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■929 / inTopicNo.21)  Re[20]: blue queen・pink baby
  
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/17(Sat) 21:53:56)
    薄暗い発光の蛍光パネルに囲まれた部屋。
    エレベーターは何度ボタンを押しても上昇する気配はなく、仕方なくフィオレンシアはそこでエレベーターを降りた。
    二十メートル四方はあるだろう、かなり広い。
    何もない部屋だが、空気が幾分湿り気を帯びているために、肌に纏わり付くように感じる。
    緊張感からくるものではなく、熱気を帯びていると言ってよいかもしれない。
    入り口はここだけかと思ったが、よく眼を凝らすと正面の壁が少しだけ他と違っていた。
    壁より厚みがあるその部屋から別の場所へ向かう扉は、今は閉ざされている。
    ここまで来て後に引くわけにはいかない。
    道があるなら進むしかないのだ。
    フィオレンシアはヒートガンを構えなおし、気配を伺いつつ歩を進めた。
    微かな足音、張り詰めた空気、鋭敏な感覚が部屋の隅々にまで広がっていくようだ。
    何事もなく半分ほど進んだ時、不意に蛍光パネルが発光を止めた。
    一瞬にして暗闇がその場を支配する。
    時間にして数秒だが、フィオレンシアから視界を奪うには十分の時間だった。
    再び蛍光パネルが灯りを取り戻した時には、正面の扉から訓練された十人あまりの戦闘員が投入され、行く手を阻んでいた。
    手にはライフルやレイガン、中にはバズーカ砲まであり様々な武器を備えてフィオレンシアを狙っている。
    かなりの手だれの者のようだ。
    「少々手荒な訪問者に御もてなしをせねばと思ってね」
    室内に反響する声に聞き覚えがあった。数十年経ったが変わらない。
    思い浮かぶ人物の名を言葉にする。
    「仰々しいのはごめんだわ。セグ・ハレンザ!」
    見えない相手に呼びかけながら冴え凍る不敵な笑みを浮かべ、フィオレンシアは戦闘員へ鋭い視線を向けた。
    「いかに貴方様でもそこにいる歴戦の傭兵十人を相手に無傷で居られますかな?」
    設置されたスピーカーからの音が室内に反響する。
    威圧的な声だが、フィオレンシアには気にならなかった。
    敵にまわるならそれでもいい。目的のためには犠牲など厭わない。
    立ち塞がる者は叩き潰すだけ。
    「随分なめられたものね」
    「いえいえ、貴方様だからこそ十人も向かわせたのですが」
    「まあいいわ。邪魔な者は排除すればいいだけだし」
    「無事、その部屋を突破出来た暁には私自ら御もてなしを致しますよ。青の女王様」
    そう言ってセグ・ハレンザは嘲笑して音声スイッチを切った。
    「傭兵稼業も大変そうね」
    不敵な微笑を浮かべ間合いを詰めようとするフィオレンシアに傭兵たちは一斉に銃をぶっ放した。
    先手必勝、仕掛けるなら相手のペースではなくというところか。
    派手な爆音とすさまじい煙が舞い上がる。
    ゴーグルをしている傭兵のリーダーが左腕を軽く振って合図を送った。
    煙幕がわりの煙でもこちらには支障がない。
    熱感知センサー内臓のゴーグルにはフィオレンシアの姿が浮かび上がっている。
    その合図に直ちにメンバーが散開した。
    フィオレンシアの動きを煙の中、一瞬見失った一人がヒートガンで頭部に至近距離で撃ち込まれた。
    絶命する声を上げさせず、次の行動を予測してフィオレンシアは素早く動く。
    殺した傭兵を盾にしつつ、敵のリーダーに狙いをつけてアートフラッシュを投げつけた。
    まずは命令系統の切断し連携作戦を展開させなくしなければならない。
    出来うる限り優位に動けるよう煙と炎が渦巻く中、フィオレンシアはヒートガンを乱射しつつ一直線に駆け出した。
    またもや”スターダスト”が炸裂し、リーダーを含めて五人が血の海に沈んだ。
    防護性の弱い頭部を中心に狙い撃ちをする。
    反撃の気勢をそぐように、今度は個々に追い詰めてゆく。
    フィオレンシアの体中が高揚していた。
    昔、手を血で染めた自分は、またこの世界に戻ってきてしまった。
    後悔していたはずなのに今はその後悔の気持ちさえ消えてしまっている。
    あるのはただ行く手を阻むものには容赦ない死を。
    一片の欠片さえ逆らうことなど許しはしない。
    青の女王と呼ばれた戦いぶりの真価が今、目の前にあった。

    そんな戦闘の様子を監視しつつセグ・ハレンザは自らも戦いに赴くべく戦闘服に着替えていた。
    幾分白髪まじりの茶髪に、緑眼。かなり大柄な体躯は巨漢の部類に入るだろう。
    顔には大きな切り傷があるとはいえそこそこのハンサムといってもよい。
    齢を重ねたとはいえ、隆起した筋肉や鋭き眼光はまだその威力を失ってはいなかった。
    ただ、年月の流れた老体と現役さながらに時の止まっている感じのフィオレンシアと比べるのは如何なものかと思うが。
    目の前のモニター群には三百六十度で、フィオレンシアの姿が映っている。
    白銀の長い髪、青く深い瞳。接近戦で浴びたのか黒のクラッシュジャケットには返り血を貰っていた。
