもてなしをしないとな。ジェニー、残りのメンバーを集めてくれ」
    「OK」
    ジェニーは、通信機で、ケリー、ジェイク、アルフィンに緊急呼び出しを伝えた。
    すぐに、三人が駆けつけた。
    「状況はどうなってるの?ジョウ」ケリーが訊いた。
    「侵入者は、ここから、約2キロ地点を進軍中。人数は二十人だ。動きからして、奴らはアンドロイド兵だ」
    「そんなに、近いの?基地の周りは電磁シールドが張ってあったんじゃないの。それは、作動してないの?」
    ケリーがサイモンに顔を向けた。
    「それが今、電磁シールドシステムに不具合がおきてまして」
    申し訳なさそうに、サイモンが答えた。

    「ちっ。しょうがないなー」ケリーが顔をしかめた。
    「ジョウ、敵が二手に散開したわ」アルフィンが報告した。
    「よし、俺とアルフィンが、右の奴らを受け持つ。ケリーとジェイクは左の奴を頼む」
    「ちょっと、待って、あたしは?」
    慌てて、ジェニーが口を挟んだ。
    「ジェニーはここで、奴らの動きをモニタリングしてくれ」
    「えー?あたしだけ、仲間はずれなの?」
    ジェニーの機嫌が悪くなった。
    「あんたは、もともと宿直なんだから、わがまま言わないの」ケリーがにやにやしながら言った。
    「ぶー」ジェニーが盛大に膨れた。

    「時間がもったいない。行くぞ、ケリー」
    一足先に、ジェイクが出て行った。
    「じゃあね、ジョウ、アルフィン」ケリーは、ジェイクの後を追いかけた。
    二人ともなんだか、楽しそうだ。
    「あたし達は、ジョウ?」アルフィンが訊いた。
    「クラッシュパックは持ってきたか、アルフィン?」
    「ここにあるわ」
    アルフィンが、クラッシュパックを差し出した。
    「よし、いくぞ」
    ジョウはクラッシュパックを掴むと、正面入り口へと駆け出した。
    アルフィンもジョウに続いた。

引用投稿 削除キー/
■1020 / inTopicNo.11)  Re[21]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 23:03:08)
    大きく日が傾いた頃、ジョウとリッキーが二人を連れて、基地に戻ってきた。
    二人を待ちかねて、タロス、ケリー、ジェニーは発着場で待ち構えていた。
    「ジェイ!」ジェニーが勢いよく、ジェイクに抱きついた。
    「もう、心配させないでよ」ジェニーの目に、うっすら涙が光っている。
    「すまん」
    「どうした、アルフィン、その顔」
    タロスがアルフィンの顔を覗き込んだ。
    泣きはらしたのか、腫れぼったい顔をしている。おまけに、全身泥だらけだ。
    「ジェイクと、泥投げでもしたの?」
    ケリーも、心配そうに、アルフィンを見た。
    「ちょっと、転んじゃって。心配かけて、ごめんなさい・・・あたしお風呂に行ってくるわ」
    そう言って、アルフィンは、そそくさと歩き出した。

    「ジョウ、ちょっと」タロスがジョウを呼んだ。
    「じゃあ、あたし達は先にいきましょう」
    ケリーが他の皆をうながし、歩き出した。
    タロスはジョウと二人きりになると、低い声でしゃべり出した。
    「さっき、<ミネルバ>にバードから、通信が入りやした」
    「バードから?」
    ジョウの目がきらりと光った。

    「血清を持ってきたので、宇宙港まで取りに来いとのことです」
    「そうか、血清が出来上がったのか!」
    「まあ、細菌を吸わなきゃ、そんなもん必要ありませんがな」
    タロスがにやりとした。
    「違いない。だが、備えあれば憂いなしだ。タロス、受け取りは、お前にやってもらおう」
    「へい、わかりやした。しかし、どうやって、ここを抜けますか」
    ジョウがタロスの耳元で、ぼそぼそと何かを喋った。
    「そりゃあ、いい」
    タロスの目が、うれしそうに輝いた。

    遅めの夕食をとっているときのことだった。
    ジョウの一行と、ケリーとジェニーが同じ席についていた。
    食事も中盤に差し掛かったとき、リッキーが声をあげた。
    「いてててて」腹を押えて、苦しそうな表情だ。
    「どうしたの、リッキー。また、お腹が痛いの?」
    隣に座っているアルフィンが、心配そうに声を掛けた。
    「また、急に腹がいたくなっちゃって・・・あいたたたた」
    とっても、苦しそうだ。

    「一度、病院に連れて行ったほうがいいんじゃないの?」
    ケリーがジョウに進言した。
    「どうしました?」
    サイモンがやってきた。
    「リッキーの腹が、また痛み出した。病院で検査をうけさせたい。すまないが、医者のところに行かせてくれないか?」
    仕事の最中に、現場を離れなくてはならないので、サイモンの許可が必要だ。
    「そうですか・・・また具合が悪くなったんですか」
    サイモンは、ちらりとリッキーに目をやった。
    「病院に行くとして、どなたが付き添いにいかれますか?」
    「タロスに行ってもらう。他のメンバーは、ここに残って、仕事を継続する。どうだろうか?」ジョウが訊いた。

    サイモンは少し考えてから返事をした。
    「わかりました。イレギュラーですから、仕方ありません」
    「すまない、サイモン」
    「ねえ、あたしもついていこうか?」ジェニーが口を挟んだ。
    「いや、タロスだけで十分だ。ジェニーは残って仕事をしてくれ」
    「そう?じゃあ、リッキーお大事にね」
    「ありがとう、ジェニー。それじゃあ、みんなごめん。おいら行ってくる」
    タロスが、リッキーに肩をかして、歩きだした。

