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■65 / inTopicNo.1)  心の中に・・・
  
□投稿者/ ゆうまま -(2002/04/09(Tue) 22:36:34)
    惑星アラミスの海岸ハイウェイに、1台のエアカーがハイスピードで疾駆していた。
    ジョウとアルフィンを乗せたエアカーだ。

    今回は後味の悪い事件だった。
    飛び込みの仕事を受けたばかりに罠にはめられ、海賊行為の容疑をかけられたジョウ達。
    汚名を晴らすため、マーフィ・パイレーツと一戦を交え勝利を手にしたが、マチュアの死と父親への疑惑が、ジョウの心にわだかまりを残していた。
    だが、そんな彼の心を溶かしたのはアルフィンだった。
    彼女の話を聞くうちに、ジョウは本来の自分を取り戻すことができた。
    今、ジョウの横には、無邪気に笑うアルフィンがいる。
    「とばして、ジョウ!」
    「よし!」
    ジョウがアクセルをぐいっと踏み込むと、心地よい潮風がふたりを包み込んでいった。

    しばらくドライブを楽しんでいると、アルフィンがジョウの顔を覗き込んだ。
    「ねえ、ジョウ。ちょっと休憩しない?私、喉渇いちゃった」
    「そうだな。近くに臨海公園があるから、そこで休憩しよう」
    「うん!」
    ジョウ達はハイウェイを降り、臨海公園へと続く道にエアカーを走らせ、公園のパーキングエリアに駐車した。エアカーから降りたアルフィンは、大きく伸びをする。
    「うーん、風が気持ちいい。あ、あそこにスタンド見っけ。私はジンジャエールでいいから」
    「何だよ。俺に買って来いって言ってるのか?」
    「あら?そう聞こえた?じゃ、そうなんじゃない。私はあっちのベンチで待ってるから。
    あ、そうそう、ノンカロリーのにしてよ〜」
    ジョウにそう言い残すと、アルフィンはスタスタとベンチに向かって歩き出した。
    「まったくー」
    ジョウは、いつものアルフィンらしい態度に苦笑しながらも、彼女のご希望であるノンカロリーのジンジャエールを買いにスタンドへと向かった。

    両手にコップを抱え、ジョウはアルフィンが座るベンチにやって来た。
    「ほれ」
    「サンキュー」
    ジンジャエールの入ったコップを受け取ったアルフィンは、相当喉が渇いていたのだろうか、凄い勢いでゴクゴクと喉に放り込み、プハーっと大きな声を上げた。
    「おい。ビールじゃないんだぞ」
    「えへっ」
    舌を出して笑うアルフィン。
    彼女のたあいない仕草に、ジョウの胸が高鳴った。
    そんなジョウの様子など一向に気づかないアルフィンは、海を見つめながら体にまとわりつく心地良い潮風を堪能していた。
    どこからか、笑い声が聞こえてくる。
    聞こえてくる方向に顔を向けると、子供たちが楽しそうに砂浜でビーチボールをしていた。
    「楽しそうね」
    「そうだな」
    「ジョウも楽しい?」
    不意にアルフィンが真顔でジョウに尋ねた。
    「ん?何でそんなこと訊くんだ?」
    ジョウは怪訝な顔つきで、アルフィンに目をやった。
    「別に理由はないけど・・・ただ訊いてみたかっただけよ」
    アルフィンはコップに視線を落とした。
    彼女は今回の事件で、ジョウの心が深く傷つき悲哀していることを知っていた。
    父親への疑惑も然る事ながら、一番彼を悲哀させたのが、マチュアの死である事を・・・
    「楽しくなかったら、こんな所に来てないさ」
    「え?」
    アルフィンがジョウに視線を戻すと、彼は、はにかむように笑っていた。
    (本当?本当にそう思ってくれてるの?)
    その笑顔を見たアルフィンは、溢れてくるジョウへの気持ちを満面な笑みに込めた。
    「そっか、よかった」
    (ジョウの心の中には、私だけが居たい・・・いつか、そうなりたい)
    言葉に出せない彼への思いを胸に秘めたまま、アルフィンはジョウを見つめていた。



