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■999 / inTopicNo.1)  DEATH ANGEL の微笑み
  
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:15:15)
    <お願い>

    話の中に、辻褄の合わないところや、おかしな設定が出てきます。
    当方、素人のため、その点はご容赦ください。
    そして、物足りない部分には、皆様の「想像力」をもって、先にお進みください。

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■1000 / inTopicNo.2)  Re[1]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:16:54)
    少年の心臓は、悲鳴をあげていた。
    極度の緊張からくる、重労働のため、オーバーヒート寸前だった。嫌な汗が、背中を伝う。
    少年は、この戦いに参加したことを、悔やみ始めていた。
    あの時、母親の言うことを聞いていれば・・・そんな、考えがちらりと脳裏をよぎった。

    「おい、リオ。気を抜くな。もうすぐ、敵のエリアに到着するぞ!」
    隊を取り仕切っている、ゴズネルが大声をあげた。
    リオは、かぶりを振って、前方に視線を向けた。
    いまさら後悔しても始まらない。ここは戦場なんだ。一瞬の隙が命取りになる。
    リオたちは、敵を急襲すべく、荒野を徒歩で進軍中だった。

    「腐った政府の犬どもに、一泡吹かせてやろうぜ」
    隣にいる、浅黒い顔をした男が話しかけてきた。リオは、ぎこちなく頷いた。
    貧富の差が激しいこの星において、リオは上流階級に属していた。
    しかし、差別が横行し、貧しい者をさらに絶望の淵に追いやる、政府の政策に異を唱え、レジスタンスに身を投じたのだ。
    家を出る日、母親は泣いてリオを引きとめ、父親は彼を殴りつけた。
    それでも、リオの決心は揺るがなかった。
    この星を変えるんだ!そう、言い残して家を出た。

    しかし、それは建前だ。リオは、その一週間前、手痛い失恋を味わったばかりだった。
    彼が、通うハイスクールに、メリッサという、男に愛されるために生まれてきたような、女がいた。
    豊満な肢体に、赤い唇。男どもは、こぞってメリッサの信者となった。
    そして、リオもその一員に加わった。
    かなわぬ高嶺の花だった。しかし、押えきれぬ情熱に突き動かされ、リオは愛の告白をした。
    しかし、メリッサから返ってきたのは、あざけりの言葉と冷たい視線だけだった。
    彼の心は、ずたずたに引き裂かれた。
    そのせいで、リオは自暴自棄になり、レジスタンスに参戦した。

    二週間の基礎訓練を経て、実戦に配置された。今日が彼の初陣の日だった。
    彼の目の前には、隊長のゴズネルが歩いている。彼は、今朝からピリピリしっぱなしだ。
    最近、仲間が相次いで敵の手にかかっている。そして、政府に寝返る者が出始めた、と情報が入ってきたのだ。
    「なあ、知ってるか?政府のやつら、なんでも新兵器を手に入れたらしいぜ」
    さっき話しかけてきた男だ。名は、確かオズモと言ったか。
    「新兵器?」リオが聞き返した。
    「ああ、なんでもおっかねえものらしい」
    オズモが傷だらけの顔で、にやりと笑った。

    リオは、オズモの腰にぶら下がっている物が、目に入った。
    「あんたの腰のやつは、一体なんだ?」
    「ああ、これか」
    楽しそうに、オズモはそれをリオに見せた。防毒マスクだ。
    「そんなのどうすんだよ?」
    「これは、こうするんだよ」
    オズモがマスクを被って、嬉しそうに笑った。
    「わかった、もういいよ」
    別に被り方を訊きたかったわけじゃない。呆れたように、リオが言った。
    「お前、今日が初陣だったな。お祝いに、いいものをやろう。俺からのプレゼントだ」
    そう言うと、オズモは胸のポケットから小さなスプレー缶を取り出し、いきなり、リオの顔に吹きかけた。
    「!」
    しゅー。甘い香りが広がった。
    まるで、メリッサが使う香水みだいだ・・・


    「ほら、リオいつまで寝てるの。もうとっくに、授業は終わったのよ」
    女の声がした。
    目を開けると、見慣れた場所にリオはいた。彼が通うハイスクールだった。
    リオは自分の席に、突っ伏して寝ていた。
    「いつもの所で待ってるから」
    メリッサが耳元でささやいた。
    びっくりして彼女を見上げると、軽くウィンクをして、教室を出て行った。
    (これは、どういうことだ?俺は、戦場にいるはずじゃあ・・・)

    そのとき、わっと、クラスメート達に囲まれた。
    「やったな、リオ。あの、メリッサを落とすなんて、おまえどういう魔法を使ったんだよ」
    皆が、口々にリオに質問を浴びせた。
    (俺が、メリッサを落としただって?)
    戸惑うリオを、親友のチェニーノが、教室の外へ連れ出した。
    「ぐずぐずしてると、メリッサの機嫌が悪くなるぞ。早く行ってやれよ」
    「行けって、言われたって、どこに行きゃあいいんだよ」
    「あほか・・・礼拝室に決まってんだろ。お前ら、いつもそこで、いちゃいちゃしてるじゃないか」
    チェニーノが、にやにやしながら言った。
    「ほら、行けよ」背中を押されて、リオは歩き出した。
    しかし、どうも腑に落ちない。振り返って、チェニーノに質問した。
    「なあ・・・チェニーノ」
    「なんだ?」
    「これって、夢でもみてんのかな?」
    チェニーノが噴出した。
    「おいおい、学校のアイドルを彼女にしたからって、夢と現実がわからないのか。しっかりしろよ」
    親友のチェニーノに、そう言われると、なんだか、リオの気分もすっきりした。
    (そうか、戦場にいたのは夢だったのか。助かった)
    リオは胸をなでおろした。
    「行って来る」リオは駆け出した。

    礼拝室に入ると、中はがらんとしていて、人の気配が無かった。
    正面の壁に祭ってある神の像が目に入った。そして、両脇には、軽やかに天を翔る天使の絵が飾ってある。
    「わっ!」いきなり、後ろから声を掛けられた。
    びっくりして、振り返ると、メリッサが立っていた。
    「や・・やあ、メリッサ」
    学校一の美女を前にして、リオは緊張した。何を話したらいいかわからない。
    「ふふ、今日は、無口なのね」
    メリッサがしなだれかかってきた。
    リオの顔が真っ赤になった。

    「ね、ねえ、メリッサ」
    「なあに?」メリッサの指が、つーっとリオの胸を撫でる。
    「僕達が付き合ってるって本当?」
    おずおずと切り出した。
    「まあ、何を言うのかと思ったら」
    メリッサが、くすっと笑った。
    「あなたに、告白されて、私達すぐに付き合い始めたんじゃない。まさか、もう忘れたって言うの?」
    「そ・・そうっだったっけ」
    「もう、意地悪なんだから」
    甘えるように、メリッサが腕を絡ませてきた。
    「あたしは、あなたに夢中なのよ」
    メリッサからの愛の告白に、リオは脳天が痺れた。
    あの、男子生徒全員の憧れ、メリッサが俺に夢中だって?
    リオの心臓が早鐘を打つ。思い切って、メリッサを抱き寄せた。
    ふと、壁にかかっている天使の絵が目に入った。まるで、二人を祝福しているように、微笑んでいる。
    「好きよ、リオ」
    メリッサがリオの胸に顔をうずめた。
    あまりの幸福に、リオは思った。
    最高だ。もう、死んでもいい!

    そう思った瞬間、ぷっつりと、リオの意識が途切れた。
    光が消え、何も感じなくなった。
    永遠の闇がリオに訪れた。

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■1001 / inTopicNo.3)  Re[2]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:18:28)
    「つまり、おとりになれって言うんですね?コールマンさん」
    ジョウは、目の前に座っている、初老の男性に向って言った。
    ここは、しし座宙域にある、惑星バーグ。太陽系国家モルガンの首都がある惑星だ。
    ジョウのチームは、この星域を代表する企業、ハルストン工業の依頼を受けてやってきた。
    そして今、ハルストン工業が所有する、全長800メートルの超高層ビルの最上階にいた。そこには、社長コールマンの執務室がある。
    部屋の中は落ち着いた茶色で統一されていて、高級感が漂っている。調度品も全て一流品だ。
    ジョウは、革張りの重厚なソファーに腰を下ろし、仕事の最終確認をしていた。

    ハルストン工業は、戦闘機の製造及び武器弾薬類を扱う軍事企業だ。
    会社は、コールマンの父親が起業し、そして息子の代で飛躍的に業績を伸ばした。
    目の前の人物は、親の七光りによる二世社長などではない、叩き上げの実業家だ。
    ジョウは、注意深くコールマンを観察した。年は、60は超えていると聞いている。しかし、どうみても50過ぎにしかみえない。
    ジムで鍛えているのだろう、引き締まった体に、鷹のように鋭い眼光。彼がひとにらみしたら、蛇だって逃げ出しそうだ。
    そして、このハルストン工業は、つい最近世間を騒がしたばかりだった。

    コールマンは、楽しそうな表情で、ジョウの質問に答えた。
    「その通り。君達に、おとりとなってもらい、わが社に潜む裏切り者をあぶりだしてもらいたい」
    ジョウは、ふうむ、と唸った。
    「で、データを収集するための基地の用意は?」
    「それは、心配ない。すでに手配した」
    「場所は?」
    「オリオン座宙域に、使われていな建物がある。そこを大急ぎで工事させた。スタッフもスタンバイしている。ただし、突貫工事だったので居心地は
    保障出来ない」
    ジョウは、にやりと笑った。
    「結構だ。物見遊山に行くわけじゃない」
    「じゃあ、受けてもらえるんだな」
    「ああ」
    「ありがたい。ただ、アラミスの方から連絡が言ってると思うが、この件は、もう一チーム参加することになっている。それは、聞いているかな?」
    「ああ、ケリーのチームが参加すると聞いてる」
    ジョウの表情が、わずかばかり曇る。
    一つの仕事に、複数のチームが参加するのをジョウは好まない。実際、アバドンの件では、ダーナのチームと組んで、ひどい目にあっている。
    しかし、依頼主の希望とあれば仕方がない、従うまでだ。

    「ハンス」コールマンが、秘書の名を呼んだ。
    別室で控えていた秘書が、契約書と前金を持ってやってきた。
    「では、こちらにサインをお願い致します」
    無機質な声で、ハンスがジョウの目の前に契約書とペンを差し出した。
    ジョウは、ちらっとハンスを見た。
    この部屋に案内してもらったときも感じたが、まったく感情が読めない。
    まあ、大企業の社長秘書ともなれば、お高くとまってるのかもしれない。
    ジョウは、契約書に目を通すと、ペンをとり署名をした。
    「では、確かに」
    ハンスが契約書を受け取り、前金の入った鞄を差し出した。

    「中に、詳しい地図と資料が入っている。ケリーのチームは、すでに出発した。君は、いつ出発できるかね」
    「出港許可が降り次第」
    「わかった、配慮しよう。ハンス、宇宙港に連絡を入れろ。クラッシャージョウのチームが速やかに出航できるようにとな」
    「かしこまりました」ハンスが一礼して、部屋を出て行った。
    ジョウが、ヒューと口笛を吹いた。さすが、大企業だ、色んな所に顔がきくらしい。
    「では、ジョウ。君達の活躍を期待しているぞ」
    コールマンは、そう言うと、右手を差し出した。ジョウも、右手を差し出し、握手を交わした。
    ジョウはコールマンに、別れの挨拶を述べ、部屋を後にした。

    入れ替わるように、ハンスが部屋に戻ってきた。
    「準備はどうかね?」
    コールマンは、テーブルの上に置かれたケースから、葉巻を取り出し、火をつけた。
    「全て予定通りです」
    ハンスの返事を聞いて、コールマンの目がきらりと光った。
    「そう・・・これは、すべて会社のため。ハルストンのためなのだ」
    葉巻の煙が、渦をまくよう、部屋の中を漂いだした。

    社長室専用エレベーターに乗り込み、ジョウは1Fのボタンを押した。
    高速エレベーターが、僅かな振動もさせず、猛スピードで地上を目指す。
    エレベータを降り、ジョウはハルストン工業のビルを後にした。
    宇宙港に向うため、タクシー乗り場に向う。タクシー乗り場はビルを出てすぐだった。
    乗り場には、先客が三人いた。後ろに並んだそのとき、誰かが、ぽんと、ジョウの肩をたたいた。
    振り向くと、男が立っていた。
    「お前は!」
    男が、人懐こそうな笑顔を、ジョウに向けた。

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■1002 / inTopicNo.4)  Re[3]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:19:56)
    「おっそいなー、兄貴。まだ、話が終わらないのかよ」
    リッキーが頬杖をつきながら、文句を言った。
    「ほんとよねー。あたし達だって、連れてってくれればいいのにさ」
    ちょっと、すねたように、アルフィンが同意する
    「おいおい、ジョウは遊びに行ったんじゃない。依頼主に会いに行ったんだ、仕事だぞ」
    年若い二人のクラッシャーに、タロスは諭すように言った。
    「だってー」二人は、じれったそうに身をよじる。
    無理も無い。タロスが内心呟いた。
    ここ、惑星バーグに着いたのは、6時間前になる。
    今回の依頼主、ハルストン工業に出向いたジョウを除いて、タロス、リッキー、アルフィンは、まだ、一歩も外に出ていない。
    <ミネルバ>の中に缶詰状態だ。