    発着場に行くと、<ミネルバ>の側に、ジェイクが立っていた。
    その姿に、タロスとリッキーがぎくりとする。
    「どうした、お二人さん。これから、二人でランデブーかい?」
    「すまねえが、リッキーの腹が、また痛み出した。ミネルバで病院に向う」
    タロスが答えた。
    「う・・・いててて」腹を押えて、リッキーが苦しそうな声をだす。
    「ふーん。まあ、気をつけていきな」
    「すまん」早く、ミネルバに乗り込もうと、二人の足が速くなった。
    「そうそう、でっかいおっさん」
    「なんだ?」
    「あの、スパイ野郎にあったら、よろしく言っておいてくれ」
    「!」
    二人の目が丸くなった。
    ジェイクはそれだけ言うと、さっさとこの場を後にした。

    タロスとリッキーは<ミネルバ>に乗り込んだ。ブリッジに行くと、ドンゴは週刊誌を読んでいた。
    「おや、タロスにリッキー、もう仕事は終わったんですか?キャハ」
    「いや、まだだ。ちょいと、野暮用で宇宙港まで行くことになった。リッキー動力の確認を始めろ」
    「あいよ」
    リッキーは、勢いよく自分のシートに滑り込んだ。
    「まったく、兄貴も悪知恵が働くよな。おいらに病人の振りなんかさせてさ」
    いたずらっぽい色が、リッキーの目に浮かんだ。
    「ばーろー。そのおかげで、こうして堂々と仕事を抜けられんだ」
    「そうだね」
    二人は軽口を叩いているが、指はコンソールの上で、忙しそうに動いている。
    「離陸するぞ」
    「了解」
    <ミネルバ>は、一路宇宙港目指して飛び立った。

引用投稿 削除キー/
■1019 / inTopicNo.12)  Re[20]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:56:56)
    救助のVTOLがやってきた。だが、ジャングルの木々が邪魔して、着陸は出来ない。
    通信機から、ジョウの声が流れた。
    「収容フックを降ろす」
    ジェイクは、気を失っているアルフィンを抱きかかえ、VTOLから降りてきたフックをつかむと、二人の体が離れないようぐるぐると巻きつけた。
    「いいぞ、上げてくれ」ジェイクが、合図した。
    「リッキー」
    「あいよ」リッキーが収容フックのレバーを操作する。
    ふわりと、二人の体が地面から浮かび上がった。ジェイクは、アルフィンがのけぞらないよう、抱きかかえてやる。
    機体まで、あと20メートルというところで、突然上昇が止まった。
    「おい、どうした。早く、引き上げてくれ」ジェイクが怒鳴った。
    「あ・・・あれ、おかしいな」リッキーが、収容フックのレバーをガチャガチャ操作するが、反応がない。
    「だめだ、兄貴。動かない、故障だ」
    ちっ!ジョウが舌打ちした。

    「ジェイク、フックがいかれた。このまま、少し移動するから、しっかり掴まっててくれ」
    VTOLが、ゆっくりと移動を始めた。
    風が刺激になったのか、アルフィンが目を開けた。
    「う・・うーん。ここはどこ?」頭が朦朧とする。ジェイクの顔がやたら近い。
    「助けが来た。でも、フックがいかれて宙刷り状態だ」
    そう言われて、アルフィンは、ジェイクに抱きしめられているのに、気づいた。
    「な、なにすんのよ。その手離してよ」
    アルフィンが大声でわめき出した。

    目が覚めたとたん、これか。ジェイクは苦笑した。
    「そうか、わかった。ただ、急いでたから、フックがきちんと縛れなかった。俺が手を離すと、おまえさんは墜落しちまうかもしれん」
    「!」
    アルフィンの目に恐怖が浮かんだ。この高さからの、墜落は死を意味する。
    「でも、お姫様のご要望とあれば、これこのとおり」
    ジェイクがぱっと、手を開いた。
    「やめてー!離さないで!」
    叫びながら、今度はアルフィンが、ジェイクの首にしがみついた。
    「冗談だよ、冗談」
    ばっと、アルフィンが顔をあげた。
    「初心者じゃあるまいし、そんなやわな縛り方するかよ」
    「!」
    そして、ジェイクは、にやりとして言った。
    「おまえ、意外と胸があるんだな」
    アルフィンは、すかさず、ジェイクの首を絞めた。
    「う、、うわ。やめろ。こんなとこで・・・殺すきか!」
    「一遍、死になさいよ」アルフィンの目は本気だ。

    リッキーはさっきから、おろおろし通しだ。
    二人の会話は、クラッシュジャケットについている通信機を通して、まる聞こえだ。
    ジョウの頬が、ひくひく痙攣してる。
    今もまだ、二人のじゃれあってる声が聞えてくる。
    いや、正確には、アルフィンがジェイクを叩いているのだろう。
    「いてて、馬鹿、やめろよ。ほんとに落ちたらどうする」ジェイクの抗議の声が響いてくる。
    だが、リッキーには、二人が口喧嘩をしながら、お互いの距離を詰めているように感じて仕方がない。
    はあー。こっそりため息をついた。
    直ったはずの腹が、しくしく痛みだした。

