| 夜の帳が下り、ジョウとアルフィンはリビングでくつろいだ。 ソファで、ジョウの隣に座るアルフィンはおしゃべりだった。 ずっと話せなかったこと、溜まっていたこと。それら全てを吐露するかのように。 ジョウはアルフィンの話を心地よく聞いていた。だが内容までもが全部入っている訳ではない。アルフィンの声、独特の口調、そして話すときの表情。眺めているだけで楽しい。隣室にジルが寝ているせいで、声を潜めてながらではあるが、充分に互いの気持ちは通じ合っていた。 何故あんなにもめたのだろう。 ジョウはアルフィンを見つめながら、目まぐるしかったこの数日を思い返す。随分酷いことを言った。ジョウも本気で傷ついた。昨日までは壊れる寸前まで来ていた。 しかし今ここで、アルフィンのくるくる変わる表情を眺めていられる。きっとこの先も、こういうことがあるんだろう。ジョウはそんな事をふと考えた。 だがその後にはきっと、今のように満たされた時間が必ず訪れる。アルフィンとなら、それを信じられる気がした。 「……んもう、ジョウったら」 「え?」 「あたしの話し、全然聞いてないでしょ」 「聞いてるさ」 「じゃあ応えてみて。あたしがさっき話したこと」 「確か……ライナスと初めて会った時の話し、かな」 「全然聞いてないじゃない。ひどいわ」 つん、とアルフィンがそっぽを向く。 ジョウの顔がふっと優しく和らいだ。 「ひどいのはそっちだぜ」 「なんでよ」 「忘れてるだろ。大事なこと」 「なによ、大事なことって」 アルフィンは拗ねたまま振り向きもしない。だからジョウは動けた。長い間あの碧眼と離れていたのだ。まだ真正面から見るには、少し、刺激が強すぎる。 ジョウは背中からアルフィンを抱きすくめた。 細い肩、シャワー上がりの香り、柔らかな感触。ジョウはその腕により力を込めた。 あ、とアルフィンの小さな声が聞こえた。震えている。ジョウの腕の中で、アルフィンが身体を固くしているのが分かった。 「……びっくりするじゃない」 アルフィンがそろりと、ジョウに向き直した。少し怒ったような、でも嬉しげな、複雑な顔で上目遣いをする。 たまらなかった。 アルフィンのその甘い表情が、ジョウの胸を苦しいくらいに締めつける。 「大事なことって、このこと?」 「ずるいなアルフィン。そうやって俺をじらして」 「じらしてなんかないわ。ただ、ジョウはアルコールが入ってるもの。あたしは、素面、だし……」 「ちょっと今夜は飲ませられないな」 「少しくらい駄目?」 「豹変されたら手に負えない」 「……ひど」 言い終わらないうちに、その唇をジョウは塞いだ。互いに伝わる、熱い感触。深く、長く、いつまでも堪能していたい思いにジョウはかられた。手のひらに伝う、アルフィンの頬、首筋、胸元の感触。 よく2年間もこの手触りがない中で生きられた。 そう芯から思った。 「……静かにね。ジルが起きちゃうわ」 ジョウに抱き上げられベッドへ運ばれたアルフィンが、恥ずかしそうに呟いた。 「自信ないなあ……」 「それに、ケガにも良くないでしょ」 アルフィンを組み敷いたジョウは、言葉では応えなかった。愛し合うこと以外に、答えがないからだ。それにジョウはもう止められなかった。 止めるつもりもなかった。
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