    特にすることが無いので、三人はリビングでお茶を飲んでいた。
    そのとき、リビングの扉が勢いよく開いて、ジョウが入ってきた。
    「ジョウ!」
    アルフィンの顔がぱっと輝いた。席を立つと、ジョウに飛びついた。
    「わっ!、ちょっ、ちょっとタンマだ、アルフィン」
    赤くなりながら、ジョウがアルフィンを引き剥がした。
    「おかえりー」
    「おかえりなせえ、ジョウ」
    リッキーとタロスも席を立ち、ジョウのそばに来た。二人とも顔が、ニヤニヤしている。

    「こほん、お客さんだ」
    わざとらしく咳払いをしてから、ジョウは、自分の後ろにいる人物を招き入れた。
    「よお、みんな、元気か」
    そこには、馴染みの顔があった。
    「バード!」三人の目が丸くなった。
    「おめー、どうしてここに・・・」
    バードは以前、タロスと共に、ジョウの父ダンの船にいたクラッシャーだ。
    しかし、すでに廃業し、今は連合宇宙軍情報部二課に所属している。

    意外な来客に、沈滞ムードだったリビングルームの雰囲気が、ぱっと明るくなった。
    「どうしたの、バード休暇なの?」
    「ちょうど、良かったよ、タロスが暇してたから、相手してやってよ」
    「誰が、暇してるだと?そりゃあ、おめえだろー。ジョウはまだか、まだかって、置いてきぼりをくらった赤ん坊みたいに、わめいてたくせに」
    「なんだとー。おいらがいつ、わめいたっていうんだよ」
    「ほー、もう忘れたってのか。ジョウが恋しくて泣き出すんじゃねえかって、心配しんだぜ、坊や」
    そこまで言われて、リッキーの頭から湯気がたった。
    「上等だ、くそタロス。今日こそ、決着つけてやるから、表に出やがれ」
    「おっ、やるか、寝ションベンちび!」
    缶詰状態に飽き飽きしていた二人は、これ幸いと口喧嘩を始めた。
    「いいかげんにしろ!」ジョウが吼えた。
    「お客さんの前だ、少しはそれらしくしたらどうだ」
    ジョウの剣幕に、二人は首をうなだれた。
    さらに、アルフィンの冷たい視線が胸に突き刺さった。

    「わははははは」バードが大笑いした。
    「いやあ、相変わらず、このチームはユニークだ」
    「ほっとけ!ところで、何の用だ、お前が現れると、ろくなことがねえ」
    タロスが胡散臭そうに、バードを見た。
    「おいおい、ひどい言い様だな。これでも、お前さん達に、プラスになる情報を持ってきたんだぞ」
    「情報だあ?」
    「とにかく、話を聞こう。みんな座れ」
    ジョウの言葉に従って、ソファーに腰を下ろした。
    丸くしつらえたソファーの真ん中に、バード。その、右に、ジョウとアルフィン。そして、左に、タロスとリッキーが並んで座った。

    「ジョウに聞いたが、今回の仕事はハルストン工業がらみらしいな」
    「話したんですか、ジョウ」
    タロスが驚いて、ジョウを見た。
    「ああ、かいつまんで話してある」
    これには、タロスが唸った。確かに、バードとは親しい間柄だ。だが、同業者ではない、今は宇宙軍の中佐だ。
    それに、たとえバードがクラッシャーだとしても、おいそれとは、仕事の内容をしゃべることは出来ない。
    仕事上の守秘義務に違反するからだ。だが、あえてジョウはそれを犯した。
    この仕事は、ヤバイ!何かある!タロスの、クラッシャーとしての勘が、そう警告している。

    ジョウは、まず、今回の仕事について詳しく話し始めた。
    今回の依頼主、ハルストン工業では、このところ技術情報の流出が続いていた。
    初めは、さほど重要視されていない技術だったため、犯人探しも形式だけで御座なりにされた。
    しかし最近、何百億クレジットという、申請前の特許技術が、他社に流出した。
    そのため、ハルストンは本腰を入れ、犯人捜しに乗り出した。しかし、犯人を突き止めるどころか、依然流出が止まらない。
    事態を重くみた社長のコールマンは、クラッシャーを雇い、犯人に罠を仕掛けることを決めた。
    餌はこうだ。社内に、戦闘機の操縦系統に関する、画期的な技術を開発した、と噂を流した。
    銀河連合特許庁に申請するため、データ収集作業が行われるが、秘密裏のため、クラッシャーを雇いそれをやらせると。
    しかし、それは真っ赤な嘘だ。ジョウ達が雇われたのは、データ収集のためなどではない。裏切り者をおびき寄せるおとりなのだ。

    「それって、一応、筋が通ってると思うけど?」
    アルフィンが、首をかしげた。美しい金髪が、さらさらと、赤いクラッシュジャケットに流れる。
    「うん。おいらもそう思う。どこが、胡散臭いのさ?第一、この仕事は、アラミス経由だろ?裏は取れてるんじゃないの?」
    「ああ、綺麗なもんさ、表も裏も」
    バードが答えながら、リッキーに顔を向けた。
    「リッキー、<RS5003DA>って、知ってるか?」
    「へ?なんだい、それ?バードんちの新しい住所かい?」
    「たこ、ジョウに恥かかすな」タロスが、リッキーの頭を叩いた。
    「いってー。なにすんだよ」

    「あたし知ってるわ」アルフィンが言った。
    「この間ニュースパックでやっていたもの。それって、銀河連合議会で、使用及び製造を永久凍結することで可決したってやつでしょ」
    「その通り。だが、アルフィン、これを作ってる会社は、どこだか知ってるか?」
    「さあ?」
    「ハルストンだ」硬い声でジョウが答えた。
    「そう、あの食わせ物コールマンの会社が開発し、世に送り出した代物だ」
    バードの言葉に、タロスとアルフィンの顔色が変わった。

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■1003 / inTopicNo.5)  Re[4]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:22:36)
    しかし、一人、リッキーだけが、話の輪に入れない。
    「ねえねえ、おいらは話がみえないいだけど・・・」
    「ああ、すまん、すまん。リッキーにもわかるよう話そう。いいか<RS5003DA>は、兵器の製造番号だ。だが、これならわかるかな・・・
    別名<デスエンジェル>。惑星タイロスの戦いに投入された兵器だ」
    「<デスエンジェル>だって!」リッキーが目を剥いた。
    「そうだ、タイロスは、長いこと政府と反対勢力による抗争が続いてる。業を煮やした、政府が一発逆転をねらって作らせたのが、悪名高い<デスエン
    ジェル>だ。しかも、ただの兵器じゃない。恐ろしい威力を持った細菌兵器だ。それは単に人を殺すなんて、生易しいもんじゃなかった。<デスエンジェル>
    の使用で、死者は三万にも及んだ」
    「三万・・・」リッキーが、ごくりとつばを飲んだ。


    「反対勢力だけじゃなく、一般市民も巻き添えを食った結果だ。しかも、死に方が尋常じゃない。わずかでも、<デスエンジェル>を吸い込むと、肺に入り
    こんだ菌が、血液にのって、猛スピードで全身を掛けめぐる。しかも、そのスピードはたったの10分だ。そして、きっかり10分後に・・・・異変が起こる。
    細胞が一斉に壊死するんだ。ついさっきまで、ピンピンしてた体の細胞が腐り始める。その影響で、体がぼろぼろと崩れだす。眼球がぽっかり抜け落ち、
    顔や手足が砂のように崩れ出し、髪の毛が・・・」
    「もう、やめて!」アルフィンが、耳を押さえ叫んだ。
    ジョウが、アルフィンの背に手をまわした。
    「悪ふざけが過ぎるぞ、バード」
    ジョウに睨まれ「おっと、失礼」と言って、バードは口を閉じた。
    「あまりのむごたらしさに、タイロス政府は銀河中から非難された。たしか、そのせいで、お偉いさんの首が、すげ替えられたんだったな」
    タロスが続けた。

    リッキーが、両腕をさすりながら、バードの顔をみる。
    「<デスエンジェル>が、こわーい兵器だってのは、わかったけど、今回の仕事と、どう関係するのさ」
    待ってましたとばかりに、バードが身を乗り出した。
    「そう、そこだ。<デスエンジェル>は、その異常な殺傷能力のため、全銀河系で使用禁止になった。もちろん、製造も厳禁。出来上がった分は、廃棄
    命令が下った。もちろん、査察も徹底的に行われた。しかし・・・最近闇ルートで<デスエンジェル>が売りに出された。無論、発禁の兵器だ。おいそれと、
    手をだす馬鹿もいない。なんてったって、使ったのがわかったら、銀河中から非難されるし、連合も黙っちゃいない。だが、問題なのは、どうして売りに
    でたか・・・だ。わかるか、リッキー?」
    「そりゃあ、物があるからだろ・・・あっ!そうか!ハルストンか!ハルストンがまだ持ってるんだね」
    出来の悪い生徒から、答えを導き出した教師のように、バードがにやりとした。
    「その通り。ハルストンが、巨額な開発費を投じて作った兵器だ。しかも、タイロスの新政府は、あまりの残虐さを理由に代金の支払いを渋ってるらしい」
    「・・・で、おめえは、ハルストンを内偵してたんだな、バード」
    「まあ、そういうことだ」

    「でも、本当なの、その話って?」アルフィンが訊いた。
    「確かだ。死人も出てる」
    「えっ?」
    「死んだのは、ハルストンの広報部長だった男だ。こいつが、銀河連合にコンタクトを取ってきた。会社が、発禁になったやばいものを、まだ隠し持って
    るってね。連合の役人は条件を出した、身柄を保護する代わりに、隠し場所の資料を出せと」
    「で、探ってる間に、やられちまったんだな」タロスが言った。
    こくりと、バードが頷いた。
    重苦しい空気が、リビングに流れた。

    「じゃ、じゃあ、おいら達に依頼してきた、情報の流出騒ぎってどうなんだい?それも嘘なの?」
    「それは、本当だ、現在特許をめぐる裁判中だ。しかし、訴えられた企業も、真っ向から対立してる。どっちが本当なのか、これは・・・藪のなかだ」
    「ひでー。それじゃあ、ハルストンは真っ黒けじゃないかよ」
    リッキーが口を尖らせた。
    「ついでにいうと、ハルストンが情報流出だと、騒ぎ出したのは、広報部長が銀河連合に駆け込んでからだ」
    「見られたくねえ物を隠す為の、世間様へのめくらましか・・・」タロスがボソッと言った。
    「どうするの、ジョウ?」
    それまで、押し黙っていたジョウが、口を開いた。
    「確かに、ハルストンは胡散臭い。しかし、契約は、すでに済ませた。契約破棄は出来ん」苦々しい口調だ。
    「えー!そんな死神みたいな薄気味悪い会社の仕事なんて、やめちゃおうよ」
    「こらこら、アルフィン。一旦、契約を交わしたら、契約の破棄は出来ねえ」
    「だって、<デスエンジェル>を隠し持ってる会社なんでしょう?それって、こっちから、契約破棄する口実になるんじゃなあい?」
    「いや、無理だ」ジョウが口を挟んだ。
    「<デスエンジェル>をまだ持ってるっていうのは、仮定の話で実証されたわけじゃない。だから、こちらからの契約破棄の口実にはならない」
    アイディアを否定されて、アルフィンが、ぶうと膨れた。

    「そう、そこでみんなに頼みがある」
    「きやがったな・・・」タロスが嫌そうな顔をした。
    「そう、喜ぶな」苦笑いしながらバードが続ける。
    「これから、みんなが向う、惑星ダコタには、密かにコールマン直属の研究部隊が置かれていた所だ。実は、ここは、コールマンの個人所有の施設で、
    連合ではノーマークだった場所だ。しかも、惑星ダコタは、政権の不安定を理由に、去年銀河連合を脱退している。宇宙軍はダコタで身動きがとれない」
    「・・・そこで、代わりに俺達にスパイをやれと」
    不機嫌そうに、ジョウが言った。
    「いやあ、そんなことは頼まんよ。ただし、善良な市民からの、善意の情報は大歓迎だ」
    しれっと、バードが言った。
    「この野郎、相変わらず汚ねえぜ!しかし・・・どうしやす、ジョウ」
    タロス、リッキー、アルフィン、三人の視線がジョウに向く。
    「契約は破棄出来ん、仕事は続行だ。だが、死神の片棒を担ぐのも真っ平だ。仕事中・・・そう、何かの拍子で、情報を掴んだら、あんたに流す。それで、
    どうだ?」
    「結構ですな」
    バードがにんまりした。
    全員が沈黙した。これから、始まる仕事へ、考えをめぐらせているのであろう。

