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■1165 / inTopicNo.1)  Re[11]: Dreams come true
  
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:47:49)
    No1164に投稿(舞妓さんの小説)

    翌日、ジミーの回復を待って出発し、再び細心の注意を払っいつつタキまで送り届けると、もう別れの時だった。
    ジミーはこう言った。
    「お兄ちゃん、僕、諦めないよ。もう一度、入院して治療を続けるよ。最後の最後まで、絶対に諦めない。」
    「そうか」
    ジョウは微笑んで、ジミーの頭を撫でた。
    「これは、プレゼントだ」
    「何?」
    「開けてみろ」
    ジミーが包みを開けると。
    それは、水色のクラッシュジャケットだった。
    「いいの、これ…」
    ジミーは戸惑って、ジョウを見上げた。これがどんなに高価な物か、ジミーは知っていた。
    「当たり前だ。ジミーは、クラッシャーになるんだろ。これを着る日を、必ず、掴むんだ」
    「…ありがとう」
    ジミーは、ジョウに右手を差し伸べた。
    ジョウはふっと笑った。
    たった一晩で、ずいぶん大人になりやがって。
    「またな」
    「うん、また」
    ジョウは、ジミーの手を握った。痛いほどの、固い握手だった。


    タロスに話すと、「ああ、あの妊娠してるのに、走り回って銃ぶっ放した先生」と思い出したようだった。
    しかしダンとキャロルの個人的な関係については、一切知らない様子だった。
    「…そうですかい、あの先生の子供だったんですねえ…」
    ジミーからは、時々メールが届く。ジョウたちは返事を書き、時々は電話をしてジミーと話した。
    ジミーはダンともメールをしているらしい。
    あのダンが、子供とどんなメールをやり取りしているのか。
    以前なら想像すらできなかっただろう。しかし、ジョウはもはやそれを奇異には感じてはいなかった。

    数ヶ月ほど経ったある日、グラントからメールが届いた。
    ジミーから、ではなくグラントから。
    嫌な予感がした。
    時期も時期だった。ジョウは、そのメールを祈るような気持で開けた。

    「ジョウさん、喜んでください。ロイス骨腫の進行を食い止める新薬が、開発されました。今ジミーは、集中治療室で投薬を続けています。経過は良好です。進行が止まれば、部分ごとに順次、骨格のサイボーグ化手術を受けられます。何年もかかる上に、成長に応じて手術を重ねなければならないでしょう。困難な道ですが、それでもジミーは、助かったのです。生きていられるんです。」
    文字がにじんで、読めなくなってきた。
    「あなたが送ってれた<ミネルバ>の模型をベッドサイドに置いて、クラッシュジャケットを壁にかけて、頑張っています。ところが、ジミーは先日、私の『いつかクラッシャーになるんだから、頑張れ』という言葉に対して、こんな事を言いました。
    『お父さん、僕は宇宙でなくて地上のクラッシャーになるよ』と。
    『僕は、弁護士になる。弱い立場の人を守って、悪い事をするやつを倒すんだ』と…。」
    アルフィンがすっと後ろから、無言でコーヒーを置いた。そして、すぐに去って行った。

    「私は泣きました。
    やっと、ジミーの本当の父親になれた。そう思いました。」

    ぽとり、とジョウの膝に、温かい水滴が落ちた。

    「ジョウさんにも、ダンさんにも、どれだけ感謝しても感謝しきれません。あなた方に会えなければ、ジミーはこの新薬の完成を見ずにもうこの世にはいなかったでしょう。本当に、ありがとうございました。

    Dreams come true,Dreams go on.

                            アーサー・グラント」


                                      FIN


fin.
引用投稿 削除キー/
■1164 / inTopicNo.2)  Re[10]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:45:18)
    No1163に投稿(舞妓さんの小説)

    ジミーの体調を鑑みて、ダンの計らいでグラントとジミーはそのままホテルのメディカルルームに泊まる事になった。
    「お前達は、<ミネルバ>に戻れ」
    先ほどまでのダンはどこへ行ったのやら、あっという間に「評議長」がお戻りになった。
    もちろんそうするつもりだ。
    親父と同じホテルに泊まるなんて冗談じゃない。
    「じゃあ、あたし、先に失礼しまーす…」
    アルフィンは逃げるように、先に出て行ってしまった。
    「まだ何か用か」
    コーヒーカップを睨むように座り続けているジョウに向かって、ダンが言う。
    「教えてくれ」
    「何だ」
    「昔、<アトラス>の模型を貰った。アレは、どこで手に入る」
    「ドルロイだ。あれは、職人が趣味で作っていたのを貰ったものだ」
    「そうか、分かった。」
    ジョウは立ち上がった。
    「邪魔したな」
    「いや」
    それだけで、滅多に会うことのない親子は別れた。さよならも、またな、も無く。

    ジョウが部屋を出て行って、急に一人になった静寂の中で、ダンは深くため息をついた。
    キャロル・アサカワ。
    黒い長い髪、黒い瞳。
    ダンが心から愛した女性に、よく似ていた。
    ジミー。
    母譲りの、黒い髪と黒い瞳。
    幼い頃、会いたくても叶わなかった、愛して止まぬ息子にどこか似ていた。

    その息子は、いつしか大人になった。
    ジョウの面影を重ね、父としてできなかったことの罪滅ぼしのように気にかけたジミーは、病と闘っている。

    どうか、生きてくれ。
    ダンは、心から願った。
    キャロル、君の息子を、どうか。


    「ジョウ…」
    ベッドにひっくり返っていると、アルフィンがやってきた。
    「もう寝ろよ」
    「うん。ここで寝ようと思って」
    「そうか…なに?!」
    ジョウは驚愕してガバっと身を起こした。
    「だって、興奮して眠れないのよ」
    こうふんして…って俺はどうしたらいい??
    アルフィンはさっさとベッドに入ってジョウの横に滑り込んできた。
    「感動したわ」
    ジョウの動揺にはまったく気付かず、アルフィンは話し出した。
    「ジミー、頑張ってくれるかしら」
    「…どうかな」
    「素敵ね…家族って」
    「ああ」
    「それにねえ、ジョウ」
    意味ありげに笑ってアルフィンがジョウを見る。
    「ジョウって、ちゃんと愛されてたのね」
    「…」
    ジョウは何も言えなかった。
    ジョウ自身も、そう思ったからだ。
    アルフィンが、ジョウの手を握ってきた。
    「おやすみ、ジョウ」
    目を閉じたまま微笑むと、すやすやと眠ってしまった。
    「…おいおい」

    (ジョウって、ちゃんと愛されてたのね)
    そう、人を愛することができるのは、愛されたからだ、と。
    最も愛する者の安らかな寝顔を見て、ジョウは心が満たされていくのを感じていた。
    そして、グラントとジミーの事を、想った。
    今グラントはどんな想いでジミーの寝顔を見ていることか。
    そして、祈った。何かに。

    彼らにまた、こんな夜がどうか、訪れるように。


引用投稿 削除キー/
■1163 / inTopicNo.3)  Re[9]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:43:58)
    No1162に投稿(舞妓さんの小説)

