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■982 / inTopicNo.1)  PROMISE
  
□投稿者/ りんご -(2006/04/10(Mon) 23:48:51)
    <ミネルバ>の操縦室は、いつになくのんびりした空気が漂っていた。
    操縦は自動制御に切り替えられ、コンピュータが舵をとっている。
    次のワープを行うまでの、ちょっとしたブレイクタイム。
    キッチンに立ったアルフィンを除く、ジョウ、タロス、リッキーの三人は、それぞれのシートでくつろいでいた。
    そんな雰囲気も手伝って、リッキーの口はいつにも増して軽やかだ。
    「ねえねえ、本当にあると思う?そういうことって」
    「あー、何がだ?」気の抜けた様子で、タロスが付き合う。
    リッキーが、じれったそうに「昨日のドラマだよ、ド・ラ・マ!」
    「アルフィンに付き合わされて、みたってやつか?」とジョウ。
    「そうそう。でも、兄貴は宿直だったから、みれなかったんだね」
    「ああ」返事をしながら、ジョウは昨日の騒ぎを思い出した。
    それは、夕食を終え、食後のコーヒーを楽しんでいるときのことだった。
    絶対にはまるから、皆で一緒にドラマを見よう、とアルフィンが言い出した。
    それは、ギャラクシーネットワークで放送されている、人気のメロドラマで、アルフィンお気に入りの番組だ。
    オーバーな演技と、くさいセリフが受け、高い視聴率をマークしている。
    しかし、甘々のドラマに、二人は食指が動かない。なんとか理由をつけて、逃げようとした。
    だが、アルフィンは許さない。
    一緒にみなければ、明日から毎日ピーマン料理のオンパレードよ!と宣言した。
    二人とも、ピーマンが大の苦手だ。できれば、顔も拝みたくない。
    二人は、ひでえ、脅迫なんてずるいぞ、と抗議したが、結局アルフィンには逆らえず、一緒にみたのだ。
    「どういうストーリーなんだ?」
    笑いをかみ殺しながら、ジョウがきいた。
    「ケッ、青くせい話なんですよ」
    さもくだらん、とばかりに、タロスが説明を始めた。
    「主人公は女でしてね。こいつが、孤児院時代に知り合った初恋の男と、恋を成就させるまでの、波乱万丈の物語ってやつでして。
    昨日のは、大人になった二人が再会して、お互いの気持ちを確かめあう山場の回で・・」
    「タロスぅー」にやにやしながら、リッキーが口を挟んだ。
    「なんだぁ?気持ちの悪りぃ声だして」
    「昨日のドラマ、初めて見たって言ってたわりに詳しいじゃん♪」
    ドキン!
    「ば、馬鹿言え!あんなくだらないドラマ、1回みりゃあ、話の筋なんて察しがつくんだよ」
    タロスの目に動揺の色が走った。
    「へー察しがね。おかしいと思ったんだよ。いやだって言いながら、身を乗り出してみてるんだもんなぁ。本当はタロス、あのドラマのファンだったりして」
    おちょくるような視線を、タロスに送った。
    「なっ、何いいやがる。そういうお前こそ、真剣になって見てただろ!」
    「あーみてたさ。意外に面白かったし、初恋を実らす主人公っての参考にしたいからね」
    「参考だぁ?ガキの分際で色づきやがって。おおかたてめえは、ミミーのことでも思い出して、自分と主人公を重ねてやがったな」
    リッキーの顔が真っ赤になった。
    「図星だな」
    形勢逆転に、タロスの顔に余裕の笑みが浮かぶ。
    「ふんふん。デリカシーのない奴に言われたくないぜ。あっ!わっかたぞ。タロスってば、おいらの事やっかんでんだな?」
    「やかんでるだぁ?」
    「そうさ、きっとタロスの初恋なんて、玉砕間違いなしの悲惨な出来事なんだろう。そいつに引き換え、おいらにゃ、輝く未来と素敵な恋が待っている。ご老体には、もう縁がないときた。うらやましくもなるよなー」
    そう言うと、くくくっと笑った。
    「なんだとぉー、このくそちび、表に出ろ」
    青筋をたてて、タロスが立ち上がった。
    「おっ、やるのか、でくの坊!」
    リッキーも席を立ち、しゅしゅっとパンチを打つ真似をする。
    「いい加減にしろ!」ジョウの鋭い声が飛んだ。
    「だって、ジョウ」二人が合唱する。
    「だっては、無しだ。ふざけ過ぎだぞ!」そう言って、二人をギョロッと睨んだ。
    ジョウの視線を受け、二人はしぶしぶ腰を下ろす。口は閉じたが、二人とも臨戦態勢のままだ。
    (仕方のない奴らだ)ジョウはため息をついた。
