FAN FICTION
(現在 書庫2 を表示中)

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

[ 最新小説及び続き投稿フォームをトピックトップへ ]

■602 / inTopicNo.1)  ある夜の過ち
  
□投稿者/ らしこ -(2003/12/30(Tue) 15:14:54)
    はじめまして、らしこと申します。
    ちょっと恥ずかしいけど、がんばって投稿します。
    笑って流して下さいませ。
    ****************


    あれは俺ら、クラッシャーリッキーの、男としてたった一度の過ちだった。
    俺らはその過ちの後始末を、その後何年も引きずるハメになった。



    俺らはいつの間にか、兄貴みたいなAAAランクのクラッシャーになっていた。危険な仕事だって、もうばっちりこなせる。背だって伸びた。170センチはある。背が高いと、こんなにも視界が利くのかと感心した。

    今日の仕事は、アラミスから緊急回線で飛び込んできた救出作業だ。ある星の極地で、ドキュメンタリー番組の撮影ロケ中に事故が発生した。予想外に急変した天候のためだ。数十人の撮影スタッフと、番組のナビゲーター役である有名美人女優が、凍てつく氷の上に取り残された。

    俺らは現場に急行した。救出は一刻を争う。俺らを嘲笑うかのように吼える風。最大瞬間風速は今までに見たことがない数字だった。そして荒れ狂う海面、波に弄ばれて激しくぶつかり合う無数の氷塊。
    そんな最悪のコンディションの中で、彼らの救出を無事に成し遂げた。
    「やったぜ、大成功だ!」
    俺らは拳を握って、親指を立てた。



    撮影スタッフが俺らの周りに集まってきて、インタビューが始まってしまった。この模様はニュースとして銀河中に報道されるはずだ。
    「さすがはAAAランクのクラッシャーリッキー、見事なお手際でしたね!」
    「あの有名女優を助けたなんて、銀河の英雄としてますます有名になりますね!」
    「本当に、リッキーさんがいなかったら、私どうなっていたか・・・」
    俺らの手を取り、目に涙をためる美人女優。
    「いや、俺らはクラッシャーだ。どうってことないさ」
    うつむいた俺らは、少し照れながら答えていた。

    ふと何かを感じて、取り囲むスタッフの向こう側に目をやると、あれは・・・!
    今乗っている巨大な流氷に、亀裂が発生している!
    亀裂はすごい勢いで広がり、みるみるうちに足下にまで達する。

    「足下が崩れるぞ!」
    俺らの叫び声に、撮影スタッフは慌てて飛びすさった。ほとんどが割れた氷の大きなかけらに乗り移ったが、一人だけ、おろおろして、今にも壊れそうな小さいかけらの上に取り残されたやつがいる。
    まったく、こういうヤツを足手まといって言うんだ!

    おびえきったその小柄なスタッフは、まるで子供みたいに見えた。やせっぽちで、そばかすがあって、どんぐりまなこで・・・誰かに似ている気がしたが、そんなことを考えるのは後回しだ。俺らはその小さなかけらに飛び移り、震えるそいつを抱きかかえる。そして、そいつを安心させるために声をかけた。
    「おい、しっかりしろ! もう大丈夫だ」
    しかしその時、俺らの足下があっけなく崩れた。

    俺らは、凍りつきそうに冷たい海の中を、そいつを抱えたまま必死に泳ぎ続けた。やっとのことで頑丈そうな流氷まで辿り着き、縁を掴んで、彼を押し上げる。そいつは咳き込みながら、氷の上にへたり込んだ。

    次の瞬間、俺らはいきなり襲ってきた激しい波に飲み込まれた。ものすごい水の力に必死で抵抗を試みたが、次の瞬間、水面下に深く根を伸ばす氷塊に背中から叩きつけられた。ショックで、シャーベット状の海水を飲んでしまった。俺らは力尽きた。凍てつく海の中に沈んで行く。意識が遠のく。



    その時、頭の上から声が聞こえた。
    「リッキーや、冷たかろう?しかしな、お前もクラッシャーなら、己の力で解決するんじゃ」
    そして俺らは、光に包まれて遠ざかってゆく背中を見た。
    ・・・あぁ、神様って本当にいるんだなぁ。
    ガキのころに絵本か何かで見たとおり、神様は白い髪で白い服を着たおじいさんだった。

    でも神様、俺らは疲れたよ。もうダメだ。
    さよなら、兄貴、タロス、ガンビーノ。あと、ドンゴも。
    ごめんよ、若い俺らが一番先に逝っちまって。
    俺らがいなくなっても、みんな、泣かないでおくれよ。
    仕事中に命を落とすことができるんだぜ。クラッシャーとしては本望だよ。