    ヒートガンを撃ちながらで赤黒い血飛沫の中を華麗に舞い躍る殺戮の舞姫。
    この映像は別室にいらっしゃるあの方の下にも届いているはずだ。
    今までの内街での戦いぶりからすればいとも簡単に突破することは確実だが、今は時間が欲しかった。
    餌を撒いておびき寄せている者がもうじき追いつくはず。
    その餌は別働隊が捕らえて連れて来る手筈になっていた。
    戦闘服に着替え終わったので、セグ・ハレンザは幾つかのモニターをその餌の方に向けてみた。
    息が詰まる。
    その惨状に思わず絶句した。
    そこにあったのは、別働隊を全て叩き潰したクラッシャージョウの姿だった。
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■930 / inTopicNo.22)  Re[21]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 11:50:22)
    上階へのルートを探して、フィオレンシアが通過した痕跡を追ってジョウは先を急いでいた。
    やっとエレベーターを探し出し、乗り込もうとしたが乗れるような状況ではなかった。
    蜂の巣もいい所に破壊されていた。
    仕方なく別ルートを再び捜索しようとしたその時、背後でバラバラと複数の足音が聞こえた。
    「やっと、来たか?」
    ジョウは小声で呟いた。
    塔に進入してからは比較的戦闘をせずに来ただけに、ジョウは装備も不足していることはなかった。
    すぐに物陰に身を隠して、相手の人数を探る。
    人数にして十五人程度、無反動ライフルでは少々手に余る人数だ。
    周囲を哨戒しつつこちらに近づいてくる。
    ジョウはクラッシュパックを背から降ろし、素早くハンドバズーカを組み立てた。
    こういうことはお手の物だ。クラッシャー稼業は危ないことも日常茶飯事。
    もたもたと組み立てている内に自分の命が危なくなる。
    命と隣り合わせの仕事も日頃の訓練と場数を踏んだ経験が最終的にものを言うのだ。
    相手との距離が五メートルを切った所でジョウは廊下の中央へ転がり出ると、間髪あけずにバズーカを連射で打ち込んだ。
    唸る爆炎と外部からの爆撃の振動でフロア全体が地響きを立てて揺れる。
    続けざまアートフラッシュを二つ程お見舞いした。
    炎がより躍り狂うようにフロアに広がり走ってゆく。
    ジョウを仕留めようとした男たちは次々に炎に撒かれて倒れていった。
    それでも二人ほどその炎を掻い潜って抜けて来たので、バズーカを放り出してジョウは武器と足を狙って無反動ライフルを発射した。
    ジョウは悶絶する男たちに近づき上階へのルートを問う。
    冷たく光る無反動ライフルの銃口が男たちの舌を饒舌にさせた。
    塔を半周ほどした位置に別の上昇エレベーターがあるという。
    ジョウはすぐさま男たちの情報どおり先へ向かうことにした。
    炎がジョウの後を追うように廊下を燃え広がりつつある。
    室内温度もかなり上昇している。
    クラッシュジャケット越しにはあまり感じないが覆われていない部分はやはり熱く感じていた。
    こんな所でぐずぐずしているわけにはいかない。
    フィオレンシアと合流していないとタロスとの最終コンタクトが出来なくなってしまう。
    ジョウは再びクラッシュパックを背負い走りながら先を急いだ。
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■931 / inTopicNo.23)  Re[22]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 11:50:56)
    別の上階エレベーターへ向かうジョウの姿をモニターで確認したセグ・ハレンザは、ジョウというクラッシャーを少々甘く見すぎていた。
    今まで相手にしたクラッシャーは十分対応出来たが、フィオレンシアやジョウの辺りのAAAクラッシャーともなれば一筋縄ではいかないらしい。
    闘技場へ向かうためにモニターに背を向け、セグ・ハレンザは監視ルームを後にした。
    フィオレンシアも既に足止めしていた部屋を出て闘技場へ向かう廊下を移動しているだろう。
    闘技場での戦闘を有利に進めようと思っていたセグ・ハレンザは少々計画を変更する羽目になってしまったが、まだ奥の手が残っていることで自分を鼓舞しようとしていた。
    若かりし頃のフィオレンシアに仕えていた自分だからこそ、彼女の恐ろしさは十分に知っているつもりだった。
    味方なれば勝利への道が常に開かれて、敵なれば敗北への道が目の前にある。
    それから数十年の月日が流れ、年を老いた自分と違い時を止めたフィオレンシア。
    戦わずともその結果は火を見るより明らかかもしれなかった。
    だが、今まで仕えたあの御方のためにも最後まで付き従うのが部下の役目だとセグ・ハレンザは思っていた。
    暗き闇底に住まうあの御方の悲しみに比べれば、自分など芥の塵に等しい。
    いろいろと思いを巡らせている間に闘技場への入口に到着した。
    無造作にドアを開けるスイッチに手をやる。
    扉の向こうは少し薄暗いながらも十メートル四方の円形の部屋だった。
    発光する壁面には黒暗色の飛沫が所々飛び散っている。