    ふと、アルフィンが口を開いた。
    「ねえバード。そんなにむごたらしい細菌兵器に、なんでエンジェルってかわいい名前がついてるの?」
    「ああ、それは、<デスエンジェル>の特異な性質からきてる」
    「どういうことだ?」
    その件は、初耳だ。ジョウが訊いた。
    「<デスエンジェル>を吸い込み、死が訪れるまでの、10分間に夢をみるそうだ」
    「夢?」
    「なんでも、天使の贈り物のごとく、甘美なものらしい。これは、脳細胞になんらかの、影響を与えるためだ」
    「甘美な夢・・・」アルフィンが繰り返した。
    「そうだ、天使の顔で心をとろかした後、死神のごとく大鎌を振り落とし、命を絶つ。それが<デスエンジェル>の正体だ!」

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■1004 / inTopicNo.6)  Re[5]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:24:19)
    バードが出て行ってから、<ミネルバ>は急ピッチで出港の準備に入った。
    宇宙港は、コールマンが手を回していたので、離陸の順番は最優先で、<ミネルバ>に振り当てられた。
    <ミネルバ>は、何かに追われるのかのように、この地を飛び立った。
    一行は、惑星ダコタがある、オリオン座宙域を目指す。

    最初のワープ可能ポイントに到達するまでの時間を惜しみ、リビングルームでミーティングをすることにした。
    ジョウは、コールマンから渡された、資料を手にしている。
    「ケリーって、兄貴とタロスの知り合いなんだろ?」リッキーが訊いた。
    「ああ、ケリーの親父は、親っさんの後輩で、クラッシャージェームズという、腕のいいクラッシャーだった。今は、体を悪くして、入院してるとか言ってたな」
    「ケリーのチームは、メンバーが入れ替わったらしいな」ジョウが言った。
    「なんでも、弟と妹が新しくメンバーになったとかで」タロスが答えた。
    「弟?ケリーに弟なんていたのか?」
    びっくりしたように、ジョウがタロスを見た。
    「さあ、あっしも初耳でして。ジェームズの奴、よそに子供でもつくってたんですかね」
    タロスが首をひねった。

    「・・・ケリーって、ジョウの幼馴染なんですって?」
    アルフィンがジョウに訊いた。何故か、いつもより声が低い。
    「ああ、幼馴染って言っても、あっちは六つも年上で、姉さんみたいなもんだがな」
    「ふうーん」
    タロスとリッキーは、敏感にこの空気を察知し、話題を変えようとした。
    「そういえば、タロス。ケリーの弟って、変わり者なんだって?」
    「おっ、そうらしいな。あちこちで、問題をおこしてるって噂だ」
    「その弟、変った経歴の持ち主らしいな」
    ジョウが資料を見ながら言った。
    「へー、どんな?」
    「弟のジェイクは、惑星ジハーで傭兵をやってたとある」
    それを聞いて、タロスの顔が青くなった。といっても、もともと青いので、大差は無い。

    「なんだよ、それってすごいの?」
    「この無知」タロスが、リッキーの頭にげんこつをお見舞いした。
    「いってー」リッキーが呻いた。
    「惑星ジハーで傭兵をやってたとなると・・・ブラックナイトメアに所属してたってことだ」
    「ひえー!ブラックナイトメア!」リッキーが飛び上がった。
    「それって、あの有名な?」アルフィンは、信じられないという顔で、ジョウを見た。
    ジョウは、こくりと頷いた。

    ブラックナイトメア<黒い悪夢>。正式名称は別にあるが、通り名の方が有名になってしまっていた。
    勇猛果敢にして、冷血な戦闘集団。彼らの歩いた後には、草一本生えない。
    一度でも、彼らと戦えば、その戦いが悪夢となってつきまとう。そう、銀河中で恐れられている。
    「ヤツを怒らせたら、おめえなんて、ひとひねりだな」
    馬鹿にしたように、タロスがリッキーに言った。
    「へ・・・へん、そんなのやってみなきゃ、わかんないだろ」
    「ふーん、なんだったら、相手してくれるよう、ケリーに頼んでやるよ」
    「い、いえ。間に合ってます・・・」
    リッキーが後ずさった。
    「妹のジェニーは、知ってますかい、ジョウ?」
    「いや、会ったことない。しかし、向こうに着いたら、嫌でも会うことになるさ」

    「そういえば、<デスエンジェル>に対抗する血清は、あるの?」幾分機嫌が戻ってきたアルフィンが、訊いた。
    「残念ながら、ない。目下研究中らしい。進捗状況は70%だと聞いてる」ジョウが答えた。
    「えー、やばいじゃん」
    「血清が出来次第、バードがこっそり届けてくれることになってる」
    「なーんか、やな感じ」
    リッキーが不満気に鼻を鳴らした。
    船内スピーカーから、ドンゴの声が流れた。
    「ワープポイントに到達しました。キャハ」
    「よし、ブリッジに戻るぞ!」

    四人は、すばやく自分のシートに着いた。
    タロスは、慌ただしく手元のコンソールボタンを操作をする。だか、頭の中はまったく別のことを考えていた。
    ハルストンの仕事といい、傭兵あがりのクラッシャーといい、この仕事はなんだかきな臭い。
    (荒れるぜ、この仕事!)
    タロスの胸に黒い渦が巻き起こった。

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■1005 / inTopicNo.7)  Re[6]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:26:37)
    ジョウ達は、コールマンの指示どおり、惑星ダコタにある、ガザ大陸に到着した。
    ガザは、ダコタの中で最も大きい大陸だ。そのほとんどは、密林で埋め尽くされている。
    そして、指定された場所は、その中心に位置していた。
    これから、二週間に渡って仕事を行う、基地が見えてきた。地上1階建てで、二つの棟が細い通路でつながっている。イメージしていたより、大きな建物だ。
    <ミネルバ>は、建物のすぐ隣に作られた発着場に着陸した。
    そこには、ケリーの愛機<ゴライアス>が、すでに係留されていた。
    <ゴライアス>は、ジョウの愛機<ミネルバ>と同じ、水平型万能タイプ外洋宇宙船だ。ただし、九十メートル級と、若干<ミネルバ>より小さい。

    ジョウ達が、<ミネルバ>から降りると、男が一人立っていた。
    ジョウ達を出迎えたのは、この基地の管理責任者で、サイモンいうハルストン工業の社員だった。
    年の頃は、三十半ばだろうか、やや太めで眼鏡をかけている。
    「お待ちしてました」サイモンが、人懐こそうな笑顔で言った。
    「あんたが、サイモンかい?」ジョウが訊いた。
    「はい。明日から、二週間よろしくお願いします。クラッシャーケリーのチームは、すでに着いています。ご紹介しますので、中へどうぞ」
    そう言って、四人を連れて、建物の中に入った。
    いくつか部屋を通り過ぎ、通路左手に面した、大きな扉の部屋に足を踏み入れた。
    「スッゲー」
    「びっくりね」
    「ほお」
    「こいつは」
    四人は、素直に驚きをあらわした。

    その様子に、サイモンは満足そうだ。
    「ここは、ハルストンの最新鋭の設備が導入されてます」
    ここは、この基地の制御ルームになっていた。サイモンの言葉通り、目新しい機械がずらっと並んでいる。
    正面の壁には、巨大なモニターが設置されている。さらに、その左右に四台づつ小さめなモニターが外の様子を映し出していた。
    部屋は天井が高く、バレーボールの試合が出来そうなくらい広い。
    モニターの前にあるコンソールデスクで、男が二人なにやら作業している。
    「彼らは、カールとベンです」
    男達は、ジョウ達に軽く頭を下げた。

    「この中に、ミーティングルームを設けました。そこで、ケリーのチームが皆さんを待っています」
    右手奥に、半透明のガラスで覆われた部屋があった。
    「私は、飲み物を用意してきますので、中でお待ちください」
    そう言って、サイモンはこの場を立ち去った。
    「よし、ケリーのチームに挨拶しよう」
    ジョウに続いて、タロス、リッキー、アルフィンがミーティングルームへ足を踏み入れた。 

    (いよいよだわ!)アルフィンは、仕事はさて置き、自分のプライベートな件で緊張していた。
    ケリーに会う。これは、アルフィンにとって大きなストレスになっていたのだ。
    アルフィンは、元ピザンの王女で根っからのクラッシャーではない。ピザンの氾濫の際に、ジョウと知り合った。
    彼に心惹かれ、強引にこの世界に飛び込んだ、異色のクラッシャーだ。だから、アルフィンは、ジョウの昔のことは知らない。
    つい最近、ジョウと親しい付き合いがあるという、ダーナのチームと仕事をした。
    そこの、二女ルーは、いまやアルフィンの天敵である。
    ルーは、自分が知らない子供時代のジョウのことを知っている。許せない。とっても許せない。
    そこへきて、今回はジョウの幼馴染だという、ケリーの登場だ。否が応でも緊張が高まる。

    (隙をみせちゃだめよ、アルフィン。自身を持って!そうよ、誰が来ても、負けないんだから!)
    そう、自分に言い聞かせた。
    ケリー達は、入り口を背にして座っていたが、ジョウ達に気づくと、立ち上がってやってきた。
    「ジョウ、タロス!久しぶりね」
    真っ先に、ケリーが口を開いた。
    「やあ、ケリー、元気かい?」
    「よお」
    「元気も、元気。今回は、あんた達と一緒だなんてついてるわ。勉強させてもらう、よろしくね」
    ジョウとケリーは握手を交わした。

    そこで、ケリーは自分をじっと見つめる目に気がついた。アルフィンだった。
    「こっちが、アルフィン?」ケリーがジョウに尋ねた。
    「ああ」
    アルフィンに更なる、緊張が走る。
    「やっだー、あんたの彼女とっても美人じゃない!やったわね、色男」
    そう言って、ケリーは、派手にジョウの肩をたたいた。
    「ジョウって、奥手だから一生彼女が出来ないんじゃないかと、心配したけど、よかった、安心した。ジョウのこと、よろしくねアルフィン」
    ケリーがアルフィンに向って、ウィンクした。

    「はい、まかせてください」
    アルフィンは、胸の前で手を組んだ。
    ジョウの彼女。なんて素敵な響き。
    アルフィンは、なんだかとっても、ケリーが好きになった。
    「おい、仕事の前だぞ、余計なおしゃべりは止めろよ」
    赤くなりながら、ジョウがケリーに抗議する。
    「なーに気取ってんのよ。あたしは、あんたが、赤ん坊の時から知ってんのよ。あれー、あたしんちの庭で、お漏らしして困ってるあんたを、助けたのは、どこの誰でしたっけ?」
    「ば、馬鹿。そんなの、3歳の時のことじゃないか」
    慌てて反論するジョウに、リッキーが下を向いて笑いをこらえている。

    [ふーん、まあ、いいわ。とりあえず、うちのメンバーを紹介するね。弟のジェイクに妹のジェニーよ」
    「ジェニーよ、よろしくね」
    「ジェイクだ」
    ケリーのチームは、兄弟3人で構成されている。
    チームリーダーのケリーは、年は25歳。美人というより、愛嬌のある顔立ちだ。茶色の髪は短くカットされ、彼女の性格を表すように、こざっぱりしている。
    <ゴライアス>では、メインパイロットを務める。
    サブパイロットのジェイクは22歳。ジョウより僅かに背が高い。少しやせ気味で、髪の色は、シルバーブロンドだ。
    機関士のジェニーは、13歳。とても愛らしい少女で、大きな目が印象的だ。ウエーブがかった茶色の長い髪を、頭の横で二つに結わえている。
    そして、ここにはいないが、ロボットのキャルがこのチームのメンバーだ。
    因みに、クラッシュジャケットの色は、ケリーがパープル、ジェイクがブラック、ジェニーがプリティピンクだ。

    しかし、このなかで、ひときわ、ジェイクの姿が目をひいた。
    目つきが悪いとかそういう話ではない、それどろこか、前髪は伸ばし放題で、前がみえるのかと疑いたくなるくらいだ。
    おまけに、後ろ髪も長く、無造作に首の辺りで一つに縛っている。
    (こいつが、ジェイクか)タロスが素知らぬ振りを装いながら、ジェイクの様子を伺った。
    「おい、でっかいおっさん。俺がいい男だからって、見とれんなよ。気色悪いぜ」
    ジェイクがタロスに向って、ぴしゃりと言った。
    「あ、ああ、すまん」
    気づかれないように、見ていたつもりだったが、そうじゃなかったらしい。タロスは素直に詫びた。
    「けけけ、でっかいおっさんだって。あたってらぁ」
    「お前は、口閉じてろ」
    タロスの大きな手が、リッキーの口を塞いだ。

    「俺がジョウだ。隣がタロス。それに、アルフィンとリッキー。よろしく頼む」
    ジョウが、ジェイクに向かって、手を差し出した。だが、ジェイクは手を出さない。
    「ふーん。おまえさんが、ジョウか。クラッシャー界のサラブレッドと一緒に仕事とは、アラミスの計らいに、感謝しないとな」
    まるで、迷惑だといわんばかりの口調だ。
    しかし、ジョウは動じない。肩をすくめ、手を引っ込めた。
    ジョウの父親は、クラッシャー評議会の議長、全クラッシャーを統括する立場の人間だ。
    父親も有名人だが、ジョウ自身もこの世界では、名が知れ渡っている。そんなジョウに、根拠のない羨望を持つ者がいれば、やっかむ者、実力を疑う者も
    いる。そんな手合いに会った時、ジョウはむやみに相手にしない。本当の自分を知ってもらう必要もないし、まして実力を疑う輩には、仕事で示せばいい。
    そう考えている。タロスは、そんなジョウの気持ちを、よくわかっている。

    しかし、アルフィンは違う。すばやく反応した。
    「なによー、その言い方。ジョウに対して失礼よ!」
    「よせ、アルフィン」ジョウが止めようと、アルフィンに手を伸ばしたが、はねつけられた。
    「ジョウのランクが特Aなのは、親の七光りじゃなくて、ジョウの実力だわ。勘違いしないで!それに、これから二週間、みんなで一つのチームを組むのよ。
    少しは、口の利き方、気を付けたらどうよ!」
    その言葉を無視して、ジェイクは、無遠慮な視線をアルフィンに這わせた。
    「な・・・なによ」
    「あんたが、うわさのお姫さまか。なるほど・・半人前でも、気の強さだけは、特Aらしいな」そう言って、鼻で笑った。
    アルフィンが、かっとなって言い返そうとしたとき、ケリーが間に入った。
    「いいかげんにしなさい、ジェイク!ジョウ達に失礼よ。謝りなさい。ほら!」
    しかし、ジェイクは知らん顔で元いた場所に戻り、けだるそうに腰を下ろした。
    「ごめんね、ジョウ、アルフィン。ほんとにあの子、口が悪くって」
    申し訳なさそうにケリーが謝る。
    「まっ、あれでも今日は、かわいいほうじゃない?この間なんて、依頼主のオヤジ怒らせて大変だったもんね」
    ジェニーは、いつものことよ、とばかりに呑気そうだ。
    「アイツには、あとで、おきゅうすえておくから」
    「気にしなくて、いいさ」ジョウが言った。
    しかし、アルフィンの気は鎮まらない。
    (半人前?気の強さが、特Aですって?上等じゃない!覚えてなさいよ、クラッシャージェイク!)

