| ■No763の続きを書く(藍々さんの小説) 「あーあ、ルーがジョウに本気を出しちゃったら、これは駄目かなあ。」 トレイシーが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。 「あら、あなたジョウの事好きだったの?」 私は問い返した。トレイシーは他人の話は大好きだが、自分の恋愛はあまり話さない。 だから、ジョウのファンというのも今、初めて聞いた。 「当たり前じゃない!だってあたし達の近い歳で特Aクラス。それに評議会議長の一人息子。名声もある。お金もある。ファンの娘って多いわよ。でも、彼って忙しいでしょ。アラミスには帰ってこないし、会えないじゃない。皆、なかなかお近づきになれないから安心してたんだけどなあ。」 近づけたからって、トレイシーが相手にしてもらえるとは 思えないけど・・・。向こうは私達の存在すら知らないと思うし。それに・・・。 「でも、ジョウのチームって女の子がいるでしょ。ほらこの前ミス・ギャラクシーにルーと出たって言う。」 そう、かなり異色の出のクラッシャーだ。 「アルフィンって娘?」 「そう。あの娘がいるでしょ?トレイシーは見たの?私は仕事中であのテレビ中継は見えなかったんだ。」 本心だった。あのミス・ギャラクシーは女性クラッシャーの仲間内では興味津々の話だったのだ。 それに私は半年ほど前に聞いた話を確かめたく、アルフィンを見てみたかったのだ。 ぽりぽりとトレイシーは頭をかきながら言った。 「うーん、可愛い娘とは思うけどさあ。ルーには負けるんじゃないの?どっかのお姫様だったんでしょ。そんなやわな娘、クラッシャーには向かないし、あっというまにルーに牽制されちゃうわ。」 トレイシーは腕を組んでうんうんとうなずいていた。 彼女の言う事にも納得はいく。ルーは私達の中でも飛びぬけて成績がよく、クラッシャーのランクも高い。 小さい頃からの優等生だった。おまけに美人で男の子にももてる。アルフィンって娘には分が悪いかもしれない。 ちょっと可哀想かな?でも、サイラスの話を思い出す。 「でもね、ほら同級生のサイラス。奴を憶えてる?ジョウが入院したときに、チームリーダーが知り合いだったらしく、お見舞いに付いて行ったことがあるのね。 その時にアルフィンって娘に会ったらしいけど、この世の人とはおもえないくらい綺麗だったって言ったのよ。『ジョウのチームはよくあんな娘と仕事できるなあって俺ならブルってできねえよ。』って言ってたの。」 「きゃははははは」 トレイシーはお腹を抱えて笑った。 「サイラスなんかあたしの顔見ても『天使みたいだねトレイシー』って言うのよ。当てになんかならないわ。」 うーん、そうかも。あいつは確かに女の子に軽いし。 トレイシーはオレンジジュースをストローで飲み干すと、 私に耳寄せて言った。 「それで、もう一つネタあるの。」 「何?」 「なんと、その噂のチームが今ドルロイにきてるのよ!ほら見て!」 興奮してトレイシーが廊下を指さした。その先には、青、黒、緑のクラッシュジャケットを着た男達がいた。 ジョウ、タロス、リッキーの三人だ。三人とも尋常でない早歩きで廊下を通り過ぎようとしていた。 トレーシーは小さく手を振って気を引こうとしたが、三人はそれには気づかず、何かから逃げるように廊下を去っていった。 「あーん。もう、行っちゃったあ。」 トレイシーがふくれる。 「あれ?三人?」 私はいぶかしんだ。噂の娘が見当たらない。 「ねえ、見て、見て!ルーとその娘よ!」 トレイシーが先ほど三人が通った廊下をもう一度指差した。 慌てて私も振り返る。 そこには栗色の髪に健康そうな肌、エメラルドグリーンの瞳をした女性(あのジャケット最新式だわ)と金髪のやや細めの女性が笑いあいながらこちらへ向かってくる。 背が高く、グリーンの瞳の女性はルーだ。ではその横にいる娘はアルフィンと言う娘になる。 「仲いいのあの二人?」 私は意外とばかりにトレイシーに聞いたが、そんな事は知らないわと彼女は肩をすくめた。 私はアルフィンを見て、思わず口笛を吹いた。 頭は小さく、色が白い。髪が人工の糸でできたようにキラキラと輝いて、動くたびに右、左に揺れている。 