    それ以上にこの部屋に充満する血生臭い臭いが闘技場と呼ばれることが相応しく感じた。
    セグ・ハレンザが部屋の中央付近までゆっくりと歩いてゆく。
    腰には銃火器類は見えない。
    あるのは九百ミリブレードの高周波ナイフが二本。
    ふいに正面のドアが開いた。
    白銀の髪をなびかせ艶かしい肢体を覆う黒いクラッシュジャケット、手にはヒートガンを携えて。
    薄暗い部屋の中に白銀の死の女王が舞い降りる。
    青く凍てついた瞳をフィオレンシアはセグ・ハレンザに向けた。
    「もう御もてなしは終了?」
    涼やかだが容赦のないフィオレンシアの声が闘技場に木霊する。
    「メインデッシュは自ら持て成したほうがいいと思いましてね」
    不敵に笑い返すセグ・ハレンザが、腰の高周波ナイフを手にした。
    二刀流、ナイフの名人が自分の得意とする獲物を持って自分と対峙する。
    フィオレンシアはすっとヒートガンをセグ・ハレンザに突き出して焦点をあわせた。
    まだ、彼との距離は五メートル程あった。
    セグ・ハレンザが先手を取って横跳びに身体を動かした。
    フィオレンシアもすぐさま焦点を移動して、躊躇うことなくトリガーボタンを押した。
    が、その光の行き先はよじれて捻じ曲がってゆく。
    周囲の壁に激突したかと思うとフィオレンシアに向かって戻ってきた。
    ヒートガンのオレンジの火球は幾分小さくなっているが、そのスピードはかなりのものがある。
    フィオレンシアもヒートガンを持ったまま床に転がった。
    間一髪かろうじて火球を避けた。
    視界にセグ・ハレンザを確認しつつ新たに発生した火球を補足して闘技場を移動する。
    高エネルギー兵器阻害システム。
    流石にセグ・ハレンザが戦いの場として選んだだけはある。
    一先ずヒートガンを腰に仕舞い、フィオレンシアは電磁メスをクラッシュジャケットの胸ポケットから取り出した。
    少々分は悪いが、銃で対抗できないのは仕方がない。
    スイッチを押し青白く光るブレードを出現させる。
    携帯用なので、せいぜいブレード部分は二十センチ程しかない。
    「貴方の得意の獲物を手放して私に勝てますかな?」
    火球が飛び交う中をセグ・ハレンザが攻撃を仕掛けてきた。
    高周波ナイフを上段から振り下ろしつつ、右手で横一文字に切り裂いて。
    流石に電磁メスで受け止めるわけにもいかず、フィオレンシアはかわしながら後退する。
    「いつまでもそんなことでは私に勝てませんよ」
    次々と攻撃を繰り出してくるセグ・ハレンザに必死で避けつつも徐々に退路を絶たれ、壁際に追い詰められた。
    既に何箇所かはクラッシュジャケットが切られている。
    その間にも火球は飛び跳ねており、時折二人の傍を掠めてゆく。
    とうとう壁に背を付けたフィオレンシアは、最後の足掻きとばかりに数十センチ体を横へ移動させた。
    観念したと勘違いしたセグ・ハレンザは勝利への確信に笑みを浮かべて高周波ナイフを振り上げる。
    「あ・・・ぐあっ」
    突如、強烈な痛みと熱量がセグ・ハレンザの背中を襲う。
    忘れていたのだ、火球の行く末を。
    目の前の勝利を過信した男に、青の女王は容赦なく高周波ナイフを叩き落し電磁メスで首筋を横一閃した。
    血飛沫が舞う中、セグ・ハレンザの緑の瞳が徐々にその光を失ってゆく。
    「チップはドコなの?」
    崩れ落ちた巨漢のセグ・ハレンザの目の前に電磁メスを突きつけフィオレンシアは叫ぶ。
    リヴィを助けるためにも取り返さなければならないもの。
    この男が何処に隠しているか聞き出さなければ。
    ゴフッと血の塊を吐きつつもセグ・ハレンザは自分が出てきた入口の方を指差した。
    そして、そのままコトリと手を落とす。
    また一つ、命の灯火が消えていった。
    フィオレンシアは一瞥して、立ち上がった。
    懺悔も涙も全てはチップを取り戻した後に。
    腕のクロノメーターを見る。
    二十時半を差していた。徐々に時間がなくなってきている。
    フィオレンシアは走り出した。決して後ろを振り返らずに真っ直ぐに前を目指して。
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■932 / inTopicNo.24)  Re[23]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 11:51:31)
    監視カメラから送られてくる映像を壁面のスクリーンに映しつつ男は満足げな笑みを浮かべた。
    手にはフィオレンシアが望むチップが握られていた。
    ――― とうとうここまで来たか
    男は椅子を回転させてスクリーンを背にする。
    背後には暗闇に紛れて全貌は見えないが少し大きなホールがあった。
    男がいる場所は中央の玉座部分だった。
    周囲には人の気配がない。男だけのようだ。
    スクリーンのスイッチが切られると天井部分から淡い間接光が降り注いで空間を照らしていた。
    手の中のマイクロチップを弄びながら、歓喜の邂逅を待ちわびる。
    愛しい死の女王の降臨を。
    その姿を思うだけで男を至福の境地へ誘う。
    ――― 早く来い!フィリオン!!