引用投稿 削除キー/
■1018 / inTopicNo.13)  Re[19]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:52:40)
    二人はジャングルを走った。背の高い木々は姿を消し、竹によく似た木が生える林が姿をあらわした。
    そこかしこに、張り出された木の根っこのせいで、足元は不安定このうえない。しかも、じめじめ湿っていて、滑る。
    だが、ジェイクはそれをものともせず、アルフィンを引っ張り、全速力で走った。
    猿達が、石ころや泥を掴み、二人に向って投げはじめた。
    二人の体に何度も当たるが、気にしてはいられない。痛みを我慢して、突っ走った。
    いきなり、竹林を抜けた。

    急に、攻撃が止んだ。
    振り返ると、猿達が立ち止まっている。
    ぎー、ぎー、ぎー。ひとしきり叫び声を上げると、引き返していく。
    「あきらめたのかしら?」
    荒い息を吐きながら、アルフィンが言った。
    「みたいだな」
    呼吸の乱れを、ほとんどみせず、ジェイクが答えた。
    アルフィンは、ほっとして、地面に座り込んだ。

    「いいか、お姫さん。外見に惑わされるな。やっかいな相手ってのは、たいていこっちを警戒させないような姿をしてるんだ」
    アルフィンは、反論したかった。が、我慢した。
    なんといっても、小猿を呼び寄せたのはアルフィン自身だから。
    「わかったわよ」
    ぶすっとしながら言った。
    「いい子だ」
    ジェイクがアルフィンの頭を撫でた。
    一瞬、胸がドキッとした。

    「な、なにすんのよ。子供じゃないのよ」
    「そうか?俺には、さっきの小猿と、たいしてかわらんようにみえるけどな」
    ジェイクが真顔で言う。
    「きいー」アルフィンの顔が真っ赤になった。
    すくっと立ち上がると、拳で、ぽかぽかとジェイクを叩き出した。
    「うわ、いてて。なんだよ、いきなり」
    「どうして、そう、馬鹿にすんのよ。どうせ、あたしのこと、半人前のクラッシャーだと思ってるんでしょ!」
    そう、口に出したとたん、余計、頭に血がのぼった。
    半端なクラッシャー。ルーもそう言って、馬鹿にした。
    「どうせ、こんなとこに不時着したのだって、あたしのせいだと思ってんでしょ」
    完全な八つ当たりだって、わかっていた。でも、止まらない。すっごく腹が立つ。

    アルフィンは、拳に力を込めた。
    たまらず、ジェイクがひょいと、アルフィンをかわした。
    バランスを崩して、アルフィンがつんのめった。
    運が悪かった。
    ジェイクの後ろに、ぬかるみがあったのだ。アルフィンは、顔からもろに突っ込んだ。
    「げ・・」これには、ジェイクが固まった。
    「お、おい、大丈夫か?」
    ゆっくりと、アルフィンが起き上がった。顔が泥だらけだった。
    ぷっ。思わず、ジェイクが噴きだした。
    うわーん。アルフィンが、大声で泣き出した。物凄い音量だ。

    「おい。なんだよ、ちょっと、顔が汚れただけだろうが、拭けばきれいになるって」
    突然のことに、ジェイクはおろおろした。
    だが、アルフィンは泣き止まない。更に大声で泣きわめく。
    ジェイクは、アルフィンをなだめたりすかしたりしたが、効果が無い。
    アルフィンの凄まじい、癇癪を目の当たりにして、ジェイクは困り果てた。
    「なあ、頼むよ。泣き止んでくれよ。こんなとこ見られたら、俺がいじめたみたいじゃないか」
    アルフィンの声がぴたっと、止まった。顔は手で覆っているので、表情はみえない。
    「・・・じゃあ、謝りなさいよ」
    「へ?」
    「俺が悪かったって、言いなさいよ」地を這うような、低い声だ。
    「なんでだよ、俺は何もしてないだろうが」むっとして、言い返した。
    わっ!と、また、アルフィンが泣き出した。
    「わ・・わかった。俺が悪かった、全部俺が悪い。猿がでかいのも、ラビットを落とせなかったのも、みんな俺のせいだ。さあ、これでどうだ?機嫌直せ」
    一気に言った。しかし。
    「・・・心がこもってない」
    ぶちきれそうになったが、理性を総動員した。
    「そんなことない。心から思ってる」
    「・・・本当?」
    「ああ、本当だ」もう、やけくそだ。ジェイクは内心そう愚痴った。
    「・・・じゃあ、許してあげる」
    何を許されるのか、わからなかったが、とりあえずアルフィンが泣き止んだ。ジェイクは、ほっとした。
    こんな女初めてだ。呆れながらも、口元には笑みうかんだ。

    アルフィンは、ポケットから、ハンカチを取り出し、泥を落とし始めた。
    ひとしきり、顔を拭いて、ハンカチをしまおうとした。
    「ちょっと待て、まだついてるぞ」
    ジェイクが、ハンカチを掴んで、アルフィンの顔を拭いてやる。
    そのとき、強い風が二人の間を駆け抜けた。
    二人の髪が、まるで生きているように、たなびく。
    ジェイクの前髪が、ふわっと、持ち上がった。
    意思の強そうな眉の下に、深紫の瞳が現れた。とても優しい瞳だ。そして、まるで、大切なものを見るように、アルフィンを見ている。

