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■194 / inTopicNo.21)  Re[20]: A.D.2169
  
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:17:41)
     夜の帳が下り、ジョウとアルフィンはリビングでくつろいだ。
     ソファで、ジョウの隣に座るアルフィンはおしゃべりだった。
     ずっと話せなかったこと、溜まっていたこと。それら全てを吐露するかのように。
     ジョウはアルフィンの話を心地よく聞いていた。だが内容までもが全部入っている訳ではない。アルフィンの声、独特の口調、そして話すときの表情。眺めているだけで楽しい。隣室にジルが寝ているせいで、声を潜めてながらではあるが、充分に互いの気持ちは通じ合っていた。
     何故あんなにもめたのだろう。
     ジョウはアルフィンを見つめながら、目まぐるしかったこの数日を思い返す。随分酷いことを言った。ジョウも本気で傷ついた。昨日までは壊れる寸前まで来ていた。
     しかし今ここで、アルフィンのくるくる変わる表情を眺めていられる。きっとこの先も、こういうことがあるんだろう。ジョウはそんな事をふと考えた。
     だがその後にはきっと、今のように満たされた時間が必ず訪れる。アルフィンとなら、それを信じられる気がした。
    「……んもう、ジョウったら」
    「え?」
    「あたしの話し、全然聞いてないでしょ」
    「聞いてるさ」
    「じゃあ応えてみて。あたしがさっき話したこと」
    「確か……ライナスと初めて会った時の話し、かな」
    「全然聞いてないじゃない。ひどいわ」
     つん、とアルフィンがそっぽを向く。
     ジョウの顔がふっと優しく和らいだ。
    「ひどいのはそっちだぜ」
    「なんでよ」
    「忘れてるだろ。大事なこと」
    「なによ、大事なことって」
     アルフィンは拗ねたまま振り向きもしない。だからジョウは動けた。長い間あの碧眼と離れていたのだ。まだ真正面から見るには、少し、刺激が強すぎる。
     ジョウは背中からアルフィンを抱きすくめた。
     細い肩、シャワー上がりの香り、柔らかな感触。ジョウはその腕により力を込めた。
     あ、とアルフィンの小さな声が聞こえた。震えている。ジョウの腕の中で、アルフィンが身体を固くしているのが分かった。
    「……びっくりするじゃない」
     アルフィンがそろりと、ジョウに向き直した。少し怒ったような、でも嬉しげな、複雑な顔で上目遣いをする。
     たまらなかった。
     アルフィンのその甘い表情が、ジョウの胸を苦しいくらいに締めつける。
    「大事なことって、このこと?」
    「ずるいなアルフィン。そうやって俺をじらして」
    「じらしてなんかないわ。ただ、ジョウはアルコールが入ってるもの。あたしは、素面、だし……」
    「ちょっと今夜は飲ませられないな」
    「少しくらい駄目?」
    「豹変されたら手に負えない」
    「……ひど」
     言い終わらないうちに、その唇をジョウは塞いだ。互いに伝わる、熱い感触。深く、長く、いつまでも堪能していたい思いにジョウはかられた。手のひらに伝う、アルフィンの頬、首筋、胸元の感触。
     よく2年間もこの手触りがない中で生きられた。
     そう芯から思った。
    「……静かにね。ジルが起きちゃうわ」
     ジョウに抱き上げられベッドへ運ばれたアルフィンが、恥ずかしそうに呟いた。
    「自信ないなあ……」
    「それに、ケガにも良くないでしょ」
     アルフィンを組み敷いたジョウは、言葉では応えなかった。愛し合うこと以外に、答えがないからだ。それにジョウはもう止められなかった。
     止めるつもりもなかった。