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■1006 / inTopicNo.8)  Re[7]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:30:10)
    そこに、サイモンが戻ってきた。後ろにいる2台のハミングバードは、飲み物を運んできた。
    サイモンを正面にして、三列に別れて座った。最前列に、ケリー、ジェニー、リッキー。
    二列目に、ジョウ、アルフィン、タロス。
    そして、最後尾にジェイクが一人で座った。
    「まず、この施設の全体図をお見せします」
    サイモンが、リモコンのボタンを押すと、壁からモニターが現れ、基地全体の見取り図が映し出された。
    まず、片方の棟に、基地の心臓部である制御ルームがある。住居スペースは、もう一方の棟だ。
    住居スペースには、ジョウ達全員に、個室が用意されていた。
    「この施設を中心に、半径5キロにわたって電磁シールドが張られています。ジャングルには、獰猛な野生動物は生息していません。比較的大人しい、
    小動物ばかりです。ただ、気をつけていただきたいのが、クルミンと呼ばれている植物です。クルミンの花粉には、催眠成分が含まれているので、
    うっかり吸い込むと、意識を失くし、暫く動けなくなってしまいますので」

    一通り、打ち合わせが終わったので、サイモンは部屋を出て行った。
    ジョウとケリーのチームは、明日からの段取りについて、確認するため、この場に残った。
    「ふぁー、やっと終わった。おとなしく椅子に座ってるのって疲れんだよな」
    リッキーが大きく伸びをした。
    隣に座っていた、ジェニーも顔をしかめながら、同意する。
    「ほんとよねー。お尻が痛くなっちゃったわ。この椅子安物ね」
    年が近いせいか、リッキーとジェニーは馬が合うようだ。
    「文句は言わないの、仕事なんだから。ところで、ジョウ。例の件なんだけど・・・本当なの?」
    ケリーが、小声でジョウに訊いた。
    「ああ。確かだ」
    「うーん」ケリーが天を仰ぐ。
    ダコタへの移動中、ケリーにはハイパーウエーブ通信を使って、バードとのやり取りを話してあった。
    「でも、当面は契約通り、データ収集と侵入者に備えるわ。なんか、怪しい動きがあれば、あんたに教える。これで、いい?」
    「ああ。そうしてくれ」

    ジェニーが席を立ちあがって、ジェイクの所へ行った。
    「ちょと、ジェイク、いつまで寝てんの。いい加減にしなさいよ」
    つんつんと、ジェイクの頬を突っついた。
    この様子を、アルフィンはあきれてみていた。
    (しんじらんない。皆が真剣にきいてったってのに、こいつ、ずっと寝てたんだわ)
    「ふぁあー」ジェイクが、大あくびをした。
    「終わったか・・・」そう言うと、さっさと席を立ち出口に向かおうとする。
    「こら待ちな、ジェイ。今夜はあんたとリッキーが宿直よ。わかった?」ケリーが、慌てて声をかけた。
    侵入者に備え、各チームから一人づつ、宿直を出すことにしたのだ。
    「ああ」面倒くさそうに、ジェイクは、返事をした。
    そして、きびすを返して、リッキーの側にやってきた。
    「おい、ちび助」
    「へっ?おいらの事?」
    「そうだ。ちっこいのは、お前しかいないだろうが」
    呆れたように、ジェイクが言った。
    これに、リッキーはショックを受けた。
    確かに、リッキーは背が低い。が、他人に言われたくはない。
    しかし、この部屋の中で、リッキーが一番背が低いのも事実だった。年下のジェニーですら、5センチばかリッキーより背が高い。
    言い返したいのを、ぐっと押し殺した。なんと、いっても相手は、元ブラックナイトメアだ。無用な争いは避けたほうがいい。
    「な、なんだよ。おいらには、リッキーってちゃんとした名前があるんだぜ」
    「ほー、そうか、わかった。いいか、ちび助」
    「・・・」
    「あらかじめ言っておくが、ドジふんでもカバーはしねえ。自分のけつは、自分でふけよ。いいな」
    「・・・はい」迫力に押されて、思わず返事をしてしまった。
    それだけ言うと、ジェイクはさっさと部屋を出て行った。

    ジェイクの姿が、みえなくなったのを確認して、リッキーが口を開いた。
    「な・・・なんだよ、アイツ!あったまくんなぁー。まるで、おいらが役立たずみたいじゃないかよ!」
    リッキーの鼻息が荒い。
    「おや、違うのか?」タロスが茶々を入れた。
    「なんでえ、なんでえ、その言い草。おいらより、ジェイクの方が怪しいぜ。だってそうだろ、あんな、前髪じゃ前もろくにみえねえ。役立たずなのは
    どっちだっつうの!」
    ケリーが苦笑いした。
    「ねえリッキー、そんなに、くやしいんだったら、ジェイとさしで勝負してみたら?」楽しそうに、ジェニーが提案した。
    「へ?」
    「ジェイはね、元いた傭兵部隊で、稲妻ジェイクって呼ばれてたのよ。電光石火のごとく敵を倒すんで、ついたあだ名なの。仕事の前の余興に、ちょうど
    いいじゃない。やりなさいよ。あたし、セッティングしてあげる」
    「あ、兄貴ー」
    すがるように、ジョウに助けを求めた。
    「こら、いい加減にしな」ケリーが、軽く睨んだ。
    「フフフ」ジェニーは笑ってごまかした。

    「ところで、この指示をどう思う?」今の騒ぎをまったく、無視してジョウがケリーに尋ねた。
    「そうねー」ケリーが顔をしかめる。
    二人は、サイモンから渡された資料に視線を落とした。
    それには、明日から行われるデータ収集についての、プランが記載されていた。
    1日に3回、戦闘機を飛ばすことになっている。その際、メインパイロットとコパイの二名が搭乗する。
    しかも、各チームごとではなく、2組のチームからひとりづつメンバーを出して、ペアを組むように、と指定された。
    「なんだか、戦力を分散させるのが狙いみたい・・・」ケリーが言った。
    ジョウも内心同じことを考えていた。

    ジョとケリーは、明日からのメンバー割を決めた。
    同じく資料をみていたジェニーが大きな声をだした。
    「ヤッター!ここ、スパがあるんだって」ジェニーの目が輝いている。
    「そういえば、風呂は立派だから、ゆっくりくつろいでくれって、サイモンも言ってたな」思い出したように、タロスが言った。
    ジェニーはケリーとアルフィンに顔を向けた。
    「ねえねえ、皆で、いってみようよ。どうせ、今日はもうすること無いんだし」
    「そうね」アルフィンと、ケリーが顔を見合わせ、頷いた。
    「じゃあ、俺も一緒に!」リッキーが仲間に加わろうとした。
    「ばーか、おめえは俺たちと一緒、男風呂だ」
    タロスがリッキーの首根っこをつまんだ。
    「へへへ」リッキーが頭をかいた。

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■1007 / inTopicNo.9)  Re[8]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:31:44)
    スパは、住居スペース棟の一番奥に作られていた。
    シャワールームのほかに、ジャグジーにサウナがあった。脱衣所の一角には、ゆっくりくつろげるよう、デッキチェアーが用意されている。
    アルフィン、ケリー、ジェニーの三人は、風呂に浸かり、飲み物を飲んで一息つく頃には、すっかり意気投合していた。
    ケリーは、竹を割ったような、さっぱりした性格だった。
    ジェニーは、おしゃまでかわいい。アルフィンは、二人のことが好きになった。
    ケリーとジェニーの二人も、きさくに話すアルフィンに好感を持ったようだ。
    しかも、ジェイクとのバトルは、二人にとって好ましいものだったらしい。
    三人の会話は、仕事以外。そう、お互いのプライベートについてで話が弾んでいた。

    「あたしはね、クラッシャーになるか、ドルロイで技師になるか、悩んだわ」ジェニーが言った。
    「そうなの?」興味しんしんと、アルフィンは身を乗り出した。
    「この子、機械いじりも得意だけど、メカの設計の方もすごいのよ。スクール在籍中に、ある企業からリクルート受けたこともあるの」
    ケリーがちょっと自慢げに言った。
    「へー、すごいのね、ジェニー。じゃあ、どうしてクラッシャーを選んだの?」
    「家族と一緒にいたかったの」
    「家族と?」
    「そっ。親が、クラッシャーなんてやってると、一緒に生活できないでしょ。しかも、ケリーとジェイはさっさと家をでちゃって、あたしは、ひとりぼっち。
    かわいそうなもんよ」
    ちっともかわいそうとは思えない口ぶりだ。
    「だから、クラッシャーになったの。皆で暮らしたかったし、それに、あたしが、ケリーのチームに入れば、ジェイクが傭兵辞めて帰ってくる事わかってたしね」
    そう言うと、ジェニーは、ごくりとジュースを飲んだ。
    「ジェイクはね、この子に甘いのよ。もう、目に入れてもいいくらい、可愛がってるの」
    苦笑いしながら、ケリーが言った。
    「そうそう、ジェイクってば、アルフィンのこと、気に入ったみたいよ」ジェニーがアルフィンに、視線を向けた。
    「えー、なによそれ?あたしたち、喧嘩したばっかよ」
    「フフフ。ジェイは嫌いな奴は無視して、口もきかないの。でも、興味のある人間にはちょっかいを出すの。ほんと、わかりやすいわよ。あの性格」
    (リッキーと年がいくつも違わないのに、ジェニーは利発そうだ。発言も大人びてる)
    アルフィンは、知らず知らずのうちに、ジェニーとリッキーを比べていた。

    はっくしょん!リッキーが、盛大なくしゃみをした。
    タロスが、目の前の皿を手で隠しながら、リッキーを睨んだ。
    「馬鹿、そういう時は口押えろ」
    「あっ、ごめん」
    ジョウ、タロス、リッキーの三人は、基地の中にある食堂で、夕食をとっていた。
    女性陣にも声を掛けたが、ジェニーのお風呂が先!の一声で、女性陣はスパに行った。
    食堂は、こじんまりしていたが、味はなかなかのものだった。
    三人は、六人がけのテーブルについた。ジョウとリッキーが並び、リッキーの前にタロスが座った。

    「一緒によろしいですか?」サイモンが、トレーを持ってやってきた。
    「ああ」ジョウが答えた。
    サイモンは、タロスの隣に腰を下ろした。
    「私、クラッシャーに会うのは初めてなんです。もっと、怖い方達かと思ってました」
    「兄貴やおいら達はまだしも、タロスを見たらびっくりするかもね。凶悪犯みたいな顔だもんな」
    「だーれが、凶悪犯だと?」
    タロスが、リッキーを睨んだ。
    「止めろ二人とも、食事中だぞ」
    ジョウが二人を制止した。