    アルフィンの心臓の速度があがった。
    急に恥ずかしくなって、視線をそらした。
    「こっちこそ・・悪かったわ。たたいたりして」
    「気にするな」
    そう言って、ジェイクは笑った。
    いっつも、意地悪なジェイクが今はなんだか素直だ。
    「ふ、ふん。そんなこと言うなんて、あんたらしくないわよ」
    ジェイクが苦笑した。
    「そうだな・・・」
    アルフィンは思った。なんだか、居心地が悪い。奴の前で、泣いたのも不覚だった。
    アルフィンは、この雰囲気を打破しようと、辺りを見渡した。
    近くに、白い小さな花の群生が、目に入った。
    「みて、花が咲いてるわ」
    アルフィンが駆け寄った。
    「おい」
    「いいにおい」アルフィンは花の香りを楽しんだ。
    すると、何故か、頭がぐらりとした。体から力が抜けていく。

    「おい、大丈夫か」
    ジェイクが慌てて、アルフィンの体を支えた。
    そういえば、クルミンという、眠りを誘う花があるっていってたっけ。
    ぼんやりとアルフィンは思い出した。
    「しっかりしろ!」
    ジェイクが、アルフィンの耳元で怒鳴っている。
    厄介な相手は、警戒させない姿で現れる・・・さっきそう教えられたばかりなのに・・・
    そのとき、どこからか、VTOLのエンジン音が響いてきた。
    「迎えが来たぞ、アルフィン」
    ・・・アルフィン?初めて・・名前を・・呼ばれたなあ・・・
    アルフィンは眠りの世界に引き込まれた。

引用投稿 削除キー/
■1017 / inTopicNo.14)  Re[18]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:46:46)
    まず、アルフィンとジェイクが、最初にやったのは、救難信号を送ることだった。
    「救助が来るまで、休むぞ」
    そう言うと、大きな木の根元に、ジェイクが座った。アルフィンも、近くに座り込んだ。
    ジェイクは、アルフィンを責めない。さっきから、黙ったままだ。
    アルフィンは、ジェイクに謝ろうとかと思ったが、口は閉じたままだ。
    自分のミスで遭難したとはいえ、なんとなく、言い出しかねていた。

    ガサガサと、二人の背後で、何かが動く音がした。
    二人が身構えた。
    このジャングルには、大型の野生動物はいないと聞いている。しかし、広大な密林だ。どんな生き物がいるのか、わかったものではない。

    ばっと、その生物が現れた。
    「わあー、かわいい」
    アルフィンの顔がほころんだ。
    目の前に飛び出してきたのは、小さな猿だった。
    片手に乗りそうな、サイズだ。くりくりっとした大きな目で、アルフィンを見ている。
    猿は、二人に興味を覚えたのか、すぐ近くまでやってきた。

    「この子、群れからはぐれちゃったのかしら?」
    「そうだな。子供のようだ」
    「おいで」
    アルフィンが、手を差し出した。
    「よせ!」
    ジェイクがその手を掴んだ。
    小猿は、びっくりして、木の後ろに引っ込んだ。
    「なにするのよ、逃げちゃったじゃないの!」
    アルフィンの眉が、きりりとつり上がった。
    「やたらに、ちょっかい出すな。見た目と違って、凶暴なやつだったら、どうする」
    アルフィンは呆れたように言った。
    「なーに、言ってんのよ。あんなにかわいいのよ。そんなわけないでしょう」

    そろり、そろり、また小猿が近づいてきた。好奇心が旺盛らしい。
    アルフィンが手を出すと、ぴょんとジャンプして、アルフィンの手に乗った。
    「かっわいー」
    アルフィンが小さな頭を撫でた。小猿は嬉しそうに目を閉じる。
    「ったく。しようがねえなー」
    ジェイクが頭をかいた。
    そのとき、二人は気がついた。たくさんの生き物が、二人を見下ろしていることに。
    そこらかしこに、ぎらぎらと光る、金色の目があった。
    ぎいー、ぎいー、ぎー!
    耳障りな彷徨が、耳を打つ。

    アルフィンがゆっくり、後ずさった。
    「これって・・・」
    「こいつの仲間が、迎えに来たんだ」
    ジェイクが、無反動ライフルを構えた。
    のそり、のそり、一匹の猿が姿を現した。異様に体が大きい。二人を威嚇するため開いた口元には、鋭いきばが見える。
    「ちょっと・・・子供と全然違うじゃないの・・・」
    アルフィンの顔がひきつった。
    「小さいうちはかわいくても、でかくなったら、別物。人間でもよくあることさ」
    大猿が二人に飛び掛ってきた。
    ジェイクが、猿に向って引き金を引いた。
    「やめて」
    アルフィンが叫んだ。この猿達は、群れからはぐれた小猿を探しに来たのだ、殺すのはしのびない。
    猿がドシーンと、派手にひっくり返った。
    その様子に、他の猿達が興奮して、木々をぎしぎしと揺らし、大きな叫び声を上げ始めた。

    「安心しな。腕を掠めただけだ。その、チビを放せ」
    アルフィンは、言われた通り、小猿を地面に降ろした。
    小猿は、倒れている、大猿の元に一目散に駆けていく。
    大猿は、頭を振りながら、ゆっくり起き上がると、大切そうに、小猿を抱きしめた。
    「逃げるぞ!」
    そう言うと、ジェイクはアルフィンの手をとり、走り出した。
    ぎー、ぎー、ぎー!
    猿達が、一斉に二人の後を追いかけた。

引用投稿 削除キー/
■1016 / inTopicNo.15)  Re[17]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:43:48)
    少し、時を戻して。
    アルフィンから、トラブルのため不時着すると、制御ルームに通信が入った。
    そして、その直後、連絡が途絶えた。
    その場にいた、全員が色めき立った。
    「レスキュー用のVTOLがあります。それを使ってください」予想外のトラブルに、サイモンはおろおろしている。
    「救助に行くぞ」ジョウの顔が殺気立っている。
    「あたしも行くわ」青い顔で、ケリーが言った。
    「待って、あたしも行く」ジェニーの顔も真っ青だ。
    「それは、おいらに行かせてよ」
    大きな声がした。リッキーが入り口の所に、立っていた。

