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■239 / inTopicNo.21)  Re[20]: マスク
  
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/18(Fri) 10:44:17)
     ぴりぴりとした空気が流れた。
     するとアルフィンから、ひとつの疑問が投じられる。
    「ジョウ、いつこの人達の手にサンプルが渡ったの?」
     その言葉に、ジョウの怒りがさっと冷めた。そうだ、と気持ちが切り替わる。ここで彼らを殴ったところで、自白の口が閉ざされては意味がない。さらに追求することが先決だった。
    「それは簡単な話じゃないかな。髪の毛くらいなら、どうとでも入手できる」
     カイルが、先に応えた。
    「それだとジョウとしての完成度は6,70パーセントなのよね」
    「素材が新しければ、もう少し上がるんではないかな」
    「けど……」
     アルフィンは右手を頬にあて、ジョウのフリュイに視線を移す。
     息のないその顔を、切なそうに見つめた。
    「あたし、そうは思えなかった。……ジョウが助けてくれる感覚と同じだった。この人も」
    「助けた?」
     カイルの眉がぴくりと呼応する。
    「感情コントロールをされているというのに? どういうことかね、博士」
     するとマックスが面もちを上げた。
    「お嬢さんは、鋭い……」
     そしてアルフィンを見つめた。
     そのまなざしが、なぜかやけに優しい。
    「やはり、あなたのフリュイを処分するのではなかった……」
     アルフィンの碧眼が見開く。
     そして絶句した。
    「どういうことだ!」
     ジョウがマックスに詰め寄ろうとした。
    「堪え時ですぜ、ジョウ」
     またタロスの腕が止める。
     しばし間を空けてから、マックスは続けた。
    「クラッシャージョウ。あなたと社交パーティーに出た女性は、彼女のフリュイだ」
    「……なんだって」

     するとマックスは重い足取りで、ジョウのフリュイに近づいた。電磁手錠で自由を奪われていても、できることはある。その手で、黒のスペースジャケットの襟元を開けた。
     マックスの指が何かを指す。
    「これがフリュイの刻印だ。出来上がって数日のフリュイは、なぜかこれが肌に浮かび上がる」
     点々と朱を落とした印。3点を結ぶと、正三角形が浮き上がる。その模様。
     ジョウの記憶から、それが恐々として浮かび上がった。
     確かに見た。アルフィンを抱いたと思っていた夜に。
     だがあれはフリュイだったことも同時に知らされた。
    「う……」
     ジョウは呻き、開いた口を塞ぐことができないでいた。
    「最初に、彼女の髪の毛から早急にフリュイを作った。それは、クラッシャージョウのより鮮度と濃度が高い素材を手に入れるためだ」
    「……一体それは何かね」
     カイルがさらに追求した。
    「ま、待ってくれ!」
     だがそれをジョウが慌てて制止した。カイル、そして3人のクラッシャーの視線が一斉にジョウへと注がれる。
     頭が混乱して、まとまらない。
     だがとてつもなく悪い予感だけはする。
     あの艶めかしい夜を演出し、素材として採取されるものがあるとしたら。
     知られてはいけない。
     ジョウの本能が、激しくそれを警告していた。