    俺らは真っ暗な冷たい海に沈んでいく。
    冷たい海に・・・

引用投稿 削除キー/
■603 / inTopicNo.2)  Re[1]: ある夜の過ち
□投稿者/ らしこ -(2003/12/30(Tue) 15:15:47)

    ・・・あぁ、冷たいなぁ。

    涙が頬を伝って、目が覚めた。
    ついに俺らは死んじまった。神様の声も聞いたし姿も見た。俺らは天国に来たはずだ。
    ・・・でも、あれ?
    見慣れた天井。ミネルバの、俺らのキャビンだ。天国じゃない!
    じゃあ、この冷たさは、まさか俺ら・・・ねしょんべん、しちまったんだ・・・



    ローデスでかっぱらいという職業を営む浮浪児だった俺らは、数年前、ひょんなきっかけから兄貴たちに拾われ、クラッシャーへと転職した。
    かっぱらいをみじめだとか辛いとか思ったことはなかったけど、社会の底辺をなめる生活だったことは確かだ。それが、次の職場は文字どおり雲の上。それも宇宙のエリート、クラッシャーだ。銀河中に星の数ほどいる浮浪児の中で、これほどのラッキーチャンスを掴んだのは、恐らく俺らくらいだろう。

    そんなわけで、ミネルバでの生活が始まった時、自分自身が生まれ変わったような、そして大人になったような気がして、少し緊張しながらも、ものすごく張り切っていたんだ。
    俺らの最大の過ち「ねしょんべん事件」は、ちょうどその頃に起こった。



    クラッシャージョウのチームにとっては「手軽な」といえる、ある仕事に区切りがついた。危険を伴う仕事ではなかったから、初めて、俺らに作業の中枢部分をやらせてくれたんだ。その夜、みんなが俺らの初仕事の成功を祝って、小さなパーティーを開いてくれた。ガンビーノが腕をふるって、俺らの大好きなシチューを作ってくれた。

    「おめぇ、足手まとい以外の仕事も、少しはできるようになったんだな、チビ」
    「うるせい、チビは余計だい!」
    「キャハハ、じょうトがんびーのニ言ワレタトオリ、ヤッタダケデショウ」
    「ドンゴ、お前まで!」
    「言われたとおりってだけのことが、どうして今まで出来なかったんだろうなぁ、リッキー?」
    「ひどいよ、兄貴ぃ!」
    「そろそろ機器の操作にも慣れてきて、やっと緊張しすぎなくなってきたんじゃないかのう?まあとにかく、今日はめでたしめでたし、じゃな。ホーッホッホッホ」
    そしてみんなで声を上げて笑った。散々からかわれたけど、その日はそんなことどうでもよかった。初めてチームの役に立つことができて、本当に嬉しかったんだ。

    食事のあと、リビングルームで二次会だといって酒盛りになった。俺らはそれまで酒を口にしたことがなかったけど、今日は特別だ、と酒好きのタロスとガンビーノが言った。タロスが作ってくれたほとんど水のような水割りを、生まれて初めて飲んでみた。あまり美味くはなかったけど、2、3杯飲んで、すっかりいい気分になった。そしてたまらなく眠くなり、みんなより先に自分のキャビンに戻った。最高に幸せな気分でベッドにひっくり返り、そして、あの夢を見たんだ。
    酒を飲むとトイレが近くなるなんて、その頃の俺らが知っているはずもなかった。


引用投稿 削除キー/
■604 / inTopicNo.3)  Re[2]: ある夜の過ち
□投稿者/ らしこ -(2003/12/30(Tue) 15:19:09)

    あ〜、なんてこったい、クラッシャーになって初めてのめでたい夜だったのに!
    なんとか現実を認識したものの、俺らは放心状態だった。
    ローデスにいたガキの頃、そこそこの年齢になるまで、ねしょんべん癖が抜けなかったことは確かだ。しかし、ここ何年かはやらかしてなかったはずなのに。
    いや、昔のことはどうだっていい、今起きていることを考えるんだ。
    あぁ、この布団、どうやって始末しよう?
    タロスにでも見つかった日には、一生からかわれるに決まってる。
    あ〜もう、落ち着け、落ち着けってば、リッキー!

    「お前もクラッシャーなら、己の力で解決するんじゃ」
    その時、夢に出てきた神様の言葉を思い出して、俺らは我に返った。
    時計を見ると、幸い、まだ夜中の3時過ぎだ。誰も起きているはずがない。
    そうだ、誰にも見つからないうちに洗濯しちゃおう!
    まだ時間はある、大丈夫だ。
    俺らだってクラッシャーだ。自分の力で解決しなくちゃ!