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■195 / inTopicNo.22)  Re[21]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:18:36)
     アルフィンはジョウの温もりを感じながら、心がほぐれていくのが分かった。
     そして日々の生活、目先のことにとらわれて、大切なものを置き去りにしたことを痛感する。
     アルフィンにとってはただ一人の男性を、ジョウと決めただけだった。しかしアラミスに降りてから、ジョウがただの男性ではないことを思い知る。
     楽観的ではいられなかった。妻として、母としての責任の重圧。それを果たすだけで精一杯だった。必死だった。
     しかし今ジョウに包まれていると、あがいた日々が慰められていく。ジルは生まれながらにして、クラッシャー稼業の後継者という声も大きい。だが突き詰めれば、愛する人の子であるだけだ。その発端をアルフィンは忘れていた。
     ジルは大切だ。
     しかし、ジルがいるのはジョウがあってこそ初めて叶う。本当はジョウだけを責められない。自分も悪いのだ。アルフィンは申し訳なさと、ジョウを失わずに済んだ安堵から、涙が溢れてきた。
     それをジョウに気づかれないよう、指先でそっと拭った。
     そして残された休暇。
     たった一日の休暇が訪れた。
     ジョウとアルフィンは休む間を惜しむようにして、3人で早々から出かけた。
     ジルの好きなアニマル・パーク、アルフィンの好きなショッピング。ジョウは二人が喜ぶ顔が見られれば何処ででも良かった。初めての家族だけの時間。
     短くとも、幸せに満ちていた。
     そして夜が更けると、ジョウとアルフィンは互いを求め合った。何度も抱き合い、何度も愛し合う。ジルもそれを分かっているのか。実に大人しく立場を弁えていた。
    「……も、もう駄目」
     アルフィンがジョウの身体を両手で拒んだ。ちらりとジョウの視線が、ベッドサイドの置き時計に移った。
    「早いな。明け方まであと4時間しかない」
    「うそ……徹夜するつもりなの?」
    「仕方ないさ。いくら抱いても足りないんだぜ」
     アルフィンの制止を聞かず、ジョウは身体を擦り寄せた。
    「それに明日から、またしばらく会えない」
     寂しげなジョウの言葉。
     アルフィンの胸は、きゅっと苦しくなった。
    「けど……」
    「けどは、もういい」
     アルフィンの形のいい耳を、ジョウは唇で弄んだ。
    「だけどお……」
    「だけども、もういい」
    「ジョウったらあ……」
     結局、アルフィンはジョウの強引さに負けた。本当に朝まで寝かせてくれなかった。白い肌のいたるところに、ジョウの愛した形跡が散らされた。


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■196 / inTopicNo.23)  Re[22]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:19:21)
     出発の日。
     ドッグのゲートに直通する送迎フロアに、<ミネルバ>の乗員4人と、ジルを連れたアルフィンがいた。
    「やっぱりアルフィン、顔色良くないよ」
     リッキーが心配そうに訊く。
     アルフィンをアラミスに一人残すのだ。当然の配慮だった。
    「そんなことないわよ」
    「そうかい? まだ兄貴と闘争中ってことはないよね」
    「気づかってくれてありがとう。でも平気。単なる寝不足だから」
     その発言にミミーは気づいた。
     余計なこと訊くものじゃない。そういう意味合いの肘鉄をリッキーの脇腹に入れた。が、痛がるばかりで当のリッキーは分かっていなかった。
    「近くに仕事で来たら、ぜひ寄ってね」
     アルフィンが満面の笑みをこぼす。
    「そんな健気なこと言われたらねえ。……長い休暇が取れればちょくちょく顔を出しますぜ」
     タロスがにやりと笑った。
    「でも今回は残念だったわ。ジルったら、ジョウのこと結局ダディって呼ばなかったし」
    「無理もないさ。たった数日で呼んでもらおうなんて虫が良すぎる」
    「謙虚ね」
     再会の時にはなかった余裕が、ジョウから漂っていた。
    「ジョウ、お名残惜しいですが」
     タロスがクロノメーターに目を落としてあっさりと言い放つ。
     別れ際を少しでも湿っぽくしないためだ。
    「ああ」
     そしてジョウはアルフィンからジルを抱くと、頬に口づけをする。
    「ジル、マムを頼んだぞ」
     ジルは指をくわえたまま、きょとんとしていた。別れを理解するには、まだ幼すぎた。そしてアルフィンの肩を引き寄せると、その唇にも触れた。
    「わわわっ!」
     リッキーが赤面する。
     なにせ人前でジョウがこんなことをするのは、初めてだ。
    「……変わったねえ、兄貴」
    「もう夫婦なんだぜ」
    「夫婦だとさ……」
    「うるさい!」
     やり慣れないジョウは、やはり顔をぐしゃぐしゃに赤く染めた。
     そんな背後で、ミミーがほうとため息をついた。
    「やっぱり、クラッシャーの男は最高ね」
     小さな呟きだったが、リッキーは聞き漏らさなかった。
    「だろ! やっぱミミーは見る目あるぜ」
    「でもリッキーとは限らないかもよ」
    「そりゃ酷いや……」
     5人は笑った。
     ジルもつられて声を上げて笑っていた。
    「……じゃあ、気をつけて」
     アルフィンはしっかりとした口調で別れを告げた。また会えるのだ。哀しい気持ちは一片もない。それに何かあれば、ジョウをすぐに呼び寄せられる。ジョウもそれを望んでいる。この数日でアルフィンは、はっきりとその気持ちを確かめることができた。
    「今度会うまでに、ジルにはタロス、リッキー、ミミーの名前も覚えさせておくわ」
     その言葉に4人は頷いた。
     笑顔を絶やさないまま、クルーはドッグの直通ゲートを抜けていった。
     それからしばらくして。
     銀色に輝く<ミネルバ>が滑走路を駆け抜け、大空へと舞い上がった。送迎フロアの窓から、アルフィンとジルは機影が光点になり、それすらも消えるまで、じっと見送った。