    二人の喧嘩は、ジェネレーションギャップを埋める儀式のようなものだ。しかし、耳元でやられては、たまったものではない。
    「・・・でもさ、昨日のドラマ、ほんとに面白かったんだよ」
    タロスを無視して、リーッキーが話を蒸し返した。
    よほど気に入ったのだろう。ジョウは苦笑した。
    「ねえねえ、兄貴の初恋ってどんなの?」
    「なんだ、いきなり」突然自分に話が振られて、ジョウはびっくりした。
    「タロスのかわいそーな初恋は聞きたくないけど、兄貴のはどうなのかなって思ってさ。ひょっとして・・・アルフィンだったりして」
    「馬鹿いえ」これには、ジョウの頬が赤くなる。
    「すんません、ジョウ」
    いかにもかわいそうだという身振りで、タロスが割って入った。
    「こいつは、ボランティア精神に溢れたミミーに優しくされて、勘違いしちまってる、哀れなピエロなんでさぁ。ほっといてやりましょう」
    「!!!」
    第二ラウンドが始まった。
    ジョウは、始末に終えんと言う顔で、スクリーンに目をやる。そこには、漆黒の宇宙が広がっている。
    リッキーの問いが、耳に残った。
    (俺の初恋だって?・・・)
    二人のやり取りが、どんどんヒートアップする。
    それとは、逆に、ジョウの目は少しづつ遠くなった。

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■983 / inTopicNo.2)  Re[1]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/10(Mon) 23:53:17)
    No982の続きを書く(りんごさんの小説)
    (遅いな、もう30分たったぞ)
    セピア色の目をした少年は、いらいらした様子で、腕時計から少し先の道路へと目を移す。
    少年に向かってやってくるのは、仲の良さそうなカップルや親子連ればかり。期待する人物は一向に姿を現さない。
    ポツンと一人で待っている間、大勢の人が少年の横を通り過ぎ、吸い込まれるように、ある場所に入っていった。
    そこは<ファンタジーDDランド>。昔、テラで人気を博した、ネズミか何かがシンボルの遊園地、のレプリカだ。
    ここには、他の遊園地が誇る高速ジェットコースターもなければ、3D仕掛けのお化け屋敷もない。
    最新設備の乗り物が、皆無という珍しい遊園地なのだ。
    それは、この星の記念行事として、期間限定オープンした企画ものだった。
    しかし、レトロな雰囲気が受け、予想以上の集客数に後押しされ、延長して営業されていた。
    少年は、チケットブースに程近い、熊の形をした植え込みの所に立っていた。
    (あいつらどじったな)
    少年はため息をついた。一人で入場するのは、気が進まない。
    諦めて道路に向かって歩き出したとたん、大きな声がした。
    「離してください!」女の子の声だ。
    エントランスのそばで、少女とスーツ姿の男が、何やら言い争っている。
    男の胸元には、この施設をかたどったバッチが光る。
    「迷子なら恥ずかしがらなくても、いいんだよ。一緒に事務所に来なさい」
    男は背が低く、顔がやたらと白い。
    「迷子ではありません。もう結構ですから、手を離してください」
    少女は、掴まれた腕を、懸命に振りほどこうとしている。
    「だってお壌ちゃん、お金持ってないんでしょう。おまけに、チケットもない。これじゃあ中には入れないよ。おうちの人に連絡とってあげるから、こっちに来なさい」
    口葉は親切そのものだが、男の目は、少女を犯罪者か何かのように決め付けている。
    「痛い、離して」ずるずると、引きずられるように歩き出した。
    「ちょっとおじさん。うちの妹に何してんの」
    少年が、男に声をかけた。
    「へっ、妹?」突然現れた少年に、男は目を丸くした。
    「そうさ、妹とはぐれちゃって探してたんだよ。おじさんのその汚い手、離してくんない」
    「連れが・・・いた?」男は、あわてて腕を放し、少年と少女を交互にみる。
    少年は、10歳か11歳くらいだろうか。背が高く、年齢の割りに、態度が妙に落ち着いている。
    服装は、ジーンズにTシャツにスニーカー、いたってごく普通の格好だ。
    しかし、こっちの少女はどうだ。淡いピンクのワンピースに黒いエナメルの靴。
    まるでピアノの発表会に出るような姿だ。洋服の生地だって、最高級のシルクに違いない。
    (この二人が兄妹だと??)