    男の哄笑が暗闇のホールに響き渡った。
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■933 / inTopicNo.25)  Re[24]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:52:11)
    まだ壊滅していない塔。
    フィオレンシアは走りながら、セグ・ハレンザが隠したマイクロチップが無事に見つかるよう願う。
    もし、セグ・ハレンザが当初の思惑通りラスボスならきっとこの塔は爆発するはず。
    死した者は劫火の闇に帰す。それがこの星のいや、内街の掟。
    ボスが倒れれば部下は死に殉じる、そういう掟だったことをフィオレンシアは今更ながら思い出していた。
    自爆する気配を見せない雰囲気にまだ背後に何かいることを感じ取った。
    それでも、セグ・ハレンザ程の大物が仕える者などそうそういるはずもない。
    ――― ルーシファか・・・いやそれはない。
    裏世界とはいえルーシファのやり方を酷く嫌っていたのをフィオレンシアは知っていた。
    ただ、あれから時は流れている。
    彼もそのままの男だったかと言えばそれはフィオレンシアには分からないことだ。
    幾度目かの角を曲がった先にようやく小さなエレベーターホールが出現した。
    エレベーターは二基あり、一基は昇降可能なタイプ。
    もう一つは下降専用であった。
    両方とも最下層にエレベーターは止まっていた。
    上昇できる階は後三つ。
    下降できる階は、各階止まりも可能な一階までともう一つは地下五階への直通。
    フィオレンシアは、一先ず昇降可能タイプの上昇ボタンを押しエレベーターボックスを呼んだ。
    まだ、最上階か最下層か目的地はどちらか決めかねていた。
    壁面に身体を寄せてヒートガンを構える。
    すぐにエレベーターの到着を告げる音がホール内に響く。
    両開きにドアが開いた。
    一呼吸置いてその身をエレベーターの正面に躍らせる。
    トリガーボタンを押そうとして、寸での所でフィオレンシアは止めた。
    ――― 誰も乗っていない。
    それでも、用心深くエレベーター内を確認して中を見渡した。
    豪奢な作りの十人用のエレベーターだった。
    赤絨毯が敷き詰められ照明もシャンデリアが施されている。
    フィオレンシアは、もう一基のエレベーターの方も呼んでみることにした。
    このまま上階へ向かうつもりの気持ちに一抹の不安が過ぎる。
    二基目が到着した。
    今度は最初からエレベーターボックスに向かって銃口を向けた。
    ドアが片開きに開いた。
    到着したのは三人乗ればいっぱいになる小さなシンプルなつくりのエレベーターだった。
    今まで上階ばかりと思っていたが、シンプルなエレベーターの方が小さいことにフィオレンシアは何かを感じ取った。
    もし何かを搬送することが目的ならこんな小さなエレベーターにはしない。
    豪奢なエレベーターが隣接しているのだから。
    それも下降専用という所が何かを指し示す暗号のように感じた。
    ということは人を運ぶことが目的。
    この階からの最下層への直通エレベーター。
    フィオレンシアはその身を下降専用エレベーターに乗せた。
    最下層を調べてからでも遅くはない。
    そう、フィオレンシアは踏んだ。
    ゆっくりと行き先ボタンを押す。
    それに答えるようにエレベーターはドアを閉じ、フィオレンシアを乗せて下降を開始した。
    滑るように下降するエレベーター内で最後のエネルギーチューブを抜きかえる。
    残っているのはアートフラッシュが二個と手榴弾一個だけだ。
    やがて、最下層を示すランプが明滅した。
    エレベーターボックスはその動きを止め、静かにドアを開いてゆく。
    広くないエレベーターホールは明かりが乏しく、かろうじて先へ進むための照明が壁面にかなりの間隔をあけて設置してあった。
    人の気配はしない。
    後方のエレベーターはドアを閉じると物音さえも聞こえなくなった。
    用心のためにフィオレンシアは手榴弾で簡易のタイマー式時限装置を作り、それを廊下の途中に仕掛けて先を急ぐ。
    後続の迎撃部隊を阻むことも出来るし、この先にいるかもしれない者の逃亡も防げる。
    どちらにも使い道はあった。
    二十分という限られた時間で、フィオレンシアは全ての幕を下ろそうとしていた。
    どちらにしろ、タイムリミットは近づきつつある。
    三十メートル程、廊下暫く進むと大きな扉に面した。
    ギイと大きな音を立てて、扉を開ける。
    大きなホールの先には、光に導かれるように佇む玉座と老人が一人座ってこちらを見ていた。
引用投稿 削除キー/
■934 / inTopicNo.26)  Re[25]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:53:28)
    「ようこそ、我が墓所に・・・ファム・ファタール!」
    老人が紡ぎだした低い声音と言葉に、フィオレンシアは一瞬身体を強張らせた。
    ファム・ファタール、運命の女神 ―――