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■240 / inTopicNo.22)  Re[21]: マスク
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/18(Fri) 10:45:08)
    「……心当たりがある。そういうことか、ジョウ」
     カイルが振り返った。
    「……その」
     ジョウは口ごもる。急に体中が熱を帯び始めた。肌が汗ばんでいく。この状況をどう転じればいいのか。しかし頭の中は完全に真っ白になっていた。
     すると、マックスがふっと小さな笑いを含んだ。
     カイル、そしてクラッシャー達の視線がすぐ向き直る。
    「心配しなくていい」
     意味不明な言葉。とはいえジョウだけにこの一言は向けられていた。
    「……頂いたのは、血液だ」
    「け、血液……」
     ジョウは、それを反芻するのがやっとだ。
    「全身の細胞情報を持っているのが血液だ。それを100ccばかり。彼女のフリュイに採取させた」
    「どうやって」
     カイルがさらに追求する。ジョウはまた焦りが走った。
    「社交パーティーの後、接触するチャンスをフリュイに与えた。ウェザーコントロールで雨を降らし、用意したホテルで二人きりになれるように」
    「では、そこで摂取……」
    「方法はフリュイの判断に任せておいた。手際が良かったのだろう。クラッシャージョウ自身、今の今まで気づかなかったということは。……あのフリュイも実に優秀だった」
     そして再びマックスの表情が沈んだ。
     一方、ジョウの身体から急激に緊張が解けた。つまりあの夜はすべて仕組まれた罠だった。そして摂取されたもの。血液。一人胸の中でとりあえずほっと安堵する。
     いつの間にか浮かんでいた額の汗を、ジョウは拳でゆっくりと拭った。
     これでまた一つ謎が解けた。
     しかしながらジョウにはまだ気がかりがある。その摂取方法だ。あの悩ましい白い影は、夢だったのか、現実だったのか。
     さすがにこれに関しては、この場でマックスに尋ねることもできない。

    「……本当に、素材として素晴らしかった。細胞の一つ一つに、意志が宿っている。まさに人間の神秘を見させてもらった。科学者としてこれほど興奮させられたことはない。……礼を言いたい」
    「そ、それほどでも」
     いまのパニックのせいで、ジョウは些か妙な受け答えをしてしまう。
    「このフリュイも感情コントロールの手術はしてある。しかし、あの場で彼女を助けることを選んだ。それは、私の予想をいい意味で裏切ってくれた」
    「どういう意味だ」
     カイルが訪ねた。
    「つまり、細胞にまで感情が行き渡っているということだ。クラッシャージョウの場合。それは彼の鍛錬の賜かもしれないが、人間、自分自身をそこまで鍛え上げていくことは難しい。……実に感動させられた。だからフリュイが屍になったことは、とてつもなく惜しく、哀しい。しかしジョウ、きみのような人材に出会えただけでも、私はラッキーだった」
     マックスはジョウをまっすぐ見つめた。
     科学者として彼は本来優秀なのだろう。それをボランチェリの野望が、禁じられた誘惑が、マックスを凶行へと走らせた。
     ある意味、彼もボランチェリの被害者なのかもしれない。
    「……ってことはさ」
     リッキーが口を挟む。
     やっと、自分にも理解できる内容になったからだ。
    「兄貴はそんだけ、アルフィンのことを大事に思ってる。なんだ、そういうことか」
    「ごちそうさま、ってやつですかい」
     タロスがにやりと笑いながら続けた。
     ここで一気に、アルフィンの機嫌を取り戻させるためでもあった。
     だがそれより先に、ジョウの顔が赤く上気した。
    「か、からかうな! チームリーダーとして当然のことをしただけさ」
    「まあ、そういうことにしときますか」
    「ちっ!」
     緊迫していたムードが、このいざこざで和んでしまった。
     カイルは肩をそびやかす。
    「大した肝っ玉を持った連中だ。……カサンドラ大統領が、見込んだだけのことはある」
     褒め言葉と同時にカイルは明かした。
     この一連に関わっている、もう一人の存在を。
    「カ、カサンドラ……。まさか……」
     ボランチェリの両眼が、飛び出さんばかりに開かれた。
     クラッシャーに、ボランチェリを引き合わせた理由。それはカサンドラが、根底からキールの世直しを図るための策略でもあった。
     生え抜きのクラッシャーであれば、ボランチェリの悪事を暴き、はびこっている権力を一掃させることができる。同時に、キールの警察では探りきれない水面下の出来事も、壊し屋がすべて露わにしてくれる。
     それをカサンドラは信じていた。