    「リッキー、おめえ、大丈夫なのか?」タロスが訊いた。
    「大丈夫。薬を飲んで、腹の具合はよくなったよ」
    リッキーがジョウに懇願した。
    「頼むよ、アニキ。元はといえば、おいらのせいだ。だから、おいらを連れてっておくれよ」
    リッキーの目は、真剣そのものだ。ジョウが、ケリーを見た。ケリーが頷いた。
    「頼んだわよ、リッキー、ジョウ」
    リッキーの顔がぱっと輝いた。
    「こい、リッキー」
    「うん」
    二人は駆け出した。

    この騒ぎの中、サイモンは隣のミーティングルームに、そっと入った。
    胸ポケットから、小さな通信装置を取り出した。
    呼び出しボタンを押すと、程なくして、相手がでた。
    「状況はどうなってる?」
    「予定通りです。ラビットの攻撃で戦闘機が、一機ジャングルに墜落しました」
    「わかった。では、東ゲートを開けておいてくれ。今夜迎えにいく」
    「わかりました。お待ちしています、ハンスさん」
    通信が切れた。

引用投稿 削除キー/
■1015 / inTopicNo.16)  Re[16]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:41:06)
    リッキーの代わりに、アルフィンがジェイクとペアを組んで出発した。
    アルフィンの気分は最悪だ。
    二日続けて、大ッ嫌いなジェイクと一緒。奴は、コパイ席で居眠りしている。
    (まあ、いいわ。さっさと、片付けて、基地に帰ろっと)
    ポイントに差し掛かると、いつもと同様ラビットが打ち上げられた。
    しかし、アルフィンは知らなかったのだ。、今日のラビットはいつもと違うことを。
    それは、サイモンの発案だった。いままでの、ラビットだと、簡単すぎるようなので、ちょっと動きを加えると言ってきた。
    アルフィンは、リッキーをメディカルルームへ連れて行っていたので、その件を聞き逃していた。

    「・・・そろそろか」
    ジェイクが目を覚ました。
    アルフィンは、前方にラビットの姿を捉えた。トリガーボタンを押そうとしたとき、戦闘機の後方から衝撃が伝わってきた。
    「何?これ?」
    ラビットがバンバンと、戦闘機に体当たりしているのだ。
    「おい、やられてるぞ。さっさと、かわして打ち落とせ」
    「言われなくても、やるわよ!」
    アルフィンは、後方のラビットを振り切るべく、操縦桿を引き、機体を急上昇させた。
    しかし、ラビットが、ぴたっと、くっついてくる。
    「しつこいわね、これでどうよ」
    機体をぐるぐると回転させた。しかし、ラビットは離れない。

    「おい、何遊ばれてるんだ。まだ、一匹もしとめてないぞ」
    「うっさい。少し黙ってて!」
    アルフィンは、なんとかラビットを振り切ろうと必死だ。
    そのとき、ドーンと突き上げるような衝撃が二人を襲った。
    ラビットが、一斉に体当たりしたのだ。
    しかも、そのせいで、エンジンの近くが破損し、みるみる、スピードが落ち始めた。
    「ど・・どうしよう。エンジンがやられちゃった」
    アルフィンが真っ青になった。
    「落ち着け、水平飛行を保て」
    しかし、それは無理な相談だった。ハリーマックスは、高度をぐんぐん下げ始めた。
    「だめ、エンジンが完全にいかれて、高度を保てないわ」
    アルフィンが金切り声をあげた。
    「仕方ない、不時着地を探すぞ。操縦桿をこっちにまわせ!」

    ガザ大陸は、背の高い木々に囲まれたジャングルだ。訓練エリアなら、木々も伐採されており、着陸に適している。
    だが、二人の乗った戦闘機は、どんどんそこから離れていく。
    眼下には、緑の大地が、二人を待ち構えるよう広がっていた。
    失速が始まった。地上がみるみる迫る。

    「くそ、つっこむぞ。身構えろ!」
    アルフィンとジェイクは、着陸のショックに備え、顔面をかばった。
    密林に突っ込んだ。木々をなぎ倒し、凄いスピードでジャングルを突き進む。
    大きな枝が、フロントウィンドウに雨のように、降り注ぐ。そのせいで、ウィンドウに亀裂が走った。
    今度は、翼がすっ飛んだ。メキメキっと、嫌な音とともに、外鈑も剥がれ落ちた。
    地面に大きな陥没があった。ボンと、機体が跳ねた。二人の体も大きく跳ねた。シートベルトが体に食い込み、喉元まで、胃液がこみ上げてくる。
    前方に巨木があった、その二股に分かれた根元に機首を突っ込む形で、ハリーマックスが止まった。
    キャノピーが開いた。ジェイクがクラッシュパックを外に投げた。
    アルフィンに、機外へ出るよう怒鳴った。しかし、失神寸前のアルフィンは反応できない。ジェイクは、アルフィンを強引に引っ張りだし、地上へとジャンプした。
    そして、全速力で駆け出した。程なく、背後で爆発が起こった。
    二人は、無言で、その様子をみつめた。

引用投稿 削除キー/
■1014 / inTopicNo.17)  Re[15]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:37:10)
    夜が明けた。
    リッキーは、ほとんど眠れなかった。
    タロスに相談しようかとも考えたが、止めた。
    ジェニーとの詳しいやり取りを話す羽目になる。それは、絶対駄目だ。
    悶々としているうちに、朝になった。