    青の女王と呼ばれる前は人々から畏怖の念を込めてそう呼ばれていた。
    もうその名で呼ばれることがなくなり四半世紀、まだ過去を知るものがいるとは思わなかった。
    常に黒いマントを身に纏っていたため、彼女の素顔は世間に知られてはいない。
    仲間内にさえ片手ほどしかその正体を知る者はいなかった。
    知っているとすれば、確実にフィオレンシアの過去を知る者だ。
    だが、ただ一人を除いて全て死に至らしめたはず。
    そして、その最後の一人も先程絶命した。
    「・・・人違いもいいところだわ」
    それでもまだ認めるわけにはいかない。いや認めたくはなかった。
    「私に嘘は通じない。幾度姿や名を変えようともその青い輝きは不変のものだ」
    「昔、そう名乗った者がいたわね」
    「あくまでもシラをきりとおすおつもりか?」
    「あたしには関係ないわ」
    「フィリオン・グレンシアーナ・ドメニス!そう呼んだ方がいいかね」
    「くっ・・・」
    とうとう辿り着いた、フィオレンシアの黒い過去。
    ドメニス・パイレーツの女首領、フィリオン。銀河の三分のニをその手中にした宇宙海賊。
    闇組織“ルーシファ”も一目置いた残虐極まりない強奪で名を馳せていたが、その活動時期はあまりにも短い。
    たった五年で忽然と広い宇宙から姿を晦ました。
    そのかつての宇宙海賊の拠点がこの星、惑星ベルビルの都市ゲルゼンだった。
    間違いなく自分の知りえる人物だと確信した。それも近しい者だと。
    「封印したその名を知る貴方は誰?」
    暗き奥底に沈めて忘れ去りたい過去の自分を。
    「過ぎ去る時が恨めしい。私の存在を貴方の中に留めては頂けていないとは・・・。同じ時を分かち合った我が半身よ」
    思い当たる人物をやっと記憶の彼方から呼び覚ましたフィオレンシアは小さな呟きを漏らした。
    「・・・バル」
    バルフィス・グレンデルフ・ドメニス、遠い昔に別々の道を選んだ双子の弟。
    我が血肉と源を共にするこの宇宙で唯一の存在。
    そして、最愛の恋人レイラスを殺した黒幕たる仇。
    だが、バルフィスは自らの銃で絶命させたと思っていた。
    心拍数が少しだけ早くなるのが分かる。
    全身の血液が熱く燃え上がり、押さえていた怒りの感情がフィオレンシアの中で甦った。
    この男のせいで、レイラスは命を落とした。
    我が魂の半身。この手の中に合った小さな幸せの象徴。
    命を懸けて愛してくれたもう手の届かない最愛の人。
    「よく私の前にその姿を出せたわね、バル」
    押さえる声音に怒りがこもり、奥歯をギリリと噛んだ。
    白銀の髪が怒りにざわめき立つ。
    細胞の隅々にまで怒りの波動が伝わってゆく。
    その青の瞳には業火の炎が宿っていた。
    「歯向かうヤツには容赦のなかった貴方が言葉だけとは・・・」
    嘲る笑みを漏らしてバルフィスと呼ばれた老人は玉座に頬杖をついた。
    「アイツに出会って貴方は変わった。幾たび思い返しても忌々しい」
    舌打ちするその態度に唇を噛み締めフィオレンシアはバルフィスを見た。
    唇が切れ細い血の筋が口の端から零れた。
    二卵性双生児だったため、風貌はそっくりではなかったがそれでも双子独特のインスピレーションで互いの命を庇って生き抜いてきた。
    それもレイラスが現れるまでのこと。
    心から愛する存在を初めて知ったフィオレンシアは戦うことに疑問を感じ始めた。
    組織を抜けて、生活してゆくために手っ取り早く金の稼げるクラッシャーになった。
    幸せな掛け替えのない日々、でも長くは続かなかった。
    突然襲った悲劇、幸福の終焉。
    レイラスを失って初めて知った弟の自分への歪んだ愛情。
    命終える時まで二人は一つであると信じていた弟はそれを奪ったレイラスに対して未曾有の憎悪を向けた。
    フィオレンシアを手元に置くためには、容赦をしなかった。
    空飛ぶ鳥の羽をもぐことも厭わないように。
    だから、対峙した。
    互いの命を懸けてその思いをぶつけるように。
    そして生き残ったのはフィオレンシアだった。
    今日のこの時までそう思っていた。
    しかし、生き残っていた。
    どのようにして命を永らえたのかは分からないが、もう交わることのないと思っていた二人の道が再び交わってしまった。
    互いの命のやり取りしか後は残されていない。
    この後の未来へ道を繋げて行けるのは、フィオレンシアかバルフィスのどちらか一人だ。
    「それが、ミシェルの息子を襲った理由とでも言うの?」
    声が自然と震えた。怒り、悲しみ、哀れみ様々な感情がフィオレンシアの心の中で吹き荒れる。
    齢を重ねて時を過ごしてもこんなに感情に左右される程弱かったのかと自分で驚いた。
    「必ず貴方が出向いてくると思ったのでね」
    「たったそんなことのために・・・」
    自分に係わったばかりにレイラスは命を落とし、今またミシェルの息子夫婦は重傷を負った。
    やはり疫病神とミシェルに言われたことは間違っていないかもしれない。
    「貴方は変わらない、フィリオン」
    フィオレンシアによく似たでもそっくりではない顔をした老人は、玉座の上から彼女を見下ろした。