    俺らはまず、リビングルームを確認した。照明も消えているし、誰もいない。次に、兄貴、ガンビーノ、タロスのキャビンのドアがしっかりロックされていることも確認した。
    それから、シーツを引きずってそっと自分のキャビンを出て、ランドリールームへと向かう。濡れたシーツやパジャマ、パンツなどを洗濯機に手早くブチ込み、「洗濯+乾燥コース お急ぎ仕上げ」をセットした。

    みじめさと情けなさが入り混じりつつも、ややホッとした気持ちになり、自分のキャビンに戻ろうとランドリールームのドアを開ける。
    そこで、俺らは心臓が止まりそうになった!

    「ド、ドンゴ!」
    「ナンダ、りっきーカ。怪シイ動キヲ発見シタカラ、侵入者デモイルノカト思ッタ。コンナ夜中ニウロツイテ、何シテルンデス? キャハ、ナンデコンナ時間ニ洗濯ヲ・・・?」
    ドンゴの頭部のLEDがひとしきり点滅した後、残酷な一言が発せられた。
    「マサカ、りっきー、オネショシタンデスカ!」
    「!」
    俺らは何も言い返せず、ロボット相手に情けないと思いながらも涙が滲んできた。
    「ドンゴ、ねっ、お願いだからさぁ、誰にも言わないでおくれよぉ」
    ドンゴは再びLEDを点滅させると、こう言い放った。
    「・・・キャハ、ワカリマシタ。デモ、条件付キネ。オネショシタコトヲ他ノミンナニ黙ッテイテホシケレバ、取引シマショウ」
    一体何を言い出すんだ、こいつ。
    ロボットのくせに、人の足許を見るなんて!
    いくら俺らが新入りだからって!!

    しかし自分の名誉のために、俺らはその条件を呑まない訳にはいかなかった。


引用投稿 削除キー/
■605 / inTopicNo.4)  Re[3]: ある夜の過ち
□投稿者/ らしこ -(2003/12/30(Tue) 15:20:07)

    あの日以来、タロスの野郎が俺らと喧嘩するたびにほざく「ねしょんべんチビ!」「ねしょんべんたれ!」を聞くと、前にもまして気になり、そして頭にくるようになった。

    悪態のつき方なんてゴマンとあるはずなのに、最近のタロスはよりによって「ねしょんべん」ばかりをやたらと言うような気がする。
    実はあの夜のことを知っているんじゃないか、と不安になることがある。
    だが決して、気付かれていないはずだ。
    あの時、チームの誰にも見られていないし、ロボットであるドンゴは、一旦約束したことを誰かに漏らすようには出来ていない。
    俺らの悩みは増すばかりだった。



    しばらく経ったある日。
    いつものように、些細なことでタロスと喧嘩が始まった。
    「ほざけ、ねしょんべんチビ!そんなんだから、てめぇはいつになっても成長しないんだよ!」
    「な、なんでぃ、でくのぼう!タロスみたいに成長しすぎないようにしてるだけだい!」
    頭に血が昇った俺らは、タロスに飛びかかろうとシートの上に立ち上がる。
    「おい、いい加減にしろ!」
    兄貴が怒鳴った。

    「ほぅ、ねしょんべん、か。ん〜、懐かしいのう。タロス、覚えとるか?」
    ねしょんべん!
    ブリッジに突然入ってきたガンビーノの言葉を聞いて、俺らの頭に昇った血は次の瞬間に凍りついた。その時、兄貴の顔色が変わったことに、俺らは気付かなかった。

    喧嘩の最中のはずだったのに、タロスはやけに優しそうに、目を細めて遠くを見つめた。
    「あぁ、覚えてるぜ。あれはジョウがミネルバに乗り組んだばかりの頃だったっけな。だから、まだ10歳かそこいらの時だ・・・」
    なんだ、俺らのことじゃないんだ。
    タロスの言葉をきいて、出そうになった冷や汗がなんとか止まった。

    「あの頃のジョウは、背なんかまだこんなに小っこくてのう」
    ガンビーノが自分の胸の高さを示した。
    「おいおい、勘弁してくれよ、その話は。何もリッキーの前でしなくたっていいじゃないか!」
    珍しく慌てた様子の兄貴。だが、気にせずガンビーノは続ける。
    「ある朝な、まだ随分早いのに、ジョウが珍しく洗濯なんぞしておる」
    「や、やめないか、ガンビーノ!」
    「理由を問い詰めたらの、これがなんと、オネショしちゃった、って言うんじゃ!」
    「へ、へぇ・・・」
    俺らは必死で、平静を装った。
    「クライアントなんかにはいっぱしの口をきくもんだから、体は小さいが大した子供だと感心しておったんじゃ。それがあの朝、わしに見つかった時のジョウときたらの、半ベソかいて、そりゃあもう、ホーッホッホッホッ・・・」
    ガンビーノはそれ以上言葉が続かず、タロスも一緒に笑い転げた。