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■197 / inTopicNo.24)  Re[23]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:21:02)
     銀河標準時間で1400時間が経過した。
     <ミネルバ>は、第十七惑星メランコリでの護衛任務を終え、とっくにおおいぬ座宙域を去っていた。ワープ飛行を続け、次の仕事先まで3分の1の距離を残したポイントで停泊する。時間調整のためだ。
     丁度その頃、アルフィンからレター映像が届いていた。ブリッジのメインスクリーンいっぱいに、腕白に磨きがかかったジルの姿と、アルフィンの姿が投じられていた。
     この時期の子供の成長は早い。毎日が変化の連続。その意味がありありと伝わってくる。
    「ジルがいると、アルフィンも退屈しなさそうね」
     空間表示立体スクリーンのボックスシートから、ミミーが微笑みながら言った。
    「仕事の疲れも吹っ飛びますな」
     タロスも満足げだ。年齢的にいえば、これくらいの孫がいてもおかしくはない。すでにタロスにとってジルは、もうそういう存在に近い。
     ジョウも優しい眼差しでスクリーンの映像に見入っていた。
    「あら?」
     ジョウの背後でミミーが呟く。
    「どうした」
    「追伸があるみたい。メッセージだったら映像で送れるのにね」
     コンソールのキーを叩くと、メインスクリーンがブラックアウトする。文字がタイピングされた。
     短い。
     しかし衝撃のメッセージだった。
    「うっ?」
    「おおっ!」
    「ほえっ!」
    「まあ!」
     4人それぞれの感嘆が一斉に上がった。
    「こりゃすげえや!」
     タロスがぱちんと指を鳴らす。
    「兄貴って分かりやすいなあ……」
     ジョウの顔面が沸騰したように赤くなる。
    「ミミー! 映像を消せ」
     ジョウが狼狽えながら怒鳴った。
    「やだあ照れちゃって。……うちのリーダーったら可愛いんだから」
    「ちぇっ!」
     ジョウは居たたまれなくなり、副操縦席から立ち上がった。
    「どこへいくんでさあ」
    「放っとけ!」
     ぴりぴりしたオーラを露わにしながら、ブリッジを出ていった。ドアが閉じると、残された3人は肩をそびやかす。実に嬉しそうな顔で。
     ジョウは、足音を必要以上にたてながら一路キッチンへ出向く。そして気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを煎れる。しかし手が震えて、粉は飛び散り、熱湯を自分の足にかけてしまう始末だった。
    「私ガ煎レ直シマショウカ。キャハハ」
     キャタピラの音が近づく。
     見かねたドンゴがジョウの元にやってきたのだ。
    「俺に構うな!」
    「キャハ? じょうノ心拍数ニ異常」
    「やかましい!」
     ドンゴのボディを蹴った。案の定、痛みを負ったのはジョウだけだった。あまりの剣幕に、ドンゴは過去のデータから、退散、という最善の答えを弾き出した。
     キッチンに一人残されたジョウは、ゆっくりと息を吐く。そして熱いコーヒーをすすった。強い苦みが、血の上った頭を少しずつ冴えさせていった。
     カップから半分ほどコーヒーが減った頃。
     ようやくジョウの胸にひしひしと喜びが広がった。抑えても、抑えても、口元から笑みがこぼれてしまう。
    「……そっか」
     小さく呟いた。
     追伸で送られてきたメッセージが、鮮やかに脳裏に映し出される。
     “ジョウ、二人目ができたわ”
     その文字から、アルフィンの輝く笑顔までもが浮かんでくるようだった。

    <END>


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■198 / inTopicNo.25)  Re[24]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:26:55)

    <あとがき>
    長々とおつきあいくださいまして、ありがとうございました。
    クラッシャーネタで、ちゃんと書き上げたのは今回が初めてです(かな?)。
    原作者の設定が、ほんともう、しっかりされているので、途中から勝手に
    キャラクターが動き始めてくれました(^^;)。

    劇場版ビデオをおさらいで観た時に「ジョウって19才に見えないわあ」と
    思ったのがネタのキッカケです。
    どうせなら、育児もさせてしまえ!とは考えましたが、
    まさか夫婦の危機にまで発展するとは(笑)。

    今後も精進し、さらにこんな長文でもよろしければ、
    また新作を書かせていただきたいと思います。
    ありがとうございました。
fin.
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■199 / inTopicNo.26)  Re[25]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:32:14)

    涙・・・。
    見直して気づきました。
    <ミネルバ>が駐機した場所は、メンテ用の「ドック」です。
    「ドッグ」だと「犬」・・・。

    あー、ごめんなさい。誤字です。
引用投稿 削除キー/
■200 / inTopicNo.27)  Re[26]: A.D.2169
□投稿者/ まあじ -(2002/10/04(Fri) 11:33:35)

    さらにミス・・・。
    件数増やして失礼しました。

    ということで「済」を、ぽちっとな。
fin.
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