| ネオン輝く夜の繁華街から一筋奥に入った裏通りのバー。 入口のネオンサインに“FREE LIFE”と書かれてあるちょっと洒落た小さな店だ。 薄暗い店内は初老のマスターとバーテンダーのほかは、数人の客がテーブルで夜の女たちと酒を酌み交わしていた。 その薄暗い照明のバーのカウンターに、ジョウとタロスはバーボンを飲みながら人を待っていた。 「んったく!仕事終わって船がメンテ中に仕事入れるか?アラミスも扱き使ってくれるぜ」 グラスに入ったバーボンをジョウが煽った。 青のクラッシュジャケットがいかにも場にそぐわない。 黄色のボタンのようなアートフラッシュもかなり目立っている。 「まあまあ、そんな時もありまさあ。で、仕事の内容は聞いてるんですかい?」 タロスの手の中にあるグラスに入った琥珀色の液体が、手を傾けると少し揺れた。 「それが会えば絶対引き受けることになるから、そっちで聞けってよ」 「それは変ですぜ。仕事の内容も分からないんじゃ、どういう段取りで準備をしたらいいか分からないじゃないですか」 タロスも先程からかなりの量を飲んでいるが全然顔に出ていない。 八割がたサイボーグのタロスには幾ら飲んでもほろ酔い程度にしかならない。 だが、ジョウは別だ。 流石にこれ以上飲ますとクライアントに会う前に酔いつぶれてしまう。 「そうだろ。さっさと来て絶対断ってやる!」 「・・・ジョウ、そろそろにしとかねえとクライアントに会う前にダウンですぜ」 「ああ、これで止める」 そう言って、バーテンダーにグイッとグラスを突き出した。 バーテンダーは何も言わずにジョウの手に新しいバーボンを注いだ。 「でも、久しぶりだな。あんたがまだ店を続けてるとは思わなかったぜ、バレリー」 タロスはカウンターの中にいるマスターに声を掛けた。 「今日は特別だ。いつもは息子に任せてあるが、女王のお出ましとあっちゃ息子では役不足なんでな」 マスターはグラスを拭きながら銀眼鏡の奥の瞳を輝かせた。 ダンのチームだった頃は、よくこの店に顔を出していた。 惑星ベルビル、くじら座宙域の恒星バテンカイトスの第五惑星。 自由貿易惑星のため、様々な人種が流れ込んでくる。 特に法を犯した部類の輩がごろごろと転がっていた。 その中でも赤道を中心とした位置に、比較的大きな大陸ゲレンテックはある。 東海岸に首都バイアノーチスと西海岸に貿易都市ゲルゼンを要し、惑星ベルゼルの人口の八十%はこの大陸に居住していた。 このバーがある都市ゲルゼンは、闇取引で宇宙でも屈指の貿易都市として名を馳せていた。 ここでは情報も一つの取引材料だ。 この店もその取引の場であり、目の前にいるマスター・バレリーはこの辺一体を取り仕切る情報屋の元締めでもあった。 「女王?あれから何年経つんだろうな?生きてるか死んでるかさえ俺には分からんが」 「いくら出す?それによっちゃ教えんでもないがな」 グラスを拭き終えてバレリーはタロスの前に来た。 「相変わらずだな。がっちりしてやがるぜ」 「それが商売を逃がさないコツだよ」 「まあ、やめとくよ。いずれ分かる時が来るだろ。俺にはそれでちょうどいい」 「残念だな、いい情報だったのに」 二人はひとしきり笑った。 ジョウはそんな二人の会話を黙って聞いていた。 昔馴染みとの久方ぶりの再会にタロスが喜んでいるのを肌で感じた。 酔いの心地よさに時が経ったのを気づいていなかった。
|