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■241 / inTopicNo.23)  Re[22]: マスク
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/18(Fri) 10:46:08)
    「さて、君たちのこの後のスケジュールは」
     ボランチェリの契約書を引き継ぎ、サインをしながらカサンドラが訊く。
    「休暇だ。もうあんたの口車には乗らないぜ」
     カサンドラはふっと笑みをこぼす。
    「俺はこういう裏工作は好きじゃない。真っ向からの依頼じゃなけりゃ、今後は断る」
    「……そうか」
     そしてゆっくりとデスクから立ち上がる。
    「私とて全てを把握していた訳ではない。その中途半端な情報が、きみの直感を鈍らせるといけないと思っていた」
    「物は言い様だ」
    「信頼して任せてくれ。……そうクラッシャー評議会議長から言付かった」
    「……親父が?」
    「議長の息子らしいな、きみは」
     カサンドラのまなざしがジョウに向けられる。
     確かに。
     その雰囲気は、どこかダンと共通するものがあった。直情的なジョウとは対照的に、思慮深く、緻密に人を動かすことを得意とするダンに。
     ジョウは苦々しい思いでカサンドラを見返す。だが爪を隠したこの男は、きっとキールを変えていく。それが充分に伝わった。なにせダンも、クラッシャー稼業を180度変えてきた男だった。
     同じ、匂いがする。
    「また何かあったら、是非とも依頼させてもらおう」
    「……まあ、いいだろう」
     ジョウは満更でもない笑いを、口元に浮かべた。

     そして。
     ボランチェリとマックスは今後キールの法律の元で裁かれることとなった。ボランチェリの資産家としての地位は崩れ落ち、一族は新たにクリーンな後継者探しに躍起になった。と同時に、フリュイの研究も葬られた。
     現存のフリュイに関しては、素材元がすでに故人であることと、自我も確立していることから、カサンドラは人権として尊重することにした。
     そしてフリュイ達の活躍による収益は、国の財源へと還元させることとなる。上流と下級、格差のあった国民構成に、フリュイという中間級が生まれることになった。温故知新。偉人達の類い希な才覚や能力は、国民に好影響をもたらすとカサンドラは期待していた。
     この先十数年後。現存のフリュイ達の寿命が尽きる頃。
     様々な教訓を得た、次代の人材が必ず育っていく。そうして少しずつ、国民の意識が高まれば国も変わる。それはカサンドラが人生を掛けて、目指すべき最終形でもあった。
     そして南北統一運動、キールの世直しの足がかりとして、クラッシャーの活躍が全土で高く評価されたことは言うまでもない。


     諸手続きを終えてから。
     4人のクラッシャーは<ミネルバ>に帰還した。ジョウ達にとって、実に精神的に苦しい任務だった。だがやっと自由になれた。その解放感をはまた格別なものだった。
    「……ジョウ」
     ブリッジに戻る途中、アルフィンが声を掛けた。
     何かを察したタロスとリッキーは、足早にその場を去る。二人きりにさせてやれ。そういう気遣いだった。
     立ち止まったジョウに、アルフィンはおずおずと話しかける。
    「……あ、あの、あたしね。とんでもなく誤解してたみたい」
    「そういうことになるな」
    「実はあたし、社交パーティーの夜、迎賓館の近くにいたの」
    「あ?」
     ジョウは振り返ると、真正面にアルフィンを見下ろした。
    「で、見ちゃったの。ジョウが、すっごく綺麗な人を抱いてホテルに入って行ったのを」
    「そ、それじゃあ……」
     あれか。ジョウはようやく合点した。
     アルフィンのフリュイが見つけた影。それはアルフィン自身だった。だからジョウはあの時、違和感のある気配を感じなかった。
     告白された経緯はこうだ。
     アルフィンはボランチェリの邸宅で、確かにスケジュールを受け取った。だが暫くして、猛然と睡魔に襲われ、目が覚めた時は市街地の路地に放置されていた。今になれば、出された紅茶に睡眠薬が混ざっていたと充分に推察できる。
     土地勘のなかったアルフィン。そもそも迷惑をかけまいとして、単身で邸宅に乗り込んだのである。迷ったとは言えなかった。スケジュールを確認すると、社交パーティーの予定が入っている。
     慌ててアルフィンはまた単身で、迎賓館へと向かった。しかしついた時には雨が降り始めた。濡れ鼠になった状態では、中に入ることは許されない。
     そこで迎賓館近辺で状況を張っていた。
     何か異変があったらすぐ飛び込むつもりで。
     ところが時すでに遅し。宴は終演を迎えていた。ひとまず何事もなくて良かったと思い、帰ろうとした時、女性をエスコートしているジョウを見た。しかも正装で。
     動揺している所に、その女性が突然アルフィンに駆け寄って来たのだ。逃げた。反射的に逃げた。ジョウが女性連れという事実からも逃げたかった。
     そして二人を振りきった後、物陰からこっそり見つけてしまう。ジョウが女性を抱き上げて去っていく姿を。茫然自失で、どうやって<ミネルバ>まで自力で戻ったかも、よくは覚えていない。