    「仲がよろしいんですね」サイモンが、目を白黒させながら言った。
    「まあね、いっつも一緒だから、家族みたいなもんだよ」
    「出来損ないの、チビをのぞいてな」ぼそっと、タロスが言った。
    「なんだとー!」
    「いい加減にしろ!」
    ジョウが怒鳴った。ジョウの目が本気だったので、二人は口にチャックをした。
    「騒がしくて、すまない」
    「いえ、うらやましいですよ。わたしは、家族がいないので、そんな風に喧嘩できるなんて、憧れます」
    「いないって、みんな死んじゃったのかい?」
    「リッキー」ジョウが諭すような視線を向けた。
    「いえ、いいんですよ。母は、私が生まれてすぐ、死んでしまいましてね。その後、父が男手一つで、育ててくれたんですが、去年亡くなりました。
    だから、今は気ままな一人暮らしなんです。おかげで、研究に没頭しても、誰からも文句を言われなくてすみます」
    「え?あんたは、研究者だったのか?おれは、てっきり技術系の人かと」ジョウが驚いたように言った。
    「今回の仕事は、わが社の裏切り者を見つけるためです。関連部署の者より、関係のない、他の部署から人間をだしたほうがいいだろうと、社長が
    お考えになったんですよ」
    「ふーん」リッキーが、わかったような、そうでないような相槌を打った。
    「皆さんのお力で、是非、わが社の裏切り者を見つけてください」
    サイモンが深々と頭を下げた。

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■1008 / inTopicNo.10)  Re[9]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:35:03)
    翌日。
    今日から、データ収集をしていると見せかけるための、飛行訓練が始まる。
    各チームリーダーの指示に基づき、ペアを組んだ。
    1組目は、ジョウとジェニー。2組目、ケリーとアルフィン。3組目、タロスとジェイク。リッキーは、待機である。
    まず、最初にジョウとジェニーが、大空に飛び出した。
    乗っているのは、ハルストン社製の戦闘機、ハリーマックス。
    パイロット席にジョウ、コパイ席はジェニーだ。
    「これから、指定された、訓練エリアに向う」
    「りょーかい」ジェニーが答えた。

    ガザ大陸は、ハルストン工業がそのほとんどを所有する、密林に覆われた大地だ。
    ただし、データ収集の飛行訓練エリアとして、基地から200キロ程、西に行った所は、木々が伐採されていた。
    上空からみると、ジャングルにぽっかり穴があいたように見える。、穴といっても、直径50キロとかなり大きい。
    指定ポイントに差し掛かると、地面が、数箇所盛り上がり、中から、丸い形をした大きな物体が発射された。
    射撃訓練用のラビットと呼ばれる的だ。球体がぱっとはじけ、中から、幾つもの、小さな球体が出てきた。
    それは、まるで意思があるかのように、縦横無人に飛び回り始めた。
    ラビットは、名前の通り動きが早い、打ち落とすには、それ相当のテクニックが要求される。

    「ラビット確認。数は、30」
    ジェニーが、すばやくその数をカウントしてきた。
    「よし、ウサギを狩るぞ」
    そう言うと、ジョウは、照準スクリーンでラビットを補足する。
    右手のトリガーボタンを押した。閃光とともに、パルスレーザーがほとばしった。
    2機のラビットにレーザーが命中して、火の玉があがる。
    「2匹、撃沈。残り28」
    冷静なカウントが響く。
    「一気に行くぞ!」
    そういうと、ジョウは続けざまに、パルスレーザーを放った。
    真っ青な空に、次々と、赤い火の玉が浮かぶ。
    「残り、21」
    残りのラビットがスピードを上げ始めた。

    この様子は、このエリアを監視するカメラと人口衛星を通して、タロスたちのいる基地にもリアルタイムで映像が届く。
    みんなは、巨大モニターを凝視している。
    「ふーん。ジョウったら、腕あがったんじゃないの?先生が良かったのかしら?」
    そう言って、ケリーはタロスを見た。
    「さあてな」
    タロスが顎に手を当てた。まんざらでもない様子だ。
    「ねえ、あと何分で方がつくか、賭けない?」
    ケリーがタロスに持ちかけた。
    「無理だな」あっさりとタロスが断った。
    「なによー、ちょっとくらいいいじゃない」
    「あれをみな」
    タロスが、モニターを指差した。
    そこには、最後のラビットが砕ける映像が映っていた。

    「あっちゃー、早すぎるわよ。賭けができないじゃない」
    ケリーのがっかりした様子に、アルフィンが噴出した。
    「素晴らしいです!こんなに、短時間でラビットを全てクリアするなんて。いやあー、たいした腕前です」
    サイモンが感嘆したように、言った。
    スピーカーから、ジョウの声がした。
    「これより、帰還する」
    「お昼みんなで、食べよう。待っててね〜」
    ジェニーの弾む声が響いた。

    昼食は、全員揃ってとることにしたので、賑やかなものになった。
    食堂は、肉料理や魚料理、サラダなど、何種類かの料理が並んでいて、好きなものがチョイス出来るビュッフェスタイルだった。
    銘々が、気に入った料理をとり、席についた。
    「仕事したらお腹すいちゃッた」ジェニーが勢いよく、食べ始めた。
    「仕事っていっても、お前は、コパイだろうが」ジェイクが言った。
    「ふーんだ。ちゃんと、ジョウの補助したもん。ね、ジョウ」
    ジョウが頷いた。
    「ジェニーのアシストは的確だった。上出来だ」
    「ほーらね」
    嬉しそうに、ジェニーはジェイクをみた。ジェイクは、肩をすくめてみせた。
    「あっ!ジェイクってば、また野菜残してる。だめよ、ちゃんと食べなさい」
    ジェイクの皿を、すばやくチェックして、ジェニーが言った。
    「兄さんと呼べって、言ってるだろう」
    ジェイクがぶっすとして言った。
    「はいはい、ジェイクお兄様。好き嫌いしないで、食べなさいよ」

    「私も、ご一緒していいですか?」
    サイモンがやってきた。
    「どうぞ」アルフィンが、空いてる席を勧めた。
    「いやあ、さっきの凄かったですね。感激しました」
    椅子に腰を下ろすやいなや、サイモンがジョウを誉め出した。
    楽しいはずの、昼食はサイモンの独壇場になってしまった。
    始めは、ジョウの射撃の腕前を誉めていたのだが、いつまにか、ハルストン工業が、いかに素晴らしいかということに、すりかわってしまった。
    これには、クラッシャー達は辟易した。話が長いのである。

    リッキーが話題を変えるべく、口を挟んだ。
    「そういえば、このダコタには、ハルストンの工場があるだろ?」
    「ええ、f東の大陸に、大きな工場があります。この星は、これといった産業もなくて、ハルストンの工場が出来たおかげで、失業率が改善されたんです。
    会社は、この星に恩恵をもたらしたんです」
    サイモンが嬉しそうに言った。
    「恩恵ねー」ジェイクが、けだるい口調で話しに加わってきた。
    「ハルストンは随分安い賃金で、この星の人間を使ってるってきいたぜ。それって、一種の差別だろ?さすが大企業は、銭勘定に長けてるな」
    ジェイクの皮肉に、サイモンが固まった。
    「こら、ジェイク!余計なおしゃべりしない」ケリーが、ジェイクの脇腹を突っついた。

    「いえ、本当のことなんです。確かに、ハルストンが支払っている賃金は、安いと思います。でも、それでも、住人達にはとてもありがたいんです。
    この星は、信じられないくらい貧しい人達もいて・・・・生活のために、子供を売る親もいるくらいで・・・」
    「そんな」アルフィンが、口元を手で覆った。
    「本当なんです。実は、私はこのダコタの出身なんです。私自身、身を持ってその現実を知ってますから・・・」
    「ふーん、じゃあ、あんたは実の親に売られたことがあるってんだな?」
    ジェイクの言葉に、サイモンの顔が青くなった。
    「図星みたいだな。肉親から手酷い裏切りを食らうと、性格がゆがむって言うから、おまえさんもきっと」
    「やめろ、ジェイク!」ジョウがジェイクをに睨みつけた。
    「おーこわ。どうやら、おしゃべりが過ぎたようだな。邪魔者は退散するか」
    ジェイクは、席を立つと、食堂を出ていった。
    「すみません。私は、会社に提出する書類の準備がありますので、お先に」
    サイモンも、逃げるよう食堂を立ち去った。
    「ジェイクって、なんだか冷たくないか?」リッキーがケリーに言った。
    「ひねくれてるから、ほっといてやって」
    ケリーがあきらめたように、首を振った。

    ジョウは一足先に、食堂を後にした。まず、制御ルームに向った。が、探している人物がいない。
    通路を歩いて、基地の入り口に向った。
    そこには、サイモンの姿があった。外に置かれている、ベンチに座って、空を眺めている。
    「休憩かい?」
    ジョウが声を掛けた。
    「え・・ええ」
    ジョウの姿に驚いたのか、サイモンは、目をぱちぱちさせた。
    「座ってもいいかな?」
    「どうぞ。あの・・・さっきは、すみません。みなさんに、嫌な話をきかせてしまって」
    「気にすることは、ないさ」
    二人は、しばし、押し黙った。
    「・・・ジェイクの言うとおりなんです。私は、子供の時に、父親に売られたんです・・・」
    「・・・・・」
    「とある、金持ちの屋敷で奴隷のように働きました。それこそ、寝るのを惜しんで、働きました」
    サイモンが、遠くを見るような目をして、話し出した。
    「そして、借金の年季があけると、今度は、自分の意思でそこにとどまり、学校に通えるぶんの金をためたんです。死に物狂いで勉強し、その後、
    ハルストンに入りました。そして、どこでどう、私のことを聞きつけたか、去年、父が私に会いに来たんです。私は、悩みました。自分を売った父親です。
    憎いって!・・・でも、憎みきれませんでした。父は、病に侵され、もういくらも生きられない状態だったんです。結局、私は父を引き取り、最後を看取った
    んです」
    「そうだったのか・・・」
    「自分を売った父親を受け入れるなんて・・・ジェイクの言うとおり、屈折してる証拠なんですかね・・・」
    寂しそうな顔でサイモンが言った。
    「俺も、同じなんだ」ポツリと、ジョウが言った。
    「え?」
    「俺の母親も、俺を生んですぐ死んじまった。親父は、仕事で忙しくて、親父といるより、一人ぼっちの時間の方が長かったな・・・たとえ、ふれあいが
    少なくても、親は親だ。やっぱり、家族なんだ。他人にはわからんさ・・・」
    「ジョウ」
    二人は、顔を見合わせた。そして、秘密を共有する同志のように、そっと笑った。
    「なんだか元気が出ました」
    「良かった」
    「あっ、いけない。本当に行かないと。じゃあ」
    サイモンは、慌てて戻っていった。
    ジョウが、入り口の近くの植え込みに顔を向けた。
    「隠れてないで、出てきたらどうだ?」
    ひょっこり、ジェイクが姿を現した。
    「邪魔しちゃ悪いと思ってね」
    二人は、しばし、にらみ合った。
    先に、ジェイクが口を開いた。
    「アイツは、ハルストンの人間だ。余計な感情移入は止めとけ」
    「感情移入した覚えはないぞ」
    むっとした声で、ジョウは言い返した。
    「そうかあ?食堂といい、さっきといい、おもいっきりアイツに同情してる風だったが」
    「そんなことはない!」
    「それなら、いいさ。だが、余計な情けをかけると、真実がみえなくなるぜ」
    そう捨て台詞をのこして、ジェイクは去った。
    嫌な奴だ、とジョウは思った。

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■1009 / inTopicNo.11)  Re[10]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/24(Mon) 22:37:14)
    ダコタで仕事を始めてから、5日目の夜。
    リッキーは宿直のため、部屋を後にした。鼻歌交じりで、制御ルームに向う。
    今日の宿直の相手は、ジェニーだ。
    初日の、ジェイクの時は散々だった。でも、今日はその心配もない。リッキーの足取りは軽かった。
    長い通路を歩き、制御ルームに足を踏み入れたとたん、リッキーの体が凍りついた。
    メインモニターの前に、ジェイクが座っているのだ。
    「よお、チビ助。ジェニーと交代して、俺が宿直だ。よろしくな」
    「う・・・うん」
    リッキーの返事はぎこちない。
    すぐ隣には座らず、ひとつおいて、腰を下ろした。
    宿直は、侵入者が現れたとき、すぐにアクションが起こせるようにと制御ルームにつめるが、実の所、怪しい動きもなく、モニターをみているだけで、
    かなり暇だった。

    特に、話題もなく、二人の間に沈黙が流れた。
    「おい、チビ助」
    沈黙を破って、ジェイクが話しかけてきた。
    「なんだい?」仕方なく、返事をする。
    「お前、夕方、ジェニーを<ミネルバ>に連れて行っただろう?」
    それは、仕事が終わった後だった。ジェニーが、<ミネルバ>の動力機関と、ドンゴを見たいと言い出したのだ。
    特に、断ることもなかったので、小一時間ほど<ミネルバ>を案内したのだ。
    「うん。<ミネルバ>をちょっと案内したけど」
    なんとなく、ジェイクの様子だ変だ。リッキーは警戒した。
    「ほー。ちょっと、案内したっていうのは、お前の部屋も入るのか?」
    これに、リッキーの顔がひきつった。
    ジェニーは、リッキーのご贔屓バンド<ガイ&クール>の大ファンだった。新作のCDを持っていると言ったら、貸してほしいといわれたので、それを取りに
    リッキーの部屋に行ったのだ。
    「部屋って言っても、CDを取りに行っただけで、1分もいな・・」
    ジェイクが、ぐいっと、リッキーの胸元を掴んだ。
    「いいか、あいつは嫁入り前の娘だ。変なちょっかい出しやがると、永遠にお天道様、拝めなくなるぜ」
    背筋が凍るような声で、ジェイクが言った。
    「そ・・そんな、おいらは別に・・」
    ギロリ!ジェイクが睨んだ。
    う!蛇に睨まれた蛙のごとく、リッキーは小さくなった。
    再び、静かになった。