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■66 / inTopicNo.2)  Re[1]: 心の中に・・・
□投稿者/ ゆうまま -(2002/04/09(Tue) 22:41:18)
    無言のまま、しばらく海を見つめていたふたりだが、アルフィンが急に思い出したように話し始めた。
    「ねえ、ジョウ。ここ、ピザンの海と似てる」
    ジョウがアルフィンに目をやった。
    「そうなのか?こんな風景、どこにでもあるような気がするが・・・」
    「私が住んでいた宮殿の近くにもね、海があったのよ。よく宮殿を抜け出して遊びに行ったわ」
    海を見つめたまま話を続けるアルフィンの横顔を眺めていたジョウは、彼女の蒼い瞳の奥底から、故郷ピザンへの恋しさが伝わってくるような気がした。
    「ピザンに帰りたいか?」
    「え?」
    アルフィンはびっくりして、ジョウに目をやった。
    「いや・・・そのう・・・何だかアルフィンが凄くピザンを恋しそうな感じがしたからさあ」
    「帰りたくないって言ったら嘘になるけど・・・でも、今はこの仕事が楽しいし、それに・・・」
    そこまで言うと、アルフィンは俯いてしまった。
    顔が赤い。
    「それに、何だ?」
    ジョウは不思議そうな顔で、アルフィンに尋ねた。
    「え?わからないの?」
    アルフィンはジョウに視線を戻した。
    彼女の柳眉が逆立っている。
    (げ、まずい・・・)
    彼女の微妙な変化に気づいたジョウは、焦った。
    が、焦ったところで彼女の不機嫌さがわかるわけでもない。
    「わ、わかるわけないだろ」
    「あっそ、もういいわ!」
    アルフィンは、プイっと外方を向いてしまった。
    「な、何だよ。気持ち悪いな。そこまで言ったなら最後まで言えよ」
    アルフィンは、はあっとひとつため息をつくと、ジョウの方に顔を向き直した。
    「じゃあ、耳貸して」
    「へ?」
    言うが早いか、アルフィンはジョウの耳朶を掴むと、自分の方に引き寄せた。
    「いてててて!アルフィン、痛いよ」
    耳朶から手を離したアルフィンは、そっとジョウに耳打ちした。
    「ジョウの傍に居たいの!」
    ジョウの顔が、みるみる赤くなっていく。
    アルフィンは、ジョウに背を向ける様にベンチを座り直した。
    (まったくー、何でこんなに鈍感なの?私にここまで言わせなきゃ、わからないの?)
    彼女の顔も真っ赤であるが、照れているのと憤慨なのと両方入り混じっての茹蛸状態だった。
    (こんな時、俺はどうすればいいんだろうか?気の利いたやつだったら、肩に手をかけるとか、手を握るとか・・・いろいろするのだろうが・・・お、俺にはできん!)
    ジョウは、こんな自分の傍に居たいと言ってくれたアルフィンの気持ちが、心底嬉しかった。
    嬉しかったのだが、その後、自分がどう彼女に接したらいいのか、わからなかった。
    いや、わからなかったのではなく、自分の理性がそれを拒んだ。
    アルフィンは、ジョウに背を向けたまま何かぶつぶつ言っている。
    そんな彼女の背中に向かって、ジョウが声をかけた。
    「ありがとうな。アルフィン」
    アルフィンが驚き振り返ると、今にも顔から火が出そうなジョウが笑っていた。
    今の彼には、精一杯の愛情表現だった。
    「うん!」
    アルフィンは、花が咲いたような満面な笑みをジョウに向けた。
    (俺はこの笑顔に弱いんだよな)
    照れを隠すように、ジョウは飲み終わったコップを潰し、ダストボックスにシュートする。
    潰したコップは綺麗な弧を描いて、ダストボックスに命中した。
    「おみごと!」
    アルフィンも真似てシュートしてみるが、こちらはみごとに外してしまった。
    「あ〜ん、もうちょっとだったのに」
    頬を膨らませコップを拾い上げたアルフィンは、もう一度試みる。
    だが、またも外してしまった。
    「もう、ジョウ、拾って捨てといて」
    「ハイハイ」
    苦笑しながらジョウはコップを拾い上げ、ダストボックスに入れた。
    ふと、ジョウはあることを思い出した。
    「そういえば・・・アルフィンは、アラミス初めてだったよな。何処か行きたい所はあるのか?あるならどこでも案内してやるよ!と言っても、あまり遊ぶところは無いけどね」
    「本当!私、アラミスに来たら絶対行こうと思ってた場所があるの。連れてってくれる?」
    「ああ、いいけど・・・」
    そうは言ってみたものの、アルフィンがぜひ行きたいと思っている所なんて、このアラミスにあるのだろうか?・・・怪訝に思うジョウだった。