    「その話、もう時効だろう!子供だったんだ、一回くらい失敗だってあるさ!」
    顔を真っ赤にして怒る兄貴。
    こういう時、いつもなら喜んで騒ぎを大きくするはずの俺らだが、動力コントロールボックスのパネルを何となく触っていることしかできなかった。いつもと違う俺らの様子に誰も気付かないのは幸いだった。

    「でも、ジョウ、あっしがそれを知ったのは、随分と何年も経ってからなんですぜ」
    タロスの一言に、兄貴はびっくりした様子だった。
    「え?・・・」
    「傷つきやすいお年頃だ、ねしょんべんなんて男の名誉に関わる一大事でさぁ。だから、話しても大丈夫な年になるまで、何年も黙ってたんだって言ってたよなぁ、じいさん?」
    優しい笑みを浮かべて、何度もうなずくガンビーノ。
    「・・・」
    兄貴はそっぽを向いて、もう何も言わなかった。
    兄貴にもそんな過去があるんだと知って、俺らは少しホッとした。



    突然、ガンビーノが大声を出した。
    「おっと、そろそろ料理の様子を見に行かなくてはいかんのう。今日はシチューだぞ、リッキー!」
    「わ、わぁ、本当かい?」
    慌てて、俺らは顔を上げてガンビーノを見た。するとガンビーノは、俺らを優しい目でじっと見返した後、いきなり、にやりと意味ありげに笑ってドアの向こうに消えた。

    その白い髪、白いクラッシュジャケットの背中。
    俺らは思い出した。
    「神様!」
    ・・・いや、あれは神様なんかじゃない。ガンビーノだったんだ!
    ということは、ガンビーノはあの夜のことを知っている。
    そして兄貴の時と同様、他のみんなには黙っていてくれてるんだ!

    俺らのねしょんべんがバレていると分かったのはショックだったけど、ガンビーノの心遣いに、俺らは柄にもなく感動した。
    俺らは、その日の夕食のテーブルで、元気がないとみんなに心配された。


引用投稿 削除キー/
■606 / inTopicNo.5)  Re[4]: ある夜の過ち
□投稿者/ らしこ -(2003/12/30(Tue) 15:21:30)

    その後しばらくして起きたピザンの一件で、ガンビーノは本物の神様のもとへと旅立ってしまった。
    だから俺らは、あの夜のことを兄貴やタロスにもう喋っちまったのかどうかを、ガンビーノに聞けずじまいになってしまった。ガンビーノのことだ、多分黙っていてくれているんだろうと思う。

    しかし、タロスの野郎は喧嘩のたびに「ねしょんべん」を連発する。ガンビーノ、本当はもう喋っちゃったのかな?
    だからこそ、俺らは「ねしょんべん」が余計に気になって、必要以上にムキになってしまうんだ・・・。

    ねぇガンビーノ、教えておくれよ。
    あの夜の、俺らのたった一度の過ちのこと、ガンビーノと俺ら二人だけの秘密のままだよね?



    そう、あれ以来だ。どこかの星に降りるたび、俺らはチームのみんなの目を盗んでこっそり、かつ、素早く本屋に寄らなくちゃならない。いつもミネルバで留守番役のドンゴのために、新しいエロ本の調達。それがドンゴの出した取引条件だった。
    「最近ハ、りっきーモワタシノ好ミガワカッテキタヨウダネ!キャハハ」



    生まれて初めて酒を飲んだ健気な少年の様子を、夜中にそっと見に来ただけ。そして偶然、少年の過ちを発見してしまっただけなんだろう。
    しかしあの夜、当直にあたっていたドンゴにわざわざランドリールームまで行くよう指示したのは、密かにドンゴとエロ本を貸し借りする仲のガンビーノだったんだ!

    俺らが全ての真実をドンゴから聞くのは、本当に170センチまで背が伸びた、さらに数年後のことになる。


fin.
引用投稿 削除キー/



トピック内ページ移動 / << 0 >>

このトピックに書きこむ

書庫には書き込み不可

Pass/

HOME HELP 新規作成 新着小説 トピック表示 検索 書庫

- Child Tree -