    「ジミー、君はロイス骨腫なのか」
    「…」
    ジミーは涙を拭きながらうんうんとうなずいた。
    「君の本当にお父さんのことは、私は知らない。――それは、お母さんしか、知らない。」
    「…」
    大きすぎる事実に耐えるように目をかたく閉じて、無言で頷く。
    「でもお母さんのことを、話してあげよう」
    ジミーは顔を上げた。涙に濡れた黒い瞳が、ダンを写した。
    「11年前、君のお母さんが勤めていた学校で、爆弾を持ったテロリストが生徒と先生を人質に立てこもるという事件があった。私のチームはその解決を警察から依頼されて、その時にお母さんと会ったんだ」
    「…」
    ジミーはしっかりとダンの目を見て、一言も聞き漏らすまいと聞いていた。
    「先生たちは教職員会議で、ほとんど全員が職員室に集まっていた。テロリストはそれを調べ上げていて、その時間を狙ったんだ。ところがきみのお母さんは、職員室にいなかった。」
    「どこにいたの?」
    「トイレさ。―――お腹に赤ちゃんができると、最初のうち何ヶ月か女の人はとても具合が悪くなる。お母さんは、トイレで吐いていたんだ。」
    「じゃあ、それが…」
    「そうだ。その赤ちゃんが君だ。ジミー」
    ジミーはダンの顔を長いこと見つめたあと、大きな吐息と共にがっくりと糸が切れたようにソファに背から倒れこんだ。
    そして、呟いた。
    「…じゃあ、どうしておじさんは、僕におもちゃを送ってくれたの」
    ダンはおや、という顔をした。
    「知ってたのか」
    「一回だけ、ゴミ箱に捨ててあった宅配便のかみを見つけたんだ。その時送ってくれたおもちゃは、<アトラス>の模型だよ。今も、大事にしてるよ」
    「そうか」
    ダンは笑って、ジミーの黒髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
    「私は君のお母さんとずっと友達だったんだ。なにしろ、その事件の時のお母さんは、とてもすごかった。格好よかったぞ。お母さんの協力があったから、事件は解決したんだ」
    ジミーは急に目をキラキラとさせた。
    「聞きたいよ。ねえ、教えて」
    「テロリストは全部で20人くらいいた。まず職員室の先生たちをその場で縛り上げて監禁する。それから、校舎や寮にいる生徒たちを全員体育館に集めた。そして体育館と職員室に、爆弾をセットした」
    ごくり、とジミーが唾を飲む。
    「要求は政治的なものだ。難しいから、あとでお父さんに教えてもらえ。とにかく、要求が通らなければ全員爆死させる、と脅したわけだ。私のチームは学校に潜入し、犯人たちに気付かれないように爆弾を処理して、犯人を全員捕まえなければならなかった。こっそり学校に潜入したら、君のお母さんが女性トイレに隠れていて、私をテロリストだと勘違いしていきなりぶん殴ってきたんだ」
    ジミーとグラントはくすりと笑った。
    「味方だと分かると、私が囮になる、と言ってくれたんだ。私は妊娠している、だからどうしても死ぬわけには行かない。だからといって自分だけ逃げられるわけがない、生徒たちは皆自分の子供だ、って。そして、放送室まで走っていった。放送することで、テロリストの注意を逸らしてくれたんだ。」
    「ママは、なんて言ったの」
    「『みんな、助けは必ず来ます!絶対に諦めないで、全員生きる事を考えて。どんなことがあっても、諦めちゃ駄目よ!黙って死を恐れるより、どうすれば生きられるか考えて!』」

    その時、ジミーは。
    本当に、ママの言葉を聞いたに違いなかった。

    「すぐに、放送室にはテロリストが何人かやってきた。お母さんはもちろんそれを予期していて、両手を挙げて黙ってテロリストに連れて行かれた。が、その隙に手薄になった職員室を密かに私のチームメンバーが制圧していた。そして、先生たちと協力して、お母さんを連れて戻ってきたテロリストを捕まえた。先生たちと私のチームはそれから体育館に行くつもりだった。すると校長先生が、アサカワ先生は妊娠しているのだから、ここで待っていなさいと言ったんだ。」
    「ママは、嫌だって言ったんでしょ」
    「そうだ。銃を持って、一緒に生徒を助けに行った。」
    「すごいや。ママ、クラッシャーみたいだ」
    「私たちが体育館に近づくと、驚いたよ。体育館中に響き渡って、校歌を生徒たち全員が大声で歌っているんだ。そのせいで犯人たちは、周囲の状況が良く分からない。おかげで、私たちの突入は楽になった。あとから生徒たちに聞いたよ。アサカワ先生の言葉で、考えたって。どうすれば生きられるか。表立って抵抗すれば殺されるかもしれない。一つ間違えば大変な危険が伴う、ギリギリの判断だ。警察も、犯人も、生徒たちも、私たちも、みんなそうだった。それでも生徒たちは、君のお母さんの言葉を聞いて、生きる望みにかけた。結果、全てはうまくいったんだ」
    「ママって、すごい」
    「そう、すごかった。妊娠していなければ、クラッシャーにスカウトしたいくらいだった」
    ジミーは頬を紅潮させて、本当に嬉しそうに笑った。
    「それから私と君のお母さんは、ずっと友達だ。私は、君のお母さんに相談に乗ってもらっていたんだ」
    「何の?」
    「その頃、このジョウが、君と同じくらいのガキだった。」
    急に自分に話の矛先が向いたので、ジョウはびっくりした。
    「私は、ずっと仕事で宇宙にいたし、正直よく分からなかった。ジョウの気持、というやつが。君のお母さんは、学校で子供達の悩みを聞いたり、解決を手伝ったりするカウンセラーだっただろう。だから、折に触れていろいろ話を聞いてもらっていたんだよ。そのお礼をなにか、と私が言ったら、じゃあジミーにおもちゃでも、って頼まれた。だから、何度も送った。お母さんが、グラントさんと結婚するまで。」
    「そうだったんですか…」
    グラントが、ぽつりと言った。
    「お母さんの病気のことも、亡くなったことも知っている。」
    ダンはグラントに言った。
    「あなたに遠慮した。お悔やみも言えずに、申し訳ない」
    「いいえ…いいんです。キャロルは分かっているでしょう」
    「ジミー」
    ダンは、そこでジミーを自分の膝に座らせた。
    「お母さんは、決して諦めなかった。君を守るためだ。だから、君も絶対に諦めるな。お母さんが命をかけて守った命を、今度は自分自身で守るんだ。もう10歳だろう。ジョウは、10歳でクラッシャーのチームリーダーになったんだぞ。ジョウにできて、君にできないわけが無い。絶対に諦めるな。」
    ジミーが、頷いた。しっかりと。
    「クラッシャーは、最後まで絶対に諦めない」
    「…ありがとう、おじさん」
    ジミーは、うるんだ瞳をごしごしとこすった。涙が、こぼれないように。そして、笑顔で言った。
    「お願いがあるんだ」
    「何だ」
    「僕はずっと、おじさんが僕の本当のお父さんだと思ってたんだ。違ったけど、でも、一回だけ呼んでもいい?」
    ダンは、にこりと笑った。
    アルフィンは、ダンが笑うのを初めて見た。
    そして、ジョウは。
    急速に、遠い記憶が戻ってくるのを感じていた。
    この顔を、俺は見ていた。遠い、遠い昔。…
    「いいぞ」
    「おとうさん!」
    ジミーがダンの首に抱きついた。
    ダンはジミーを抱きしめて、背中をゆっくりと軽く叩いた。
    「息子が二人いたようで、嬉しかったよ」
    ジミーは歯を食いしばって涙をこらえた。
    泣く代わりに、渾身の力を込めてダンにしがみついた。これまでの思いと、これからの思いを込めて。

引用投稿 削除キー/
■1162 / inTopicNo.4)  Re[8]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:42:37)
    No1161に投稿(舞妓さんの小説)

    一つ困った問題があった。ジミーが、どうしても譲らなかったのだ。
    「宇宙を見たい。ワープ空間を見たい」
    という希望を。
    身体にかかる負担が大きいから危険だと、何度も説明したがジミーは譲らなかった。
    結局、最初の一回だけ、体験させることにした。
    リッキーのシートに身体を固定する。
    離陸、大気圏離脱、ワープ可能域までの通常航行。
    ジミーは、言葉もなくそれらの全てに感動していた。
    漆黒の闇に、星々の光。
    ジョウたちには日常であるはずのそれは、ジミーにとっては今まで、どうやっても手の届かないものだった。
    「すごいや…」
    ジミーが発した言葉は、それだけだった。