    過ぎ去りし年月を刻み付けた皺が、バルフィスの背負った十字架のように見える。
    「貴方は変わったわ、バル」
    万を持してヒートガンの銃口をバルフィスの額に合わせ、フィオレンシアはその青く冷たい瞳で睨みつけた。
    「我らの戦女神は相変わらず気性が激しい」
    銃口を向けられているにも係わらずバルフィスは不敵に微笑んだ。
    一瞬の哀れみがフィオレンシアの青い瞳に浮かぶ。
    だが、それは本当に一瞬のことだった。瞬きをする程の時間だ。
    フィオレンシアの細く白い指がトリガーに掛かる。
    「この代価、安くないわよ」
    「無論・・・分かっている」
    「それなら話が早いわ」
    もう迷いはなかった。この運命の連鎖を自らの手で断ち切るために。
    その時だった。
    フィオレンシアの後方から鮮やかな光の奔流がバルフィスに向かって放たれた。
    寸分の狂いなく光は額の中央を打ち抜き、その衝撃で後方へ玉座から崩れるように転倒する。
    誰が撃ったかは分からないがフィオレンシアは走り出していた。
    前方の玉座へとヒートガンを投げ出して。
    撃った者を理解したのは見据えていたバルフィスだけだったかもしれない。
    玉座に駆け上り、バルフィスを抱き起こす。
    「最後の・・・望み・・・叶わ・・・」
    見開かれた驚愕の青い瞳は次第に光を失い、ガクリとその首を落とした。
    額の中央に貫通した黒い穴が一つだけポツリとあった。
    「バル・・・バルフィス・・・」
    小さく呟いた言葉が空間に紛れる。
    玉座の上に降り注ぐ淡い間接光だけが変わらずに空間を照らしていた。
    人が一人、時の歩みを止めた。幾度呼び返しても、もう甦らない。
    腕に掻き抱いたその身体からは、まだ人の温もりが伝わってくる。
    これでフィオレンシアにこの世と呼ばれる世界に家族と呼べる存在は、一人として居なくなった。
    これまでも一人、これからも一人。決して人の世の中で二つが一つに交わることのない。
    フィオレンシアは静かにバルフィスの遺体を床に置いた。
    その腕の中にあったマイクロチップを取り出す。
    遺体を晒すことなど、彼は決して望みはしないだろう。
    狂おしい程に愛すべき人達は、フィオレンシアを置いて別の世界に旅立ってしまった。
    ゆっくりと、でも振り返ることなくフィオレンシアは玉座から降り始めた。
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■935 / inTopicNo.27)  Re[26]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:54:13)
    正面の暗闇の中かこちらに歩いてくる音が聞こえる。この足音に覚えがあった。
    「・・・ジョウ」
    呼びかける前に呼びかけられてジョウは一瞬立ち止まった。
    暗闇の中の自分は光の中にいるフィオレンシアがよく分かったが、まさか暗闇の中の自分を見つけられるとは思ってみなかった。
    「ダンの勧めに間違いはなかったようね」
    「・・・落とし前をつけただけだ」
    手にした無反動ライフルに視線を移してジョウは答えた。
    真意は別のところにあるが、今伝えることもないだろう。
    「貴方らしい答えだわ、ジョウ」
    「フィオ?」
    悲しそうな笑顔を浮かべたもののあっさりと切り返されてジョウは少々拍子抜けした。
    もっと突っ込まれるかと警戒していた。
    「さあ、脱出するわ。爆発まで後五分を切っている。遅れずに付いて来なさいよ」
    「爆発?!それを早く言え!!」
    急に走り始めたフィオレンシアにジョウは慌てて身を翻した。
    しなやかなその身体を闇に滑らすように、フィオレンシアは大ホールを出ると脇目も振らず目的地に急いだ。
    ここからの出口は最上階へのエレベーターしかない。
    それも非常用の上昇エレベーターだけだ。それ以外はジョウが全て破壊した。
    邪魔な敵に余計なことをされたくなかったからだ。
    二人は残り三分でエレベーターに辿り着いた。
    ドアを閉め上昇ボタンを押す。上昇にはきっかり一分はかかる。
    「さて、遅刻しなきゃいいんだけど・・・」
    「大丈夫だろ」
    予定通りならタロスがレーザー照射の嵐を潜り抜けて屋上で待機しているはず。
    ガタンと軽い衝撃の後、エレベータードアが開いた。
    周囲は暗闇に包まれ上空には鮮やかな星空が広がっていた。
    本来ならここから屋上のヘリポートへの階段があるはずだが、破壊されてむき出しになっていた。
    「屋上へはこっちよ!」
    フィオレンシアは辛うじて瓦礫の中に上への階段を見つけた。
    形振り構わず瓦礫を踏み越えて階段に向かう。
    ――― こんな所で死ぬわけには行かない。
    生きて帰りつかないと青い瞳の恋人が泣くことになる。
    ジョウとしては、それはどうしても避けたかった。
    アルフィンに泣かれるとどうしていいか分からなくなる。無条件に白旗なのだ。
    「タロス!!」
    二人同時に叫んだ。タロスは<アイテール>を屋上に待機させて待っていた。
    ホバリングの状態で、足掛けのロープを一本だけ垂らしていた。
