| 俺達は2週間の休暇に入っていた。 たて込んでいた仕事を片付け、久しぶりに取れたまとまった休みだ。 保養地に選んだのは、開発されたばかりのリゾート惑星・サナトラ。 施設の数などは有名所に遠く及ばないが、人ごみを避け、のんびりしたい俺達には もってこいのリゾート地だ。 この、砂浜と海しかないと言っても過言ではないリゾート地で もう一週間が過ぎようとしていた。 今日は午前中、リッキーの提案でダイビングを楽しみ、 昼食をとった後は、タロスの提案でビーチで昼寝と決め込んだ。 ビーチに照りつける太陽(ここではサナトラの母星だが)は強烈だし、 気温も30度と高いのだが、湿度が低い為、木陰に入ればとても過ごしやすい。 昼寝には絶好の環境だ。 このビーチにも有余るほどの木陰が用意されている。 俺達はそれぞれ好き勝手に気に入りの場所をみつけ、 レンタルのビーチベッドをリクライニングさせた。
「アタシはこ〜こ♪」 アルフィンが当然のように俺の横に陣取る。 それを見たリッキーがニヤニヤと遠慮の無い視線を俺達に送った。 それに気付いたアルフィンがすーっと目を細めてリッキーに絡む。 「あによ!言いたいことがあるんなら言いなさいよ〜〜」 「何でも無〜いよ!おやすみ〜!」 リッキーはそそくさとベッドに横になった。 「あ!こら、リッキー!」 攻撃対象があっけなく身を引いてしまったので、アルフィンは憮然としたままだ。 「はん!アタシがどこで寝ようがアタシの勝手だわ。ねえ、じょ〜お〜?」 そういうことを俺にふらんで欲しい・・・ 俺は「はぁ」と小さくため息をつくと、リッキーに習いさっさとビーチベッドに 横になり、目をつぶった。 「ああ〜ん。ジョウ・・・」 後に放っておかれたアルフィンは、ますます憮然となったようだが やがて諦めたように横になった。 なんだかんだあったが、俺はすぐに深い眠りの底に落ちていったのだった。
どれくらいそうしていただろう。 「・・・ジョウ。・・・ジョウ。」 アルフィンが俺の名前を呼んでいる。 その声は高く低く、大きく小さく、夢とも現実ともつかない俺の意識の狭間で くるくると奇妙に響いていた。 俺はふいに目を開けた。 「あ・・・?」 「ジョウ。目ぇ覚めた?」 目の前にアルフィンの顔があった。 「!!!」 「?」 「うわぁ。」 「??何情けない声だしてんのよ?」 アルフィンが呆れたような表情を浮かべる。 俺はちょっとむくれた。 「いきなし、おどかすなよ・・・あせるだろ」 「ま!失礼ね。」 アルフィンは、プッとふくれた。 「この顔のどこにあせる要素があるのよ」 「・・・いや、そういう問題じゃなくて。」 「じゃあ、なによぉ」 「いきなり目の前に顔がありゃ、誰だってあせるだろぉが!」 「あら。そう?」 「・・・・・・・」 不毛な会話にため息が出る。 俺達は漫才コンビか。 しかし、妙な掛け合いのおかげで頭がすっきりしてきた。 良く見るとアルフィンはさっきまでのビキニ姿ではない。 微妙に異なる色んなブルーでストライプ模様を表した短めチューブトップと 白いデニム地の襟付きのベスト、それにヒップハンガーのブルーデニムという 出で立ちだ。 「アルフィン着替えたのか?」 「うん、目が覚めちゃったんだもん。」 シャワーも浴びてきたらしい。 彼女をとりまく甘いシトラスの香りが俺の鼻腔をくすぐる。 アルフィンの顔にかかった金髪に思わず手を伸ばし、軽く手にとった。 さらさら、つるつるとした触り心地を少し楽しむ。 そのまま肩の後ろに流してやった。 「タロスとリッキーは?」 「まだ、お休み中。」 アルフィンは数メートル向こうを指差す。 なるほど。確かに二人は仲良く爆睡中だった。 「俺、どれくらい寝てた?」 「んーとね。2時間くらいかしら。」 「2時間かぁ。もうちょっと寝ていたかったな・・・。」 恨めしそうにアルフィンを見上げる俺。 そんな俺の顔を見て、急にすまなそうな顔になるアルフィン。 「・・・気持ち良さそうで起こすのが可哀想かな〜とは 思ったんだけどぉ・・・。」 「・・・だけど?」 「アタシ一人じゃ退屈なんだもん。ね!どっか行こ!」 急にはちきれんばかりの笑顔で俺に迫る。 「車借りてさぁ。ね?ね?ね?」 「・・・どこ行きたいんだ。」 俺にはだいたいの予想はついていたが、一応尋ねてみた。 「か・い・も・の♪」 やっぱり・・・ 俺はがくっと頭を垂れた。
だいたい、アルフィンの買い物は毎度毎度恐ろしいほどの時間がかかる。 この間も、リュックが欲しいというので仕方なく付き合ったのだが、 デザインから始まり、大きさ、色、マチの幅、収納力・・・ あとは何だったか忘れた。 とにかく数えあげればキリが無いほどのこだわり振りだった。 何軒の店を覗いたのかも覚えていない。 結局オーダーメイドの店を見つけて、やっとアルフィンの足は止まったんだ。 しかし、そこでもエライ待たされた。 そういえば今アルフィンが背負っているのは、かのリュックじゃないか。 俺の頭にあのつらい経験がむざむざと蘇る。 アルフィンの碧い瞳が、俺の濃いアンバーの瞳を捕らえる。 俺は瞳に吸い寄せられるように上体を起こした。 「・・・しょうがないな。」 「うふふ♪」 どうせ、もう目が覚めてしまったのだ。 アルフィンは昼寝の続きをさせてくれそうもないし、俺には選択の余地はない。 彼女はうれしそうに微笑んでいる。 いつの間にか彼女のペースにはまっている自分に気付いた。 ちょっとばかりシャクだが、それが不思議と不愉快ではなかった。 「着替えにもどるか」 「うん!」 アルフィンが立ち上がった俺の腕をとる。 午後の心地よい風が俺達の頬をなぶり、その風に促されるように 俺達はビーチをあとにした。
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