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■67 / inTopicNo.3)  Re[2]: 心の中に・・・
□投稿者/ ゆうまま -(2002/04/10(Wed) 22:55:18)
    「ねえ、ジョウ。この近くにお花屋さんってある?」
    「花屋?」
    ジョウは記憶を辿ってみる。
    「ああ、この先に確かあったと思うよ。でも何故だ?」
    「私ね、ジョウのお母様に会いに行きたいの」
    「え?!」
    ジョウは、驚きの眼でアルフィンを見た。
    「ジョウのお母様のお墓参りがしたいの。ジョウだって10年近くミネルバで仕事をしていて、その間、一度もお墓参りしてないでしょ?アラミスに帰って来た時くらい、ちゃんとお母様に元気な顔を見せに行かなくちゃ!」
    アルフィンのうれしそうな話振りとは逆に、ジョウは無言だった。
    しばらくふたりの間に、沈黙が流れる。
    「怒ったの?」
    アルフィンが不安な顔つきで、ジョウの顔を覗き込んだ。
    目が合った。
    「いや、そうじゃないんだ。ただ、アルフィンがそんな事を考えていたなんて、ちょっと意外だったから」
    「意外って何よ。失礼ね。私だって遊ぶことばかり考えてるわけじゃないのよ」
    ジョウの腕にパンチが入った。
    「いて!わ、悪かった」
    「わかったならよろしい。じゃ、行きましょう」
    そう言うと、アルフィンはパーキングエリアの方に向かって歩き出した。
    そんな彼女の後ろ姿を見つめていたジョウは、久しぶりに母の墓碑に行くことに、少し躊躇いを感じていた。
    「ジョウ、なにやってるの?早く〜」
    アルフィンが振り返り、ジョウを手招きした。
    「ああ、今行く」
    『行きたい所があるなら、どこでも案内してやるよ』と言ってしまった以上、連れて行かないわけにもいかず、ジョウも仕方なく歩き出した。

    ジョウ達は、母ユリアが眠る墓所に向かってエアカーを走らせていた。
    墓所は、海が見える小高い丘の上の教会に隣接していた。
    教会に着くと、ジョウはエアカーを停めシートに凭れた。
    「この花、ジョウのお母様に気に入ってもらえるかしら?」
    花束を抱えたアルフィンは、その芳香を楽しむように顔を押し付ける。
    「さあな、お袋が好きだった花のことなんて、親父から聞いたこと無い。第一、花が好きだったかどうかも俺は知らん」
    先程からジョウの態度がおかしい。
    これから母親の墓参りに行くというのに、何だかジョウの素っ気無い態度に、寂しさを感じるアルフィンだった。
    「ジョウ・・・ごめん。」
    今にも泣き出しそうな蒼い瞳を見たとき、ジョウは省察した。
    久しぶりの母の墓参り・・・忙しかったとは言え、10年近くも墓参りをしてやれなかったことへの罪悪感と戸惑いからか、つい彼女に当たってしまったのだ。
    「アルフィン、俺の方こそごめん。君は何も悪くないよ」
    ジョウは苦笑した。
    「ジョウ・・・」
    アルフィンがジョウの右手にそっと左手を置いた。
    「行こう、ジョウ。お母様が待ってらっしゃるわ」
    「ああ」
    ふたりはエアカーを降りると、母ユリアが眠る墓碑へと向かって歩き出した


