| ぴりぴりとした空気が流れた。 するとアルフィンから、ひとつの疑問が投じられる。 「ジョウ、いつこの人達の手にサンプルが渡ったの?」 その言葉に、ジョウの怒りがさっと冷めた。そうだ、と気持ちが切り替わる。ここで彼らを殴ったところで、自白の口が閉ざされては意味がない。さらに追求することが先決だった。 「それは簡単な話じゃないかな。髪の毛くらいなら、どうとでも入手できる」 カイルが、先に応えた。 「それだとジョウとしての完成度は6,70パーセントなのよね」 「素材が新しければ、もう少し上がるんではないかな」 「けど……」 アルフィンは右手を頬にあて、ジョウのフリュイに視線を移す。 息のないその顔を、切なそうに見つめた。 「あたし、そうは思えなかった。……ジョウが助けてくれる感覚と同じだった。この人も」 「助けた?」 カイルの眉がぴくりと呼応する。 「感情コントロールをされているというのに? どういうことかね、博士」 するとマックスが面もちを上げた。 「お嬢さんは、鋭い……」 そしてアルフィンを見つめた。 そのまなざしが、なぜかやけに優しい。 「やはり、あなたのフリュイを処分するのではなかった……」 アルフィンの碧眼が見開く。 そして絶句した。 「どういうことだ!」 ジョウがマックスに詰め寄ろうとした。 「堪え時ですぜ、ジョウ」 またタロスの腕が止める。 しばし間を空けてから、マックスは続けた。 「クラッシャージョウ。あなたと社交パーティーに出た女性は、彼女のフリュイだ」 「……なんだって」
するとマックスは重い足取りで、ジョウのフリュイに近づいた。電磁手錠で自由を奪われていても、できることはある。その手で、黒のスペースジャケットの襟元を開けた。 マックスの指が何かを指す。 「これがフリュイの刻印だ。出来上がって数日のフリュイは、なぜかこれが肌に浮かび上がる」 点々と朱を落とした印。3点を結ぶと、正三角形が浮き上がる。その模様。 ジョウの記憶から、それが恐々として浮かび上がった。 確かに見た。アルフィンを抱いたと思っていた夜に。 だがあれはフリュイだったことも同時に知らされた。 「う……」 ジョウは呻き、開いた口を塞ぐことができないでいた。 「最初に、彼女の髪の毛から早急にフリュイを作った。それは、クラッシャージョウのより鮮度と濃度が高い素材を手に入れるためだ」 「……一体それは何かね」 カイルがさらに追求した。 「ま、待ってくれ!」 だがそれをジョウが慌てて制止した。カイル、そして3人のクラッシャーの視線が一斉にジョウへと注がれる。 頭が混乱して、まとまらない。 だがとてつもなく悪い予感だけはする。 あの艶めかしい夜を演出し、素材として採取されるものがあるとしたら。 知られてはいけない。 ジョウの本能が、激しくそれを警告していた。
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