    ワープインして、しばらくは耐えていたようだったが、それもすぐに限界が来た。ジミーは失神し、ワープアウトした時点でカプセルに移した。

    幸いジミーの体調がそれ以後深刻になることはなく、テラに着いたのは深夜だった。
    バーニーから送られてきたスケジュールによると、ダンは今宿泊するホテルで就寝中、ということになっている。そして明朝は5時30分起床で、一日中会議と会談だ。
    「ジョウ…」
    二人きりのブリッジで、アルフィンが後ろから声をかけた。
    「何だ」
    「大丈夫なの…?」
    「何が」
    「議長の、機嫌とか…」
    振り返ると、アルフィンはこわばった顔をしている。
    「知るか。こっちは、それどころじゃないんだ」
    「あたし、知らない…」
    アルフィンは隠れるように首をすくめてしまった。
    「黙ってろ」
    ジョウは、電話をかけた。それはダン個人の電話で、この番号を知っているのはジョウを含めて数人、という極めてプライベートな電話だ。
    「きゃー…」
    「うるさい」
    呼び出し音が、5回。
    「何だ」
    ダンが、出た。
    「俺だ」
    「分かってる。用件は何だ」
    特にいつもと変わった声ではなさそうだ。
    ということは、いつも機嫌が悪い、ということ?
    とアルフィンは思った。
    「今テラのMED宇宙港にいる。客を連れてきた。会いたいんだが時間くれ」
    「…分かった」
    数秒の沈黙のあと、ダンは了承した。
    このジョウが、テラまで来て、深夜、ダンに電話をして、会いたいというのだから。
    それはそれは大変なことに違いない。
    とアルフィンは思った。
    「<ファイター>でジュネーブまで来い。ホテルのヘリポートを使えるように話をしておく。そっちの入管にも今話を通す」
    「分かった」
    それだけで電話は切れた。
    ものすごく通じ合ってるのに、二人とも憮然として。
    何だか聞いてて面白いんだけど。
    と、アルフィンは思った。

    星間会議の影響で、警備も審査も恐ろしく厳しい様子だったが、ダンのおかげでジョウ一行は何事もなく<ファイター1><2>に乗っていた。
    <1> にジョウとジミー、<2>にアルフィンとグラントが乗った。
    ジミーは、顔色が少し悪いが体調は問題なく、ジョウの横に大人しく乗っていた。
    よほどはしゃいでいるか、と思ったが逆にジミーは沈んでいるようにも見える。
    「緊張してるのか」
    「あ、うん…」
    ジミーはジョウの横顔を見て、小さな声で言った。
    「お兄ちゃん、僕恐いんだ。本当のことが、わかってしまうかもしれないよ」
    ジョウはジミーの顔を見た。ジミーは、泣きそうになっていた。
    「ダンお父さんが僕の本当のお父さんだったら、僕はどうしたらいいんだろう」
    「…」
    混乱した胸の内を、ジミーは精一杯表現していた。
    どうしたらいいんだろう。
    それは、ジョウも同じだ。
    とても易しく、そして難しい質問だった。
    ジョウは、優しく語りかけた。
    「もし俺の親父がジミーの本当のお父さんだったら、親父が今までジミーとママをほったらかしにしていたことを、ちゃんと責めるんだ。そして謝らせろ。ママのためにも。そしてもし本当のお父さんでないことがわかったとしても、今までどおりお父さんだって思ってていいさ。誇ってていい親父だよ。…たぶんな」
    それから、左手を伸ばしてジミーの頭を撫でた。
    「そして、どっちにしても、ジミーは俺の本当の弟だ。忘れるな」
    「…うん!わかったよ!」
    ジミーはぱあっと笑顔になった。
    眼下に、ホテル屋上のヘリポートの明かりが見えてきていた。


    ダンは、律儀にスーツに着替えて待っていた。
    ジョウたちが入ると、ジョウが言葉を発する前に、ダンが言った。
    「ジミー・アサカワ…!」
    ダンは、ジミーを見つめていた。
    「あ、あの、僕…」
    ジミーが緊張してうまく喋れないでいると、ジョウとアルフィンが心底驚いたことに、何とダンはジミーにつかつかと近寄り、ジミーを抱きしめたのだった。
    「大きくなった…!」
    ジミーは顔を赤くして固まって、動くこともできない。
    そうやってしばらくジミーを抱きしめていた手を緩めると、ダンはジョウに言った。
    「よく、連れてきてくれた」
    「…」
    今度はジョウが絶句した。
    今、カンシャしたか?ひょっとして。
    「こちらは?」
    ダンがグラントを示して言った。
    「ジミーのステップファーザーだ。アーサー・グラント氏」
    グラントがダンに握手を求める。
    「グラントです。非常識な時間に、非常識な事をしまして、お詫び申し上げます」
    「いや、いいんですよ。そうですか、あなたが…。」
    握手をしながら、ダンはグラントを、旧友にでも会ったかのような様子で見ていた。
    「どうぞ、お疲れでしょう。こちらでお茶でも」
    ダンは一向にソファを薦めた。
    深夜にもかかわらず、人間のボーイがコーヒーを4つとジュースを一つ持ってきて、テーブルに置いて静かに去る。
    「経緯をきこう」
    ダンが言う。
    「バーニーが、俺に持ってきたんだ。ドリームズ・カム・トゥルーってえ団体のボランティアでジミーに会ってくれってな。だがジミーが本当に会いたかったのは、俺じゃない。親父だ。だから、無理させて連れてきた」
    ドリームズ・カム・トゥルー、のところでダンの眉がぴくりと動いた。
    そして、無言でグラントを見た。
    グラントは、ゆっくりと、頷いた。
    それでダンには、全てが通じた。
    「ダンさん」
    ふいに、ジミーが言った。
    皆が一斉にジミーを見る。
    決心したように、大きな声で。
    「ダンさんは、僕のお父さんですか」
    そう言ったあと、ジミーの目からぼろぼろと涙がこぼれだした。
    張り詰めていた糸が切れてしまったように、それから大きな声で泣き出した。肩を震わせ、声をしゃくりあげ。
    「ダンさんは、僕の、お父さん、ですか」
    そしてもう一度、泣くのを必死に止めようとしながら、声を振り絞るように、問うた。

    ジミーの泣き声以外、声はなかった。
    やがてダンが、ジミーの隣に座って背中をさすった。
    その場にいる全員が、固唾をのんだ。

    「ジミー」
    「…はい」
    「私は、君のお父さんじゃない」
    はっ、とジミーが背を硬くしたのが分かった。
    泣き声が一瞬止んで。
    そのあと、とうとうジミーはわあわあと号泣した。

    グラントの背が、しぼむのが見えた。
    そうしている自分の身体からも、力が抜けていくのがジョウにも分かった。


引用投稿 削除キー/
■1161 / inTopicNo.5)  Re[7]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:40:12)
    No1160に投稿(舞妓さんの小説)

    ジミーはリビングに入るなり、「それ」を見つけた。
    一瞬動きが止まり、無言で走って「それ」を手に取った。
    「それ」は。
    ダンの3D写真だった。

    しまった。
    ジョウは、そう思った。
    そして、何が「しまった」だ、と思った。

    ジョウは、ジミーが自分に会えただけで満足して欲しいと、どこかで思っていた事に気がついた。それは、真実から目をそむけることに他ならない。正直、知りたくない。反発はするが尊敬している父親の、男としての私的な一面など本当は見たくない。
    自分が無意識にそう思っていたことに、猛烈に腹が立った。

    ジミーの余命は、あと少し。
    今ジミーがいったいどんな思いでダンの写真を見ているか。
    自分の思いなんて、どうでもいいはずだ。
    DNA鑑定をすれば、ジョウとジミーの父親が同じかそうでないかは、ある程度の確率で分かる。しかし、ジョウとダンの鑑定をしない限り、ジョウにも「ダンの息子ではない」確率が残される。結局は、「ダンとジミー」の親子関係鑑定をしなければ、正確な答えは出ないのだ。
    だからって、それが何だって言うんだ、とジョウは思った。
    例えばDNA鑑定をして、ジミーの父親はダンではありません、という結果が出たとして、だからどうだというのだろう。隠し子ではありませんでした、弟ではありませんでした、ああよかった、はいさようなら、で終るわけがない。
    こうやって、何かがジョウとジミーを手繰り寄せ、引き合わせた。
    もうジミーは、ジョウの人生に無関係な人間ではない。
    弟であろうと、そうでなかろうと、ジミーはもうすでに「弟」なんだ、と。