    考え込む男を尻目に、少年はすばやくチケットを買うと、少女を連れエントランスをくぐった。
    「ちょっと、待ちなさい」
    あわてて二人の後を追う。しかし、兄妹だという奇妙な二人は、人ごみに消えてしまっていた。

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■984 / inTopicNo.3)  Re[2]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/10(Mon) 23:58:15)
    「助けて頂いて、ありがとうございました」少女が頭をさげた。
    二人は、エントランスから離れた所へとやってきた。
    この遊園地は、26のアトラクションから構成されていて、各エリアは、そのテーマによって、名を<×××サイド>と呼ばれている。
    二人はその中でも、エキゾチックな雰囲気が売りの、<アラビアンサイド>に来ていた。
    そして、二人が立っているのは、くねくね曲がった不思議な形をした木のそばだ。
    「気にしなくていいよ。あいつの態度が、むかついただけだから」
    少年の態度はそっけない。だが、優しい目をしている。この人は、信頼できる!少女は、そう直感した。
    見ず知らずの自分を助けてくれたのが、何よりの証拠だ。
    「でも、本当に助かりました。チケットを買うのに、お金が必要だなんて思いつかなくて・・・」
    「えっ?」不思議なことを言う。少年は首をひねった。
    「そうだわ!チケット代をお返ししたいんですが、私お金を持ってなくて・・・後で送りますから、ご住所教えてください」
    「いいよ、別に」
    自分よりも年下の少女が遣う、丁寧な言葉に、少年は困惑気味だ。
    少女の年は8歳くらいだろうか。きらきら光る金色の髪に、夏の青空を連想させる澄んだ瞳。
    そして何より、とびっきりかわいい。
    「じゃあ、俺はこれで」
    歩き出したとたん、上着の袖を掴まれた。
    「あのー、どなたかと待ち合わせしてますか?」
    「えっ、まあ、友達と待ち合わせしていたんだけど、あいつら、捕まったらしくて」
    「捕まった?」少女が目を丸くした。
    「実は・・・」少年はこれまでのいきさつを話した。
    スクールの卒業を控え、クラス全員による記念旅行で、この星に来たこと。
    今日は、みんなが楽しみにしていた<ファンタジーDDランド>での自由行動の日だったが、先生の発案で急遽、
    人類歴史博物館へ行くはめになったことなど。
    因みに、少年は望んで参加したのではなく、足りない単位を補うため、半強制的に参加させられたのだ。
    しかし、この件は関係の無いことなので、少女には喋らなかった。
    「まあ、ランドの代わりに人類歴史博物館へですか?」少女が形のいい眉をひそめた。
    「そうなんだ、ワニゴリラのやつ!あっ、ワニゴリラっていうのはその先生のあだ名」
    少女がくすりと笑う。
    「ワニゴリラが言うには、俺たちは遊園地で遊ぶより、人類の歴史を学ぶ必要があるんだってさ」
    「・・・で、あなたとお友達はスケジュールを変更した」楽しそうに少女が続けた。
    「そっ。でも、いざ出かけようとしたらワニゴリラにみつかって、ばらばらに逃げたんだ。ここで、落ち合うことにしてね。でも、あいつらは現れなかった」
    そう言って、少年は顔をしかめた。
    「そうだったんですか・・・」
    少女は、ちょっと考えてから言った。
    「もしご迷惑じゃなかったら、ご一緒しませんか?」
    「えっ!」
    「一人より、二人の方が楽しいと思うんです」
    そう言って、少女はにっこり微笑んだ。
    小さな女の子とは思えないほど、優美な笑顔に、少年はドギマギした。
    「べつに、いいけど」
    照れ隠しで、ぶっきら棒な声になった。
    「わあ、良かった。じゃあ、まずはそこの<空飛ぶ絨毯>に乗りましょう」
    青い瞳が、楽しそうにキラキラ輝いた。

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■985 / inTopicNo.4)  Re[3]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/11(Tue) 00:01:12)
    二人は、次々にアトラクションを制覇していった。