    予定外の破壊で屋上に着陸できなかったのだ。
    「ジョウ!フィオ姉さん!早くしてくだせえ」
    ジョウのレシーバーからタロスの声が聞こえた。
    かなりマズイ状態らしい。声に余裕が感じられない。
    そのまま駆け出そうとしてフィオレンシアは足を止めた。それに気付きジョウは振り返った。
    「行きなさい、ジョウ。あのロープに二人は無理よ」
    ニッコリと笑顔で微笑む。
    そして、手の中のマイクロチップをジョウの手に握らせ、心からの笑顔を向ける。
    ジョウ思わずフィオレンシアの腕を掴んだ。
    「今更あんたを置いていけるか!」
    「貴方は確実に助からないといけないのよ。あたしは他の方法を考え・・・」
    いきなりジョウに腹部へパンチを食らって、フィオレンシアはガクリと身体を半分に落とした。
    渾身の一撃をふいにくらっては流石に意識を保つのは難しい。
    「ここまで来てあんたを置いて行くわけにはいかねえんだよ」
    フィオレンシアを肩に担いで急ぎロープまで駆け、タロスに合図を送った。
    タロスはそこに留まることを惜しむことなく、出来うる限りの全速でその場を離れた。
    破壊されたレーザー照射砲は稼動することなくその身を潜めている。
    ドオーンという爆発の連続音がジョウの背に響き、劫火を燃え上がらせて内街の象徴が崩れていった。
    ゲルゼンもまた栄枯盛衰を繰り返し未来への道を歩いてゆく。
    風を切って疾駆する<アイテール>は安全な所まで飛行すると、ゆっくりと旋回してアルフィン達の待つ第二宇宙港の片隅へ着地した。
    照明で照らし出された<アイテール>の周囲にロボットや作業員が集まって来てジョウ達を出迎えた。
    一先ず迎えのエアベットにフィオレンシアを横たえ、ジョウは少し痺れた手を軽く動かした。
    「お疲れさんでした」
    タロスがタラップを使って<アイテール>から降りてくる。軽くハイタッチで挨拶を交わす。
    「ジョーウ」
    アルフィンが手を振って、<ミネルバ>の方から駆けて来た。腕にはしっかりとリヴィが抱かれている。
    こちらも無事だったようだ。
    時刻は二十一時半を少し回ったところだ。
    「あぶうぅぅ」
    汚れているジョウに対して無邪気にリヴィが腕を突き出す。
    抱き上げろというらしい。
    「分かったよ」
    ジョウはアルフィンの手からリヴィを受け取るとそっと抱きしめたやった。
    リヴィも嬉しそうにジョウの頬に顔を寄せる。
    「ちょっと悔しい・・・」
    アルフィンが羨ましそうにそんな二人を見つめた。
    「悔しいって・・・」
    「赤ん坊に焼きもち焼くなって言うんでしょ。でも、オンナには違いないし・・・」
    「う・・・」
    流石にジョウもどう返答していいのか分からない。
    「お二人さん、そろそろ<ミネルバ>の方へ移動してくれるとありがたいんですがね」
    タロスが二人の後方でニヤニヤとしながら見つめる。
    傍らのエアベッドでも気が付いたフィオレンシアがお腹を擦りながら身体を起こした。
    「まだ仕事は終わってないわよ」
    タロスの差し出す手を借りてフィオレンシアはエアベッドを降りる。
    「分かってる。アルフィン、<ミネルバ>の方はいつでも飛びたてるな」
    「もちろん、OKよ!」
    「なら、行くぞバイアノーチスへ!」
    「あぶぅ♪」
    <ミネルバ>へ向かう一行の脇に停泊してあった垂直型の宇宙船の窓からその様子を見ていたダンがふと笑みを零した。
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■936 / inTopicNo.28)  Re[27]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:54:49)
    銀河標準時、二十三時。
    予定どおりバイアノーチス宇宙港にグラバース重工業の船が到着した。
    ジョウの手からマイクロチップを渡し、マスターデータ抹消プログラムを止める作業を開始した。
    後、五分もすればデータは通常に機能するはずだ。
    あわせてリヴィは意志の疎通を図れるようになった父親のトールの指示通り、網膜パターンの解除を行うことも決まった。
    このままではまた狙われることになったので、一同は安堵の笑みを浮かべた。
    解除作業を終える間、別室で待っていたジョウたちの前に解除作業を終えたリヴィを連れて年配の女性が現れた。
    「・・・ミシェル」
    驚きにソファから立ち上がり、フィオレンシアは年配の女性を見た。
    その女性は二十数年前、レイラスを亡くした事を責められたレイラスの妹のミシェルだった。
    早くに肉親を失ったミシェルの親代わりの兄レイラスの命を絶つ原因はフィオレンシアにあった。
    どんなに責められても言い訳など出来なかった。
    事実、そのとおりだったのだから。
    「本当にありがとう、フィオ。そして・・・ごめんなさい」
    丁寧に一礼をするミシェルに黙ってフィオレンシアは首を振った。
    彼女にとってレイラスがどんな存在か分かっていたのに。
    亡くなった原因は自分なのだから彼女に罵倒されても致し方ないことだった。