    ジョウがそう考えている間に、ジミーはドンゴをいじって遊びながら、よほど疲れたのかクッキーを握ったまま、眠ってしまった。

    「あらら…眠っちゃったわ」
    アルフィンが毛布を出してきて、ジミーにそっとかけた。
    「疲れたんでしょう。今日ははしゃぎすぎですから」
    グラントが、微笑して言った。
    「この船にはメディカルカプセルが積んであります。ここでうたた寝をするより、カプセルのほうが回復も早いでしょう。移しましょうか」
    「そうですね。お願いできますか。」
    ジョウはジミーをメディカルルームに運びながら、疑問に思っていた事をグラントに聞いた。
    「グラントさん」
    「はい」
    「伺っていいですか。…ジミーは、今、どういう状態なんでしょうか。短期退院が許された、と聞いていますが…その、俺が思っていた以上にはるかに元気で、こうやって大きい声を出してはしゃげるし走ることもできる」
    グラントは、悲しそうに微笑した。
    「実は、もう治療という治療は、何もしていません」
    「と、言うと」
    「ジミーが今しているのは、痛み止めの点滴だけです。もう、できることは…ないんです。また入院して、四六時中点滴につながれて、副作用に苦しみながらの治療をすれば、数ヶ月は長く生きながらえる『かも』しれません。しかし、もうジミーは嫌だと言ったんです。死ぬまでの短い時間なら、ママと私と過ごした家で過ごしたい、当たり前の少年が送る毎日を送って死にたいと。」
    ジョウには、言葉がなかった。
    10歳の少年が、「残された時間」を選択しなければならなかった。
    ジミーがどれだけの事を考えたか。どれほど死に恐怖したか。どれほど生きたいと願ったか。それが10歳の少年にとって、どれだけ非情で過酷な現実であったことか。
    カプセルに横たわって安らかに眠るジミーの頬を撫でて、グラントは声を詰まらせた。
    「病院で、ジミーのこんな安心した寝顔を見たことはありませんでした。いつも、吐き疲れたやつれた表情で…ようやく眠ってもすぐに目を覚まして吐いて…」
    グラントの手が、ジミーの黒髪を撫でる。
    「闘って、闘って…」
    ポツリと、グラントの目から涙がこぼれてジミーの頬を濡らした。

    その時、ジョウは決めたのだった。
    ジミーを宇宙へ連れて行こう、と。
    そして必ず、ダンに会わせよう、と。


    ジョウはすぐに動いた。
    ブリッジに行き、アラミスと連絡を取った。
    「親父を出してくれ」
    バーニイが答える。
    「評議長は、今アラミスにはいないぞ」
    「どこにいるんだよ」
    「今はテラだ。連合の星間会議がある」
    「テラ…」
    ジョウは頭の中で大まかな計算をした。幸いなことに、アラミスよりずっと近い。
    「バーニイ、親父にはこの話は通したのか?」
    「いや。星間会議があるというスケジュール上、評議長は少年と会うのは不可能だった。そういうわけで、伝えてはいない」
    「そうか。わかった。会議のタイムスケジュールを送ってくれ」
    「おい、ジョウ、何かあったのか…」
    問いただす画面をぶちりと切り、ジョウはアルフィンとグラントをブリッジに呼んだ。

    数分後、グラントを伴ってアルフィンが入ってきた。
    「どうしたの?」
    「アルフィン、テラまでできるだけワープ回数を少なくして、どれだけで着けるか計算してくれ」
    「分かったわ」
    アルフィンは仕事の顔になり、シートに座って航路計算を始めた。
    「グラントさん」
    「はい」
    「ジミーは、宇宙に出たがっていますか」
    「――――はい、それはそうですが…まさか」
    グラントは動揺した。
    「ジミーを、俺の父親に会わせようと思います。今アラミスに確認したところ、父はテラにいます。テラなら、アラミスよりここからずっと近い。もちろんワープはジミーの身体に大きな負担ですから、カプセルで眠っていてもらいます。」
    「ジョウ」
    アルフィンの声が入った。
    「テラまでは、長いワープだけど3回。通常航行も含めて到着までは標準時間で8時間ってとこ」
    「お聞きの通りです。行きませんか。万が一の命の危険はあるかもしれませんが、ここにあるカプセルは我々クラッシャーがどんな重傷を負っても救急対応できる最先端のものです。もちろん、グラントさん、そしてジミーの合意がなければ動けませんが、俺はジミーを宇宙に連れて行きたい。親父に会わせたい」
    「それは―――ダンさんに…」
    「真実を確認するとかどうこうではありません。グラントさん、あなたが言った通りですよ。本当のことなんて、どうだっていいんです。大事なのは、ジミーが『生きる』ということだ。そのために、ジミーは退院したんじゃないんですか?」
    グラントは、押し黙った。
    ジミーが治療をやめて退院するということには、親のグラントには物凄い苦悩があったはずだ。親であれば、一分でも、一秒でも、子供に長く生きて欲しいと思うのが当たり前だ。少しでも生きる望みがあるのなら、グラントは治療を続けて欲しかったに違いない。そして同時に、先の見えない治療に苦しむジミーの姿に苦しみ、ジミーの望みを断腸の思いで受け入れたのだろう、とジョウは思った。
    「…分かりました。行きましょう」
    グラントは、しばらくの沈黙のあと、晴れ晴れとした表情で言った。
    「あれほど宇宙へと願っていたんです。万一の死の危険など、ジミーはもう気にしないでしょう。」
    「分かりました」
    ジョウの顔に思わず笑みが浮かんだ。
    「キャハ、じみーショウネンガモウスグメザメマス」
    ドンゴの声がブリッジに響いた。
    「私が話をしてきます。それと、医者を一人同行させていいですか。連絡してきますので、彼が来るまで出発は待って下さい。30分以内で、来てもらいますから」
    「構いませんよ。その間に、出発準備をします」
    グラントは出て行った。
    数分後、ジミーが走って、満面の笑みでブリッジに駆け込んできた。

    「行くよ、行く!僕、宇宙に行く!!ありがとう、お兄ちゃん!」

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■1160 / inTopicNo.6)  Re[6]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:38:48)
    No1159に投稿(舞妓さんの小説)

    「<ミネルバ>だーーーーー!!」
    ジミーは<ミネルバ>を見ると、大きな声で叫んだ。駐機スポットまで乗る電動カートが止まるか止まらないかのうちに飛び降りて、走って行く。
    ゆっくりと、ハッチが開いて、スロープが出てきた。
    赤いクラッシュジャケットが手を振っている。

    ハッチの側で、アルフィンとドンゴが出迎えた。
    「ジミー、グラントさん、これは俺のチームの航宙士、アルフィンです。こっちはドンゴ。あと二人はまだ休暇中」
    「はじめまして。ジミー、よろしくね。ミスタ・グラント、どうぞゆっくりしていらしてください」
    アルフィンがにっこり笑って言った。
    「お兄ちゃんの彼女?」
    「ジミー!」
    ジョウが真っ赤になって怒鳴った。
    アルフィンも頬を染めて、ジミーに言う。
    「違うわよ。…まだね」
    「そっかー。でもお兄ちゃんがアルフィンと結婚したら、アルフィンは僕のお姉ちゃんだね!ダンお父さんには、もう会ったの?」
    「え…?」
    な、なんですって?
    アルフィンは、笑顔を強張らせた。
    ジョウを見ると、隣のグラントと一緒に「あとで説明する」という顔をしている。
    「…あ、会ったことはあるわよ。でも、評議長としてね」
    「ふーん」
    ジミーはにやりと笑って、アルフィンの耳元で囁いた。
    「早くお父さんとして会えるといいね」
    アルフィンはくすりと笑った。
    「そうね」
    ジミーははしゃぎながら、船内へ入っていった。興味の対象は今度はドンゴに移ったようだ。
    ジミーとグラントの後ろを少し離れて歩きながら、アルフィンは小声で言った。
    「どういうことなの?」
    ジョウは本当に困った顔で、ため息と共に返事をする。
    「…ジミーが、親父の、隠し子らしい」
    「えーーーーっ!!!う…」
    思わず叫びそうになったアルフィンの口をジョウの手がおさえる。
    「あの子は、そうだと信じてるんだ。はっきりそうだと決まったわけじゃない」
    「で…どうしたらいいの」
    「そう振舞ってくれ、とグラントさんに言われた」
    「そう…。分かったわ」
    最低限のことだけ訊いて、アルフィンは呆然とした表情のまま、そう言った。