    ミーティングルームに、皆が集まった。
    リッキーの様子が、おかしい。ジョウが気づいて、声をかけた。
    「どうした、リッキー。顔が青いぞ」
    「そ、そんなこと無いよ」
    ジェニーと目があった。
    (さっさと、やりなさいよ!ぐず!)目がそう言っている。
    腹がしくしくする。

    「具合でも悪いのか?」
    「い、いや」
    「なんだー、チビ助。お前、今日はメインパイロットの日だろうが、そんなんで操縦出来んのか?」
    ジェイクがいらいらした様子で、リッキーの側にやってきた。
    ジェイクに詰め寄られたときの、恐怖がよみがえる。
    きゅるるるる。リッキーの腹から、盛大な音がした。
    「いてててて」
    たまらず、体を二つに折って、しゃがみこんだ。
    「大丈夫?リッキー」
    アルフィンが、リッキーの背をさすってやった。
    リッキーは、なんとか背筋を伸ばそうとするが、思うようにいかない。腹が、刺すように痛む。
    「昨日、あんなに食うからだぞ」呆れたように、タロスが言った。

    「リッキー具合悪そうね。今日は休んだほうがいいんじゃない、ジョウ」心配そうな声で、ジェニーが言った。
    「ああ」返事をして、ジョウはジェイクに向き直った。
    「すまんが、今日のペアは、アルフィンに変更させてくれ。リッキーは休ませる」
    「・・・ふん」ジェイクが鼻を鳴らした。
    (ああ・・・自分の心と裏腹に、ジェニーのシナリオ通りに、ことが進んでいく)
    「アルフィン、リッキーをメディカルルームへ連れて行ってくれ」
    「わかったわ。さあ、リッキー」
    アルフィンに、支えられ、リッキーが立ち上がった。
    ジェニーと目が合った。かわいらしい顔でにっこり微笑んでいる。
    他の人からみたら、天使の微笑みにみえるだろう。
    でも、リッキーは思った。あそこにいるのは、悪魔だ!

引用投稿 削除キー/
■1013 / inTopicNo.18)  Re[14]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:34:47)
    その日の仕事を終えた、アルフィン、ケリー、ジェニーの三人はまっすぐスパに向かった。
    むろん、仕事で疲れた体を癒すというのもあるが、実際は、女三人だけのおしゃべりが楽しくて、最高の気分転換になるのだ。
    バスローブをまとい、デッキチェアーに横たわる。アルフィンとケリーはアイスティーを、ジェニーはジュースを飲んでいる。

    「ねえ、アルフィン」
    「なあに、ジェニー」アルフィンは口元に、ストローを運んだ。
    「アルフィンとジョウって、どこまでいってるの?」
    アルフィンが、アイスティを吹いた。
    「な、なあに、いきなり」
    心臓がどきどきする。

    「二人って本当に恋人同士なの?」
    ジェニーの質問に、アルフィンの顔が赤くなった。
    これには、ケリーも興味があるのか、黙って二人を見ているだけだ。
    「えっと・・・関係って、そうねー・・・うーん・・あたしとジョウは、その・・・」
    うまい言葉が、見つからない。
    その様子を見て、ジェニーは思った。
    (この様子じゃ、この二人、いいとこキス止まり。ううん、ひょっとしたら、それさえまだかも)

    そのとき、ジェニーの頭に素晴らしいアイディアが浮かんだ。
    ジェニーは、すくっと立ち上がった。
    「ごめん、。用事思い出したから、先にいくね」
    「あ・・・うん。わかった」
    ほっとしたように、アルフィンが答えた。


    リッキーは、とってもいい気分で、通路を歩いていた。
    今日の夕食は、リッキーの大好物がならんだ。三杯お代わりをした。
    タロスがちょっかい出してきたが、知らん顔でやりすごした。ジョウに、腹をこわすぞ!と言われなかったら、もう一杯いっていたところだ。
    なんていっても育ち盛り。

    「リッキー」
    突然声を掛けられた。薄暗い通路に、ジェニーが立っている。
    「どうしたんだい、こんなとこで」
    「リッキーに話があるの」
    ジェニーは、リッキーの腕をがっしと掴むと、近くの、使われていない部屋へと引っ張り込んだ。

    「なんだよ」
    「ねえ、アルフィンとジョウって、まだ恋人同士じゃないんでしょう?」
    「え?なんだよ、藪から棒に」
    「どうなの、リッキーからみて、あの二人って」
    なんだか、ジェニーの目は真剣そのものだ。
    「そうだな・・・まあ、恋人同士の一歩手前で足踏みって感じかな」
    「やっぱり!」
    「え?」

    「あのね、あたし、リッキーにお願いがあって」
    「お願い?どんな?」
    「あたしに協力してほしいのよ」
    「協力?なんだい、おいらに出来ることなら、何でもするぜ」リッキーが胸を張った。
    「あたし、アルフィンのこと、とっても気に入ったの」
    (アルフィンを?物好きな・・・)

    そして、ジェニーが爆弾発言をした。
    「アルフィンって、まだフリーなんでしょう。なら、うちのジェイクの恋人になってほしいのよ」
    「なんだって!」
    リッキーが、びっくり仰天した。
    「そうよ。二人がうまくいって、結婚してくれたら、あたしたち家族になれるもの。二人をくっつけるには、まずアルフィンの情報がほしいの。
    だから、リッキーが知ってること、全部教えて」
    これには、リッキーがむきになって反対した。
    「そんなこと、出来るわけ無いだろ。ジョウを裏切るような真似、出来るもんか」
    「そんなこと言わずに、ね、お願い!」
    「だめだ。出来ないね」
    リッキーの態度はかたくなだ。

