| ”・・・・バタン・・”
シャワールームから出て、部屋の奥にあるクローゼットの中から取り出したクラッシュジャケットを”ばさ”と肩に引っ掛ける。 頭には洗ったばかりの髪を拭くための大き目のタオルを被り、左手にはフリーザーから出しておいたミネラルウォーターのペットボトル。ペットボトルのキャップを軽くつまみ、ぶらぶらと大きく振りながら、右手で大雑把に髪を拭く。大股でベッドサイドまで来ると、ローボードにペットボトルを置き、そのままベッドに腰を下ろした。 もう一度、両手で頭のタオルをつかみガシガシと髪を拭いた。
現在、標準時間の朝6時。 今日から近くの惑星国家の要人警護の仕事が入ってる。クライアントと会うのは昼過ぎだから、まだまだ余裕だな。ちょいと肌寒い気もするが宇宙空間ではいつものことだ。
タオルを頭に載せたまま、ベッドサイドのローボードを見る。 今置いたペットボトルの横に、ちょこんと置いてある小さな白いメッセージカード。 左手を伸ばしカードを摘んで、何度目かの内容確認。
「おはよう。朝食の支度があるのでお先に失礼。今朝のコーヒーには期待しててね」
自然に顔が綻んでくる。 俺が目を覚ました時には、もうアルフィンは部屋を出た後だったから、このメッセージを書いたのは相当前だ。ちゃんと眠れただろうか。風邪なんかひかなかったよな。 昨夜は何度も何度も互いの肌を重ね合わせ、何度も彼女の流れる金髪を捕まえて口付けた。ずっと前からこうなることを望んでいながら、なかなか思い切ることが出来なかった。 でも、一度必死で守ってきた決壊が崩れてしまうと。 もうどうにも止めようがなくなった。 アルフィンの全てを俺の中に取り込みたくて何度も何度も抱き合った。夢中になりすぎて、何時ごろに眠ったのかもさっぱり覚えていない。 シャワーを浴びて体のほてりは冷ましたものの、俺の部屋は。 まだ昨夜の熱い空気が薄い膜になって、そこら中に張り付いている気がする。 アルフィンが先に起きていてくれて助かった。まだアルフィンが俺の横に眠っていたら、なんだかんだと理由をつけて、俺はアルフィンを腕の中に閉じ込めていたかもしれない。
頭に置いてたったタオルをつかみ、ローボードの上に置く。頭を左右に軽く振ると大分髪が乾いてきたのが分かった。右手で前髪を掻きあげる。 カードを見ながらペットボトルを手にとりキャップを開け、一口、口に含んだ。 冷たく澄んだミネラルウォーターが、再び猛り出した体の熱をゆっくりクールダウンしていく。
「・・それにしても」 アルフィンの残していったメッセージカード。 文面を見る限り全くいつも通りだ。むしろ余裕まで感じるのは俺だけか? 肩に引っ掛けておいたクラッシュジャケットを手に取り、黒のタンクトップの上から身に付ける。 「俺の方が動揺してたりしてな」
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