    アルフィンとドンゴにミネルバの案内を任せて、ジョウはとにかく自室にこもった。
    とりあえず、できる事をやる。
    とにかく情報収集だ。
    ジョウは部屋の端末から、静養先のホテルに電話をかけた。
    「兄貴。どうしたんだい」
    リッキーが出た。
    「タロスはいるか」
    「でくの坊なら、ドルロイの技師と腕の調整中だよ」
    「どのくらいで終る?」
    「もう終るんじゃないかな――――あ、来た。タロス、兄貴だぜ」
    タロスに代わった。
    「何でしょう」
    「お前、親父とタキに行ったことあるか」
    「ありますよ。おやっさんが引退するちょっと前でしたかねえ…」
    タロスは、記憶をたどる遠い目をした。
    「どういう仕事だった」
    「そうですなあ…確か、学校にテロリストが立てこもって、爆弾を撤去して…」
    間違いない。グラントの言ったとおりだ。
    「その時、親父が――――」
    ジョウはそこで、言葉に詰まった。
    学校の女性職員とナニゴトかを起こさなかったか、と。
    口に出せない。
    「おやっさんが?」
    「…タキで休暇を取らなかったか?」
    ジョウは当たり障りのない言い方をした。
    「さあてねえ…なにぶん10年以上昔のことなんで、よく覚えてないですよ。覚えてないってことは、別段変わったことはなかったってことだと思うんですがねえ」
    「そうか…」
    「何か、ありましたか」
    「…あった」
    「何でしょう」
    「それは…」
    言葉に、詰まる。
    「それは?」
    「親父が…」
    「おやっさんが?」
    「ジミーの…」
    「病気の少年ですね?」
    そのタロスの問いに頷いた時、「駄目よジミー!ジョウはお仕事してるの!」というアルフィンの大声と共にドアが開いて、ジミーが走りこんできた。
    「うわっ!」
    「おにーちゃーーーーん!」
    叫びながら、あっという間にジョウの膝に座る。ディスプレイの中のタロスを発見し、大きな声で「こんにちはー!!」と言った。
    タロスは一瞬あっけにとられたが、少年の大きな声の挨拶に相好を崩して、
    「よう。いい挨拶だ。」
    と言った。
    「僕ジミーっていうんだ。おじさんは?」
    「タロスだ。ミネルバのメインパイロットだ」
    「すっげーーー!かっこいい!」
    ジミーはジョウの膝の上でがたがたと身体を揺らして喜んだ。
    「タロス、あとでまた連絡する」
    「わかりやした」
    ジョウは慌てて通信を切った。
    「あーもう切っちゃった…話したかったなあ」
    ジミーは少しがっかりしていた。
    「じゃあ、ジミー、リビングにいきましょ。お菓子食べて、ちょっと休憩」
    アルフィンの申し出に、ジミーは飛び上がって喜んだ。
    「食べる!お兄ちゃん、いこう」
    ずるずるとジミーに引きずられる格好で、結局何の情報も得られないまま、ジョウはリビングに移動した。

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■1159 / inTopicNo.7)  Re[5]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:37:16)
    No1158に投稿(舞妓さんの小説)

    ジミーの部屋は、ベッドの周りに大仰な医療機器が据え付けてある以外は、普通の10歳の少年の部屋だった。
    TVヒーローのおもちゃ、ゲーム、ファンタジーの小説、漫画。
    その中のいくつかを見て、ジョウは「おや」と思った。
    ホーム・プラネタリウムだ。
    自分が今いる惑星を設定し、スイッチを入れると部屋にその惑星の夜空が浮かび上がる。
    「これは…」
    ジョウには覚えがあった。
    幼い頃、父ダンがこれを買ってきた。
    ジョウはこれをとても気に入り、星々を眺めては宇宙に出る日を思い描いたものだ。
    もしかして。
    ジョウは、ジミーのおもちゃを目を皿のようにして見た。
    するとところどころに。
    かつて自分が夢中になったおもちゃが、確かにいくつかあるのだ。
    プラネタリウム、宇宙船のラジコン、操船シュミレートゲーム。そして、モデルガン。紛れもなく、クラッシャー仕様の。
    「…」
    ジョウは確信した。
    間違いなく、ダンだ。ジミーが知っている一回だけでなく、何回もダンはジミーにおもちゃを送っている。
    「お兄ちゃんこれはねー、僕にダンお父さんが送ってくれたおもちゃだよ」
    ジミーは嬉しそうに、それを見せた。
    何の変哲も無い、飛行機模型だ。ただし、<アトラス>型の。
    ジョウもこれを持っていた。ジョウが持っていたのは、きちんと<アトラス>そのままにペイントされて流星マークもDの飾り文字もついていた。
    ジミーはそれを、とても大切にしていた。
    もっと幼かった頃はたくさん遊んだであろうそれを、今はケースに入れて机の上に飾ってあった。
    「僕ねえ、ネットで調べたんだ。これは、<アトラス>と同じ型だったよ。」
    「…俺もこれを持ってたよ」
    「本当?!」
    ジミーの顔がぱあっと明るくなった。
    「嬉しいよ!僕、<ミネルバ>のも欲しい。探したんだ。でも、この<アトラス>も非売品でさ、<ミネルバ>のも、ないんだ」
    ジミーはアトラスを手に持って、ブーン、と言いながら走り回った。
    「乗りたいなあ…僕も」
    ジミーは走るのを止め、ふと窓の外を見上げた。
    その横顔を、ジョウは見た。
    哀しい、切ない、寂しい、そして、「生きたい」という痛いほどの思い。
    「――――」
    ジョウはすぐに決断した。
    「乗りたいか」
    「乗りたい!」
    ジミーははっと振り向いた。
    ジョウが何を言おうとしているのか、すぐに分かったのだ。
    「じゃあ、行くぞ」
    「うん!」
    ジミーは慌てて着替え始めた。
    ジョウは部屋を出ると、リビングで仕事をしているグラントに声をかけた。
    「今から宇宙港に行きます。ジミーを<ミネルバ>に乗せてきます。ご同行願えますか」
    「えっ…あ、はい!もちろんですよ」
    「夜には家に戻るつもりですが、その間投薬は大丈夫ですか」
    「ええ。」
    グラントはバタバタと立ち上がり、あれこれと準備を始めた。その間にジミーは着替えを終えて出てきて、ジョウの背中に飛びついた。ジョウは笑ってジミーを肩車してやる。
    グラントはそんな二人を後ろから見て、そっと目頭を押さえた。


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■1158 / inTopicNo.8)  Re[4]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:35:57)
    No1157に投稿(舞妓さんの小説)

