| 「あ、ちくしょうめ」 タロスは、舌打ちした。視線の先には、小型スクリーンがある。文字が連なり、スピーカーからはメロディが流れていた。 クラッシャー本部からのメッセージである。バースデー休暇開始の通信だった。なにせ10年ごとの温情。うっかり忘れてしまっても仕方がない。<アトラス>でダンにも、これと同じメッセージが届いたことを今頃になって思い出した。 「なんだいこれ?」 リッキーにしてみれば、初めて見るメッセージ。タロスは簡単に、その意味を解説してやる。 するとどんぐり眼も、ちぇっと言いたげに歪んだ。 「なんだい、ちゃっかりしてんな兄貴も」 毒のある口調だが、表情は徐々ににんまりと変わる。 「てめえの記念は、てめえでつくる。ま、それが一番妥当っちゃ妥当だ」 「どのみち、俺ら達の“とびっきり”は駄目そうだったしね。よかったよ、これでアルフィンにどやされずに済む」 「いや、計画通りだな、これも」 「……そういやそうだね。兄貴、自分でアルフィンかっさらったけど」 そして2人は、いひひと笑い顔を見合わせた。 やはり男心は、男同士が一番理解できている、ということでもある。
「あー、駄目だ。俺らどんな顔して出迎えたらいいんだろ」 両手で頬をむぎゅうと抑え込む。そうでもしないと、顔がどんどん緩んでいきそうだからだ。リッキーの脳裏には、まだ思春期の妄想範囲とはいえ、かなり“とびっきり”なことが浮かんでいる。 「たまんねえなあ。俺らも早く、そんな女の子が欲しいよ」 「けっ! そっち方面ばかりませてきやがって」 「そっち方面はとっくにボケちまってるタロスにゃ、関係ない話しだろ」 「ぬかせ! このタコ! その気になるだけの女がいねえだけだ」 傷だらけの相貌から、ぎりと歯を剥き出す。思わずリッキーは身を反り返した。 だが突如そこで、リッキーはふととあることを思い出す。このままいつものレクリエーションに突入する気も削ぐほどに、実に冷静な口調で問いかけた。 「……なあタロス。“ちゅう”もしたことのない2人がさ、ちゃんとうまくやれんのかい?」 その質問に。タロスもふうと強面を弛める。 「そうさなあ……」 一度でも手ほどきの経験があれば、何も案ずることはないのだが。ジョウにそんな暇があったかというと、タロスの記憶にはひとつもない。 「いきなりさ、ベイビーのお持ち帰りってことになったら。どうすんだい」 「うーむ」 回避を配慮できる余裕が、初の“とびっきり”な状態でできるかどうか。タロスとしては、かなり遠い昔を振り返らないと、思い出せないことでもある。だが振り返ったとして、それはタロス自身の体験。ジョウとぴたりと当てはまるかどうか、考えるだけ無駄でもあった。 「ま、そうなったら、そうなったでよ」 タロスはそこで一旦言を区切る。 リッキーはどんな回答が出されるのか、食いつくように見入っていた。 「クラッシャー同士の跡継ぎってのは、快挙だ。アラミスの将来にとっても、“とびっきり”の出来事ってやつだな」 そしてにやりとタロスは笑う。リッキーも当然、同調することでもあった。
24時間のバースデー休暇が明ける頃。 <ファイター1>は、<ミネルバ>に無事帰還した。24時間をジョウとアルフィンがどう過ごしたか。タロスとリッキーがどんな様子で2人を出迎えたか。 それは4人が再び合流した格納庫から繰り広げられていく。しかしそれはまた、別の話しでもあった。
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