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■68 / inTopicNo.4)  Re[3]: 心の中に・・・
□投稿者/ ゆうまま -(2002/04/10(Wed) 23:01:38)
    ここは、クラッシャーとその家族だけが眠る墓所だった。
    と言っても、クラッシャーは宇宙葬を行うため、亡骸は宇宙に還り、墓碑だけが建てられていた。
    「ここだ」
    ジョウは、ひとつの墓前に立ち止まった。
    墓碑には、ジョウの母親であるユリアの名前が刻まれていた。
    アルフィンがそっと花束を置く。
    膝まつき、両手を合わせた。
    「はじめまして、ジョウのお母様。チームで航法士を務めるアルフィンと申します」
    (アルフィン・・・)
    しばらく、アルフィンをみつめていたジョウは、彼女が誰かに似ていることに気がついた。
    だが、それが誰なのか思い出せない・・・記憶を辿ってみる・・・ジョウはハッとした。
    「ほら、ジョウも突っ立ってないで、ちゃんとお母さまにご挨拶なさいよ」
    アルフィンは立ち上がりジョウに視線を向けると、彼の様子がおかしいことに気が付いた。
    「ジョウ、どうしたの?」
    アルフィンがジョウの顔を覗き込もうとした、その時、ジョウはアルフィンを掻き寄せ、力強く抱きしめた。
    「ち、ちょっとジョウ・・・」
    「ごめん、しばらくの間、このままにしてくれないか」
    ジョウは、更に力を込めた。
    「しばらくの間って・・・ジョウ」
    「母さん・・・」
    ジョウが聞き取れないほどの小さな声で、そう呟いた。
    アルフィンは驚愕し、固まってしまった。
    ジョウは、墓前で手を合わせるアルフィンに、母ユリアの姿を見た。
    写真でしか見たことのない母・・・物心ついた時には、もうこの世には居なかった。
    母のぬくもりを知らずに育ったジョウに、今、寂しい少年時代の思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
    アルフィンを通して、始めて母に会い、始めて母のぬくもりを感じる。
    (ジョウ、泣いてるの?)
    こんな時でもアルフィンに悟られまいと、ジョウは声を殺して泣いていた・・・が、その肩は震えていた。
    最初は体を固くしていたアルフィンだったが、ジョウの気持ちを悟ったのだろうか、何も言わず彼に体を預け、そっと腕を回した。
    『ジョウ、幸せになってね』
    アルフィンの暖かい体を通して、母ユリアがそう囁いている・・・そんな気がした。


    水平線に太陽が傾き、海がオレンジ色に染まっている。
    墓参りを終えたふたりは、オレンジ色の照り返しを受けながら、駐車場へと向かって歩いていた。
    不意にアルフィンが立ち止まり、海に目をやる。
    「ねえ、ジョウ見て。海が凄く綺麗。キラキラ、オレンジ色に光ってる。」
    あの後、アルフィンはジョウに何も訊かなかった。
    そんな彼女の配慮が、ジョウはうれしかった。
    何時の間にか大人になっていた彼女・・・。
    「ああ、綺麗だな」
    ジョウは、アルフィンの横顔を見ながら呟いた。
    「あのさ・・・さっきの」
    そうジョウが言いかけた時、アルフィンがその言葉を遮る様に話し始めた。
    「ねえ、ジョウ。今夜ボーリングやらない?タロスとリッキーと4人でさあ」
    「ボーリング?」
    「そう、私、結構得意なのよね。アラミスにだって、ボーリング場くらいはあるでしょ?」
    アルフィンがウィンクした。
    「おい、アラミスを田舎だと思ってバカにしてないか。ボーリング場くらいはあるさ」
    「そう、なら夕食を賭けてボーリングバトルしましょ。あ、そうそう。私はか弱い女の子だから、当然ハンディは貰うわよ」
    「誰が、か弱いって?」
    「何よ〜文句あるの?」
    アルフィンが、キッと睨む。
    「はいはい、お姫様の言うことには逆らいません」
    「よろしい。資格停止も解除になって、3日後にはまた仕事が始まるでしょ。今のうち目一杯遊んどかなくちゃね。さ、行きましょ」
    アルフィンが先頭を切って歩き出そうとした、その時、ジョウが彼女の手を取った。
    びっくりしてジョウに目をやると、彼は真っ赤になりながらアルフィンを見つめ微笑んでいた。
    「その・・・たまには手を繋いで歩くのも、いいかなって思ってさ」
    今度は素直に、アルフィンの手を取ることができた。
    自分の心の中に、彼女の存在が大きくなっていることを改めて感じたジョウは、今、彼女との出会いが偶然ではなく、運命だったのだと思い始めていた。
    (ねえ、ジョウ。今、ジョウの心の中に少しでも私がいるって自惚れてもいい?)
    アルフィンは頬を染めながら、その蒼い瞳でしっかりジョウを見つめ、心の中で訊いてみた。
    ジョウも目を離さず、漆黒の瞳でアルフィンを見つめていた。
    「さ、タロスとリッキーが待ってるぞ。帰ろう」
    「うん!」
    ふたりは、お互いの気持ちを確かめ合うように、しっかりと手を握り合い、夕日の中を歩き出した。
    タロスとリッキーが待つミネルバに向かって・・・。
    ふたりの明るい未来に向かって・・・。


                  
fin.
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