    少年は、最初のうちこそ、見ず知らずの少女と二人っきりで遊ぶのは、どうなることかと危惧していた。
    何故なら、彼は女の子が苦手だ。というより、二人っきりで、過ごしたことなど無い。今日が生まれて初めてなのだ。
    でも、そんな心配はすぐに消し飛んだ。
    少女は、よくしゃべり、よく笑う。そして、なんでもないことに、凄く感動したりする。
    さっきもそうだ。ランドのあちらこちらで、大道芸人によるパフフォーマスが行われている。
    少女は、そのひとつ、大男が口から噴出す真っ赤な炎に、とても驚き夢中になってみていた。
    そんな少女の姿は、とても新鮮に映った。
    まるで、モノトーンの世界に、少しずつ色が塗りつけられ、いきいきと輝き出す。そんな不思議な感覚だ。
    この子といると楽しい・・・。少年は、素直にそう感じ始めていた。

    「さあ、食べよう」
    少年は、買ってきたホットドッグとポテトとジュースをテーブルに広げた。
    「お言葉に甘えてご馳走になります」
    たくさん遊んで、二人とも、おなかはペコペコだ。
    二人は野外に設置されている、テーブル席に、向かい合わせで座っていた。
    これから、遅めの昼食をとるところだ。
    近くのテーブルに座っている人たちも、食事をしたり、おしゃべりしたり、楽しそうだ。
    「あの、これは、どういう風に食べたらいいんでしょう」とまどうように、少女が指さす。
    「え?ホットドッグのこと?」
    「はい」
    少年は、内心変なこときくなと思ったが、顔には出さなかった。
    「こうやって、口に押し込むのさ」
    そういうと、がばっと口を開き、ホットドッグにかぶりついた。
    一瞬、少女の目が点になる。が、意を決して、ぱくりとほおばった。
    「美味しい!!」
    「だろ?ここの人気メニューらしいよ」少年の顔に笑みが浮かぶ。
    二人はあっという間に、ホットドッグを平らげ、今度は山盛りポテトに取り掛かった。
    楽しそうに、ポテトをほお張る少女をみて、少年は、ふと心の中の疑問をぶつけてみた。
    「君さ・・・一人で外出するのって、初めてなの?」
    目を大きく見開き、どうしてわかったの!という顔で、少女が頷いた。
    やっぱり!
    半日あまり行動をともにしてわかったが、この子ちょっと浮世離れしてる。
    物怖じしない態度に、丁寧すぎる喋りかた、そして金を持ちく習慣がないときた。
    いいとこのお壌に違いない。
    「出かけるときは、いつも家の者が一緒なんです」嘆くように、話し始めた。
    「一人でいいって言っても、必ず付いてくるし。ああしろこうしろってうるさくて・・・。自由なんて・・・ないんです」
    少女の目は寂しそうだ。
    「今回、父の用事でこの星に来たんです。今日のオフは、ランドで遊んでいいって約束だったんですが、急に、博物館のセレモニーに出るよう言われて」
    「セレモニー?」
    「ああ、いえ、なんでもありません・・・。そんなことより、次は、何に乗りま・・・」
    言葉の途中で、少女の顔が凍りついた。
    不振に思い、少年が後ろを振り返った。
    そこには、黒い服を着た、強面の男が立っていた。
    「探しましたよ」少女の後ろにも、黒服の男が一人、ピタリと立った。
    明らかに、一般人とは違う気配を漂わせている。
    「どうしてここが・・・」
    「みな、心配しています。さあ、参りましょう」
    男は、少女を立ち上がらせよう、腕を掴んだ。
    しかし、席を立つまいと、少女はテーブルのふちにしがみついた。
    強引に引き剥がそうと、男が腕に力を込める。
    苦痛のためなのか、または、見つかったという悔しさのためか、少女の瞳に涙が光った。
    「ちょっと、待ちなよ、おっさん」
    少年の目に、怒りの炎がともった。
    「なんだお前は」男は威圧感たっぷりに少年を見下ろす。
    「この子嫌がってんじゃん。無理強いするのは、あんたの好みなのかい?」
    少年の言葉に、男のこめかみがぴくりとする。「部外者は黙っていたまえ」
    少年は少女の目を見た。
    「君はどうしたい?」
    「えっ?」
    「こいつらと帰りたいか、それともさっき乗り損ねた<ジャンピングマウス>に乗りたいか、どっち?」
    即答だった。「ジャンピングマウス!」
    「よし、決まった。君は俺の依頼人第一号だ!」
    少年はそう言うと、目の前の男めがけてジュースを投げつけた。