体はルーと並ぶと華奢に見えるが、バランスがとれ、手足が長く、腰も細い。モデルといっても通るだろう。 しかし、何より印象的だったのは彼女の表情の豊かさだった。 青い瞳には力があり、生気にみなぎっている。頬はばら色に紅潮し、けらけらとルーと笑いあっていた。 「へえ、これがアルフィン・・・。」 サイラスが言っていた「この世の人とは思えない」というイメージとは違ったが、表情からは明るい快活な娘という感じがする。うん、私はこっちの方が好きだなあ。 「アケーシア!」 ぼんやり二人を眺めていたら、ルーがカフェテリアの私達に気が付いた。 手を振って、アルフィンと一緒にこちらへ向かってくる。私は驚いて心臓が飛び出るかと思った。 「うわ、どうしよう。こっちに来ちゃう。」 トレイシーもうろたえた。 「慌てないでよ、あんたもクラッシャーでしょ。堂々としていなさい。」 私は自分の動揺も置いといて、トレイシーをどやしつけた。
「はあい、アケーシア、トレイシー久しぶりね。」 ルーはそう言うと手を差し伸べた。私もトレイシーも必死に作った笑顔で握手を返す。 「こちらはクラッシャーアルフィンよ。」 「はじめまして。」 アルフィンが笑顔で手を差し伸べた。私はさっきまで噂をしていただけに、どぎまぎしながらその手を握り返した。 白くて細く、指が長い。 「あのね、アルフィン、こちらが私の幼馴染み達。ワインレッドのジャケットがアケーシア。こちらのピンクの方がトレイシーね。」とルーがアルフィンに私達の簡単な紹介をしてくれた。 「アケーシアはパイロットなの。私に負けず操船技術は上手いのよ。腕を磨くために今バッカスのチームで修行中なの。」 突然のルーの褒め言葉に私は照れたように言った。 「まだ、見習い中なのよ。どんな宇宙船でも動かせるようになりたいから、特別にあちこちのチームにいれてもらってるのよ。」 「トレイシーはお父さんのチームで働いてるの。惑星探査や捜索なんかが得意なのよ。」 「よろしくね。」 トレイシーは軽くウィンクをした。 「女性クラッシャーって意外に多いのね。なんだか嬉しくなっちゃう。」 アルフィンはにっこりと微笑んだ。 その笑い方がなんとも優雅なのだ。女の私が緊張してしまう。 「ねえ、ルー。なんで、あなたここにいるの?」 トレイシーが質問した。そうだ、噂の途中に二人で現れて心底驚いた。 それに、どうして仲が良いの?私達の頭の中は興味と疑問でいっぱいだった。 「ああ、おーねえちゃんとベスのお見舞いにチームで来てくれたんだ。その帰りにドルロイに寄るって聞いたから、乗せてもらってきたの。船はトトと一緒にパスツールで待機してもらってるわ。でも、ジョウってさすが私の見込んだ男よね。将来の姉や妹に対する気配りがさあ・・・。」 ルーがそこまで言った時だった。私はぞくりと背中に寒気が走った。両腕の肌が粟立つ。気のせいか周りの空気が急に冷たくなった。そんな感じだ。 私の横にいたトレイシーも私に寄り添ってきた。彼女も何か感じたらしい。 「今、なんて言ったの?ルー!」 目の前のアルフィンが冷ややかに言った。 瞳からは青い炎が揺らめいてる。冷気の源はここからだ。 「あら、何か変な事言ったかしら。私。」 「ジョウが貴女を選ぶわけ無いじゃない。勝手に決め付けないで。」 「半人前が何言うの。」 「それ以上言ったら、レイガンをその口にぶち込むわよ。」 「嫌だわ、自信の無い女って」 「なんですって!」 目の前に恐ろしい光景が広がっていた。 口げんかは益々ヒートアップしていく。 ルーが本気でやりあってる。それに、物怖じするどころか、それ以上の迫力で返すアルフィンがいる。 お互いの目から火花が散る迫力だ。 怖いよお。 ちらりとトレイシーを見た。彼女も目の前の光景に圧倒されている。 私は彼女に耳打ちした。 「ねえ、あんたもジョウのファンなんでしょ。あの中で戦ってきなさいよ。」 「嫌よ、嫌。絶対嫌。宇宙海賊と戦う方が遥かにましよ。」 トレイシーの顔がひきつった。 だろうなあ。この二人に愛された男って、ラッキーなのか、アンラッキーなのか・・・。 先ほどのジョウの顔を思い出し、私は心の中で彼にご愁傷様と呟いた。
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