    「おい、チビ助」
    (今度は、なんだよ・・・)
    恐る恐る、ジェイクに顔を向けた。
    「お前の、得意の武器は何だ?」
    「へ?武器?・・・そうだな、ハンドバズーカかな」
    「じゃあ、肉弾戦の時は、何が得意だ?」
    「肉弾戦?」リッキーの目が丸くなった。
    無言のリッキーに、呆れたように、ジェイクが言った。
    「答えられないのか?」
    (だって・・・)
    「お前は、背が低いうえに、やせっぽちで力がない!」
    (あたってる・・・)
    「いいか、接近戦になったとき、ものをいうのはてめえの拳だ。ちょっと、俺にお前のパンチを見せてみろ」
    そう言って、ジェイクが席を立った。仕方なく、リッキーもそれにならう。
    ジェイクが腰を落とし、右の手のひらをリッキーに突き出した。
    「さあ、打って来い」
    もう、やけくそだ。ジェイクの手のひら目掛けて、拳をうちこんだ。
    しかし・・・
    「なんだ、なんだ。そのへなちょこは」
    「・・・へなちょこ・・・」
    リッキーがうなだれた。
    「腕の力だけで、打とうと思うな。腰を落として、体重をのせるんだ。もう一回、打ってみろ」
    そう言われて、リッキーが腰を落とし、再度拳を突き出した。
    「もちっと、気合入れろ!」
    リッキーは、向きになって、何度もパンチを繰り出した。
    「ふん、まあ最初よりは、ましになったか。いいか、相手を倒す一撃必殺っていうのは、こうするんだ」
    そう言うと、ジェイクがリッキーの顔面に拳を放った。
    ピタ!寸前のところで、止まった。
    リッキーの呼吸が一瞬止まる。
    「よく、覚えておけよ」
    「う・・うん」
    ジェイクが、にやっと笑った。
    (・・・ひょっとして、こいつ、おいらが思ってたより、いいやつかも・・・)
    リッキーが心の中で、ジェイクの悪印象を訂正しようとしていた、その時。
    リッキーがドシーンと倒れた。ジェイクが、足払いをかけたのだ。
    「な、何するんだよ、いきなり!」
    「あほ。隙だらけなんだよ」
    そう言うと、ジェイクはさっさと、席に戻っていった。
    (うー・・・少しでも、いい奴だと思ったおいらが馬鹿だった。やっぱり、やな奴だ!)
    リッキーはその背中を見て、そう思った。

    この様子を、ドアの隙間から見ていた者がいた。
    タロスだ。
    ふと、通りかかった制御ルームから、なにやら、パシーン、パシーンと音が聞えたのだ。
    中を覗くと、リッキーがジェイクに向って、拳を打ち出していた。
    長身のジェイクに向っていくリッキーをみて、タロスの頬が緩んだ。
    (きばれよ、リッキー)
    そう、心の中で呟くと、そっとその場を後にした。

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■1010 / inTopicNo.12)  Re[11]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:24:17)
    午前2時。ジョウがそっと、自分に割り当てられた部屋を出た。
    人気のない通路を歩き、制御ルームがある棟に向う。
    しかし、ジョウの行き先は制御ルームではない。
    目指しているのは、前々から気になっていた、ある部屋だ
    そこは、奥まった所にあった。ドアは施錠されていて、中に入ることが出来ない。
    サイモンに、その部屋は何に使うのかと訊いてみた。
    「ああ。そこは、以前ここが研究所として使われていたときに使用した、薬品や資料が置いてあると聞いてます。取り扱い注意の薬品もあるので、
    立ち入らないよう、お願いします」と言われた。
    ならば・・・ジョウは、その部屋に侵入すべく、やってきた。

    その部屋のドアは、数字を組み合わせて開くタイプのものだった。壁に、暗証番号を打ち込むよう、テンキーのパネルが、埋め込まれている。
    ジョウは、ポケットから、電卓のような装置を取り出した。
    それを、テンキーに向け、スイッチを押す。
    すると、ジョウの手のなかで、ブーンと振動が始まった。その装置の画面に、数字が浮かび、めまぐるしく入れ替わっていく。
    5分程して、振動が納まった。8桁の数字が表示された。

    ジョウは、その数字を、壁のテンキーに打ち込んだ。
    ガチャ。ロックが解除された。
    (やるじゃないか)
    思わず、笑みが浮かんだ。
    この装置は、ジェニーから借りてきた。なんと、ジェニーが作ったものだという。
    一体、何のために使うんだ?と、ジェニーに訊いたら、こういう時でしょ!と返された。
    まったく。食えない奴だ。

    ジョウは、そっと、部屋に入った。
    電気はつけず、用意しておいた、ペンタイプのハンドライトをつけた。
    中は、意外と広く、ショーケースのような棚が何列にもわたって設置されている。
    近づいて、中を覗くと、確かに、薬品が並んでいた。
    一つ目の棚を調べ終わり、次の棚に移ろうとしたとき、「ガチャ」っと、ロックの外れる音がした。
    慌てて、ジョウはハンドライトを消して、棚の後ろの隠れた。
    キィー。ドアが開いた。
    コツ、コツ、コツ。静まり返った部屋の中に、足音が響いた。
    入ってきたやつも、部屋の電気はつけずに、小さなハンドライトを持っていた。
    そして、ジョウが隠れている棚に、ハンドライトの灯りが向けられた。
    ジョウは、息をひそめた。
    棚から何か取り出すような気配がした。
    しばらくして、再び、足音がした。どうやら、部屋を立ち去るようだ。

    顔を覗き見ようと、ジョウは体をドアに向けた。
    その時、ジョウの肩が隣の棚にぶつかって、本が床に落ちた。
    しまった!
    素早く、ジョウは引っ込んだ。
    出て行こうとしていた、男が振り返った。
    少しのあいだ、部屋の中を見渡しているようだったが、気が済んだのか、ドアが閉まった。
    ふぅー。ジョウが息を吐いた。
    (びっくりしたぜ・・・やっぱり、俺にスパイは向かないな)
    そう自嘲した。
    立ち上がり、さっきの、棚を調べてみた。
    何かを持ち出したような気配がしたが、特にそんな様子は感じられなかった。
    (この部屋は怪しいと思ったが、空振りだったか)
    ジョウは、そっと部屋を出た。そして、自分の部屋に戻るべく、歩き出した。
    この時、ジョウは気づかなかった。
    通路の片隅で、何者かが、ジョウを見ていたことに。

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■1011 / inTopicNo.13)  Re[12]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:26:58)
    ダコタで仕事を始めてから、6日目の朝。
    フライトの前に、必ず、ミーティングを行うことになっていた。
    今日の、ペアは、ジョウとケリー。ジェイクとアルフィン。タロスとジェニー。リッキーは待機。
    皆は、時間通りやってきたが、ジェイクがまだだった。
    「もう、なにしてるのよ。あいつ。毎日遅れてきて」
    アルフィンが、カリカリした。
    「まだ、寝てんのかも。寝起き悪いのよね、ジェイって」他人事のように、ジェニーが言う。
    「あたし、叩き起こしてくる」
    そう言うと、アルフィンは身を翻して、部屋を出ていった。
    「あっ、ちょっと待ってアルフィン」
    ケリーが止めようとしたが、すでにアルフィンは、行ってしまった。
    「ちょっと、ジェニー、あんたも見てきて頂戴」
    「いやよ」
    「ジェニー!」
    「だって、ジェイの奴寝起き悪いんだもん。やだよ」
    「そんなに、寝起きが悪いのかい?」リッキーが訊いた。
    「悪いも、悪い。下手に起こそうとすると、殴りかかってくるのよ」
    その時、僅かに悲鳴が聞えた。
    アルフィンの声だ。
    「どうした?」打ち合わせしていた、ジョウとタロスがやってきた。
    「さっき、アルフィンがジェイクを起こしにいってくれたの。待ってて様子みてくるから」
    ケリーが走り出した。
    「あたし達も行きましょう」
    ジェニーに即され、その場に残っていたジョウ達もジェイクの部屋に向かった。


    アルフィンは、ジェイクを起こすべく、彼の部屋の前までやってきた。
    ドアを叩いた。
    しかし、応答が無い。ドアをあけ、中に入った。
    毛布をかぶって、丸くなっている姿が目に入った。
    (ゆるせない!叩き起こしてやる!)
    アルフィンの手が、毛布に伸びる。

    ジェイクは、夢の世界をさまよっていた。
    しかし、それは楽しい夢ではなく。彼の心を蝕む、悪夢だった。
    無数の銃口が、ジェイクに向けられる。
    やられる!そう思った瞬間、女が飛び出した。
    容赦なく、女の体を無数の銃弾が貫いた。
    女の体から、鮮血が飛び散る。それは、雨のように、ジェイクの顔や体に降り注ぐ。
    女が倒れざまに、ジェイクに顔をむけた。
    口がわずかに動いている。
    ジェイクは、必死でその言葉を聴こうとする。
    「なんだ、何を言ってる」声が小さくて、彼の耳まで届かない。
    女が、地面にひれ伏した。
    かけようろうと、足を踏み出すが、動けない。彼の足は、鎖につながれていて、自由を奪われている。
    銃を構えた男たちが、ジェイクに近づく。
    ジェイクの首をしめようと、、男の大きな手が、ジェイクの首へと伸びる・・・

    ジェイクは、自分に突き出された腕を掴んだ。
    そして、相手をねじ伏せ、首を締め上げた。
    「く・・くるしい!」
    ジェイクは目を覚ました。そして、声の主に気がついた。アルフィンだった。
    ベッドで、彼女の上に馬乗りになり、アルフィンの首をしめあげていた。
    「何で、おまえがここにいる・・・」ジェイクが手を離した。
    アルフィンは、突然の出来事に、目を白黒させながら言った。
    「あ・・あんたが遅いから、起こしにきてやったのよ」
    そう言って、アルフィンは、ジェイクを見上げた。
    ジェイクの体に刻まれた無数の傷が目に入った。そして、左胸のそばには、ひきつれた様な、大きな傷跡があった。
    傷跡?
    アルフィンは、はたと、気がついた。
    自分を組みふしている男が、服を着ていないということに。全裸だった。
    ぎゃあーーーー!!物凄い、悲鳴があがった。
    思いっきりジェイクを突き飛ばした。ジェイクはバランスを崩して、毛布ごとベッドから落っこちた。

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■1012 / inTopicNo.14)  Re[13]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:28:29)
    「いってぇー。なにすんだよ!」
    アルフィンは、何か言おうとするが、ショックのあまり声が出ない。口だけが、パクパクしている。
    「ど・・・どうして何も着てないのよ!ばかー!」やっとこさ、声がでた。
    「はあ?そんなの俺の勝手だろ。第一、裸を見られたのは俺だぜ?なんで、お前が怒ってるんだよ。普通、逆だろ」
    呆れたようにジェイクが言った。
    「うっさい!」アルフィンの顔は、ゆでた蛸のように真っ赤になった。
    「ははん!」
    「な・・なによ」
    「その様子からすると・・・さては、おまえ、男の裸みたことないんだろう?」
    「な・・・なによ、それ」
    明らかにアルフィンが動揺した。

    「だってそうだろ。取り乱しすぎだぜ。そうか、かわいそうに・・・サラブレッドの王子様とはまだなんだな」
    ジェイクがニヤニヤしながら言った。
    ぷつん。アルフィンの中で、何かが切れた。
    次の瞬間、ジェイク目がけてダイブした。
    「わ!」
    アルフィンに伸し掛かられ、ジェイクがひっくり返った。今度は、アルフィンがジェイクにまたがった。
    「いい加減におし、この悪魔!人がおとなしくしてれば、いい気になって!少しは、その減らず口閉じてなさいよ」
    両手で、首を締めた。
    「うわ、よ・・・よせ」
    そのとき、ドアが開いた。
    「何してるんだ、アルフィン!」
    ジョウが驚きの声をあげた。
    ヒュー。後からやってきた、ジェニーが口笛を吹いた。
    「いい格好ね、ジェイク」そう言って、笑い出した。
    タロスとリッキーは、あまりの光景に呆然としている。
    「おい、アルフィンに酒飲ませたのか?」タロスが小声で、リッキーに訊いた。
    「ううん。そんなこと、してないよ」リッキーも小声で答えた。

    アルフィンは、我に返ると、すばやく、飛び去った。
    「ち・・・違うのよ。これには、訳があって」
    アルフィンは、しどろもどろだ。
    「大丈夫、アルフィン?うちの馬鹿が何かした?」
    「おい、ケリーそれは無いだろう。被害者は俺だぜ」体を起こしながら、ジェイクが言った。
    「この女が、いきなり襲ってきたんだぜ」
    「なんですって!」
    「よせ、アルフィン」ジョウが押しとどめた。
    「だって、ジョウ」アルフィンが食い下がったが、ジョウにきつく見据えられ、言葉をぐっと飲み込んだ。
    「詳しい、いきさつはわからんが、迷惑をかけたなら、謝る」
    「へー、さすがチームリーダー、話がわかるらしい」
    「だが、ジェイク。集合時間はとっくに過ぎてる。早く着替ろ。十分後にミーティングをやる」
    そう言うと、ジョウはアルフィンの腕を引っ張り、外に連れ出した。