    「うわ」男はびっくりして少女の手を離す。
    「こいつ」背後にいた男が小年の肩をつかもうと、手を伸ばした。
    見透かしたように、少年のひじが男のみぞおちにヒットした。男は驚きと苦痛で声がでない。
    「行こう!」少女の手をとり、二人は脱兎のごとく駆け出した。
    「まっ、待て」男たちが後を追う。

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■986 / inTopicNo.5)  Re[4]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/11(Tue) 00:02:45)
    少し走ると、前方に新手の男たちが現れた。
    人数は三人。さっきと同じ黒い服を着ている。
    「こっちだ」
    少年は、急に方向を変え、右に向かって走り出す。男たちもそれに続いた。
    人ごみを掻き分け走る。ランドの中心部、メイン広場に差し掛かった。
    「あっ」少女が段差に足をとられ転んだ。
    少年が手を貸し、起こしてやっていると、囲まれてしまった。
    男は全部で五人。
    「さあ、お遊びはおしまいです」さっき、ジュースを投げつけられた男が言った。この男がリーダーのようだ。
    「いいえ、帰りません」きっぱりと、そして威厳のある声で少女が拒否する。
    「今日一日くらい、この子の好きにさせてやれよ」少年が少女を庇いながら言った。
    男は、少年の言葉を無視する。「・・・部外者はつまみだせ」
    後ろにいた男が、少年の首根っこを掴もうと手をだすが、さっと身をかわされてしまった。
    別の男も手を伸ばしたが、ひらりとかわされた。
    この少年、動きが俊敏だ。
    五人の中で、一番体格が良さそうな男が、少年を捕まえようと、両手をつきだしながら、飛びかかってきた。
    少年はそれを待っていたように、男の腕をつかんだ。エイ!という、掛け声とともに、男を投げ飛ばした。
    少年の倍はあろうという大男だった。
    これには、その場にいた男たちが唖然となった。
    少女だけがが、「すごい!強い!」と興奮している。
    「小僧!」
    本気モードになった黒服の男二人が、少年をはさみうちしようと、間合いを詰める。
    「なんだ、どうした?」少年達の周りに、人が集まり出した。
    ランドのあちこちで行われているパフォーマンスと、勘違いしているようだ。
    頑張れ、負けるなーと、声援が飛ぶ。
    そのとき、バン!という音が響いた。
    (銃声か?)少年がとっさにその場を飛びのく。
    すると、運悪く、さっき投げ飛ばした大男のそばに、着地してしまった。
    (しまった!)
    音の正体は、ランド内で売られている、大きな風船だ。
    よほど強く抱きしめたのだろう。大きな破裂音を最後に、風船はその形を失った。
    持ち主の子供が、大声で泣き出した。
    「残念だったな」男が少年を、羽交い絞めにした。
    「くそ」
    男の手をはずそうともがくが、がっちり押さえ込まれていて身動きが取れない。
    リーダー格の男が近づいてきた。
    「おいたが過ぎるな。お仕置きが必要だ」
    そういうと、男の手が少年の頬に飛んだ。
    バシン!派手な音が響いた。
    「なにをするの!」少女の顔が真っ青になった。
    「貸して」少女は、近くに立っていた女性の手から、日傘を強引に借り受けると、男の頭上に振り下ろした。
    バキ!日傘が真っ二つに折れた。
    少年も黒服の男たちも、あまりのことに声がでない。
    少女も、自分のしたことに驚いたのか、固まっている。
    集まった野次馬からは、おー!と驚きの声があがった。
    スローモーションのように男が崩れた。あわてて、別の男が、その体を受け止めた。
    この時、羽交い絞めしていた男の手がゆるんだ。
    少年は、男の腕をすり抜け、ふっと、身をうずめると、鮮やかにな回し蹴りを男の喉下に炸裂させた。
    「げえ!」大男が吹っ飛ぶ。
    「逃げるぞ」呆然と、立ちすくんでいた少女の手を取り、走り出す。
    「ま、待てー」
    後を追うとする男めがけて、近くの屋台に並べてあったおもちゃを投げつけた。
    すると、子供たちが、わーと歓声をあげながら、地面に散らばったおもちゃに群がる。
    男は、子供たちが邪魔で、思うように進めない。