    涙を零すミシェルの手の中で、リヴィが無邪気に微笑む。
    柔らかな金の髪、紫の瞳。
    あの人の面影をよく残している。
    「・・・もう会うことはないでしょう」
    フィオレンシアはミシェルの横を通過して部屋を出て行った。
    暫しの沈黙の後、ミシェルもジョウたちに軽く頭を下げて部屋を出て行った。
    「仕事・・・終わったね」リッキーが寂しそうに呟く。
    「ああ、これで暫く<ミネルバ>休ませてやれるぜ」タロスが溜息をついた。
    「長くて短い一日だったね」アルフィンが小さく呟いた。
    「・・・」
    ジョウはフィオレンシアの去ったドアの方を憐憫の思いで黙って見つめた。
    あの最下層でのバルフィスとのやりとりを後方で聞いていたジョウは、彼女の悲しみの深さを垣間見た気がした。
    恋人を弟に殺された。
    全てを理解した訳ではないが、やっと思い出した昔ガンビーノ爺さんが言っていた“青の女王の願いに拒否の言葉はない”と言う言葉の意味を少しだけ分かったような気がしたジョウだった。
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■937 / inTopicNo.29)  Re[28]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:55:23)
    翌朝、ゲルゼン宇宙港。
    フィオレンシアはいつもどおり黒のクラッシュジャケット姿で搭乗口に姿を現した。
    他に知った者は誰も居ない。
    仕事は終わった。
    ならば帰る場所に一人戻るだけだ。
    チケットを受け取り搭乗までの時間、近くのソファに腰を降ろした。
    慌しい数日もあの島に帰ればまたいつもどおりの日々が始まる。
    これまでも一人、これからも一人。
    気楽な隠居生活だ。
    大勢の人々が行き交う雑踏の中を見慣れたクラッシュジャケット姿が二つこちらにやって来た。
    「黙って行くなんて水臭いじゃないか?」
    「見送りぐらいさせてくだせえ」
    青いクラッシュジャケット姿のジョウにフィオレンシアと同じクラッシュジャケットのタロスだった。
    「仕事は終わったのよ。挨拶は昨夜の酒場でしたと思うけど?」
    「あれが挨拶?あれは飲み逃げっていうんじゃないのか?」
    「あんた達が弱すぎるのよ」
    昨夜の酒場で酔い潰されたメンバーだったが、酒にあまり酔わないタロスとリーダーの意地でジョウが見送りに来た。
    ちなみにこの情報はバレリーからの情報だ。
    その背後にダンがいることをジョウには知らせていないタロスだった。
    「今度はいつ会えるかわからねえしな」
    「あんた達の仕事がふがいないようならすぐに会えるわよ」
    ジョウの言葉に不敵な笑いを浮かべて冷たく青い瞳が輝く。
    「まあしばらくはこの世界に戻ることはないでしょう」
    行き先を告げるアナウンスを耳にしてフィオレンシアが立ち上がった。
    「二度と戻って来ないつもりですかい?」
    タロスの寂しそうな瞳にフィオレンシアは悲しそうに微笑む。
    「戻りたくはないわね・・・でも・・・帰って来いと言うならいつの日かね・・・」
    「絶対帰って来いよ!」
    ジョウがアンバーの瞳を真剣にフィオレンシアに向けた。
    AAAの自信はあった。
    でも、それ以上にフィオレンシアの能力が上だった。
    負けっぱなしではジョウの気が治まらない。
    「・・・仕方ないわね・・・じゃ、約束手形♪」
    柔らかく微笑むフィオレンシアの瞳にイタズラな光が宿る。
    スッと手を伸ばしジョウの顎を捕まえるとそのまま唇を奪った。
    どう反応していいのか分からずに固まってしまったジョウを他所にフィオレンシアはタロスに軽くウィンクして早々にその場を立ち去って行った。
    赤いルージュの跡がジョウの唇に残る。
    なんの約束手形か分かりはしないが、帰ってくるのは間違いないらしい。
    それがいつの日になるかはジョウにもタロスにもフィオレンシアにさえ分からなかった。
    急ぐ必要はない。
    まだ、未来は不確定で宇宙は未知数に彩られていた。
    「そのまんま帰るのは止めた方がいいですぜ」
    タロスに囁かれて、ジョウは慌てて唇を手で拭った。
    窓の外には鮮やかな軌跡を残して旅立つ宇宙船が、青い空の彼方に消えていった。
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■938 / inTopicNo.30)  Re[29]: blue queen・pink baby
□投稿者/ 璃鈴 -(2005/09/19(Mon) 17:59:54)
    <あとがき>

    最後まで読んで頂いてどうもありがとうございます。
    2003年12月19日から投稿して、2005年9月19日に完結するまでかなり時間が掛かりましたがなんとか終えることが出来ました。
    まだまだ書き足らない所もありますが、一先ずこのお話はここで終わりにします。

    また時が巡りましたら番外編を書くことにしますv
fin.
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