    「すみません、初めからお話できなくて。もちろん、ドリームズ・カム・トゥルーにはこのことは言っていません。あなたともしお会いできたら、直接話そうと…思っていました。先ほど車の中で、話そうかとも思ったのですが、ジミーと会う前に先入観を持って欲しくなかったので。ジョウさんには、驚かせる結果になってしまいました。本当に申し訳ありません」
    「いやそれは…いいんですが」
    ジョウは、何がなんだか少々混乱していた。
    このジミーという少年は、ダンの隠し子らしい。
    つまり、自分とは異母兄弟。
    「グラントさん、あなたは…」
    「はい、私はジミーの本当の父親ではありません。」
    ジョウは言葉を継ぐことができなかった。
    「これを、見てください」
    グラントが一枚の写真を見せた。そこには、確かにダンが写っていた。ブルーのクラッシュジャケット。そして隣に寄り添って、黒髪に黒い瞳の、ジミーによく似た美しい女性が写っている。日付は、11年前。ダンが引退する少し前の時期だ。
    「この女性は、キャロル・アサカワ…ジミーの母親です。3年前に私の妻になり、それから一年でジミーと同じ病で他界しました。そういうわけで、ジミーは私の息子なんです」
    「…」
    ジョウは信じられない思いでその写真を凝視した。もう死んでしまったキャロルという女性。
    「この写真は、キャロルが死んだ後、彼女の遺品の中からジミーが見つけてきました。それから、ジミーは古い宅配便の送り状を私に見せました。『これは、僕が小さかった頃、おもちゃを送ってきた宅配便だよ。ママは自分で買ってきたみたいに言ってたけど、僕知ってたんだ。これがこっそりゴミ箱に捨ててあったのを、僕取っておいたんだ。これはダンって書いてあるんでしょう?アラミスってどこ?この写真のおじさんは、ダンって人なの?』と、涙をいっぱいにためて、私に聞きました」
    グラントはそこで紅茶を一口飲んだ。
    「私は、分からないよ、と答えました。ママは死んでしまった。もう真実を知る人は誰もいない、と。でもこの人のことなら調べてあげられる。そして私はクラッシャー評議長のダンのことを、彼に教えました。とても立派な人だと。それから、ご子息であるあなたのことも。それから、ジミーは信じているんです、ダンが父親であなたが兄だと。」
    「つまり、グラントさん、あなたも真実をご存じないということですか?」
    ジョウはできる限り平静を装って、聞いた。
    「そうです。私には、その写真と宅配便の送り状から推測するしかありません。その写真については、調べましたよ。なぜキャロルがクラッシャーダンとそういう写真をとるに至ったか…ジミーのためにね。」
    そこでグラントは、照れたように笑った。ジミーのため、だけではないことは一目瞭然だった。
    「私は、その時期仕事でこの惑星を離れていました。忙しくもあり、あまり故郷の出来事には注意を払えなかったのですが、大きな事件が起こっています。キャロルは、名門の全寮制学校のカウンセラーだったのですが、キャロルが勤める学校でテロリストの人質立てこもり事件がありました。警察が動こうにも、警察のかなり上層に内通者がいることがわかっていました。しかしVIPの子息が多い学校ですので、万一の失敗も許されません。そこで警視総監自ら、クラッシャーダンに依頼をしたという経緯だったようです。それで知り合ったようですよ」
    「そうですか…」
    そうですか、と言うしかない。
    ジョウはその頃まだ8歳で、養成学校を卒業する前だ。ダンは、いつも仕事でアトラスに乗っていた。たまにしか顔をあわせることはなかったし、どんな仕事をしているか内容を詳しく聞いたことも殆どない。
    ジョウの母親ユリアが死んで何年も経つ。いい年の男だ。そういうことがあったとしても、別におかしいことではないだろう、とジョウは思った。ただ、このキャロルという女性とジミーをもほったらかしにしていたのであれば、到底許せることではない。
    「あなたはいつ、キャロルさんと知り合ったんですか?キャロルさんとジミーは、どうやって暮していたんですか?」
    グラントはそのジョウの質問の意味をすぐに汲み取った。
    「私は、キャロルとは中学校の同級生なんです。好きだったんですが、相手にされなくて。再会したときは、胸が震えましたよ。でも彼女はその時もう、お腹にジミーを宿していました。私がその子の父親になる、とプロポーズしました。でも彼女は拒んだんです。彼女は学校で働きながら、ジミーを産んで育てました。結婚は断られても、私はキャロルの恋人でしたから、経済状況はよく知っています。どこかから援助を受けていた様子はありませんでした。私は弁護士なので、彼女から死後の財産整理を任されていました。亡くなった後財産を洗いましたが、振込みなどの形跡はありません。ジミーが出してきた宅配便については、そこまでは知りませんでしたが…とにかく、彼女は自分の力だけで、ジミーを育てました。父親のことは、一切ジミーには話しませんでした。私にも。私は何年も求婚を続けました。そして3年前、キャロルは自分が病だと分かってようやく、結婚を承諾してくれたんです。」
    「それは…」
    ジョウは言いよどんだ。
    「そうです、もちろん、ジミーのためですね。私はそれでもよかったんです。死に行く彼女の支えになりたかった。キャロルが一番心残りのはずのジミーのことは、僕がいるから大丈夫だと安心させたかった。生まれたときから可愛がっているジミーを、僕の本当の子供にしたかった。僕は満足ですよ」
    そこでグラントはふと黙り込んだ。
    「…1年前、ジミーがキャロルと同じロイス骨腫であることがわかりました。極めて稀な病気なんですが、ごく低い確率で遺伝するんだそうです。」
    グラントは目を伏せ、そのあと長い沈黙があった。
    「私はすぐに、ドリームズ・カム・トゥルーに連絡を取りました。ジミーをクラッシャーダンとクラッシャージョウに会わせたいと。私が個人で、『赫々しかじかこういった事情で、ダンとジョウに会いたい』なんてアラミスの評議会に言っても、悪戯と思われるだけでしょう。悪くすれば、ダンさんのスキャンダルにもなりかねない。だから、NPOの力を借りるしかなかったんです。運良く、ドリームズ・カム・トゥルーはジミーに関心を持ってくれた。そしてジョウさん、あなたに本当に会えた。」
    グラントは、目を潤ませてジョウを見た。濁りのない、真っ直ぐな、美しいグレイの目だった。
    「あなたがジミーの兄かどうか、ひいてはダンがジミーの父親かどうかは、あなたとジミーのDNA検査をすれば真実はすぐに分かります。でも、そういったことはもうどうでもいいのです。どうか、ジミーの兄としてふるまってやって下さい。ジミーはもってあと2ヶ月と言われています。あの子は、何年もあなたとダンに思いを募らせてきました。自分は憧れであるクラッシャージョウの弟だと信じたままでいさせてやりたいんです」
    グラントは声を詰まらせた。
    ジョウは、写真と古びた宅配便の送り状をじっと見つめながら、しばらく考えた。
    様々な事を、考えた。
    ややあって、口を開いた。
    「事実としてあるのは、この写真と宅配便だけです。真実を知るには少なすぎる物証です。あなたの言うとおり、真実を知るキャロルさんは亡くなって、我々には推測するしかありません。しかし、もしジミーが俺の本当の弟だとしたら、今日明日ジミーと遊んで、それでいいという話でもない。正直、俺にも衝撃的な話ですよ」
    「そうですね…その通りです。こちらの都合ばかりで、あなたのお気持も考えずに申し訳ありません」
    グラントはうなだれた。
    「少し…時間をくれませんか。ジミーと遊びながらでもいいんですが、整理させて欲しい」
    「もちろんです。無理な事をお願いして、本当に申し訳ありません」
    ちょうどその時、お兄ちゃん!とジミーの声がして、ぱあっとリビングのドアが開いた。
    「お兄ちゃん、遊ぼうよ!」
    「よし、じゃあジミーの部屋を見せてくれ」
    「いいよ!」

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■1157 / inTopicNo.9)  Re[3]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:34:35)
    No1156に投稿(舞妓さんの小説)

    家に着いた。市内からやや郊外に寄った場所の、住宅街の一角だ。「グラント弁護士事務所」という小さな表札が出ている。
    「ただいま、ジミー!ジョウさんが来てくれたよ!」
    玄関から大きな声をかけると、どこかからドアの開く音がして、バタバタと子供の走る足音が聞こえてきた。
    「こらジミー、走るな!今そっちへ行くから!」
    グラントが怒鳴る。
    その言葉が終らないうちに。
    グリーンのパジャマを着た少年が、二階から走り降りてきた。
    黒い髪、黒い瞳の、小柄な少年。
    「やあジミー…」
    ジョウが挨拶をしようとしたその時。
    ジミーが満面の笑みでジョウに抱きついてきた。
    「お兄ちゃん!」
    こうやって走って抱きついてくるのは誰かに似ているな、と思ってジョウはつい笑い、少年を抱きかかえてやった。
    「お兄ちゃんでなくて、ジョウでいいさ」
    「だめだよー!」
    ジミーは嬉しくてたまらない様子で、ジョウの腕に乗っかったままで言った。
    「だってジョウは僕のお兄ちゃんだもん!お兄ちゃん、ダンお父さんの話を聞かせてよ!」
    「…」
    ジョウは一瞬、凍りついた。
    数度、瞬きをして、一度呼吸をする。
    そして。
    「今、何て言った?」
    ジミーに、聞いた。
    「ジョウは僕のお兄ちゃんで、ダンは僕のお父さん!」
    ジョウは、表情を固まらせたままゆっくりとグラントの方を見た。
    グラントは相変わらずの穏やかな微笑を浮かべながら、ちょっとだけ肩をすくめ、言った。
    「まあ、お茶でも飲みましょう。ゆっくりと。ジミー、これからお前は点滴の時間だろう。ジョウさんと遊ぶのは、点滴が終ってからだ」
    「うん、わかった。じゃあお兄ちゃん、僕一時間くらい点滴なんだ。終ったら、話聞かせてね!」
    「わ、わかった…」
    素直に二階に戻っていく少年の後姿を見送ってジョウは棒立ちになっていた。