    どこからか、楽しげな音楽が鳴り響いてきた。メインストリートで、キャラクター達によるパレードが始まった。
    一旦、パレードが始まると、メインストリートの両脇は、ロープが張られ通行が遮断されてしまう。
    「どうするの?」
    「あそこを突っ切る」
    一瞬の迷いもなく、パレード目差して突き進む。見物客をかきわけ、ロープの前までたどり着いた。
    二人を見咎めた係員が、制止しようとしたが、それを振り切り、パレードの列を横切り始めた。
    追いかけてきた男も、二人の後に続こうとするが、係員にがっちり押えこまれて、動けない。
    係員と押し問答している間に、二人の姿は見えなくなった。
    男に残されたのは、目の前で繰り広げられるキャラクター達の行進と、人々の楽しそうな笑い声だけだった。

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■987 / inTopicNo.6)  Re[5]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/11(Tue) 00:04:03)
    黒服たちから逃げおおせた二人は、観覧車に飛び乗った。
    カタン、カタン。観覧車は、ゆったりした速度で上昇していく。
    二人は、並んで座った。ともに、息が荒い。
    しばらくして、落ち着いてくると、突然、少女が笑い出した。
    「あーこんなに、どきどきしたの初めて。あの人達には悪いけど・・・スリリングで楽しかった!」
    これには、少年も噴出した。どうやらこのお壌さん、とんだはねっかえりらしい。
    窓の外には、ランド全体が見渡せる大パノラマが広がっている。
    「大変、血が出てる」少女が驚きの声をあげた。
    少年の口元から、血が滲んでいた。さっき頬をたたかれたとき、口の中が切れたらしい。
    「平気さ」手でぬぐをうとする。
    「待って、私に任せて」そういうと、少女はポケットから白いハンカチを出した。
    ふちにレースが施された、上品そうな代物だ。
    「いいよ、そのきれいなハンカチが汚れちゃう・・」
    「しぃ、黙って」白いちいさな手が、少年の頬に触れる。
    びっくりして、腰を浮かしかけるが「じっとして。少し上を向いて」少女の声が押しとどめた。
    少女の顔がぐっと近づいた。
    (青くてきれいな瞳。吸い込まれそうだ)
    そう思ったとたん、心臓の音がやたら大きく響きだした。
    (こら、おとなしくしろ。聞こえちゃうじゃないか)少年は自分の胸に悪態をついた。
    手当てをしてくれる、少女の顔を改めてみた。
    (・・・こんなにきれいな子・・初めてだ・・・)
    少年の通うスクールにも、美人で人気のある女の子は何人かいる。しかし、彼女のライバルには程遠い。
    「これで、大丈夫」
    「サ、サンキュー」何故か、小さな声になってしまった。
    「ごめんなさい。私のせいでひどい目にあわせちゃって・・・」少女が悲しそうに目を伏せた。
    「そんなことないよ」言葉に力が入る。
    「君は俺の初めての依頼人なんだ。依頼人を守るのが、今回の仕事なんだからさ、気にするなよ」
    慰めたくて、わざとおどけて言った。
    「依頼人?仕事?」聞きなれない言葉に、少女が楽しそうに聞き返した。
    「そう仕事さ、契約書はないけどね。流れはこうさ。依頼人を守り、無事仕事が達成できたときは、依頼人が報酬を支払う」
    「報酬を?」
    「そう、それが俺たちクラッ・・・」そう言いかけて、少女が金を持っていないのを思い出した。
    「冗談、今のほんの冗談さ」あわてて訂正する。気にしただろうか。
    少女の青い瞳が、少年をまっすぐ見る。
    「あなたは、自分の危険も省みず私を守ってくれました。ありがとう」
    心をこめて、少女が言った。
    「でも、私は何も持ってなくて・・・あなたに何も差し上げられません」
    「そんなのいいんだ!俺が、君を守りたかっただけなんだから」
    つい、本音が出てしまった。恥ずかしくなって、あさっての方向をみる。
    少女は、頼もしそうに少年を見つめた。
    「ありがとう・・・もし、私が困ったときは、また助けてくれますか?」
    はにかみながら、少女が尋ねた。
    「・・ああ、いいよ」恥ずかしくて、声が上ずる。
    少女が小指を差し出した。
    「約束ですよ」
