| はじめまして、らしこと申します。 ちょっと恥ずかしいけど、がんばって投稿します。 笑って流して下さいませ。 ****************
あれは俺ら、クラッシャーリッキーの、男としてたった一度の過ちだった。 俺らはその過ちの後始末を、その後何年も引きずるハメになった。
俺らはいつの間にか、兄貴みたいなAAAランクのクラッシャーになっていた。危険な仕事だって、もうばっちりこなせる。背だって伸びた。170センチはある。背が高いと、こんなにも視界が利くのかと感心した。
今日の仕事は、アラミスから緊急回線で飛び込んできた救出作業だ。ある星の極地で、ドキュメンタリー番組の撮影ロケ中に事故が発生した。予想外に急変した天候のためだ。数十人の撮影スタッフと、番組のナビゲーター役である有名美人女優が、凍てつく氷の上に取り残された。
俺らは現場に急行した。救出は一刻を争う。俺らを嘲笑うかのように吼える風。最大瞬間風速は今までに見たことがない数字だった。そして荒れ狂う海面、波に弄ばれて激しくぶつかり合う無数の氷塊。 そんな最悪のコンディションの中で、彼らの救出を無事に成し遂げた。 「やったぜ、大成功だ!」 俺らは拳を握って、親指を立てた。
撮影スタッフが俺らの周りに集まってきて、インタビューが始まってしまった。この模様はニュースとして銀河中に報道されるはずだ。 「さすがはAAAランクのクラッシャーリッキー、見事なお手際でしたね!」 「あの有名女優を助けたなんて、銀河の英雄としてますます有名になりますね!」 「本当に、リッキーさんがいなかったら、私どうなっていたか・・・」 俺らの手を取り、目に涙をためる美人女優。 「いや、俺らはクラッシャーだ。どうってことないさ」 うつむいた俺らは、少し照れながら答えていた。
ふと何かを感じて、取り囲むスタッフの向こう側に目をやると、あれは・・・! 今乗っている巨大な流氷に、亀裂が発生している! 亀裂はすごい勢いで広がり、みるみるうちに足下にまで達する。
「足下が崩れるぞ!」 俺らの叫び声に、撮影スタッフは慌てて飛びすさった。ほとんどが割れた氷の大きなかけらに乗り移ったが、一人だけ、おろおろして、今にも壊れそうな小さいかけらの上に取り残されたやつがいる。 まったく、こういうヤツを足手まといって言うんだ!
おびえきったその小柄なスタッフは、まるで子供みたいに見えた。やせっぽちで、そばかすがあって、どんぐりまなこで・・・誰かに似ている気がしたが、そんなことを考えるのは後回しだ。俺らはその小さなかけらに飛び移り、震えるそいつを抱きかかえる。そして、そいつを安心させるために声をかけた。 「おい、しっかりしろ! もう大丈夫だ」 しかしその時、俺らの足下があっけなく崩れた。
俺らは、凍りつきそうに冷たい海の中を、そいつを抱えたまま必死に泳ぎ続けた。やっとのことで頑丈そうな流氷まで辿り着き、縁を掴んで、彼を押し上げる。そいつは咳き込みながら、氷の上にへたり込んだ。
次の瞬間、俺らはいきなり襲ってきた激しい波に飲み込まれた。ものすごい水の力に必死で抵抗を試みたが、次の瞬間、水面下に深く根を伸ばす氷塊に背中から叩きつけられた。ショックで、シャーベット状の海水を飲んでしまった。俺らは力尽きた。凍てつく海の中に沈んで行く。意識が遠のく。
その時、頭の上から声が聞こえた。 「リッキーや、冷たかろう?しかしな、お前もクラッシャーなら、己の力で解決するんじゃ」 そして俺らは、光に包まれて遠ざかってゆく背中を見た。 ・・・あぁ、神様って本当にいるんだなぁ。 ガキのころに絵本か何かで見たとおり、神様は白い髪で白い服を着たおじいさんだった。
でも神様、俺らは疲れたよ。もうダメだ。 さよなら、兄貴、タロス、ガンビーノ。あと、ドンゴも。 ごめんよ、若い俺らが一番先に逝っちまって。 俺らがいなくなっても、みんな、泣かないでおくれよ。 仕事中に命を落とすことができるんだぜ。クラッシャーとしては本望だよ。
俺らは真っ暗な冷たい海に沈んでいく。 冷たい海に・・・
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