    「あれって……あたしだったのね」
     しかしアルフィンが自分を見間違えても無理はない。あれだけ着飾ったフリュイ。そのうえ再生率が低かったせいか、愛らしさよりも、コントロールされた女性らしさの方が勝っていた。
    「ごめんね……。あたし、たくさん酷いこと、言ったわ」
    「あの平手もかなり効いたぜ」
     ジョウは少し意地悪な顔つきで、アルフィンを見た。
    「許してもらえる?」
    「さあて……どうしようかなあ」
    「ああん、許してジョウ!」
    「いやあ、あれには参ったよなあ……」
     背を向け、頭を掻く仕草を見せる。
     しかしジョウとしても、この一連の出来事が完全に解決した訳ではなかった。アルフィンを目の前にして、その後ろ暗い影を思い出す。
     例えフリュイといえども、アルフィンを抱いてしまった。かもしれないのだ。事実ならば、間抜けな話ではある。
     これは敢えて本人に謝罪すべきことなのか、フリュイとはいえ役得と思うべきなのか。非常に複雑な心境でいた。
     その戸惑いが、表情にも浮かんだ。
     アルフィンはジョウの前に回り込み、顔を覗き込む。その顔つきに、てっきりまだ怒りの尾を引いているものかと思った。
    「ほんとに、ほんとにごめんね、ジョウ」
     不安げな表情でジョウを見上げた。
    「うーん……」
     やっぱり俺も謝るべきなのかな。けれども白状した所で、これがまた厄介な話へと展開しても困る。ジョウの気は思考に集中していた。
     その隙に。
     アルフィンの両腕が、ぐいとジョウの首を引っ張った。
     そして平手を放った左頬に、柔らかな唇を押し当てる。その音がジョウの耳朶を打った。
    「……これで許して、ジョウ」
    「え……あ……いやあ」
     すっかり舞い上がったジョウの胸に、アルフィンは顔を押しつけた。腰に手を回し、ぎゅっと身体にしがみつく。ジョウといえばされるがままの状態で、身体を硬直させた。
     顔が熟したように赤い。
     アルフィンは、クラッシュジャケットの特殊繊維から伝わる、早い鼓動を聞いていた。そして、研究室での話を思い出す。ジョウの細胞までもが、自分を大事に想ってくれている。
     その幸せを。
     こっそりと噛みしめていた。
     
     果たして。
     ジョウはアルフィンのフリュイと、やはり関係があったのかどうか。
     フリュイが処分されてしまった今となっては、誰にも分からない。ジョウにとっても永遠の謎となった。
     ただ、すがるとすれば。
     アルフィンをここまで大切に想っている自分だ。傷つけることだけはありえない。そうやって己を信じることでしか、ジョウにはもう答えが出せなかった。

    <END>
     

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■242 / inTopicNo.24)  Re[23]: マスク
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/18(Fri) 10:51:33)
    <あとがき>

    今回の話は、なーんか色々なものに「覆われてる」という内容から、タイトルを
    「マスク」にしました。
    文中のフリュイなんですが、手元による辞典によると(ペラペラ)、フランス語で
    「禁断の木の実=フリュイ・デファンデュ」から頂きました。
    だたワタクシ、学がないので「フリュイってフルーツと音が似てるから、木の実の
    単語かなあ・・・」と、こんな適当な調子でつけました(^^;)。

    それと書いてからはたと気づいたのですが、無反動ライフルって
    分解できましたっけ?
    組み立ててたシーンを、何かで読んだ気がしたんですが・・・・
    原作と設定が異なってたらごみんなさい(苦笑)。



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