    少年も、照れながら小指を差し出す。
    「約束だ」
    指きりげんまんをした。
    「・・・では、これは、契約の前払いです」
    そう言うと、少女は自分の唇を、少年の頬にそっと押し当てた。
    「!」

    <ファンタジーDDランド>には、夕暮れ特有のやさしい光があふれはじめていた。
    二人の乗る観覧車の籠は、ちょうど頂上だ。光が、洪水のように流れ込む。
    少年の顔が真っ赤なのは、さっきのキスのせいなのか、はたまた夕暮れの光のせいなのか・・・。
    カタン。観覧車が、ゆっくりと下降を始めた。

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■988 / inTopicNo.7)  Re[6]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/11(Tue) 00:06:04)
    観覧車を降りた二人は、たくさんの店が軒を並べる<ショップ&カフェサイド>にやってきた。
    土産者を買い求める客で、どの店もごった返している。
    店には、灯りがともり始めた。
    観覧車を出た直後、少年の動きはギクシャクしていたが、今は元に戻っていた。
    「見て!あのアイス」少女が、驚いて指差した。
    道行く人がもっていたのは、ソフトクリームだった。ただし、普通のアイスと違い、淡い光を放っている。
    驚いて、二人は顔を見合わせた。
    それは、このサイドで一番人気の<マジカルきらきらアイス>。空気に触れるとアイスそのものが発光する、ランドで不動の人気を誇る食べ物だ。
    「試してみようよ。買ってくるから、そこで待ってて」
    少年は、少女を残して走り出した。
    少年の背を見送りながら、少女は、胸にそっと手を当てた。
    まだ、胸がどきどきしてる。
    いまさらながら、恥ずかしさがこみあげてきた。
    今日会ったばかりなのに、どうしてあんなことをしたのか・・・自分でもよくわからない。
    ただ・・・もっと、もっと、一緒にいたい。
    そう思ったら、なんだか胸が、きゅうんとなった。
    気持ちを切り替えようと、色とりどりの商品が並ぶ、ウインドウを覗き込んだ。
    ウインドウには、頬を上気させた自分の顔が映る。おもわず、自分に、にっこり笑いかけた。
    ふっと、何か違和感を感じた。ウインドウに目を凝らす。そこには、男が映っていた。
    ぱっと振り向くと、例のリーダー格の男が立っていた。そして、少し離れて四人の男達。
    「お遊びはおしまいです。今からなら、晩餐会のほうは、ぎりぎり間に合います」
    少女は唇を噛んだ。どう、突破しようか迷っているようだ。
    「このまま、逃避行を続けるおつもりなら、あの小僧いえ少年を、あなた様の誘拐犯として逮捕しますぞ!」
    男が冷たい声で告げた。
    少女の顔が青くなった。「酷い!無茶苦茶だわ」
    しかし、男の言葉は脅しではない。
    彼らは、この惑星の政府が、彼女の為につけたシークレットサービスだ。彼らには、少年を逮捕する権力がある。
    少女は肩を落とした。彼を逮捕させる訳にはいかない。
    「公務続きで、窮屈な思いをしていたのは、承知しています。しかし、あなたの自分勝手な行動に、お国のかたがとても心配していますよ、アルフィン様」
    アルフィンと呼ばれた少女は、何か言おうと口を開きかけたが、きゅっと口を閉じた。
    みんなを困らせたかったわけではない。ただ、少し・・・ほんの少し、自由がほしかっただけ・・・
    でも、もうお終いにしなければならない・・・。
    「・・・最後に、お別れを言うことはできますか?」祈る思いで、男に尋ねた。
    「無理です」すかさず、男が言った。
    「すぐ出発せねば、間に合いません」
    アルフィンは、男に促され、のろのろと歩きだした。が、すぐに歩を止め後ろを振り返った。
    「・・・さようなら」そっと、つぶやいた。
    涙がこみあげてきたが、ぐっとこらえた。男達に、泣いている姿をみられたくない。
    黒服の男達に守られ、ランドの出口に向かう。
    アルフィンは、男に声をかけた。
    「痛かったでしょう。ごめんなさい・・・」
    「いいえ、大丈夫です」
    男の口元に、わずかばかりの笑みが浮かんだ。
    外には、プルマンリムジンが用意されていた。男達を従え乗り込むと、猛スピードで走り出した。