    しかなるうえは・・・
    ジェニーは、リッキーの右手を取ると、そっと自分の胸にあてがった。
    「な・・・なにするんだよ」
    リッキーが、1メートルばかり飛び上がった。
    「あんた、あたしの胸触ったわね」ジェニーがにっこりと笑う。
    「な・・何言うんだよ。自分が強引に触らせたんじゃないか」
    リッキーの顔は、真っ赤だ。

    「経緯なんて関係ない。あんたは、あたしの胸を触った。これは、ごまかしようの無い事実よ。さて、このことを、ジェイクに言ったら、どうなるかしら?」
    今度は、リッキーの顔が青くなった。なんだか信号機のようで忙しい。
    「半殺しじゃ、すまないわよ。ジェイは凄腕でならした傭兵なんだから。あんたみたいなおきらく坊や、瞬殺よ。しゅ・ん・さ・つ。どうする?あたしに、
    協力する?それとも、ジェイクに殺られちゃう?」
    ジェニーが楽しそうに言った。

    「き・・汚いぞ!おいら、やってないって、ちゃんと説明するさ」
    「無理無理。あんたの言葉と、あたしの言葉、どっちを信じると思うの?」
    (うっ!そんなの決まってる!)
    「明日、あんたはジェイと組む日だったわね。アルフィンは、待機と。ちょうどいいわ、あんた、仮病使って休みなさいよ」
    ジェニーがけろっと、言い放った。
    「なんてこと言うんだよ。仕事に穴あけられるわけ無いだろう!」
    「気にしない。気にしない。ジェイとアルフィンが組んだほうが、数倍いい仕事できるわよ」
    「・・・」
    酷いいいようである。

    「じゃあ、明日。病気になるの、忘れないでよ」
    手をひらひら振り、ジェニーは出て行った。
    「お・・・おい、待てよ。おいら、そんなことしないからな」
    しかし、ジェニーは戻ってこない。鼻歌を歌いながら、行ってしまった。
    リッキーが呆然と、その背を見送った。

    ジェニーが見えなくなると、リッキーは、自分の右手をみた。
    (おいら・・女の子の胸触っちゃったんだ)
    その初めての感触に、思わず顔がにやけた。が、すぐにかぶりをふって、雑念を追い払った。
    その手にのるもんか。おいらは、ジョウのチームの一員だぜ!
    でも、ジェニーの言うことを聞かなければ、あのシスコン男に半殺しにされるかもしれない・・・
    いや、悪くすれば、フライトの途中事故を装って、窓から放り出されるかも・・・
    考えていたら、腹が痛くなってきた。
    重い足取りで、リッキーはその部屋を後にした。

引用投稿 削除キー/
■1012 / inTopicNo.19)  Re[13]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:28:29)
    「いってぇー。なにすんだよ!」
    アルフィンは、何か言おうとするが、ショックのあまり声が出ない。口だけが、パクパクしている。
    「ど・・・どうして何も着てないのよ!ばかー!」やっとこさ、声がでた。
    「はあ?そんなの俺の勝手だろ。第一、裸を見られたのは俺だぜ?なんで、お前が怒ってるんだよ。普通、逆だろ」
    呆れたようにジェイクが言った。
    「うっさい!」アルフィンの顔は、ゆでた蛸のように真っ赤になった。
    「ははん!」
    「な・・なによ」
    「その様子からすると・・・さては、おまえ、男の裸みたことないんだろう?」
    「な・・・なによ、それ」
    明らかにアルフィンが動揺した。

    「だってそうだろ。取り乱しすぎだぜ。そうか、かわいそうに・・・サラブレッドの王子様とはまだなんだな」
    ジェイクがニヤニヤしながら言った。
    ぷつん。アルフィンの中で、何かが切れた。
    次の瞬間、ジェイク目がけてダイブした。
    「わ!」
    アルフィンに伸し掛かられ、ジェイクがひっくり返った。今度は、アルフィンがジェイクにまたがった。
    「いい加減におし、この悪魔!人がおとなしくしてれば、いい気になって!少しは、その減らず口閉じてなさいよ」
    両手で、首を締めた。
    「うわ、よ・・・よせ」
    そのとき、ドアが開いた。
    「何してるんだ、アルフィン!」
    ジョウが驚きの声をあげた。
    ヒュー。後からやってきた、ジェニーが口笛を吹いた。
    「いい格好ね、ジェイク」そう言って、笑い出した。
    タロスとリッキーは、あまりの光景に呆然としている。
    「おい、アルフィンに酒飲ませたのか?」タロスが小声で、リッキーに訊いた。
    「ううん。そんなこと、してないよ」リッキーも小声で答えた。

    アルフィンは、我に返ると、すばやく、飛び去った。
    「ち・・・違うのよ。これには、訳があって」
    アルフィンは、しどろもどろだ。
    「大丈夫、アルフィン?うちの馬鹿が何かした?」
    「おい、ケリーそれは無いだろう。被害者は俺だぜ」体を起こしながら、ジェイクが言った。
    「この女が、いきなり襲ってきたんだぜ」
    「なんですって!」
    「よせ、アルフィン」ジョウが押しとどめた。
    「だって、ジョウ」アルフィンが食い下がったが、ジョウにきつく見据えられ、言葉をぐっと飲み込んだ。
    「詳しい、いきさつはわからんが、迷惑をかけたなら、謝る」
    「へー、さすがチームリーダー、話がわかるらしい」
    「だが、ジェイク。集合時間はとっくに過ぎてる。早く着替ろ。十分後にミーティングをやる」
    そう言うと、ジョウはアルフィンの腕を引っ張り、外に連れ出した。

