| その朝、ジョウがバスルームから出て、濡れた髪を拭きながらTシャツにハーフパンツという些かだらしない格好でホテルのリビングルームに入ると、美しい夏の朝だというのにそこはまるで葬式の会場だった。 「…ど、どうしたんだ…」 空気が重い。3人はすでにルームサービスで朝食をとっていたが、殆ど手がつけられていない。 うなだれ気味の3人の上には、タテ線が乗っかっているのが見えるようだ。 「どうしたもこうしたも」 甚平姿のタロスが、両腕をソファの背に回して顎を上げて言った。 「また、来たんだよ。また。」 テーブルに両肘をつき、自分の顎を手に乗せてリッキーが暗く言った。緑色に白抜きで「気合」と漢字が書かれたTシャツを着ているのがなんともミスマッチだ。 「来たって、何が」 アルフィンの前にあったオレンジジュースを、立ったまま飲む。 「アラミスよ!!」 突然、アルフィンがテーブルを両手で叩きながら叫んだ。リッキーは顎を打った。 「いてててて」 「アラミスよ、アラミス!いい加減にして!バーニイのハゲ爺い!」 そう叫んだあと、アルフィンは体中の力が抜けたようにぱったりとソファに上半身を倒してしまった。アルフィンはピンクのレーシーなキャミソールに、デニムのミニスカートだ。その太ももと二の腕にちらちらと視線を走らせながら、動揺をかくすようにジョウは言った。 「バーニイ?また仕事か?」 休暇はあと一週間残っていた。散々遊びつくして、これから真の身体の休養、というときだ。 「何て言ってきたんだ?」 アルフィンの横に腰を下ろし、フルーツをがぶがぶと口に放り込む。 「兄貴はまだ風呂だって言ったら、あとで連絡をくれって」 「そうか。じゃあそんなに急ぎじゃないってわけだな。少なくとも、朝飯は食える。」 ジョウは平然と朝食を食べだした。 「てっ!」 そのジョウの左足に、無言のアルフィンの蹴りが、入った。
「ドリームズ・カム・トゥルー?」 「そう、ドリームズ・カム・トゥルーだ」 画面の向こうでバーニイが繰り返した。 「知ってるか?」 「知らないな」 「NPO法人だ。活動内容は、その名の通り、ドリームズ・カム・トゥルーだよ」 「さっぱりわかんねえ」 「病気と闘っている子供達の夢や希望を叶えて、生きる希望を持ってもらうというのが活動内容だ」 「それが、俺たちに何の仕事なんだよ」 ソファに腕組みをしてどっかりと座りなおして、ジョウはバーニイをにらみつけた。およそクラッシャーに用がある団体とは思えない。 「仕事じゃない」 「仕事じゃない?」 ジョウは思わず鸚鵡返しに聞いた。 「ボランティアだ。NPOだからな」 「ボランティア…」 ジョウは自分のベッドルームで、一人でバーニイと通信している。荒れ狂うアルフィンが何を言い出すか分からなかったからだ。3人はとりあえずホテルのプールに御移動願った。そうしておいてよかった、とジョウは思った。ここにアルフィンがいたら、「ボランティアですって?!そんな暇がどこにあるのよ!!」とモノを投げつけてディスプレイを弁償する羽目になっていただろう。 「何をやれって?」 「簡単だ。少年と会ってくれれば、それでいい」 「はあ?」 「ある少年がいる。その子は、不治の病であと数ヶ月の命だ。その子は、クラッシャーに憧れている。クラッシャーダンと、クラッシャージョウをヒーローだと信じている。つい先日、その子の病状がある程度落ち着き、短期の退院が可能になった。議長はスケジュールがいっぱいだが、うまいことに君はどうも、休暇中のようだ。」 にやりとバーニイが笑った。 ジョウは目を閉じて、長いため息をついた。断れるはずが無い。が、アルフィンの怒りは恐ろしい。 「で、どうすりゃいいんだ」 「その子は、太陽系国家ディロンの第3惑星タキにいる。残念ながらその少年は、体力的に宇宙には出られない。だから君がタキまで行って、会って、クラッシャーの話をするなり、ミネルバに乗せてやるなり、少年の『生きる希望』になるようにやってきてくれ」 「生きる希望か。たいしたもんだ」 「もちろん、報酬はナシだぞ。ボランティアだからな」 バーニイはかかと笑った。
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