    ジョウはアルフィンを連れ、ミーティングルームとは、逆方向に歩いていく。
    ジョウは無言だった。
    (怒ってる)アルフィンはそう思った。仕事の直前、あんな失態をみんなの前で演じてしまった。
    しかも、何の落ち度もないのに、ジョウがジェイクに謝罪する羽目になった。
    謝ろう。口を開こうとしたら、先を越された。
    「気にするな」意外な言葉だった。
    「え?」
    「どうせ、アイツの挑発に乗せられたんだろうが、気にするな」
    「ジョウ!」
    「アルフィンは頑張ってる。俺たちは、それを知ってる。それで十分じゃないか?」
    そう言って、ジョウが笑った。
    アルフィンの心がふんわり温かくなった。
    嬉しくなって、ジョウに抱きつこうとした。
    「おっと、ストップ。アルフィン」
    ジョウが赤くなりながら、アルフィンを制した。
    「すぐ、ミーティングだ。行くぞ」
    「うん」
    アルフィンは、足早に歩き出したジョウの後を、追った。

引用投稿 削除キー/
■1013 / inTopicNo.15)  Re[14]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:34:47)
    その日の仕事を終えた、アルフィン、ケリー、ジェニーの三人はまっすぐスパに向かった。
    むろん、仕事で疲れた体を癒すというのもあるが、実際は、女三人だけのおしゃべりが楽しくて、最高の気分転換になるのだ。
    バスローブをまとい、デッキチェアーに横たわる。アルフィンとケリーはアイスティーを、ジェニーはジュースを飲んでいる。

    「ねえ、アルフィン」
    「なあに、ジェニー」アルフィンは口元に、ストローを運んだ。
    「アルフィンとジョウって、どこまでいってるの?」
    アルフィンが、アイスティを吹いた。
    「な、なあに、いきなり」
    心臓がどきどきする。

    「二人って本当に恋人同士なの?」
    ジェニーの質問に、アルフィンの顔が赤くなった。
    これには、ケリーも興味があるのか、黙って二人を見ているだけだ。
    「えっと・・・関係って、そうねー・・・うーん・・あたしとジョウは、その・・・」
    うまい言葉が、見つからない。
    その様子を見て、ジェニーは思った。
    (この様子じゃ、この二人、いいとこキス止まり。ううん、ひょっとしたら、それさえまだかも)

    そのとき、ジェニーの頭に素晴らしいアイディアが浮かんだ。
    ジェニーは、すくっと立ち上がった。
    「ごめん、。用事思い出したから、先にいくね」
    「あ・・・うん。わかった」
    ほっとしたように、アルフィンが答えた。


    リッキーは、とってもいい気分で、通路を歩いていた。
    今日の夕食は、リッキーの大好物がならんだ。三杯お代わりをした。
    タロスがちょっかい出してきたが、知らん顔でやりすごした。ジョウに、腹をこわすぞ!と言われなかったら、もう一杯いっていたところだ。
    なんていっても育ち盛り。

    「リッキー」
    突然声を掛けられた。薄暗い通路に、ジェニーが立っている。
    「どうしたんだい、こんなとこで」
    「リッキーに話があるの」
    ジェニーは、リッキーの腕をがっしと掴むと、近くの、使われていない部屋へと引っ張り込んだ。

    「なんだよ」
    「ねえ、アルフィンとジョウって、まだ恋人同士じゃないんでしょう?」
    「え?なんだよ、藪から棒に」
    「どうなの、リッキーからみて、あの二人って」
    なんだか、ジェニーの目は真剣そのものだ。
    「そうだな・・・まあ、恋人同士の一歩手前で足踏みって感じかな」
    「やっぱり!」
    「え?」

    「あのね、あたし、リッキーにお願いがあって」
    「お願い?どんな?」
    「あたしに協力してほしいのよ」
    「協力?なんだい、おいらに出来ることなら、何でもするぜ」リッキーが胸を張った。
    「あたし、アルフィンのこと、とっても気に入ったの」
    (アルフィンを?物好きな・・・)

    そして、ジェニーが爆弾発言をした。
    「アルフィンって、まだフリーなんでしょう。なら、うちのジェイクの恋人になってほしいのよ」
    「なんだって!」
    リッキーが、びっくり仰天した。
    「そうよ。二人がうまくいって、結婚してくれたら、あたしたち家族になれるもの。二人をくっつけるには、まずアルフィンの情報がほしいの。
    だから、リッキーが知ってること、全部教えて」
    これには、リッキーがむきになって反対した。
    「そんなこと、出来るわけ無いだろ。ジョウを裏切るような真似、出来るもんか」
    「そんなこと言わずに、ね、お願い!」
    「だめだ。出来ないね」
    リッキーの態度はかたくなだ。

    しかなるうえは・・・
    ジェニーは、リッキーの右手を取ると、そっと自分の胸にあてがった。
    「な・・・なにするんだよ」
    リッキーが、1メートルばかり飛び上がった。
    「あんた、あたしの胸触ったわね」ジェニーがにっこりと笑う。
    「な・・何言うんだよ。自分が強引に触らせたんじゃないか」
    リッキーの顔は、真っ赤だ。

    「経緯なんて関係ない。あんたは、あたしの胸を触った。これは、ごまかしようの無い事実よ。さて、このことを、ジェイクに言ったら、どうなるかしら?」
    今度は、リッキーの顔が青くなった。なんだか信号機のようで忙しい。
    「半殺しじゃ、すまないわよ。ジェイは凄腕でならした傭兵なんだから。あんたみたいなおきらく坊や、瞬殺よ。しゅ・ん・さ・つ。どうする?あたしに、
    協力する?それとも、ジェイクに殺られちゃう?」
    ジェニーが楽しそうに言った。

    「き・・汚いぞ!おいら、やってないって、ちゃんと説明するさ」
    「無理無理。あんたの言葉と、あたしの言葉、どっちを信じると思うの?」
    (うっ!そんなの決まってる!)
    「明日、あんたはジェイと組む日だったわね。アルフィンは、待機と。ちょうどいいわ、あんた、仮病使って休みなさいよ」
    ジェニーがけろっと、言い放った。
    「なんてこと言うんだよ。仕事に穴あけられるわけ無いだろう!」
    「気にしない。気にしない。ジェイとアルフィンが組んだほうが、数倍いい仕事できるわよ」
    「・・・」
    酷いいいようである。

    「じゃあ、明日。病気になるの、忘れないでよ」
    手をひらひら振り、ジェニーは出て行った。
    「お・・・おい、待てよ。おいら、そんなことしないからな」
    しかし、ジェニーは戻ってこない。鼻歌を歌いながら、行ってしまった。
    リッキーが呆然と、その背を見送った。

    ジェニーが見えなくなると、リッキーは、自分の右手をみた。
    (おいら・・女の子の胸触っちゃったんだ)
    その初めての感触に、思わず顔がにやけた。が、すぐにかぶりをふって、雑念を追い払った。
    その手にのるもんか。おいらは、ジョウのチームの一員だぜ!
    でも、ジェニーの言うことを聞かなければ、あのシスコン男に半殺しにされるかもしれない・・・
    いや、悪くすれば、フライトの途中事故を装って、窓から放り出されるかも・・・
    考えていたら、腹が痛くなってきた。
    重い足取りで、リッキーはその部屋を後にした。

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■1014 / inTopicNo.16)  Re[15]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:37:10)
    夜が明けた。
    リッキーは、ほとんど眠れなかった。
    タロスに相談しようかとも考えたが、止めた。
    ジェニーとの詳しいやり取りを話す羽目になる。それは、絶対駄目だ。
    悶々としているうちに、朝になった。

    ミーティングルームに、皆が集まった。
    リッキーの様子が、おかしい。ジョウが気づいて、声をかけた。
    「どうした、リッキー。顔が青いぞ」
    「そ、そんなこと無いよ」
    ジェニーと目があった。
    (さっさと、やりなさいよ!ぐず!)目がそう言っている。
    腹がしくしくする。

    「具合でも悪いのか?」
    「い、いや」
    「なんだー、チビ助。お前、今日はメインパイロットの日だろうが、そんなんで操縦出来んのか?」
    ジェイクがいらいらした様子で、リッキーの側にやってきた。
    ジェイクに詰め寄られたときの、恐怖がよみがえる。
    きゅるるるる。リッキーの腹から、盛大な音がした。
    「いてててて」
    たまらず、体を二つに折って、しゃがみこんだ。
    「大丈夫?リッキー」
    アルフィンが、リッキーの背をさすってやった。
    リッキーは、なんとか背筋を伸ばそうとするが、思うようにいかない。腹が、刺すように痛む。
    「昨日、あんなに食うからだぞ」呆れたように、タロスが言った。

    「リッキー具合悪そうね。今日は休んだほうがいいんじゃない、ジョウ」心配そうな声で、ジェニーが言った。
    「ああ」返事をして、ジョウはジェイクに向き直った。
    「すまんが、今日のペアは、アルフィンに変更させてくれ。リッキーは休ませる」
    「・・・ふん」ジェイクが鼻を鳴らした。
    (ああ・・・自分の心と裏腹に、ジェニーのシナリオ通りに、ことが進んでいく)
    「アルフィン、リッキーをメディカルルームへ連れて行ってくれ」
    「わかったわ。さあ、リッキー」
    アルフィンに、支えられ、リッキーが立ち上がった。
    ジェニーと目が合った。かわいらしい顔でにっこり微笑んでいる。
    他の人からみたら、天使の微笑みにみえるだろう。
    でも、リッキーは思った。あそこにいるのは、悪魔だ!

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■1015 / inTopicNo.17)  Re[16]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:41:06)
    リッキーの代わりに、アルフィンがジェイクとペアを組んで出発した。
    アルフィンの気分は最悪だ。
    二日続けて、大ッ嫌いなジェイクと一緒。奴は、コパイ席で居眠りしている。
    (まあ、いいわ。さっさと、片付けて、基地に帰ろっと)
    ポイントに差し掛かると、いつもと同様ラビットが打ち上げられた。
    しかし、アルフィンは知らなかったのだ。、今日のラビットはいつもと違うことを。
    それは、サイモンの発案だった。いままでの、ラビットだと、簡単すぎるようなので、ちょっと動きを加えると言ってきた。
    アルフィンは、リッキーをメディカルルームへ連れて行っていたので、その件を聞き逃していた。

    「・・・そろそろか」
    ジェイクが目を覚ました。
    アルフィンは、前方にラビットの姿を捉えた。トリガーボタンを押そうとしたとき、戦闘機の後方から衝撃が伝わってきた。
    「何?これ?」
    ラビットがバンバンと、戦闘機に体当たりしているのだ。
    「おい、やられてるぞ。さっさと、かわして打ち落とせ」
    「言われなくても、やるわよ!」
    アルフィンは、後方のラビットを振り切るべく、操縦桿を引き、機体を急上昇させた。
    しかし、ラビットが、ぴたっと、くっついてくる。
    「しつこいわね、これでどうよ」
    機体をぐるぐると回転させた。しかし、ラビットは離れない。

    「おい、何遊ばれてるんだ。まだ、一匹もしとめてないぞ」
    「うっさい。少し黙ってて!」
    アルフィンは、なんとかラビットを振り切ろうと必死だ。
    そのとき、ドーンと突き上げるような衝撃が二人を襲った。
    ラビットが、一斉に体当たりしたのだ。
    しかも、そのせいで、エンジンの近くが破損し、みるみる、スピードが落ち始めた。
    「ど・・どうしよう。エンジンがやられちゃった」
    アルフィンが真っ青になった。
    「落ち着け、水平飛行を保て」
    しかし、それは無理な相談だった。ハリーマックスは、高度をぐんぐん下げ始めた。
    「だめ、エンジンが完全にいかれて、高度を保てないわ」
    アルフィンが金切り声をあげた。
    「仕方ない、不時着地を探すぞ。操縦桿をこっちにまわせ!」

    ガザ大陸は、背の高い木々に囲まれたジャングルだ。訓練エリアなら、木々も伐採されており、着陸に適している。
    だが、二人の乗った戦闘機は、どんどんそこから離れていく。
    眼下には、緑の大地が、二人を待ち構えるよう広がっていた。
    失速が始まった。地上がみるみる迫る。