引用投稿 削除キー/
■1156 / inTopicNo.10)  Re[2]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:26:27)
    No1155に投稿(舞妓さんの小説)

    ディロンの首都タキの宇宙港に着き、とりあえずアルフィンはミネルバに残して、ジョウは一人で入国手続きをしてそのまま港内のカフェに行った。約束どおり「ドリームズ・カム・トゥルー」のコーディネーターが待っていた。
    「始めまして、クラッシャージョウさんですね。私はジョーンズと申します」
    40代と思しき、恰幅のいい女性が挨拶をした。隣に、30代くらいの物腰の柔らかそうな男性が座っている。
    「お忙しい中、ご協力いただきまして感謝いたします。早速ですが、お話は、聞かれていますか」
    「ええ、大体は。評議会から送られたデータを見ました。少年は、ジミー・グラント君ですね。10歳」
    ジョウはコーヒーを飲みながら答えた。
    「はい。そしてこちらは、今回会っていただく少年のお父様、アーサー・グラント氏です」
    ジョウは、はっとしてその男性を見た。
    父親。
    「ジョウさん、お忙しい中、時間を割いていただいて本当にありがとうございます」
    グラントは真摯な目でジョウを見て、握手を求めた。
    ジョウは気を入れ替えて、しっかりとグラントと握手をした。
    死を目の前にした少年の父親。
    浮ついてなどいられなかった。
    グラントは、ブロンドにグレーの目をした、紳士だった。が、心労が顔ににじんでいる。
    「ジミーは、ロイス骨腫です」
    グラントは静かに言った。
    「ロイス骨腫…」
    聞いたことがない。
    「極めて稀な難病です。全身の骨が一斉に、悪性のいわゆるガンに侵されます。人工臓器と入れ替えれば、とお思いになるかもしれませんね。ガンなんてもう死の病ではないと。しかし、そうではありません。成長期の少年の骨格を総て改造など、不可能です。若年で発病した場合特に進行が早く、すでに内臓にも転移していました。手は尽くしました。できる手術も全てやりました。しかし、もう彼に残された時間は数ヶ月です。どうか、ジミーの願いを叶えてやって下さい」
    あまりにも静かな言葉だった。静かな故に、グラントの悲しみと覚悟が痛いほどに分かる。
    「わかりました。俺にできることなら、何でもしましょう」
    ジョウも静かに言った。

    「それでは」
    ジョーンズが言った。
    「クラッシャー評議会からご説明があったとは思いますが、確認の意味でもう一度。この件について、全ての行動はグラント氏の承諾の元に行ってください。故意で無く万が一ジミーの生命が危険にさらされるまたは生命が失われる事態に陥ったとしても、グラント氏はジョウさんに損害賠償など請求することはできません。そして、グラント氏は緊急の事態に備えて、緊急医療を施すことの出来る環境を常に保持して下さい。」
    「分かりました」
    「了解」
    「双方でご承諾いただければ、こちらにサインを。」
    ジョウとグラントは書類にサインし、分厚いファイルを双方が受け取った。
    「では、私はこれで。大体のスケジュールなどはグラント氏からうかがっています。もし、大幅に変更がありましたら、ご連絡下さい。」
    ジョーンズは去っていった。
    「さて…」
    グラントが立ち上がった。
    「よろしいですか。ジミーは、家にいます。」

    グラントのエアカーに乗って、宇宙港から市内へ向かった。
    「ジミーの体調次第なのですが、一応今日、明日の二日間ほど、ジミーに付き合っていただけると嬉しいのですが」
    「ええ。我々は、標準時間で一週間後に次の仕事が入ってるんで、時間的にもそれが限度ですね」
    「はい。本当に、あなたに会えるなんて奇跡ですよ。クラッシャージョウのチームは、クラッシャーの中で最も忙しいとか。ジミーは、本当に喜んでいます。本当に会えるなんて、思わなかったって」
    グラントは、控えめに喜びを表した。
    「そんなに有難がっていただけるほどの人間じゃないですよ」
    ジョウは、こうやって持ち上げられるのが苦手だが、グラントの言い方は全く嫌味がなく、かえってわが身を素に戻って振り返ってしまうような気になった。不思議な魅力のある男性だった。
    「ジョウさんは、19歳と聞いてますが、本当ですか」
    ジョウは思わず笑ってしまった。通常なら、ジョウは年のことを言われるのはもっとも嫌うことの一つだ。
    「19ですよ。何でですか」
    「いや、とても19歳とは思えなくて…なんというか、経験に裏づけされた自信というか貫禄というか…。自分が19のときなんて何をやっていたんだか」
    グラントは恥じ入るように笑った。
    「あなたはきっと、我々には考えも及ばないような経験を…そう、生か死かが紙一重で入り混じるところを、生き抜いてこられたのでしょうね。その若さで」
    生か死か。
    グラントはその時、ふと「悲しくてたまらない」という表情をした。その横顔を見てしまったジョウは、何を言えばいいのか分からなくなり、口をつぐんだ。
    「すいません」
    グラントは、そのジョウの気持を察して明るく言った。
    「あなたに会えて本当によかった。あなたのように強くて…そして優しい方に会えれば、ジミーも必ず元気が出るでしょう。あと10分で家に着きますよ」

    ジョウは流れる景色を見ながら、ジミーという少年のことを考えた。わずか10歳で、死に直面している少年。
    10歳、自分はクラッシャーになって最初の頃だ。希望でいっぱいだった。無限の宇宙に、無限の未来があるとさえ思えた。死は、常に身近にあったけれど、自分の力で遠ざけることができるものだった。
    しかし、ジミーは違う。病は、ジミーの意思とは関係なしに身体を蝕む。10歳という年齢で、死を前にして生きていく事を考えると、それだけで胸の奥が苦しくなった。
    しかし、ジミーが頑張って生きていけるのは、きっとこの父親のおかげだろう、とジョウは思った。温かく、愛情に溢れた父親であろうことが、すぐに分かる。
    ジョウは、ふと、ダンのことを考えた。
    そして、ジミーのことを少しだけ、羨ましく思った。

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■1155 / inTopicNo.11)  Re[1]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:24:25)
    No1154に投稿(舞妓さんの小説)

