| 「2億クレジットねえ」 「2億クレジットだよ」
タロスとリッキーが、ミネルバのリビングルームで何か妄想している。 「・・そうだなあ、もし当たったらテラに一軒、老後の家でも買ってのんびり過ごすってもの悪かねえなあ」 遠い目になりながら両手でコーヒーカップを包むように持ち、ズズ・・とコーヒーを啜った。 リッキーは、そんなタロスを見やりながらポツリと一言、 「じじくさ・・」 と言った。右手には砂糖とクリームのたっぷり入ったカフェオレを持っている。 「デカイ犬なんか飼ってなあ。あちこちを旅行してワインたくさん買いあさって。そうだ、ワイナリーなんか開くってもいいよなあ」 タロスはリビングテーブルにコーヒーを置き、両腕を大きく広げて夢の中へ思いをはせる。彼の顔の周りに小さな妖精が2,3人飛んでいるかのようだ。 タロスに向かい合わせで座っているリッキーは、興味なさそうに 「・・・ワイナリーねえ。そんな体力残ってんのかよ。自分をいくつだと思ってんだ」 と、こちらもズーと音を立ててカフェオレを飲む。 「実年齢に中身が追いついてこないガキに言われたかねえな。俺は50代だが身体的にはまだまだ30代をキープしてんだ。おめえさんは、ちっとばかり精神年齢を上げた方がいいぞ?」 バカにしたように片方の目を細めながら、タロスはニヤリと笑みを浮かべる。 「はあ?30代?この前の仕事でゼイゼイ息を切らしてたのは、どこのジイさんだっけ?」 リビングルームの天井を仰ぎながらリッキーは右手に持ったフットボール・ロトをひらひらさせる。 「うるせえよ。じゃあ、お前はどういう使い方するってんだ、クソチビ!!」 右手をリビングテーブルに乗せ、ぐぐっと上体をリッキーに詰め寄るように乗り出しながらタロスが食って掛かった。 「聞きたい?」 リッキーが、そのどんぐり目を大きく見開いてニヤッと笑う。 ロトは全部で4枚買ってある。ジョウ、タロス、リッキー、アルフィンの全員分だ。万が一、当選くじがでた時には、速やかに全員で協議のうえ全額をきれいに使い切ることになっている。まあ、ほとんどその可能性はゼロに近いが。 「言ってみな」 タロスがドスの聞いた声でリッキーを促す。 「聞いて驚け。まずは1億クレジットでテラのベガスの一番でかいカジノを借り切る。んで、そこでスロットを死ぬほどヤッて、3倍にした資金でどっか辺境の惑星を1つ買う。もちろんテラフォーミングするんだけど、もしそうなったら兄貴達にやってもらうから、普通より安くしてもらって、今度はそこにドデカいアミューズメントパークをおっ建てる。で、じゃんじゃん金をもうけんの。残った金は死ぬほどプラモデルを買って、ひたすら組み立てんだ。う〜〜〜!!!楽しくて死んじゃいそーーー!!!」 心底楽しそうに笑いながら座っている椅子の上で足をバタつかせている。 「あんた、バッカじゃないの?」 それまで黙って聞いていたアルフィンが、キッチンカウンター越しに口を開いた。手元には、もうすぐ当直を終えてやってくるであろうジョウの昼食が用意されている。 「ベガスでもとの3倍儲けるって、何を根拠にしゃべってんのよ。おまけに、あたし達に安く惑星改造をさせるってどういう了見?」 手元にあった食器拭きをリッキーに勢いよく投げつける。 リッキーは、上体でひょいとそれを交わしながら 「だって、おいらが依頼人になるんだから、値段の交渉をするのなんて当然じゃん?まあ、でも、みんなには色々世話になってるから正規の値段でもいいや。即金で払ってやるよ」 とカラカラ笑いながら話した瞬間、タロスの鉄拳とアルフィンの投げた雑巾がリッキーに同時に命中し、リッキーは椅子ごと後ろに倒れこんだ。
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