    「くそ、つっこむぞ。身構えろ!」
    アルフィンとジェイクは、着陸のショックに備え、顔面をかばった。
    密林に突っ込んだ。木々をなぎ倒し、凄いスピードでジャングルを突き進む。
    大きな枝が、フロントウィンドウに雨のように、降り注ぐ。そのせいで、ウィンドウに亀裂が走った。
    今度は、翼がすっ飛んだ。メキメキっと、嫌な音とともに、外鈑も剥がれ落ちた。
    地面に大きな陥没があった。ボンと、機体が跳ねた。二人の体も大きく跳ねた。シートベルトが体に食い込み、喉元まで、胃液がこみ上げてくる。
    前方に巨木があった、その二股に分かれた根元に機首を突っ込む形で、ハリーマックスが止まった。
    キャノピーが開いた。ジェイクがクラッシュパックを外に投げた。
    アルフィンに、機外へ出るよう怒鳴った。しかし、失神寸前のアルフィンは反応できない。ジェイクは、アルフィンを強引に引っ張りだし、地上へとジャンプした。
    そして、全速力で駆け出した。程なく、背後で爆発が起こった。
    二人は、無言で、その様子をみつめた。

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■1016 / inTopicNo.18)  Re[17]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:43:48)
    少し、時を戻して。
    アルフィンから、トラブルのため不時着すると、制御ルームに通信が入った。
    そして、その直後、連絡が途絶えた。
    その場にいた、全員が色めき立った。
    「レスキュー用のVTOLがあります。それを使ってください」予想外のトラブルに、サイモンはおろおろしている。
    「救助に行くぞ」ジョウの顔が殺気立っている。
    「あたしも行くわ」青い顔で、ケリーが言った。
    「待って、あたしも行く」ジェニーの顔も真っ青だ。
    「それは、おいらに行かせてよ」
    大きな声がした。リッキーが入り口の所に、立っていた。

    「リッキー、おめえ、大丈夫なのか?」タロスが訊いた。
    「大丈夫。薬を飲んで、腹の具合はよくなったよ」
    リッキーがジョウに懇願した。
    「頼むよ、アニキ。元はといえば、おいらのせいだ。だから、おいらを連れてっておくれよ」
    リッキーの目は、真剣そのものだ。ジョウが、ケリーを見た。ケリーが頷いた。
    「頼んだわよ、リッキー、ジョウ」
    リッキーの顔がぱっと輝いた。
    「こい、リッキー」
    「うん」
    二人は駆け出した。

    この騒ぎの中、サイモンは隣のミーティングルームに、そっと入った。
    胸ポケットから、小さな通信装置を取り出した。
    呼び出しボタンを押すと、程なくして、相手がでた。
    「状況はどうなってる?」
    「予定通りです。ラビットの攻撃で戦闘機が、一機ジャングルに墜落しました」
    「わかった。では、東ゲートを開けておいてくれ。今夜迎えにいく」
    「わかりました。お待ちしています、ハンスさん」
    通信が切れた。

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■1017 / inTopicNo.19)  Re[18]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:46:46)
    まず、アルフィンとジェイクが、最初にやったのは、救難信号を送ることだった。
    「救助が来るまで、休むぞ」
    そう言うと、大きな木の根元に、ジェイクが座った。アルフィンも、近くに座り込んだ。
    ジェイクは、アルフィンを責めない。さっきから、黙ったままだ。
    アルフィンは、ジェイクに謝ろうとかと思ったが、口は閉じたままだ。
    自分のミスで遭難したとはいえ、なんとなく、言い出しかねていた。

    ガサガサと、二人の背後で、何かが動く音がした。
    二人が身構えた。
    このジャングルには、大型の野生動物はいないと聞いている。しかし、広大な密林だ。どんな生き物がいるのか、わかったものではない。

    ばっと、その生物が現れた。
    「わあー、かわいい」
    アルフィンの顔がほころんだ。
    目の前に飛び出してきたのは、小さな猿だった。
    片手に乗りそうな、サイズだ。くりくりっとした大きな目で、アルフィンを見ている。
    猿は、二人に興味を覚えたのか、すぐ近くまでやってきた。

    「この子、群れからはぐれちゃったのかしら?」
    「そうだな。子供のようだ」
    「おいで」
    アルフィンが、手を差し出した。
    「よせ!」
    ジェイクがその手を掴んだ。
    小猿は、びっくりして、木の後ろに引っ込んだ。
    「なにするのよ、逃げちゃったじゃないの!」
    アルフィンの眉が、きりりとつり上がった。
    「やたらに、ちょっかい出すな。見た目と違って、凶暴なやつだったら、どうする」
    アルフィンは呆れたように言った。
    「なーに、言ってんのよ。あんなにかわいいのよ。そんなわけないでしょう」

    そろり、そろり、また小猿が近づいてきた。好奇心が旺盛らしい。
    アルフィンが手を出すと、ぴょんとジャンプして、アルフィンの手に乗った。
    「かっわいー」
    アルフィンが小さな頭を撫でた。小猿は嬉しそうに目を閉じる。
    「ったく。しようがねえなー」
    ジェイクが頭をかいた。
    そのとき、二人は気がついた。たくさんの生き物が、二人を見下ろしていることに。
    そこらかしこに、ぎらぎらと光る、金色の目があった。
    ぎいー、ぎいー、ぎー!
    耳障りな彷徨が、耳を打つ。

    アルフィンがゆっくり、後ずさった。
    「これって・・・」
    「こいつの仲間が、迎えに来たんだ」
    ジェイクが、無反動ライフルを構えた。
    のそり、のそり、一匹の猿が姿を現した。異様に体が大きい。二人を威嚇するため開いた口元には、鋭いきばが見える。
    「ちょっと・・・子供と全然違うじゃないの・・・」
    アルフィンの顔がひきつった。
    「小さいうちはかわいくても、でかくなったら、別物。人間でもよくあることさ」
    大猿が二人に飛び掛ってきた。
    ジェイクが、猿に向って引き金を引いた。
    「やめて」
    アルフィンが叫んだ。この猿達は、群れからはぐれた小猿を探しに来たのだ、殺すのはしのびない。
    猿がドシーンと、派手にひっくり返った。
    その様子に、他の猿達が興奮して、木々をぎしぎしと揺らし、大きな叫び声を上げ始めた。

    「安心しな。腕を掠めただけだ。その、チビを放せ」
    アルフィンは、言われた通り、小猿を地面に降ろした。
    小猿は、倒れている、大猿の元に一目散に駆けていく。
    大猿は、頭を振りながら、ゆっくり起き上がると、大切そうに、小猿を抱きしめた。
    「逃げるぞ!」
    そう言うと、ジェイクはアルフィンの手をとり、走り出した。
    ぎー、ぎー、ぎー!
    猿達が、一斉に二人の後を追いかけた。

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■1018 / inTopicNo.20)  Re[19]: DEATH ANGEL の微笑み
□投稿者/ りんご -(2006/04/25(Tue) 22:52:40)
    二人はジャングルを走った。背の高い木々は姿を消し、竹によく似た木が生える林が姿をあらわした。
    そこかしこに、張り出された木の根っこのせいで、足元は不安定このうえない。しかも、じめじめ湿っていて、滑る。
    だが、ジェイクはそれをものともせず、アルフィンを引っ張り、全速力で走った。
    猿達が、石ころや泥を掴み、二人に向って投げはじめた。
    二人の体に何度も当たるが、気にしてはいられない。痛みを我慢して、突っ走った。
    いきなり、竹林を抜けた。

    急に、攻撃が止んだ。
    振り返ると、猿達が立ち止まっている。
    ぎー、ぎー、ぎー。ひとしきり叫び声を上げると、引き返していく。
    「あきらめたのかしら?」
    荒い息を吐きながら、アルフィンが言った。
    「みたいだな」
    呼吸の乱れを、ほとんどみせず、ジェイクが答えた。
    アルフィンは、ほっとして、地面に座り込んだ。

    「いいか、お姫さん。外見に惑わされるな。やっかいな相手ってのは、たいていこっちを警戒させないような姿をしてるんだ」
    アルフィンは、反論したかった。が、我慢した。
    なんといっても、小猿を呼び寄せたのはアルフィン自身だから。
    「わかったわよ」
    ぶすっとしながら言った。
    「いい子だ」
    ジェイクがアルフィンの頭を撫でた。
    一瞬、胸がドキッとした。

    「な、なにすんのよ。子供じゃないのよ」
    「そうか?俺には、さっきの小猿と、たいしてかわらんようにみえるけどな」
    ジェイクが真顔で言う。
    「きいー」アルフィンの顔が真っ赤になった。
    すくっと立ち上がると、拳で、ぽかぽかとジェイクを叩き出した。
    「うわ、いてて。なんだよ、いきなり」
    「どうして、そう、馬鹿にすんのよ。どうせ、あたしのこと、半人前のクラッシャーだと思ってるんでしょ!」
    そう、口に出したとたん、余計、頭に血がのぼった。
    半端なクラッシャー。ルーもそう言って、馬鹿にした。
    「どうせ、こんなとこに不時着したのだって、あたしのせいだと思ってんでしょ」
    完全な八つ当たりだって、わかっていた。でも、止まらない。すっごく腹が立つ。

    アルフィンは、拳に力を込めた。
    たまらず、ジェイクがひょいと、アルフィンをかわした。
    バランスを崩して、アルフィンがつんのめった。
    運が悪かった。
    ジェイクの後ろに、ぬかるみがあったのだ。アルフィンは、顔からもろに突っ込んだ。
    「げ・・」これには、ジェイクが固まった。
    「お、おい、大丈夫か?」
    ゆっくりと、アルフィンが起き上がった。顔が泥だらけだった。
    ぷっ。思わず、ジェイクが噴きだした。
    うわーん。アルフィンが、大声で泣き出した。物凄い音量だ。

    「おい。なんだよ、ちょっと、顔が汚れただけだろうが、拭けばきれいになるって」
    突然のことに、ジェイクはおろおろした。
    だが、アルフィンは泣き止まない。更に大声で泣きわめく。
    ジェイクは、アルフィンをなだめたりすかしたりしたが、効果が無い。
    アルフィンの凄まじい、癇癪を目の当たりにして、ジェイクは困り果てた。
    「なあ、頼むよ。泣き止んでくれよ。こんなとこ見られたら、俺がいじめたみたいじゃないか」
    アルフィンの声がぴたっと、止まった。顔は手で覆っているので、表情はみえない。
    「・・・じゃあ、謝りなさいよ」
    「へ?」
    「俺が悪かったって、言いなさいよ」地を這うような、低い声だ。
    「なんでだよ、俺は何もしてないだろうが」むっとして、言い返した。
    わっ!と、また、アルフィンが泣き出した。
    「わ・・わかった。俺が悪かった、全部俺が悪い。猿がでかいのも、ラビットを落とせなかったのも、みんな俺のせいだ。さあ、これでどうだ?機嫌直せ」
    一気に言った。しかし。
    「・・・心がこもってない」
    ぶちきれそうになったが、理性を総動員した。
    「そんなことない。心から思ってる」
    「・・・本当?」
    「ああ、本当だ」もう、やけくそだ。ジェイクは内心そう愚痴った。
    「・・・じゃあ、許してあげる」
    何を許されるのか、わからなかったが、とりあえずアルフィンが泣き止んだ。ジェイクは、ほっとした。
    こんな女初めてだ。呆れながらも、口元には笑みうかんだ。

    アルフィンは、ポケットから、ハンカチを取り出し、泥を落とし始めた。
    ひとしきり、顔を拭いて、ハンカチをしまおうとした。
    「ちょっと待て、まだついてるぞ」
    ジェイクが、ハンカチを掴んで、アルフィンの顔を拭いてやる。
    そのとき、強い風が二人の間を駆け抜けた。
    二人の髪が、まるで生きているように、たなびく。
    ジェイクの前髪が、ふわっと、持ち上がった。
    意思の強そうな眉の下に、深紫の瞳が現れた。とても優しい瞳だ。そして、まるで、大切なものを見るように、アルフィンを見ている。

    アルフィンの心臓の速度があがった。
    急に恥ずかしくなって、視線をそらした。
    「こっちこそ・・悪かったわ。たたいたりして」
    「気にするな」
    そう言って、ジェイクは笑った。
    いっつも、意地悪なジェイクが今はなんだか素直だ。
    「ふ、ふん。そんなこと言うなんて、あんたらしくないわよ」
    ジェイクが苦笑した。
    「そうだな・・・」
    アルフィンは思った。なんだか、居心地が悪い。奴の前で、泣いたのも不覚だった。
    アルフィンは、この雰囲気を打破しようと、辺りを見渡した。
    近くに、白い小さな花の群生が、目に入った。
    「みて、花が咲いてるわ」
    アルフィンが駆け寄った。
    「おい」
    「いいにおい」アルフィンは花の香りを楽しんだ。
    すると、何故か、頭がぐらりとした。体から力が抜けていく。

    「おい、大丈夫か」
    ジェイクが慌てて、アルフィンの体を支えた。
    そういえば、クルミンという、眠りを誘う花があるっていってたっけ。
    ぼんやりとアルフィンは思い出した。
    「しっかりしろ!」
    ジェイクが、アルフィンの耳元で怒鳴っている。
    厄介な相手は、警戒させない姿で現れる・・・さっきそう教えられたばかりなのに・・・
    そのとき、どこからか、VTOLのエンジン音が響いてきた。
    「迎えが来たぞ、アルフィン」
    ・・・アルフィン?初めて・・名前を・・呼ばれたなあ・・・
    アルフィンは眠りの世界に引き込まれた。

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