    ジョウはアルフィンを連れ、ミーティングルームとは、逆方向に歩いていく。
    ジョウは無言だった。
    (怒ってる)アルフィンはそう思った。仕事の直前、あんな失態をみんなの前で演じてしまった。
    しかも、何の落ち度もないのに、ジョウがジェイクに謝罪する羽目になった。
    謝ろう。口を開こうとしたら、先を越された。
    「気にするな」意外な言葉だった。
    「え?」
    「どうせ、アイツの挑発に乗せられたんだろうが、気にするな」
    「ジョウ!」
    「アルフィンは頑張ってる。俺たちは、それを知ってる。それで十分じゃないか?」
    そう言って、ジョウが笑った。
    アルフィンの心がふんわり温かくなった。
    嬉しくなって、ジョウに抱きつこうとした。
    「おっと、ストップ。アルフィン」
    ジョウが赤くなりながら、アルフィンを制した。
    「すぐ、ミーティングだ。行くぞ」
    「うん」
    アルフィンは、足早に歩き出したジョウの後を、追った。

引用投稿 削除キー/
■1011 / inTopicNo.20)  Re[12]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:26:58)
    ダコタで仕事を始めてから、6日目の朝。
    フライトの前に、必ず、ミーティングを行うことになっていた。
    今日の、ペアは、ジョウとケリー。ジェイクとアルフィン。タロスとジェニー。リッキーは待機。
    皆は、時間通りやってきたが、ジェイクがまだだった。
    「もう、なにしてるのよ。あいつ。毎日遅れてきて」
    アルフィンが、カリカリした。
    「まだ、寝てんのかも。寝起き悪いのよね、ジェイって」他人事のように、ジェニーが言う。
    「あたし、叩き起こしてくる」
    そう言うと、アルフィンは身を翻して、部屋を出ていった。
    「あっ、ちょっと待ってアルフィン」
    ケリーが止めようとしたが、すでにアルフィンは、行ってしまった。
    「ちょっと、ジェニー、あんたも見てきて頂戴」
    「いやよ」
    「ジェニー!」
    「だって、ジェイの奴寝起き悪いんだもん。やだよ」
    「そんなに、寝起きが悪いのかい?」リッキーが訊いた。
    「悪いも、悪い。下手に起こそうとすると、殴りかかってくるのよ」
    その時、僅かに悲鳴が聞えた。
    アルフィンの声だ。
    「どうした?」打ち合わせしていた、ジョウとタロスがやってきた。
    「さっき、アルフィンがジェイクを起こしにいってくれたの。待ってて様子みてくるから」
    ケリーが走り出した。
    「あたし達も行きましょう」
    ジェニーに即され、その場に残っていたジョウ達もジェイクの部屋に向かった。


    アルフィンは、ジェイクを起こすべく、彼の部屋の前までやってきた。
    ドアを叩いた。
    しかし、応答が無い。ドアをあけ、中に入った。
    毛布をかぶって、丸くなっている姿が目に入った。
    (ゆるせない!叩き起こしてやる!)
    アルフィンの手が、毛布に伸びる。

    ジェイクは、夢の世界をさまよっていた。
    しかし、それは楽しい夢ではなく。彼の心を蝕む、悪夢だった。
    無数の銃口が、ジェイクに向けられる。
    やられる!そう思った瞬間、女が飛び出した。
    容赦なく、女の体を無数の銃弾が貫いた。
    女の体から、鮮血が飛び散る。それは、雨のように、ジェイクの顔や体に降り注ぐ。
    女が倒れざまに、ジェイクに顔をむけた。
    口がわずかに動いている。
    ジェイクは、必死でその言葉を聴こうとする。
    「なんだ、何を言ってる」声が小さくて、彼の耳まで届かない。
    女が、地面にひれ伏した。
    かけようろうと、足を踏み出すが、動けない。彼の足は、鎖につながれていて、自由を奪われている。
    銃を構えた男たちが、ジェイクに近づく。
    ジェイクの首をしめようと、、男の大きな手が、ジェイクの首へと伸びる・・・

    ジェイクは、自分に突き出された腕を掴んだ。
    そして、相手をねじ伏せ、首を締め上げた。
    「く・・くるしい!」
    ジェイクは目を覚ました。そして、声の主に気がついた。アルフィンだった。
    ベッドで、彼女の上に馬乗りになり、アルフィンの首をしめあげていた。
    「何で、おまえがここにいる・・・」ジェイクが手を離した。
    アルフィンは、突然の出来事に、目を白黒させながら言った。
    「あ・・あんたが遅いから、起こしにきてやったのよ」
    そう言って、アルフィンは、ジェイクを見上げた。
    ジェイクの体に刻まれた無数の傷が目に入った。そして、左胸のそばには、ひきつれた様な、大きな傷跡があった。
    傷跡?
    アルフィンは、はたと、気がついた。
    自分を組みふしている男が、服を着ていないということに。全裸だった。
    ぎゃあーーーー!!物凄い、悲鳴があがった。
    思いっきりジェイクを突き飛ばした。ジェイクはバランスを崩して、毛布ごとベッドから落っこちた。

引用投稿 削除キー/

次の20件>

トピック内ページ移動 / << 0 | 1 >>
Pass/

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

- Child Tree -