    しばらく押し黙っていたアルフィンだったが、ランドの灯りがみえなくなる頃、突然大きな声をあげた。
    「あ!大変!」
    「どうしました」隣にすわった男が、何事かと眉をひそめた。
    アルフィンはくすりと笑った。
    「ずっと一緒にいたのに、あの方のお名前をきくの忘れてました」

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■989 / inTopicNo.8)  Re[7]: PROMISE
□投稿者/ りんご -(2006/04/11(Tue) 00:06:49)
    少年は、無残に溶け出したアイスを、近くのダストボックスに投げ入れた。
    アイスを手に、戻ったとき、少女の姿はどこにもなかった。
    (いっちまったのか・・・)
    ふと、心に隙間風が吹く。
    思えば、まだ、お互いの名も知らなかった。何も・・・何も知らない。
    ただ、これから何かが始まるような・・・そんな、予感を感じさせた出会いだった。
    少女の言葉が甦る。
    「もし、私が困ったときは、また助けてくれますか?」
    ・・・残念だけど、その約束は守れそうにない。
    少年は、空を見上げた。上空には、たくさんの星がまたたいている。
    「ジョウ!」
    自分の名を呼ぶ声がした。聞き覚えのある声だ。
    「ジョウ!こんなとこにいたのか」ワニゴリラだった。血相を変えて走ってくる。
    探しにきたのか!半ば呆れて立ちすくんだ。というより、逃げる気力も起きない。
    「落ち着いて聞くんだ。ジョウ」ワニゴリラのごつい手が、肩にかかった。
    「君のお父さん、クラッシャーダンが事故に巻き込まれた」
    「親父が?」顔から血の気が引く。
    「詳しいことはまだわかっていないが、とりあえず、ホテルに戻って連絡を待つんだ」
    しかし、ジョウが動かない。
    「どうした?大丈夫か?」
    「・・・なんでもない」そう言うと、全速力で走り出した。まるで、何かを吹っ切るように。
    あわてて、ワニゴリラが後を追いかけた。

    (あの後、俺は親父を助けだし、クラッシャーになった)
    それは、遠い日の出来事。
    そして、少し切ない、少年の日の思い出。
    残念ながら、あの子の顔は思い出せない。ただ、青い澄んだ瞳だけは、ジョウの心に焼き付いていた。
    ふと、自分の小指を見た。
    (結局、あの約束は果たせずじまい・・・元気にしてるんだろうか、あの子は・・・)
    ジョウが淡い思い出に浸っていると、にゅっと、目の前にマグカップが突き出された。
    「お待たせ。はい、コーヒー」
    アルフィンがキッチンから、戻ってきていた。「どうしたの、ジョウ。ぼうっとして」
    「いや、別に・・・サンキュ」あわてて、カップを受け取る。
    アルフィンは、タロスとリッキーにカップを渡しながら言った。
    「もう、二人がいつまでもぐちゃぐちゃ言ってるから、ジョウが呆れてんじゃない。いいかげんにしないと、しばくわよ!」
    アルフィンの形相に、二人の口が、ピタリと閉まった。嵐をさけるため、コーヒーを飲む。
    どうやら、タロスとリッキーは、飽きもせずに、ずっと口喧嘩をやっていたらしい。
    「もう大丈夫、静かになったわよ」
    アルフィンが、とっておきの笑顔をジョウに向けた。
    しかし、ジョウは反応しない。夢でもみているような顔つきだ。
    アルフィンは、ジョウの顔をのぞきこんだ。
    ジョウと視線がかち合った。
    ジョウの目に、アルフィンの青い瞳が映る。あの日の少女も、アルフィンと同じ青い、青い瞳・・・
    ふっと、ある考えが、ジョウの頭に浮んだ。が、すぐに打ち消した。
    (まさか、そんな偶然ありえないだろう。あの子がアルフィンだなんて)
    突拍子もない思いつきに、我ながら呆れて、苦笑いする。
    吹っ切るように、ぐいっとコーヒーを飲んだ。熱くて、ほろ苦い。
    「ねえジョウ、気分でも悪いの?」
    歯切れの悪いジョウに、アルフィンは心配顔だ。
    「いや、なんでもない。大丈夫だ、アルフィン」
    そう言って、にやりと笑った。いつものジョウだ。
    「さあ、コーヒーを飲んだら、休憩は終わりだ。仕事に戻るぞ」
    <ミネルバ>の操縦室は、急に活気を取り戻した。

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