    「…と、言うわけだ。だから、俺だけ行ってくる。休暇はまだ一週間残ってるんだ。ゆっくり休んでてくれ」
    3人はどういう反応をしたらいいのか、戸惑っているように顔を見合わせた。
    休暇は勿論惜しい。
    しかし、病気の少年のたっての願いとあれば、無下に断るわけにもいかないし、何とかしてあげたいという気持にもなってくる。
    「タキならここから2回のワープで着きますな」
    「そうだ。まあ明日か明後日には、戻ってくるさ」
    「おいら、行ってもいいよ、兄貴」
    「バカ。お前が行ってもその子の励みになるかよ。クラッシャーに幻滅するだけだ」
    タロスがまぜっかえした。
    「何だと!タロスこそ…」
    「あたし、行くわ」
    噛み付こうとしたリッキーの言葉をさえぎって、アルフィンが言った。
    「何?」
    ジョウが驚いて、アルフィンを見た。
    「あたしも、行くわ。って言ったの」
    アルフィンは涼しい顔をしている。
    「だって、ジョウがいない間つまんないもの。その子がジョウだけに会えればいいんなら、あたしはミネルバで待ってる。とにかく、ここに留守番は、イヤなの。」
    愛らしく笑うアルフィンの天使のような言葉に、男三人は固まった。
    それぞれが、それぞれの頭の中で、同じことを考える。
    (えーと、それは、兄貴とアルフィンが少なくとも一泊は二人きりになるっていうことで…)
    (まあこういう機会でもないと、ジョウは踏み込まないだろうしな…)
    (まずい、それだけはまずい、それだけは避けないと…)
    ジョウ、リッキー、タロスの視線が戦闘中のように瞬時に鋭く交差した。
    「じゃあ、皆で行こう」
    「あっしは遠慮します」
    「おいらやっぱり無理」
    三人の言葉が重なった。
    タロスとリッキーが以心伝心で同時ににやりと笑い、ジョウは奥歯を噛んだ。
    (こ、こいつら…!)
    「あっしは腕の到着を待たないといけませんし」
    タロスは左腕をドルロイにメンテナンスに出していて、今ついている腕は仮の腕だった。
    「おいらはー、今日女の子と会う約束があるんだー」
    いつもならタロスが絶対に突っ込むところだが、タロスは明後日の方向を向いて知らん顔をしている。
    「あら、リッキーやるじゃない!」
    何も知らずにアルフィンはリッキーを誉めた。
    ジョウは呆然と、今起こったコントのような一幕を呪った。
    「さ、ジョウ、早く行きましょ。」
    アルフィンがさっさと立ち上がり、ジョウを引きずるようにして出発の準備をしに、リビングルームから出て行った。
    「じゃーねー、兄貴」
    「よろしくお願いしますよ」
    朗らかに手を振る二人に向かって、ジョウは中指を立てた。


    宇宙港に向かうエアカーの中で、アルフィンはご機嫌に鼻歌を歌っていた。
    「ずいぶんご機嫌だな」
    ジョウは隣のアルフィンに話しかけた。
    「だって、ジョウと二人でミネルバでお出かけなんて、始めてじゃない?しかも仕事じゃないのよ!」
    アルフィンは無邪気に喜んでいる。
    「仕事じゃないが、大事な用がある」
    「それも、ジョウだけでしょ。あたしはただのお供!」
    気楽に笑い、右に座るアルフィンのミニスカートからすらりと伸びた足が、組み替えられた。ジョウは慌てて目を逸らす。
    アルフィンは、日常を自分と普通に過ごしているという環境からか、どうも一般的な感覚が麻痺しているのではないか、とジョウは思った。
    こうやって、二人きりで過ごすことになる、と分かっている今でも、アルフィンは全くいつもと変わらず動じない。
    それも、態度をうやむやにしている自分の咎か。
    本音を言えば、初めて会った時からアルフィンを愛しているし、総て自分のものにしたいと思うことなどそれこそ日常だ。
    それなのに、この妙に「信用されている」という現状。
    「…」
    「あらなあに、ため息なんかついちゃって」
    「いや別に」
    「何よ。白状しなさいよ」
    アルフィンは珍しく腹も立てず、笑いながらジョウのほっぺたを人差し指でつんつんとつついた。ジョウは笑って、そのアルフィンの右手を左手で握った。手をつないだまま、エアカーは宇宙港へと走っていった。


    ジョウは「アルフィンと二人」ということばかりに気を取られ、
    アルフィンは遠足気分で。
    二人とも、この後起こる衝撃のことなど、知る由も無い。

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■1154 / inTopicNo.12)  Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:21:10)
    その朝、ジョウがバスルームから出て、濡れた髪を拭きながらTシャツにハーフパンツという些かだらしない格好でホテルのリビングルームに入ると、美しい夏の朝だというのにそこはまるで葬式の会場だった。
    「…ど、どうしたんだ…」
    空気が重い。3人はすでにルームサービスで朝食をとっていたが、殆ど手がつけられていない。
    うなだれ気味の3人の上には、タテ線が乗っかっているのが見えるようだ。
    「どうしたもこうしたも」
    甚平姿のタロスが、両腕をソファの背に回して顎を上げて言った。
    「また、来たんだよ。また。」
    テーブルに両肘をつき、自分の顎を手に乗せてリッキーが暗く言った。緑色に白抜きで「気合」と漢字が書かれたTシャツを着ているのがなんともミスマッチだ。
    「来たって、何が」
    アルフィンの前にあったオレンジジュースを、立ったまま飲む。
    「アラミスよ!!」
    突然、アルフィンがテーブルを両手で叩きながら叫んだ。リッキーは顎を打った。
    「いてててて」
    「アラミスよ、アラミス!いい加減にして!バーニイのハゲ爺い!」
    そう叫んだあと、アルフィンは体中の力が抜けたようにぱったりとソファに上半身を倒してしまった。アルフィンはピンクのレーシーなキャミソールに、デニムのミニスカートだ。その太ももと二の腕にちらちらと視線を走らせながら、動揺をかくすようにジョウは言った。
    「バーニイ?また仕事か?」
    休暇はあと一週間残っていた。散々遊びつくして、これから真の身体の休養、というときだ。
    「何て言ってきたんだ?」
    アルフィンの横に腰を下ろし、フルーツをがぶがぶと口に放り込む。
    「兄貴はまだ風呂だって言ったら、あとで連絡をくれって」
    「そうか。じゃあそんなに急ぎじゃないってわけだな。少なくとも、朝飯は食える。」
    ジョウは平然と朝食を食べだした。
    「てっ!」
    そのジョウの左足に、無言のアルフィンの蹴りが、入った。

    「ドリームズ・カム・トゥルー?」
    「そう、ドリームズ・カム・トゥルーだ」
    画面の向こうでバーニイが繰り返した。
    「知ってるか?」
    「知らないな」
    「NPO法人だ。活動内容は、その名の通り、ドリームズ・カム・トゥルーだよ」
    「さっぱりわかんねえ」
    「病気と闘っている子供達の夢や希望を叶えて、生きる希望を持ってもらうというのが活動内容だ」
    「それが、俺たちに何の仕事なんだよ」
    ソファに腕組みをしてどっかりと座りなおして、ジョウはバーニイをにらみつけた。およそクラッシャーに用がある団体とは思えない。
    「仕事じゃない」
    「仕事じゃない?」
    ジョウは思わず鸚鵡返しに聞いた。
    「ボランティアだ。NPOだからな」
    「ボランティア…」
    ジョウは自分のベッドルームで、一人でバーニイと通信している。荒れ狂うアルフィンが何を言い出すか分からなかったからだ。3人はとりあえずホテルのプールに御移動願った。そうしておいてよかった、とジョウは思った。ここにアルフィンがいたら、「ボランティアですって?!そんな暇がどこにあるのよ!!」とモノを投げつけてディスプレイを弁償する羽目になっていただろう。
    「何をやれって?」
    「簡単だ。少年と会ってくれれば、それでいい」
    「はあ?」
    「ある少年がいる。その子は、不治の病であと数ヶ月の命だ。その子は、クラッシャーに憧れている。クラッシャーダンと、クラッシャージョウをヒーローだと信じている。つい先日、その子の病状がある程度落ち着き、短期の退院が可能になった。議長はスケジュールがいっぱいだが、うまいことに君はどうも、休暇中のようだ。」
    にやりとバーニイが笑った。
    ジョウは目を閉じて、長いため息をついた。断れるはずが無い。が、アルフィンの怒りは恐ろしい。
    「で、どうすりゃいいんだ」
    「その子は、太陽系国家ディロンの第3惑星タキにいる。残念ながらその少年は、体力的に宇宙には出られない。だから君がタキまで行って、会って、クラッシャーの話をするなり、ミネルバに乗せてやるなり、少年の『生きる希望』になるようにやってきてくれ」
    「生きる希望か。たいしたもんだ」
    「もちろん、報酬はナシだぞ。ボランティアだからな」
    バーニイはかかと笑った。

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